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物理的に”時間”は存在しない! ループ量子重力理論が導きだした因果律の逆説/久野友萬

時間は過去から現在、そして未来へと流れている。私たちはそれが当たり前のように思っているが、時間は存在しないという説がある。
それがループ量子重力理論だ。この理論では過去も現在も未来もなく、ゆえに因果律の逆転も起こりうるという。つまり、未来の原因が現在の結果を決めているということもあるかもしれないのだ!

文=久野友萬

絶対時間と相対性時間

 時間は存在しない‼
 そんな無茶なことをいう物理学者が現れた。量子力学で重力と時間を説明する新しい理論物理学、ループ量子重力理論では、そういうことになるらしいのだ。
 屁理屈なのか、物理学の革命なのか、今回は『時間は存在しない』(NHK出版)という、そのままズバリの本を出したイタリアの理論物理学者カルロ・ロヴェッリの言説を追ってみよう。

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理論物理学者、カルロ・ロヴェッリ。その驚異の理論からホーキング博士の再来といわれる。

カルロ・ロヴェッリの著書『時間は存在しない』(NHK出版)。ループ量子重力理論の第一人者による最先端の物理学解説書。

 時間には、いろいろな尺度がある。
 以前、ベストセラーになった『ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学』(本川達雄・中公新書)では、動物はサイズが大きくなると1分間あたりの心臓の拍動回数は遅くなり、小さくなると拍動回数は速くなる。しかしサイズに関係なく、一生の総拍動回数はおおよそ同じだという。
 小さな生き物は代謝が早く、それだけ寿命が短い。いい換えれば、時間が早く過ぎる。大きな動物は代謝が遅い分だけ寿命が長く、時間の進み方が遅い。これは人間も同じで、代謝が早い小さなころの時間の過ぎ方と年を取り代謝が遅くなってからの時間の感じ方が違う(経験による脳の情報処理の差を考慮するにしても)。

 こうした生命の時間とは別に、物理的な時間もある。ニュートンは宇宙を貫く絶対的な時間があると考えた。宇宙の端から端までを貫く巨大な時計があるのだ。日本での今とアンドロメダ星雲のどこかの惑星上の今は同時だ。到達するまでの時間がかかるために同じ今だと体感できないだけで、宇宙のどこであっても物理法則のように均一に時間は進む。
 この考えは実にニュートン的で、ニュートン力学においては、世界はビリヤード台のようなものだ。キューが玉を突いた瞬間、玉がどのポケットに落ちるのか、正確に予測できる。宇宙で起きるできごとはすべて、起きた瞬間から最後のエンドロールが決まっている。人間が未来を予測できないのは、台の上の玉とキューの数が恐ろしく多いからだ。
 もし世界中の原子の動きを丸ごとシミュレーションできるコンピューターがあるなら、未来は予測できる。あなたが生まれた瞬間に、その何十年後かの今、このページを読むことは定められていたのだ。

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