見出し画像

新インテリジェント・デザイン理論が問い直す”科学的な"神による創造/宇佐和通・新ID理論

進化論と創造論を巡る対立は、神と生態系と人間自身を位置づけることを強いる。それゆえに科学ではなく、宗教的なアプローチにならざるをえないのだ。完全なる神は、なぜ不完全な人間、生き物を作ったのか?
”ID理論”の最前線と、その道をかきわける者たちを追うシリーズ第1回!

文=宇佐和通

ダーウィニズムへの疑問

 進化論という言葉を聞いてほとんどの人がまず思い浮かべるのは、いわゆる“ダーウィニズム=ダーウィン主義”ではないだろうか。ダーウィン進化論の枠組みから外れる知識に触れる機会がほとんどない教育体制しか経験していないわれわれにとっては、ごく当たり前の話だ。ただ、人間をはじめとする地球生物が現在の姿に至った過程に関する考え方は、決してダーウィン主義だけではない。
 独自の宗教観・世界観に科学的なアプローチを盛り込みながら持論を展開するオルターナティブ進化論と呼ばれるものが存在する。表面的に見るだけでは荒唐無稽な部分ばかりが目立つが、それぞれの持論にじっくり耳を傾けると、意外に整合性のとれた世界が見えてくるのも事実だ。

 まずは、オルターナティブ進化論の中で最も“信者”が多いと思われるインテリジェント・デザイン理論=ID理論から紹介していくことにしよう。

 2005年8月3日付の『ワシントン・ポスト』紙に、ある意味センセーショナルで、ある意味時流に乗った内容の記事が掲載された。前年再選されたジョージ・W・ブッシュ大統領が、ホワイトハウスでの定例記者会見の席上、アメリカで最もセンシティブな話題に触れた。公立小学校に通う子どもたちを対象に、“インテリジェント・デザイン理論”に関する授業が正式な形で行われるべきであると語ったのだ。
 この発言の背景について物語るデータもある。2006年に行われたギャラップ社の世論調査で、アメリカ人の約50パーセントが「人類は過去1万年以内に現在の姿に創造された」と回答している。ダーウィン進化論を盲目的に信じる姿勢に疑念を投げかける意見は、少し前から膨らみ始めていたのだ。ブッシュ大統領がコメントを出したタイミングは、支持率を考慮すればセンセーショナルなどではなく、むしろ的確だったといえるだろう。
 さらには、主流派と呼ばれるグループからID理論を擁護するーー少なくともあからさまに非難することはないーー科学者が少しずつ出てきていたことも、併せて記しておく必要があるはずだ。

天地創造ビブル・モラリゼ1220sオーストリア国立図書館

1220年代の写本。コンパスで世界を設計する創造主を描いたもの。

 森羅万象が「知性ある何か」によって創り出されたというコンセプトは何千年もの間受け継がれ、「知性ある何か」を「神」(そして時としては「地球外生命体」)に置き換える考え方が確立され、それをかたくなに信じる人々は現在も増え続けている。地球生物の歴史は、ダーウィン進化論で語られるように自発的あるいは環境依存型の進化によって性格づけられるのか。それとも、ID理論をはじめとするオルターナティブ進化論で語られるように、知性ある何かの働きかけがあったのか。

インテリジェント・デザイン=ID理論の概念

 アメリカ自然史博物館の機関誌『ナチュラル・ヒストリー・マガジン』の2002年3月号で、ID理論が大々的に取り上げられた。記事は、ID理論とダーウィン進化論それぞれの論客が論文を通してお互いの主張をぶつけ合うというフォーマットだった。

画像1
画像2

『ナチュラル・ヒストリー・マガジン』の2002年3月号より。

 この論戦に参加したアメリカ人数学者ウィリアム・デムスキー博士は、ID理論を以下のような言葉で定義する。
「インテリジェント・デザイン論とは、既存の知性による作用の結果生まれたという解釈が最もふさわしい自然界の形態・様式に関する研究を意味する言葉である」
 もう少しかみ砕いた表現をするなら、こういう言い方になるだろうか。自然界には、既存の知性によって“意図的に”創られたとしか考えられないものがある。こうしたものの存在は、ダーウィン進化論だけで説明しきれない。説明できない以上、別の要素の介在を想定しないわけにはいかない。別の要素とは、人知を超えた“知性ある何か”である。
 デムスキー博士は、ID理論の特性として「特化複雑性」を挙げる。考察の対象となる生物に、たとえごく一部であっても特化複雑性が認められるか。それが、その生物の進化の過程における意図的な要素の関与の指標となる。

 特化複雑性をわかりやすく説明すると以下のようになる。たとえば、次のような文字列があったとする。

TRUMPCLINTONROOSEVELTOBAMABUSHREAGAN

 言うまでもないが、これはアメリカ歴代大統領の名前をつなげた文字列だ。だが、アルファベットを書いた25枚のカードを袋に入れ、アトランダムに1枚ずつ引いては戻すという作業を繰り返した結果この文字列が綴られたのだとしたら驚異的だ。アトランダムに引いたカードでこれだけ多くの大統領の名前が正確に綴られるとは考えられない。確率的にまったくないと断言することはできないが、天文学的な数字となることは間違いない。

 一方、こちらの文字列はどうだろうか。

KSIENAKOLLAKEFINSIAUHUMOLIKAPLOAOEINERKA

 どの部分を切り取っても、少なくとも英語で意味をなす単語にはならない。最初の文字列はきちんとした意味のある単語が連続しており、二番目の文字列に特定の意味を認識できる部分はない。意味を持つ文字列であることが、特化複雑性なのだ。

 言葉を換えてもう少し書き足しておく。文字列が特化されている状態とは、明らかに意図的な、あるいは意味のある組み合わせが存在するということにほかならない。そして、まったくの偶然によって文字列が意味のある並びになる可能性は限りなくゼロに近い。
 特化複雑性とは、特に進化の過程において“偶然によって発現するには確率が低すぎる特徴”ということもできるだろう。ここでいう特徴とは、“意図的に盛り込まれたとしか感じられない要素”ということだ。ID理論では、特化複雑性がこういう形で取り扱われ、知性ある何かによって盛り込まれた意図的な要素の有無を判別する指標としてとらえる。

対抗神話であるID理論の発火点

 次に、対抗神話的な理論として生まれたともいえるダーウィン進化論とID理論との関係を時系列的に見ていきたいと思う。

ここから先は

4,898字 / 3画像
この記事のみ ¥ 300

ネットの海からあなたの端末へ「ムー」をお届け。フォローやマガジン購読、サポートで、より深い”ムー民”体験を!