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十一日目の蜘蛛

これはコロナ療養期間を終えた日のお話。

10日間の療養を経て、11日目。
待ちにまった自宅待機解除日。
私は軽やかな足どりで部屋のドアの前まで行き、颯爽とドアノブに手をかける。

ついにこのときが来たのだ。

部屋をでる前に、一度大きく深呼吸をして、今一度、10日間とじこもっていた部屋を見渡す。

鉄格子に見えていた扉も今は、元のカントリー調の木製扉に戻っている。
部屋で私の脱走を見張っていた、威圧感のある看守は、でかいクマのぬいぐるみだった。

そうだ。

私はこの10日間、実家の自分の部屋にいたのだ。
一切の外出を許されないこの部屋の中で。

そして今、

ついに、、

この牢獄から解放されようとしている!!

ドアノブにかけた右手にぐっと力を入れ、めいっぱい押す。

 〈ガチャ〉

、、、、ん?
ドアを開き、部屋から一歩足を踏み出した瞬間、少しの違和感を覚える。

その違和感の先、、足元に目をやると、、


大きなクモが死んでいた。


一円玉レベルの。 


デカキモオエオエ。

病み上がりに虫の死骸は再発もんである。

私は急いで部屋に戻り、ティッシュを勢いで4枚ほど手にとり現場に戻る。

動かなくなったそれを、恐る恐るつかもうとしたその時、、ある事に気づく。


このクモ、、、裏返ってない。。


普通、虫というのは足が上に向いた状態で、いかにも苦しそうな死に様であることが多い。
しかしこのクモは全く悶え苦しんだ様子がない。
というかむしろ、、、笑っている。

笑ったまま、、、死んでいる。

心なしか8本中、2本の足が少し浮いている。
楽しかった夜、みんなと別れて1人になったときに無意識にでてしまうスキップのようなものだろうか。

私は推測する。
おそらくこのクモはいつもと変わらぬ、なんてないけれども充実した1日を過ごしていた。
しかし不運にもコロナ患者の部屋の前を通りかかり、そのドアの隙間から漏れ出た、猛烈な菌のシャワーを浴び、死んだのだ。

一瞬の出来事だったのだろう。証拠にこの死に際とは思えぬ光悦の表情。キレイな顔をしている。

「生きてるみたいやねぇ。」

ドラマでしか聞いたことのないセリフが自然と口からでた。

申し訳ないことをしてしまった。
私のウイルス感染のせいで一つの小さな命を奪ってしまったのだ。

ごめんよクモ。

自責の念に苛まれた私は、せめてもの償いで、クモの最期の瞬間に思いをはせる。

パターン1.
〜コンビニ帰り〜

クモ(、、、もー結局コンビニで済ましてまうわー、いやわかってんで、わかってんで、こんなもん添加物の塊やねん〜、こんな生活2ヶ月続けてみ、肌ガッサーなんねん、わかってんねん〜、でもコンビニで済ましてまうねんこれ〜、うまいもん〜〜このセブイレのちょこっとのお惣菜のやつマストで買うやろ、ほんでこのデザートで結局クレープ4つ折りにしたやつ買うてまうねーん、しゃあないねんうまいもん〜〜、も〜、こんな自制心のないクモを誰か止めてくれませんかあ〜?でもしゃあないねん〜足8本もあるから止めれませんねん〜どないしてもどっかの足はノーマークですねん〜アッハッハハハハ、、、、、、ハッ。)

(菌シャワー)ブゥオオオオオオオアアアアア

パターン2.
〜秋のある日〜

クモ〔トコトコトコトコ………〕
落ち葉〔カラカラカラカラ………〕

クモ〔トコトコトコトコトコトコ…………〕
落ち葉〔カラカラカラカラカラカラ…………〕

クモ〔トコトコト……〕
落ち葉〔カラカラカ……〕

クモ〔トコ……〕
落ち葉〔カラ……〕

クモ(へ!?めっちゃついきてる♡?!!///////……………ハッ。)

(菌シャワー)ブゥオオオオオオアアアアアア

パターン3.
〜空を見上げて〜

クモ「いい天気やな〜。。雲白いな〜。」
(雲すっごい白いな〜。。こんな白いことある?
Mattくらい白いやん?桑田の息子の。Mattくらい白いやん。。てか世の中にMattより白いもんある?!、、ちょっと一回ランキングつけて整理しよ、、

【世界『白』ランキング】

1位 画用紙
2位 Matt
3位 雲
4位 蒼井優に着てほしいワンピースの色No1
5位「ゴマ和え」と、あと「何和え」?

………これやな〜。蒼井優はやぱ不動よなあ、、、ハッ)

(菌シャワー)ブゥオオオオオオオオオアアア



と、こんなところだろうか。

どのパターンをとってみても災難でならない。

すまない。クモ。

私は哀悼の意を表して、ティッシュでクモの体を軽く包み、ゴミ箱のあるリビングへ向かう。

〈燃えるゴミ〉
の方のゴミ箱へそっと投げ入れる。

〈火葬〉
は最低限のエチケットである。

          
                   fin.

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