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液体日記 11月20日 人間の方が

水の中にいるようだ。掻き回されて、波紋が広がって行く。

はじめに出来た波紋は新しい波紋と一緒になった。遠くに広がってまた同じ一つの水に戻った。はじめは一つの水だった。

11月20日 

自転車の鍵をなくしてしまい、私は新宿の街を歩いていた。
沢山欲しいものがあるけれど、何一つ欲しくもない気がする。

初めてアップルストアに入った。広いアップルストアにたくさんの人が座っていて
まるで公園みたい。iPad Proが欲しかった。色々揃えると10万円くらい。買える気もするし、勿体無いかもとも思った。もう少し考えようとお店を出た。

セブンイレブンでコーヒーを買って、新宿御苑の側の道に歩く老若男女を見ていた。
沢山の人を見ると反射的に「この人たち精子だったんだよなぁ」とよく思う。
この人たちのご両親がセックスして、多分気持ち良くなって男性が射精して出来た。人が精子だったことを想像してみる。すごい数の精子が泳いでいる。液体の中で目的地を目指して駆け抜けて、到達したんだ。

そんな風に思うと、なんか面白くなって現実の空間の中を精子のように泳いでいる気分がした。
どこに向かっているんだろう。でも、なんとなく笑っちゃって。

前を歩いている外国人の家族に見える人たち。お父さんに見える人が小さい赤ちゃんを抱えて、高い高いをしている。赤ちゃんは笑っていた。私は内心、赤ちゃんが落ちないか不安になったが流石にがっちり掴んで赤ちゃんは無事だ。
お母さんに見える人は、ベビーカーに乗っている子供をあやしている。
お父さんに見える男の精子が赤ちゃんになって、とてもよく出来た人間の形をしていて、愛くるしく、人形ではなかった。生きている人間が出来ている。
とても美しく繊細で、赤ちゃんはとても綺麗だった。

私は、さっき欲しくなったiPad Proを思い出していた。
iPad Proより、どんなコンピューターより、何より人間が凄いと当たり前だけど改めて思った。新しい機能よりも凄いもっと未知の領域を持っている。
その未知の領域を持ったCPUも想像を超えてる凄いものが沢山歩いてきて私の前を通り過ぎて行くのを見ていた。羨望の眼差しで。
凄いものなのに、なんでこうなったのか全然わからなくて、そんなことばかりが現実でそれは私にとって爽快な気分がしてくるのだった。



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