後ハッピーマニア(1)
ちゃんとシゲカヨで
ちゃんとフクちゃんで
ちゃんとタカハシなのがすごいと思った。
それが一番の率直な感想。
私にとって安野モヨコは青春というか、大学時代の自由な時間を一番費やし楽しんだクリエイター。前作「ハッピーマニア」は100回読んだんじゃないかと思うがその後に安野さんが出した「美人画報」とか「さくらん」とか「働きマン」とかもう本当に影響を受けまくっていたので今回の「後ハッピーマニア」の発表の嬉しさたるや。
そんでもって読んでみたらしっかりと登場人物の個性も顔つきもこだわりも投影されていて完全に読んでいる方は「戻る」。主人公シゲカヨの「老け」感も皺や骨格、頭髪の感じから描いているのにちゃんと「あー、これはシゲカヨ」と納得できる。口調も、悲しい時にも発してしまう暴力や冗談や暴言もシゲカヨそのもの。美容に執着して、ビジネスで成功して無機質な表情なのに真心があるフクちゃんもしっかり前作のキャラクターを引き継いでいる。本当にあれから20年近く経っているのだろうか?と思わせられる。
本当にあれからずいぶん時が経った。安野モヨコ自身は庵野監督と結婚して連載のペースを変えたし、その間に私も別の漫画家にハマったりもたくさんした。なのにこの一撃ですべて戻されてしまった。それは安野モヨコの漫画家としての実力。キャラを描けてテンポもあの時のまま。それどころか話の内容は更に時代にフィットしていてアラフィフ女性の「離婚突き付けられ感」を見事に遂行していく。
前作のハッピーマニアを読んだことのない人がいたら、まずは読んでほしいということはもちろんだが、簡単に本当に本当に簡単に説明してしまうと、恋愛暴走機関車・超絶恋愛体質の主人公シゲカヨこと重田加代子のことをただ一途に大好きな真面目くんタカハシが紆余曲折ある中、追い続けている物語だ。それだけシゲカヨにぞっこんLOVEだった、なんなら結婚した後もずっとぞっこんLOVEだったタカハシが離婚したいと言い出すシーンから当作は始まる。
シゲカヨだってもちろん褒められた妻の生活は送っていなかった。家事もそこそこ、タカハシに暴力を振るうしタカハシへの興味は本当はないし、浮気もしちゃうしたまに新幹線乗って家出もするし。
けど読んでいて辛いのはそんなに酷いシゲカヨのことをそれでも愛して止まなかったタカハシが別の女性を誠実に好きになってしまうことだ。
その時のシゲカヨの傷の描き方が秀逸。
わかる。いや、そんな経験していないのだけど、「サイレント泣き」。
あのシーン、あのコマだけでシゲカヨの傷が伝わってきてしまう。
個人的になんかご褒美感さえ有ったのが、前作で超絶モテ男として出てきた「田嶋」がちゃんと出てきたこと。「た、た、田嶋ー!」という謎の感動が湧いた。モテ男でTHE女たらしなのになぜ私もまた田嶋が好きなのか笑
しかもこの田嶋の発するセリフによってタカハシの恋のお相手本田さんの魅力が分かりやすくインプットできる。ほう、そうなのか。ノーメイクでかわいくて地味で真面目そうなひと、男はたまらんのか。まあ、そうだよな。言われ無くたってそんなのみんな好きだよな。
1巻の感想としては単純に「安野モヨコの漫画家としての実力突き付けられ感すごい」という変なオチなのだが、それは本当に率直な私の気持ちなので仕方ない。
ただ、それにしてもこれからシゲカヨはどうするのだろう。家ももらえる予定、財産分与ももちろんしてもらう、となると、そこまであくせく働かなくともピンで生きていけるのかな…?とかそんな「何漫画の登場人物の生活心配してんだ現象」に自分でも苦笑してしまうがそんなこと心配させてしまうくらいに今回の「後」シリーズはリアルで生活感たっぷりなのだ。
でもそれは年齢を重ねた登場人物を描くにあたって当たり前かもしれない。自分自身だってそうだ。20代の頃を振る変えると自分の感情のまま突っ走って心には強い強い恋愛感情を抱いていてはっきり言って「生活」はなかなか本人に見えていない。そのへんはぼんやりとした記憶でしか残っていない。
良くも悪くも年を重ねて「生活」が染みてきているのが分かる。女にとって「生活」への愛情は深いもので、だから男ほど簡単に浮気をしないのかもしれない。そんなことを思ったりした。
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