見出し画像

Archeology・World Heritage News:02

世界遺産「ストーンヘンジ」

ストーンヘンジは、イングランド南部のソールズベリー平原に位置し、
ユネスコにより「ストーンヘンジ、エイブベリーの巨石遺跡と関連遺跡群」として世界遺産に登録されている遺跡です。
その実態について、考古学的調査の結果少しずつ明らかになってきましたが、未だ謎も多く、宇宙人のミステリーサークルだとTVで紹介されていた印象も強いかも知れません。

ハイウェイのトンネル化計画

今回、この遺跡を取り上げたのは、付近を走るハイウェイのトンネル化に関する議題が議会にて承認されたためでした。
遺跡の南約200mを通過するハイウェイA303は、昔から交通量が多く、
ひどい渋滞を引き起こすことで有名だそう。

その渋滞を防ぐため、車線を2車線から4車線へと拡大し、地下に移設することで、改善しようという案が長年に渡って議論されてきたのです。
そんな中、今年6月にストーンヘンジの近くで20本の深い縦穴が発見されたことを受け、政府はトンネル・プロジェクトの決定を延期していた経緯がありました。

しかし、このハイウェイのトンネル化計画に関しては、幅広い分野の研究者らから賛否の声が上がっています。

賛成派
・側を走るトラックの大渋滞を見ることなく、
     ストーンヘンジのあるべき姿を味わえるようになる
(「イングリッシュ・ヘリテージ」のキュレーター長アンナ・イービス氏)

・その一帯の表土は、何世紀にもわたり幾度となく掘り返されてきており、
   新たな発見の可能性は低い
(考古学者で「British Archaeology」誌の編集者であるマイク・ピッツ氏。)

・世界遺産に道路を建設しようとしているわけではなく、
       既存の道路を撤去して地下に移設するプロジェクト
・トンネル建設が進まない場合は地上での拡張になる可能性が最も高い
(英ボーンマス大学の考古学者ティモシー・ダービル氏)
反対派
・表土を100%精査する必要があるが、
  トンネルの建設業者は表土のわずか1%だけを調べるだけだ
(ストーンヘンジで発掘を行ってきた英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン考古学研究所のマイケル・パーカー・ピアソン氏)

トンネル自体は、考古学的な遺物が見つかる層のかなり下を通るが、
その進入路や出入口は、遺物が大量に眠る可能性のある世界遺産の敷地内の表土を通る。
   ↓
・トンネルをもっと長くして、遺跡全体の下を通す必要がある
・A303の拡張が必要不可欠だとしても、
  地中深い場所を通る少なくとも長さ4.5キロのトンネルを建設すべき
・これより短ければ、この景観に取り返しのつかないダメージを与え、
  世界遺産条約に違反することになるだろう
(英ブラッドフォード大学の景観考古学者ビンス・ガフニー氏)

難しい決断と潜む危険性

賛成派・反対派両者とも、ストーンヘンジをこれまで以上の観光名所として、英国を代表する価値ある遺産として、継承していきたいとする思いは同じように思います。
遺跡の価値を損なうことなく、観光資源として活用していくことは、
全遺産保有国の大事な役割です。

また、世界遺産における景観は重要な意味合いを持ちます。
オーストリアの『ウィーンの歴史地区』は、経済開発による景観破壊を理由に「危機遺産リスト」へ記載されることとなりました。
危機遺産リストへの記載は、遺産の持つ顕著な普遍的価値が自然的・人工的に損なわれる可能性のある場合になされます。
もともと、ストーンヘンジ周辺の整備の為のトンネル化計画が、
さらなる景観の破壊をもたらさぬよう、慎重な対応が望まれます。
今後の動向に目が離せませんね!

参考・引用文献


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?