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アニメ映画『めくらやなぎと眠る女』の試写会に参加しました

さる6月15日、早稲田大学大隈記念講堂にて村上春樹原作、ピエール・フォルデス監督作品『めくらやなぎと眠る女』の特別上映会に参加してきました。

村上作品を10代の頃からバイブルのように再読し続ける私にとって、このイベントは大変胸の高鳴るものでした。何故なら、上映後、村上氏ご本人が監督と登壇し、お話しする場を設けて下さるとのことだから!
生の春樹に会えるなんて夢のようじゃありませんか…

早稲田大学は残念ながら母校ではないのですが、自宅からあまりアクセスがよろしくないとの知識はあり、色々検討した結果、都電の早稲田駅から向かうことに。王子からのんびりと30分ほど都電に揺られ、ああ、この路線は確か『ノルウェイの森』でワタナベがミドリの家に行く時に使用したはず…と春樹オタクとして感慨深さを感じつつ、会場に向かうと何やらおしゃれなカフェや芝生に囲まれた洋館チックな建物に人だかりが。
ここが会場となる大隈記念講堂か…。
開場10分前、既に50人以上は並んでいたかな。年齢層高めだが、若い方もちらほら。早稲田大学の学生さんなのだろうか。
講堂に入ってみると、かなりの広さで二階席まであるとのこと。並んだかいあって良席をゲットできました。

早稲田大学大隈記念講堂

上映された『めくらやなぎと眠る女』は、村上春樹の短編『めくらやなぎと眠る女』、『かえるくん、東京を救う』、『バースデイ・ガール』、『かいつぶり』、『ねじまき鳥と火曜日の女たち』、『UFOが釧路に降りる』の6編をツギハギして作られたアニメーション映画です。
今回の上映にあたり未読であった『バースデイ・ガール』を急いで読みました。他は何年にも渡って繰り返し読み直してきたものばかり。
おかげで、どの作品がどのタイミングで使用されているのか、すぐにピンときました。唯一『かいつぶり』のみ、確証が持てなかったのですが、あの辺かしら?と予想した箇所が上映後のトークイベントで合っていたことが分かり胸を撫でおろしました(?)。
それぞれの短編は書かれた時期もバラバラですし、登場人物に繋がりがないのですが、監督は大胆にこっちの人物をこの人物と同一化しちゃおう、といった試みを行っていました。それが不自然でなくストンと腑に落ちたのは流石です。
先に小説を読んでしまうと、映像化された人物像に違和感を覚えることが多いのですが、それも少なかったように思います(主要人物❝小村❞が村上春樹のビジュアルに寄せすぎかも、とチラッと思ったくらい)。
また、村上春樹の短編は何を言いたいのか、結局どういうことなのか、判明しないままに終わってしまうことが総じて多いのですが(読者に解釈が委ねている…と思う)、この作品では監督の見解が嫌みのない形でしっかりと示されているのも好感が持てました。
日本人の物語を英語の字幕で観る…といった環境は不思議な感じがしましたが、公開時は日本の役者さんの吹き替え版もあるとのことで、そちらはまた印象が変わってくるかもしれません。

上映後、休憩を挟まず、監督と村上氏、また柴田元幸氏のトークが始まりました。村上氏が登場した瞬間、なんとも言えない感動を味わうわたくし…
村上春樹ってリアルにこの世に存在していたのか…
75歳とは思えないほど姿勢がよくしゃっきりしている!マラソンの成果なのか?若く見える。
そしてきっちり笑いを取ってくるのが意外!
「自分の過去の作品って読み返さないから、次何が起こるのか、どうなるのか全く分からない状態で本作を観れたので新鮮でおもしろかかったです」って笑
自分が何を書いたか完全に忘れてるのね。
「僕、かえるくんのモノマネうまいんですよ」って鳴いてみたり。
「北海道のラブホテルの描写がリアルでよかったな~」とか。
「映画監督になりたかったけど、小説家になりました。通勤もないし、誰にも会わずに仕事できるのでそっち選んで良かった。楽ですよ」など。その都度会場がわいてました。
私は村上作品のユーモアが大好きなのですが、なるほど村上氏自身も作品通りの魅力的な人物でありました。
また、監督がどうやって短編をつなげていったのか、細かい製作方法なども聞けて興味深かったです。

トーク内容で自分的に激熱だったのが、村上氏のこの発言。
「僕は、自分の短編が映画化される事はうれしい。何故なら短編は映画にするには尺が足りないから、監督が自分の解釈を足し算で入れられる。独自の色がでる。そういったことを僕は望んでいる。長編はどうしても引く作業になってしまう。最近では『ドライブマイカー』と『バーニング』が良かった」
これ、まさに前々から私が思っていたことで。
どちらの作品も監督の独自の解釈がいい塩梅に作品を引き締めているんです。村上氏も同じこと思ってたんだなって何だか嬉しくなりました。

45分ほどのトーク終了後、また都電に揺られて帰途につきましたが、作品に漂っていた何やら非日常的な春樹ワールドが自分の中にも入り込んできたようなふわふわと不思議な感覚を味わいました。都電と村上ワールドの相性良すぎ。
7月26日から全国で公開されるようなので、ぜひご覧になって頂きたいです。

2011年、東日本大震災直後の東京。刻々と被害を伝えるテレビのニュースを見続けたキョウコは、置き手紙をのこして小村の元から姿を消した。妻の突然の失踪に呆然とする小村は、図らずも中身の知れない小箱を同僚の妹に届けるために北海道へと向かうことになる。 同じ頃のある晩、小村の同僚の片桐が家に帰ると、そこには2メートルもの巨大な“かえるくん”が彼を待ち受けていた。かえるくんは迫りくる次の地震から東京を救うため、こともあろうに控えめで臆病な片桐に助けを求めるのだった――。 めくらやなぎ、巨大なミミズ、謎の小箱、どこまでも続く暗い廊下――大地震の余波は遠い記憶や夢へと姿を変えて、小村とキョウコ、そして片桐の心に忍び込む。人生に行き詰まった彼らは本当の自分を取り戻すことができるのだろうか…。

アニメ映画『めくらやなぎと眠る女』公式サイト (eurospace.co.jp)


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