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ファッションブランドを支える「やさしい手」

コレクションブランドとしてファッションの最先端で活動されているデザイナーの村松啓市さんが、地元静岡に拠点を移されたのは8年前のことです。その後、セカンドブランドとして「AND WOOL」を立ち上げ、静岡県島田市にアトリエを作りました。何もかも手探りで、ゼロから作り上げたアトリエには今、場所が狭いと感じるほど毎日人が集まってくれるようになったそうです。

こんにちは、記者のカミュです。連載「村松啓市の仕事」では、世界で活躍するデザイナーの村松啓市さんの魅力や、その作品について、ご紹介しています。今回は「ファッションブランドを支える人たち」のお話です。

■なぜコンセプトの違う2つのブランドを運営するのか?

村松さんは8年前、第一線で活動されていたファッションブランド「everlasting sprout(※2019年秋からブランド名を「muuc(ムーク)」に変更して活動している)」の活動拠点を東京から静岡に移されています。その話の詳細については以前、こちらの連載でもご紹介させていただきました。

静岡でもともとのブランドとはまったく違うコンセプトのセカンドブランド「AND WOOL」を立ち上げたとき、村松さんにはどのようなお考えがあったのでしょうか?

当時、いろいろなことを「良くしていきたい」と思っても「今のままのやり方を続けていては疲弊していくばかりだな」と思えることが多かったんです。ファッション業界やアパレル業界という大きな枠組みで起こっていることもそうでしたし、自分のデザインや服作りという足元で起こっていることもそうでした。環境がどんどん悪くなっていく中で、一度そこから出ようと思いました。

ファッションブランドを良くしていくための環境作りとして、セカンドブランドを立ち上げることが、村松さんにとっては問題解決につながるということだったのでしょうか?

もともと私がやっていたようなコレクションブランドというのは、ある意味ファッションが好きでブランドのスタイルや世界観を好きになってくれる一部の人に向けて作られているものだと言えます。自分の作ったものが届かない人たちが確実にいる。私は、ニットの素晴らしさや可能性をたくさんの人に知ってもらいたいと思ってファッションデザイナーをやっていましたから、そのために何をすればいいかと考えたとき、もう1つ、コンセプトの違うブランドを立ち上げることを考えました。

村松さんがセカンドブランドとして立ち上げた「AND WOOL」の製品は、子供からお年寄りまで男女問わず、すべての人が親しめるようなベーシックなデザインが特徴です。ワークショップなども積極的に開催し、たくさんの人に「届ける」ことを大切にして活動されています。

コンセプトの違うもう1つのブランドを立ち上げたとき、「このままだと疲弊していく」と感じていたもう1つのコレクションブランドのほうを止めてしまおう、という気持ちにはならなかったのでしょうか?

「ニット」と聞いて多くの人がイメージするのは「ダサい」「ヤボったい」というものではないでしょうか。でも、私がこれまで世界中で目にしてきた作品や、自分自身が発表してきた作品は、おそらく多くの人がイメージする「ニット」とはまったく違うものだと思います。ため息が出るほど繊細な表現がニットから生まれます。私はそれを伝えたいと思っています。そのためには、ベーシックなデザインで誰にでも受け入れてもらえるようなものでは、ニットの良さを伝えるには十分ではないと思っています。私の中では、それで伝わるニットの素晴らしさは半分くらいだという感覚です。やはりパーソナルな感性に訴えることができるデザインの服を作ることができる場所である、「everlasting sprout(現muuc)」は必要だったんです。

デザインにはすごい力があるという村松さん。コンセプトの違う2つのブランドを運営しているものの、その根底で信じていることや伝えたい思いは1つだとおっしゃっていました。

↓ちなみにこちらが「everlasting sprout(現muuc)」のニットコレクションです。

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■ブランドを支える「やさしい手」の存在

すべての人に親しんでもらえるブランドにしたいという思いで立ち上げた、村松さんのニット専門のセカンドブランド「AND WOOL」には、現在、その村松さんの思いに応えるように人が集まり始めています。

「AND WOOL」では、ブランドとして単に製品を製造して販売するだけではなく、全国各地でワークショップを行って実際に製作を体験していただいたり、ニットの作り手となる職人を育てるプロジェクトなども行っています。私たちのブランドに集まってくれる人たちはお客さんだけではなく、私たちの活動に共感してくださったり、参加したいと協力してくださったり、ブランド自体を支えてくれるような方たちまで集まってくれるようになりました。本当にありがたいです。

「AND WOOL」のアトリエに通って仕事を手伝ってくれているワーカーさんには、ニットの教室の先生をされているというほど技術の高い方から、ニットはやったことがないけど何かお手伝いできることがあればという方まで、村松さんの「すべての人に」という思いのとおり、幅広くいろいろな方が参加してくださっているそうです。

私たちは、さまざまな理由で外に働きに出ることができない方に在宅ワークでできる仕事を提供したり、就労支援B型施設へお仕事発注をしたり「雇用創出プロジェクト」なども行っています。少しずつこういった活動の幅を広げていけるような環境ができ始めてはいるものの、実際の現場では思うようにうまくいかないことも多いです。ビジネスとして成立しなかったり、もちろんトラブルもあります。そういったことの背景で、現場を支えてくださっているのがワーカーさんたちです。正直言って、現在の「AND WOOL」はワーカーさんたちが支えてくれなければ回りません。ブランドの一番大切な土台の部分を支えてくれているのは、ワーカーさんたちなんです。

■ワーカーさんの仕事が最先端のファッションも支える

ここまでの3年間、村松さんが思いを注いで行ってきた活動の1つ1つが、実は今、少しずつつながり始めています。静岡県の山間で、茶畑に囲まれたアトリエに集うブランドを裏方として支えているワーカーさんたちの「やさしい手」から生まれた仕事が、繊細で美しいニット製品を生み出し、それが最先端のファッション現場に届くという流れができ始めているのです。

先日、池田エライザさんがこちらの取材でご着用くださった「muuc(ムーク)」のニットは、ワーカーさんたちの手を借りて制作したものです。こんな形でニットの素晴らしさを、私たちの活動を通して伝えることができるのは、私がずっとやりたいと思っていたことでもあります。

ブランドは、たった一人のデザイナーの力だけで成立しているわけではなく、見えないところでたくさんの人に支えられているのだと、村松さんはおっしゃっていました。さらに、手仕事から生まれるものの良さを追求している村松さんのブランドでは、特に支えてくれる「やさしい手」の存在が大きいのだそうです。

たくさんの方に支えていただきながら、少しずつ私たちの活動や商品を知っていただく機会が増えており、本当にうれしく思います。(皆様ありがとうございます!!)最近は、就労支援B型施設と一緒に、「ニットは難しいけど手仕事をやりたい!」という方たちのために、編み機やミシンを使わずに作れるバッグの企画を始めました。しかし、四苦八苦しております!(笑)そのあたりもまた、今後noteでご紹介させていただきます。 

↓こちらは、2020年春夏コレクションで発表された「muuc」のニットです。

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↓ワーカーさんたちの「やさしい手」から生まれました。

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■忘年会に集まってくれた人たち

昨年の年末「AND WOOL」のアトリエでは、ワーカーさんへの感謝と労いの気持ちを込めて、忘年会が開催されたそうです。

この日は、静岡おでんや焼き芋、普段は「AND WOOL」のカフェで提供している食事やデザートなども用意しました。ワーカーさんだけではなくお子さんや近所の農家さんなども集まってくださって、とても賑やかな会になりました。

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さらにこの日は、2019年の年内営業最終日でした。私はアトリエの大掃除でビショビショになりながら、忘年会で賑わう皆さんと一緒に美味しい食事をいただきました(笑)

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静岡に拠点を移して「AND WOOL」を立ち上げてアトリエを作ったときには、3年後にまさかこんな光景を目の当たりにしているとは思いも寄らなかったという村松さん。これからもたくさんの人が集い、たくさんの人に支えたいと思ってもらえるようなブランドでいられるように頑張りたいとおっしゃっていました。村松さんのブランドが、今後どのように発展していくのか、とても楽しみです。


(記者:カミュ)


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