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「ニット」には、生活や人間関係を豊かにする力がある。-AND WOOLを始めたきっかけ-

ファッションデザイナーの村松です。ファッションブランドの『muuc』や、ニット文化を広げるプロジェクト『AND WOOL』を運営したり、サスティナブルブランド『CARL VON LINNÉ』のデザイナーをしたりしています。

今回は、私が運営している「AND WOOL」について、私がこのプロジェクトに込めた想いや、活動を始めた背景や経緯などをお話ししていきます。


※stand.fm で音声配信しています。


「日常をちょっと豊かに」ものづくりの楽しさを感じられるニットブランド

AND WOOLは、静岡県島田市のアトリエ店舗を拠点に、編み物をする楽しさ、ものづくりの楽しさを伝えて、「何気ない日常をちょっと豊かにする」をキーワードに活動しているブランドです。

2016年からプロジェクトを開始し、ニット製品や毛糸の販売をしたり、ニット職人を育てる活動をしたり、全国各地でワークショップを行ったりと、ニット文化の普及というか、広い意識でものづくりを推進していけるような想いで活動しています。

専門性を追求する限界を感じ始め…

ニットとか編み物って聞くと、やっぱりどうしても冬に着るセーターのイメージだったり、お母さんやおばあちゃんが2本の棒でチクチク編んでいるような、ああいったほっこりしたものをイメージされる方が多いと思います。

しかし、私が勉強してきたニットというのは、いわゆる針仕事というかニードルワークから生まれること全般のことで、もっと広義で、とても大きな可能性を持っています。

例えば、オートクチュールと言われる1着何千万円もするような、きらびやかな装飾がたくさん施されたゴージャスなお洋服も、ニットで表現されることも多いんです。わかりやすいのは【レース】です。ヴィンテージドレスは、手編みのレースだったりします。1本の糸から平面的にも立体的にも無限に作れる、そういったところがニットの大きな魅力です。

タティングレースは、手仕事により生まれます。

ただ、私はこれまで、デザイナーとしてニットの面白さや可能性を追求して表現活動してきたんですけれども、一般の方からすれば、日常からかけ離れたニットの表現方法とか、突然話されたところで何のことかわからないし、そもそも知らないものは興味も持たないですよね。活動を続ける中で、自分がやっていることと一般社会との大きな乖離にだんだん気づいてきたんです。

そもそも、日本でニットを専門的に勉強できる学校もすごく少ない。私が知っている限りでは、手編みからコンピューター制御のニット制作、さらにニットパターンや、針仕事なども合わせて総合的に学べる学校は2校ぐらいしかありません。しかもそこで勉強している学生も年間で数十人程度しかいないんです。実は世界的に見てもそんな感じで、なかなか私が思っているようなニットの文化というか、表現方法というもの自体、そもそも知られてないっていうのが現状です。

AND WOOLを始めた3つの理由

そこで、今までとは違うやり方で取り組んでいく必要があると強く感じ、AND WOOLというプロジェクトの構想に至りました。

私がAND WOOLを作った理由は大きく3つあります。

お客様への価値提供:生産者の顔が見えて、ものづくりを身近に感じてもらえるブランドを

まずは、私がこれまでこだわってきたニットの難しい話は一回傍に置いといて、一般の方々がもっとニットを身近に感じられる環境を作れないかと思うようになったこと。これが、AND WOOLを立ち上げた大きな理由の1つです。

お洋服やニットも、ファーマーズマーケットの野菜のように、作った人の顔が見える形でお客様へお届けできるしくみは作れないか。そうすることで、素材のことだったりとか、お洋服って作るのにすごく時間がかかるんだなとか、本当に広い意識でのものづくりみたいなものを知ってもらえる機会を作りたいと考えました。

ファッション業界の課題解決:深刻な人手不足で技術の継承ができない

ファッション業界では、世界的に材料が手に入らなかったり、人手不足でものが作れないって話も、ずっと前から各地で聞こえてきていました。

実際、国内の工場を回ってみても、いわゆる職人さんと呼ばれる方たちって、どこの現場も60歳以上の方ばかりで。それは、私がこの業界に入ったころから結構そんな感じだったんですよね。せっかく素晴らしい技術や機械を持っていても、担い手がいないためそれが継承できないという課題が根深くありました。

さらに、多くの繊維工場を抱える中国でも、10年ほど前から人手不足が深刻化していっていて、このままいくと、ちょっと手の込んだものっていうのは完全に作れなくなる未来が来るだろうなと感じていました。

多くの方にものづくりの魅力を感じてもらえれば、国内外の繊維工場の助けになるかもしれないし、次の世代に技術が継承されるようになるかもしれない。そんな願いも込めています。

雇用創出に貢献:お洋服やニットを作る仲間を集めたい

私が海外で活動した経験もあるため、当時、国内外さまざまなところから私に直接オファーが来ることもあったんですね。

でも、例えば海外からわざわざ私にものづくりを頼んでくるってことは、逆に他ではなかなか作れない、オリジナリティ溢れた作り方のものを求められているということです。そうなると私1人ではやっぱり作れないんですよね。シンプルに手が2本しかないから、たくさんは作れない。だからお断りせざるを得ないっていう依頼も少なくありませんでした。

だったら、一緒にニットやお洋服を作ってくれる仲間が欲しいなと思うようになりました。

お客様に対しては、ものづくりの楽しさだったり、作っている人の顔を見せることで、洋服とかニット仕事に愛着を持っていただきたい。一方、世の中はものがどんどん作れなくなっている。さらに、個人的にオファーが来てもリソースが足りないから、一緒にものを作ってくれる仲間を集めたい。

こういった理由から、AND WOOLを作り、今でも活動を続けています。


ニットはコミュニケーションツールにもなる

実は、手編みのワークショップは20年前からやっていて、学校や百貨店、セレクトショップなどで開催させてもらっていました。実際、AND WOOLのワークショップはすごく人気で、累計参加者は2,000人以上になり、非常に多くの方に喜んでいただいています。もともとそういうのが好きな人はもちろん、ものづくりしたことない人も、手を動かすことがすごく楽しいって言ってくれたりだとか、ワークショップへの参加をきっかけにニットやお洋服が好きになっていくっていう人もいっぱい見てきました。

何よりも、共通の話題があるからワークショップを通じてお話も盛り上がって、その場で友達ができたり、また出来上がったものを誰かに見せたりあげたりすることで、新たにコミュニケーションが生まれる。

生活や人間関係を豊かにするきっかけになる、そんな力もニットにはあるのかなって思うようになりました。

AND WOOLは、地域の方をはじめ多くの方に応援してもらっていて、少しずつ思い描いていたような活動に育ってきていると実感します。

活動を開始してから、これまで実験を繰り返しながらさまざまな取り組みをしていますので、その辺りもまた後日お話ししたいと思います。

それでは、本日はここまで。


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