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緊急事態の中でファッションブランドにできることとできないこと

緊急事態宣言が解除になり、少しずつ日常生活が戻り始めたものの、経済的に大きなダメージを受けた業界も多く、まだまだ苦境が続くことが予想されているところも少なくありません。そのうちの1つが小売業界です。中でもアパレル業界は、この2ヶ月間で深刻なダメージを受けています。

こんにちは、記者のカミュです。連載「村松啓市の仕事」では、世界で活躍するデザイナーの村松啓市さんの魅力や、その作品について、ご紹介しています。今回のテーマは「コロナ禍でのファッションブランドの対策」です。

■製品製造をストップさせないために

2つのブランドを運営しているファッションデザイナーの村松さんも、今回の新型コロナウイルス感染拡大の影響を大きく受けたアパレル業界に身を置いている1人です。

2ヶ月前、東京都に初の「外出自粛要請」が出された3月最後の週末、村松さんは東京恵比寿のギャラリーにいました。

私のファッションブランド【muuc:ムーク】の2020-2021秋冬コレクションの新作発表の展示会と予約会を行なっていました。3月中旬頃には「東京がロックダウンになるのでは?」というニュースが飛び交っていましたので、私たちは展示会の開催をどのように行えばいいのか悩みながら、毎日のニュースをチェックしていました。「ぜひご来場ください!」と大々的に宣伝することもできず、こんなことになるなんて東日本大震災以来だな、とも思っていました。

その後、東京だけではなく全国的に緊急事態宣言が発動され、静岡を拠点に活動している村松さんのブランドでも、対応を迫られる状況になったと言います。

私たちのような「製造業」の現場では、手を動かして作業をしてくれている働き手の「リモートワーク」をどのように実現すればいいのかが、大きな課題になっていると思います。私たちは非常にラッキーだったのかもしれませんが、これまで「雇用創出プロジェクト」として取り組んできたことが、今回いい形で、私たちブランドの製品製造をストップせずに済んだ要因になりました。

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村松さんは、自身がディレクターを務めるニット専門のブランド【AND WOOL:アンドウール】で、「雇用創出プロジェクト」という取り組みを進めていました。

このマガジンでも度々ご紹介していましたが、これは様々な理由で外に働きに出ることが難しく「在宅ワーク」を必要としている人たちに、適正価格で(不当に低賃金の労働にならないような)仕事を発注できる仕組みを作るというものです。

工夫次第で製造業でも在宅ワークの仕事を生み出すことは可能です。私たちはもともと「雇用創出」という別の目的で「在宅ワーク」の仕事を作ることに取り組んでいましたが、今回のような緊急事態においても、それは大変有効なことでした。そして今後、新しい働き方の形が求められる中で、ますます私たちのプロジェクトは必要とされていくのではないかと思っています。

村松さんは、自分たちのやってきた取り組みの必要性を、今回の緊急事態でますます強く確信したそうです。今後もこの「雇用創出プロジェクト」の必要性を広く発信していきたいとおっしゃっていました。

■オンラインの活用を推し進める

これまでの取り組みが功を奏した面があった一方で、村松さんは今回の緊急事態の中で、かなり早い段階から新しい挑戦にも積極的に取り組んでいました。それが「オンラインの活用」です。

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東京で初の外出自粛要請が出された週末、東京恵比寿の展示会会場には私とスタッフの2人だけ。人が来てくれるのはうれしいけど、「来てください!」とは言いづらい……複雑な思いの中で時間だけが過ぎていきました。ただ時間をやり過ごしていても、展示会会場となったギャラリーの利用料は発生してしまいますし、何もせずに無駄にしてしまうくらいなら、何かしたいと思いました。

村松さんのブランドの展示会の開催期間は4日間。当初、バイヤーやプレスだけではなく、一般のお客さんも入れて、ゲストを招いての大々的なイベントが予定されていました。展示会4日目となる最終日、村松さんは展示会会場からライブ配信を行う決心をします。

それまで一度もやったことがなかった上、カメラもマイクも、機材は何一つもっていませんでした。今思うと、結構無謀な挑戦だったかもしれません(笑)でも、iPhone1つあればなんとかできそうだし、何もしないでただ時間をやり過ごすよりはよっぽどいいだろうと思いました。

そのときのライブ配信のアーカイブがこちらに残っています。

このライブ配信をきっかけに、村松さんは「オンラインでの商品紹介」に積極的に取り組むようになったそうです。ライブ配信の挑戦については、先日こちらの記事に詳細を公開しています。

■オンラインサロン内限定ライブ配信

村松さんのニットブランド「AND WOOL」には、オンラインサロンがあります。このサロンには趣味としてニットを楽しんでいる人だけではなく、プロとして活動している人も多数参加されています。

商品を紹介するライブ配信を一般のお客さん向けに行っていた裏側で、実はサロン内限定のライブ配信も行われていました。

オンラインサロンのメンバーだけが見られる限定のライブ配信では、私たちの製品開発の話をしたり、実際にその作業に参加してもらうための相談をしたり、私たちのブランドや製品に関するさらに一歩踏み込んだ話をしていました。全国的に外出自粛で皆さん外に出ることができない状況でしたから、サロンメンバーの皆さんも参加しやすかったのかもしれません。非常に熱をもって見ていただけたように思います。

そしてなんと、この緊急事態での自粛期間中に、これまでサロン内で取り組まれてきた商品開発プロジェクトが最終段階まで進み、1つの製品が生まれています。

そうなんです!販売用の「編み物キット」の開発を、サロンメンバーの皆さんに手伝ってもらいながら進めていたのですが、ようやく製品化が叶い、すでに販売が開始しています。「コットンベレー帽」なのですが、デザインから編み方の開発、編み図の制作まで、すべてサロンメンバーがやっています。皆さんプロですから、その完成度も完璧です。

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■助けが必要なときは助けを求めること

緊急事態を物ともせず、次々と新しい挑戦を打ち出して活躍の幅を広げているように見える村松さんですが、そうは言っても課題はまだまだあるとおっしゃっています。

私たちのアトリエには、製品製造を支えてくれている作り手さんたちが、毎日たくさん通ってくださっています。昨年私たちは、「雇用創出プロジェクト」の存在とその必要性を多くの方に知っていただきたいと思い、製品の予約販売という形をとって、クラウドファンディングに挑戦しました。大変ありがたいことに、私たちの挑戦を知って「自分も何かしたい」と声をかけてくださった方が多く、1年前には想像もできなかったほど、私たちの現場には製品製造の担い手が増えました。

ちなみに、昨年村松さんが挑戦したクラウドファンディングについては、こちらのマガジンにその経緯や詳細が連載されていました。

ウイルスの感染拡大防止のため、村松さんのアトリエではスタッフの皆さんが交代で出勤したり、アトリエ内の作業人数を減らして人の密集を避けるなどの対策を行ってきたそうです。

私たちのアトリエに通って働いてくれている方には、まだお子さんが小さい方もいらっしゃって、今回保育園や小学校が休校になったことでアトリエに通うことが難しくなってしまいました。そういった方たちには編み機を貸し出すなどして在宅ワークのお仕事をお願いするようにしましたが、そのことにより一部の製品の完成が遅れてしまう事態が出ています。

もともと、村松さんのブランドでは、在宅ワークの雇用創出を積極的に行っていました。編み機による編む作業、編み針を使ったまとめ作業など、在宅でもできる工程を切り離して、積極的にその仕事を必要としている人たちに発注していました。

しかし、どうしてもアトリエの機材などを使わなければできない作業もあり、コロナ禍以前は、常時5、6人の方が、アトリエに毎日通って作業をしてくれていたそうなんです。

例えば、ニット製品を仕上げる最終工程に含まれる「アイロンをかける」作業などがそれに当たります。業務用の広いアイロン台を使って、豊富な蒸気と熱をかけてバキュームで蒸気と熱を吸い取るという、製品の仕上げ作業です。これをやる人の数が減ってしまうと、製品の最後の段階の作業が一気に進まなくなり、完成させられる数が減って、生産数も少なくなってしまうわけです。私たちのブランドのスタッフでなんとか作業を進めていますが、スタッフがその作業に追われてしまうと他の仕事が進まなくなります。現在、私たちのアトリエに通ってこの作業を手伝ってくれる方を募集しているところです。

もし、この記事を読んで興味をもってくださった方がいたら、「AND WOOL」まで直接問合せをしてほしいとのことです。

私たちはこれまで「雇用創出プロジェクト」を行う中でいろいろな人と出会ってきましたが、「助けてほしいこと」があるときにそれを伝える大切さを痛感することが非常に多いです。そうしないと、こちらも「助けたくても助けられない」ということが起こってしまうからです。できることもありますが、できないこともあります。当たり前のことですが、お互いに手を貸し合うことで今回のような緊急事態も乗り切ることができるのではないかと思います。

自分たちにできる範囲で新しいことに挑戦しながらも、手を貸してほしいことがあるときはそのことをしっかりと伝えて手伝ってくれる人を探す。基本的なことのように思いますが、まだまだ完全に警戒を解くことができないこのような状況の中で、とても重要なことだと感じました。

「雇用創出プロジェクト」も含め、村松さんたちの活動は、今後ますます必要とされるものになっていくのではないでしょうか。引き続き、応援していきたいと思います。


(記者:カミュ)


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