見出し画像

新型コロナウイルスの影響を受けたファッションブランドが対応したこと

新型コロナウイルスの影響で、さまざまなリアルイベントが中止になり、その代わりにオンラインで情報発信をするアーティストやクリエイターが増えています。ファッションブランドを運営する村松さんも、この状況の中で、ネットでのライブ配信に挑戦を始めた1人です。試行錯誤の中やり始めた動画を使っての商品紹介について、どのような感想や課題をもったのか、お話を伺いました。

こんにちは、記者のカミュです。連載「村松啓市の仕事」では、世界で活躍するデザイナーの村松啓市さんの魅力や、その作品について、ご紹介しています。今回のテーマは「ライブ配信」です。


■春はコレクションブランドにとって大事な時期

日本国内のファッション業界では、毎年2-3月にかけて、次のシーズンの新作コレクションを発表する大きなイベントが多数開催されています。村松さんのファッションブランド「muuc:ムーク」でも、例年この季節に、次の秋冬コレクションの新作発表をする展示会を、東京都内のイベントスペースやギャラリーを貸し切って行っていました。

国内のファッションブランドがショーや展示会、予約会などを行うためのイベントを立て続けに行うのは、大きく分けると年に2回。春夏コレクション発表の時期である9-10月と、秋冬コレクションの発表を行う2-3月です。私はニットの専門家で、自分のブランドでもニット製品には特に力を入れています。どちらがどうということはありませんが、秋冬コレクションは私が得意とするニット製品により力を入れているので、私にとってこれらの発表の場である2-3月のイベントは、1年を通してもっとも大事なものであると言えます。

その一番大事なイベントができない、、、これはあらゆる業界の方たちが悩んでいることだと思いますが、主催者側が開催を決定しても「ぜひきてください!」と言いづらい状況がとても苦しいですよね。

そうなんです。私たちも、一般のお客様向けに予定していた3月末のイベントを、バイヤーやプレスなどの関係者向けに規模を縮小して行っていたのですが、、、そこに、一般のお客様もきていただいても全然いいなと思ってはいたものの、直前に外出自粛要請が出てしまったことで「来てください!」と言えない状況になってしまいました。

ちなみに、昨年の秋に代官山で開催された「muuc」の春夏コレクションの新作発表のイベントは、200人以上の来場者を迎え、大成功に終えています。

村松さんのブランドにとって、リアルなイベントを行えないことの一番のダメージは「服を直接見てもらうことができない」という点だと言います。

私たちの商品は、素材を組み合わせることで色や凹凸感に深みを出したり、触り心地、着心地をとても大事にしている部分があるので、実物を見てもらったり、試着してもらわないと、良さが伝わらないことが多いんです。中小のアパレルブランドは、お客様やショップのオーダーを受けてから生産数を調整し、糸や生地などを手配して服を作る、という流れですから、今回のような状況で事前にオーダーをもらえないと、そもそも生産できないアイテムが出てきてしまい、お洋服の販売ができなくなってしまうんです。

なるほど。ファッションブランドの新作コレクションの発表イベントというのは、そのシーズンのお洋服を生産に入る前に関係者に披露することで、事前に受注をとるという意味合いが大きいということなんですね。

■どうして「ライブ配信」だったのか?

3月末に規模を縮小して行われた「muuc」の関係者向けの展示会。当初は、さまざまな企画を考えて、ゲストなども招き、一般の来場者の方に楽しんでいただけるイベントが想定されていました。都内で4日間ギャラリーを貸し切って、村松さんだけではなくお店のスタッフの方も静岡から泊まりがけで来ていました。

告知もままならないような状況の中で、来場してくれる関係者もまばら。村松さんはとても焦っていたそうです。

もちろん、こんな状況ですから、ある意味「仕方がないな」という諦めもありました。むしろ、その状況の中でも足を運んでくださった方々には感謝しかありません。でも、悪い状況が重なってしまって、このままではまずいという焦る気持ちもありましたし、「このまま何もしないで展示期間を終えるのは自分らしくない」とも思いました。

「何かしなければ……」という強い気持ちがあったんですね。

私たち作り手は、ただ「作っただけ」ではダメで、その製品についてしっかりと「伝えること」をしていかなければいけないという思いが私の中にあります。今、このnoteも含めてさまざまなところで情報発信することを続けているのも、そんな気持ちからです。だからこの展示会でも、そのためにできることをやりたかったんです。

一方で村松さんには、冷静に状況を判断する気持ちもあったと言います。それが「ライブ配信」への挑戦につながったそうなのですが、、、。

レンタルギャラリーを借りていたので、せっかくならこの場所が使えないかと思いました。当初はもっと大きなイベントを想定していたので、4日間も借りてしまって。「これ、使わないともったいないな」と(笑)それで、以前からやってみたいと思っていた「ライブ配信」をこの場所からやってみてはどうか、と思ったんです。静岡のアトリエでやろうとすると、店や作業場の一画に配信用のスペースを作らなければならなくなるので、それが結構大変だなと思って、躊躇していたところがあったんです。

「せっかくここを借りてるんだから……」という気持ちが「ライブ配信」への挑戦に結びついたんですね。転んでもただでは起きない精神、大切です(笑)

■「ライブ配信」に初挑戦!

関係者向け展示会の最終日3月28日11:30から、初めての「ライブ配信」が行われました。

正直、誰も見てくれないことを覚悟していました(笑)でも、それならそれで「ライブ配信」がどのようなものかを体感してみようと思いました。とりあえず1回やってみれば、どんな感じでやればいいかがわかるだろうと思いました。

村松さんは「まったく自信がなかった」と仰っていましたが、この日配信された動画は、現在、再生回数約350回で、再生時間約3000分くらいになっています。

大変ありがたいことに、たくさんの方が見てくれて、コメントをくれて、本当にうれしかったです。この再生回数と再生時間が、数字的にどれくらいの評価なのかは私にはわかりません。でも、私たちがPOPUPショップなどで出店して接客するとき、一人のお客様と話ができる時間は数分です。服の作り方から細かい技術まで伝える接客時間をもてることは、まずありません。そんなリアルな店舗での接客に換算すると、今回の動画が、何日分、何人分の接客になったのだろうと思って、大きな可能性を感じました。

もちろん、直接の対面での接客でなければ伝わらないこともあると村松さんは言います。しかし、自分たちの服のすばらしさや自分たちのブランドの想いが数%でも配信で伝えることができたのだとしたら、それはすごいことだと思ったそうです。

ちなみに、上記の動画で紹介されたのは、こんな商品でした。

▶︎(動画3:30〜)アピオス柄の刺繍

画像1


▶︎(動画8:45〜)筆記帳刺繍

画像2


▶︎(動画35:50〜)日傘

画像3


■静岡のアトリエから「ライブ配信」に再挑戦!

村松さんのブランド「muuc」では、今回の新作コレクションの展示イベントを「オンラインでの開催」に切り替えて、4月1日から行なっています。詳細はこちらをご覧ください。

このオンライン展示会の開催期間中に、村松さんは再び「ライブ配信」で新作の商品を紹介することにチャレンジされています。

1回目のときは、1人でひたすら服の説明をするだけだったので、2回目は「服を実際に着用したらどんな感じになるのか?」を伝えたいと思い、モデル(うちのスタッフたちです)を用意しました。そして、できるだけスムーズに商品を紹介していけるように、事前に紹介する商品の順番を決めて、モデルの着替えもスムーズにできるように段取りも決めて、準備をしました。

そのようにして行われた2回目の「ライブ配信」がこちらです。

やる度に反省点が見えますね(笑)段取りがうまくいかなかったところがありますし、機材準備、話し方や写り方など、終わってから改めて見てみると、気になるところがたくさんあって、YouTubeで活躍している人たちのすごさを身に染みて感じました。

ただ、村松さんとしては、今後も「ライブ配信」による商品紹介を続けていきたいとのこと。今回の2回の挑戦で反省点は多くあったものの、将来に向けての手応えを感じたようです。

先ほども言いましたが、店舗で接客をしていて、自分たちの服の良さをここまで話せる機会はなかなかありません。それに、私たちの服は上質な素材を使っていたり、製造に大変な手間がかかっていたりと、高額な製品が多いことも事実です。オンラインショップで写真だけを見て買うには、少し勇気がいるかもしれません。写真で見るよりも、色の感じや質感、着用したときのシルエットなどが、動画では伝わりやすく、商品選びに失敗することなくお買い物をより楽しんでもらえるのではないかと思います。実際に、動画を見てくださったお客様から、「写真だけではわからない着たときのシルエットや質感がわかりやすかった」とご連絡いただいて、うれしかったです。新型コロナウイルスの影響が、いつまで続くかはわかりませんが、今後も「ライブ配信」で商品紹介することには、力を入れていきたいと思っています。

「ライブ配信」に意欲を見せる村松さんですが、すでに今後の課題も見えてきていて、不安なこともあるとお話しされています。

機材設備を最低限整えたいですよね、、、特にマイクです。2回の「ライブ配信」の動画をアーカイブとしてYouTubeに残していますが、音声が聞き取りづらいですよね。すみません。画質については、明るさを向上させるなど質を上げようとすると、設備に費用がかかりますし勉強も必要になるので、今後少しずつやっていきたいと思っています。

「もともと人と話すのが苦手だったからデザイナーになったんですけど、、、」と、自分の話し方や伝え方にも「ほんとにこれで大丈夫なのか?」という不安があるそうです。でも今はとにかく「うまくやる」ことよりも「できることをやる」ときではないかと、村松さんは仰っています。

ちなみに、2回目の「ライブ配信」で紹介されたのは、こんな商品でした。


▶︎(動画11:20〜)雪原の森

画像4


▶︎(動画18:30〜)モヘアケーブル畦

画像6


▶︎(動画31:45〜)ウルグアイウール

画像6


新型コロナウイルスの影響は、アパレル業界に深刻なダメージを与えています。店にお客さんが来てくれないというだけでなく、外出する機会が減れば、おしゃれな洋服を着る機会も減ってしまいますから、みんなが服を買わなくなってしまいます。

そんな状況の中で「できることをやる」という村松さんの言葉からは、強い覚悟と決心が伝わりました。村松さんの挑戦を応援しつつ、これからも見続けたいと思いました。


*お知らせ

今後も「ライブ配信」で商品紹介をすることには力を入れていきたいと仰っている村松さん。実は早速、再び「ライブ配信」を行うことを決めたそうです! 急なお知らせになりますが、配信日は本日!! ぜひご覧いただければと思います。

muuc 2020春夏コレクション 紹介
〜静岡県島田市のアトリエよりライブ配信〜


●日程
4月14日(火)11:00〜
※30分程度を予定しております

YouTubeライブ配信URL
https://youtu.be/Uh-TS5d7PSw

当日は、デザイナーの村松とショップスタッフが、現在販売中の2020春夏コレクションの商品を中心にご紹介します。ぜひご覧ください。


(記者:カミュ)


いつもありがとうございます。活動を、もっと多くの方に知っていただきたいと思っています。いただいたサポートは、それを「伝える」このnoteページを充実させるために使わせていただきます。これからもどうぞよろしくお願いします。