体裁の話及びその他〜その8〜

校正校閲をやっていると、得意分野はあった方がいいのかという話も出ます。無いよりはあった方がいいでしょう、頼りにされます。専門的でなくても、好んで読んでいるジャンルを伝えておくとそういう仕事を振られる場合があります。勿論、よく知らない話でもよく知らないからこそ調べて齟齬に気づいて出せる疑問があったり、内容に関わらない体裁や日本語のミスや誤用も拾えます。やりようはいくらでもあるし、自分に詰め込める知識には限界があるし、今までの経験は人それぞれなので、活かせるものを活かせる範囲で使えばいいと思います。なので、少なくとも得意分野の有無で足踏みしている暇があったらどんどん先に進んでいいと思います。校正校閲の道に限らず、皆、進んだ先に得意分野が出来ていくのですから。

・「陸の孤島」的表現が出て来たら注意。本当に渡航ルートが限られているのか、そもそも失礼に当たるのではないか勘案する。

・1箇所訂正することによって他所も変える必要が出てくることがある。その場合、調べる前の段階から関連箇所にマルを付けたり付箋を貼ったりするといい。1箇所訂正するかどうかの指摘をしたら安心してしまい、他所の修正箇所を見逃すことがある。

・「帝国大学」のように、古い大学では時代の移り変わりによって学部名・学科名が変わってくることがある。○○学科、とあった時に該当する年代にその学科はあったかどうかの事実確認が必要になる。想像力を働かせて調べ物をする。

・例えば「4代目田中組組長」とあったら、「田中組4代目組長」のように、元のままでも読めるけれど形容詞がより適切と思われる場所に置けるのならばエンピツ出しして問うていい。

・例えば改名をしていて今は使われていない名称の表現が出てきた場合、「〜〜(現・○○)」と補足を入れていい。

・麻薬と覚醒剤は違う。種類も違うが、取締法も違う。あべこべの組み合わせには注意。

・「軍人勅諭」などの古い文章を原文そのままではなく現代語訳にして紹介している場合、原文では送り仮名を省いているようなところを補っていても全く問題ないのでそのままとする。ただし、現代語訳ではなく、原文をそのまま引用している場合は原文との差異があるとして指摘する。

・「耳障り」とは違うも恐らく「手触り」から派生したと思しき表現、「耳触りのいい」という語を使う人に対してやはり何か違うのではとエンピツ出しをする際は「聞こえのいい」というように出すとスマート。

・「同窓」は学校の時にのみ使用できる。学校以外の場合に同じような意味で使っていた場合はニュアンスは取れるとしても一応エンピツ出しする。

・「厚生労働委員長」のように、両院にあって判別難しい者にはどちらのモノなのか分かるように補足を入れる。

・「バリエーション」と「ヴァリエーション」、カタカナ語は表記揺れることがあり得るので出てきたらメモしておくと良い。

・映画の話が出てきた時、エンピツを入れるべき箇所において邦版か米版かどちらか判断つかない場合は両方を例示して判断をあおぐ。

・既に出てきたものを指して「右の」という表現が出てきた時、ページレイアウト的に右にある、という意味だけでなくそこには「前に出てきたもの」の意味もあるため、ページレイアウト的に右側になくても大丈夫。ただし、「右記の」と出てきたらページレイアウト的に右にないといけないので混同に注意する。
また、「上記」「下記」は縦書き横書き問わず使えるので特に気にせずOK。

・「疑心暗鬼が深まる」のような成語を名詞感覚で使う用法が出てきた場合は気をつける。本来「疑心暗鬼」は「疑心が暗鬼を生む」の略のため、「暗鬼」は述語が変わるとそぐわない。「深まる」と合わせる場合は単に「疑心が深まる」となるようにエンピツ出しをする。

・「累計○○部!」と来たら、複数刊の話か確認する。単刊では「累計」は用いない。

〜その9へ続く〜

#コラム #校正 #校閲

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