校正校閲とは労災防止業である

はい。妙なタイトルですよね。他で見掛けないのでそうだと思います。
私事ながら、新卒から6年間安全衛生用品を製造販売する商社に勤めておりました。その時の体験から、校正校閲の職に就いてからタイトルのようなことを思ったわけでございます。
以下の説明、仕事の新規開拓用の文句として使うつもりです。流用されたい方はご自由にどうぞ。

「ヒヤリ・ハット」という言葉をご存じでしょうか?
〈「ひやりはっと」危険な目に遭いそうになって、ひやりとしたり、はっとしたりすること。重大な事故に発展したかもしれない危険な出来事。『デジタル大辞泉』〉

労働現場では重視される言葉です。それは、「ハインリッヒの法則」と言われ、労働災害(以下、労災)を防ぐための基本となっているからです。
〈「ハインリッヒの法則」:1件の重大事故発生の陰で、29件の小規模な事故、300件の異常(ヒヤリ・ハット経験)が起きているという、労働災害における経験則。1:29:300の法則。『日本大百科全書』〉

労働現場で1つの事故が起きる裏側には、29件の「ひやり」とし、300件の「はっと」して危険を感じた出来事がある、という意味です。

例えば、誰かが職場で躓いて転んで怪我をした。それは単に本人の不注意が原因なのか?近くに障害物があってそれを避けるために体勢を崩したのでは?足元にモノが転がっていて動線を妨げていたのでは?履物が現場に相応しくない滑りやすいものだったのでは?段差や傾斜があるのに配慮していなかったのではないか?などなど。

こういったもののサンプルを集め、対策をして、環境的にそもそも事故が起きにくくする。それが労働現場における安全衛生管理というものです。

さて、これを文字情報の世界に置き換えるとどうでしょうか。出版物やインターネット上で公開される文字。これらにミス、間違いがあると「事故」に繋がります。記載の電話番号が間違っていたら?名前や店の名前が間違っていたら?読むに耐えない誤植が散見されたら?矛盾したことが堂々と載っていたら?……刷り直しによる余分な費用発生から裁判沙汰、はたまた低クオリティに見切りをつけられ売上が下がることもあり得ます。

極端な話、食品にビニールが混入していたら、どうなるか。それと同じ問題ではないでしょうか。

あらゆる現場で意識して行われている安全衛生。それを文字を扱う現場で担うのが校正校閲業というものです。ヒヤリハットの積み重ねによる文章への提案から誤植の指摘や整合性の確認まで。まさに労災対策です。そこはコストカットすべき対象ではなく、むしろコストをかけるべきところではないでしょうか。

以上が、タイトルにした「校正校閲とは労災防止業である」という意味です。

ここからは営業方法に関する蛇足になります。

この論法からすれば、校正校閲の手が入り切っていないと思われる(すでに手は入っているのかもしれませんが見えないので余分なものを挙げている可能性はあります)本の新規レーベル、ゲーム会社、テレビや映画の字幕、果ては出版業界以外の一般企業のHPやBtoB向け商品カタログといったものにまで潜在的な仕事需要があることになります。そして、働きかけによってはそこに手を届かせることができるのではないか、と考えています。

昔、防災食糧品を売っていた時、訪問先の備えは多種多様でした。すでに備えているところ。備えなきゃと思いつつも備えていないところ。意識してないだけで、いざ災害が起きた時に備えていないと危ないと説明すると納得して検討していただけたところ。

営業をしていると気付くのですが、需要があるところとは、「今すぐ必要としているところ」と「いつか必要になるだろうなと考えてはいるけれど用意しないでズルズル来たところ」と「必要性に気づいていないけれど気づけば必要としてくれるところ」があります。
1つ目はもう動いており求めています。速さが大事です。2つ目はタイミングの問題です。ちょうどいいところに来てくれた、というやつです。そして3つ目に関しては説明さえできれば相手方が気付き、何ができて何をしたらいいのか話を聞いてくれます。

長くなりましたが、上記の3つ目に対して何かアプローチをかける時。私の思う労災対策としての校正校閲業という捉え方は、その価値を説明するのに受け入れやすい喩えの一つではないかと思うのです。
より広い範囲に校正校閲の手が届くことでより良くなる領域があるのならば、使っていきたいなと思っています。

#コラム #校正 #校閲


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