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闇市の狩人

 仕事帰りのスーパーは戦場だ。
 無数の惣菜が棚に並び、静かにその瞬間を待っている。値引きシールが貼られたそれらは、狩られる運命だ。俺は一歩一歩、冷徹に進む。狙いは、日持ちしない加工品。勝機はそこにある。
 ローストポーク。
 見ただけでわかる上等品だ。脂にはアラキドン酸がたっぷり含まれている。食えばアナンダミドの多幸感が体を満たす。わさびソースが脂の甘さを引き締める。間違いない。
 チャーシュー。
 分厚く、歯ごたえも申し分ない。甘辛のタレが肉に絡み、重量感を感じさせる。だが数が少ない。狩りはスピードが勝負だ。
 アジフライ。
 揚げ物の王道だ。魚の脂は体に染みわたり、DHAとEPAが脳を活性化させると言うが、そんな細かいことはどうでもいい。これを食えば体が満たされる。それがすべてだ。
 揚げたて(だった)カレーパン。
 時間が経ってもまだ戦える。サクサク感は失われつつあるが、中身は変わらずボリュームたっぷり。スパイスの香りが鼻を抜ける。十分だ。
 狩りが終わった。獲物を確かめる。手にしたのは半額のサンドウィッチだ。キュウリの食感に引き寄せられたのだろう。悪くない。冷静に、慎重に選び抜いた結果だ。
 スーパーの棚にある答えは一つ。手に入れるか、逃すか。それがすべてだ。野生を取り戻し、必要な獲物を見極めろ。油断は命取りだ。

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