見出し画像

奇妙なダンス~尾崎豊~


奇妙だったあの人の踊りの印象を映画『ジョーカー』を観て思い出した。

推しのアーティストについての記事を書くならスライダーズかエレカシかルースターズかあるいはフリッパーズギター、大滝詠一さんについて、なんて考えていたけれど、尾崎豊について書くことにした。
尾崎豊から三つ歳下の私は「若者の教祖」と彼が呼ばれていた時代のど真ん中で過ごしている。高校時代には尾崎豊ファンが周囲にたくさんいたけれど、でも尾崎の歌が私は苦手だった。野音の飛び降り事件の傍でアクセサリーを露店で売っていたというシオンの歌の方が好ましかった。それでも尾崎の伝説の代々木ライブの深夜放送は観た。初めてみる尾崎が歌っている姿。後で知ったことだけれどこの番組を監督されたのは佐藤輝という日本のミュージックビデオの先駆的な方だった。で、放送があった翌日に学校で話題になったのは、そのアクシデントとしか思えないようなシーンについて。たとえば、尾崎が蹴飛ばして倒したマイクスタンドをスタッフが立て直す場面、あるいは、尾崎が露骨に不快な表情でバックバンドの演奏にタイミングの合図を送る場面や、照明塔から落下しないように尾崎の背後から懸命にシャツを引っ張り続ける黒子を撮り続けていたり、というような。
その後も尾崎の歌を聴くことはなかったけれど、佐藤輝が撮る尾崎のミュージックビデオは新曲がリリースされる度に観た。Freeze Moonの大量のペンキを被りながらのたうち回る尾崎は当時話題になっていた。

尾崎豊ってホントに面白いな

そんな気持ちから代々木ライブの録画テープを友達から借りて久しぶりに観たのは東京に出て働き出してからのことで、深夜に肉体労働なんかやっていた頃。過酷な時って何も考えたくなくなる。身体がついていけなくなっても動かさないといけない。そういう時、尾崎のあの奇妙な踊りの真似をした。働いている時は頭のなかで想像して耐えた。眠さに耐えられない時は部屋の中で私も奇妙に踊った。尾崎豊のファンの人からはお叱りを受けるかもしれないけれど、私にとっての尾崎はずっと奇妙に踊る人。そのことをジョーカーの美しい奇妙な踊りを観て思い出した。
そんな私だけが知ることを最後に書いておきたい。ブルース・スプリングスティーンの踊りも奇妙だった。ロックンロールをとても表している。おそらく尾崎は影響を受けたと思う。真似をして、尾崎も、何かに耐えていたのだ。

追記
明年、佐藤輝監督による尾崎豊の映画が公開される。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?