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「雨降って地固まる コンフリクトから学んだグローバルパートナーシップ」


「AAEEのプログラムでは、事後アンケートを実施すると満足度がやたらと高いですよね。その裏には何か秘訣とか努力があるのですか?」

AAEEはいつもハッピーなことばかりじゃないよ。
参加者は学生生活の貴重な夏休みを費やしてくれるのだから、彼らにとって学びの深いモノにする義務がある。成功に終わるというか、何としても成功させる!という気持ち臨む。でも運営側は大変なんだ。そのことは学生アシスタントリーダーだった朝楓なら理解できるでしょ。

「はい、大変でした(笑)。でも私は自ら進んでやっていたので、学びが多かったというのが率直な感想です。」

例えば、2017年のVJEP、ベトナムプログラムは荒れに荒れた。原因は学生オーガナイザーが半年かけて作り上げたプログラムを省政府の判断でプログラム開始後に大幅変更してしまったこと。
省政府の人たちには決して悪気はないんだ。彼らは、普段生で見ることのできない日本の文化を地元の人たちに紹介したい、地元の名産を世界に宣伝したいという気持ちが強かった。一方、ベトナムの学生リーダーは自分たちが頑張って作ったプログラムを壊されてしまったわけだから、たまったものではない。

大瀬「え、、、何が起こってそうなってしまったのですか?」

事の発端は、ビンフック省でのホームステイ。ホストファミリーがとても喜んでくれて、もう一泊することを提案してきた。僕はそれに対して「OK」と言ったことで、ベトナムの学生リーダー達に囲まれたんだ。僕の知るベトナムは日本以上に上下関係を意識する社会。学生が大学教授に立てつくなど珍しいと思う。それだけ彼らは熱くなっていた。
「あなたはどっちの味方なのですか。行政府ですか、私たちですか?」と、、。

その時僕は「両方」と答えた(笑)だって、両方とも大切なパートナーだから。

その答えを聞いて呆れたベトナム学生リーダー達はさらに頭に血が上った。
「もうやっていられない。私たちは明日ホーチミンに帰るから。先生、自分で責任取って全部仕切ってください」

僕はすかさず、君たちなしでは何もできないから絶対にダメだと言いながら、最後は学生たちに土下座みたいなことをして残ってもらった。

大瀬「学生リーダー達には残ってもらえたようですが、その後の州政府との関係はどうなったんですか?」

その後、学生リーダーと行政府担当の罵り合い、怒鳴り声を聞いたよ。さらには、ベトナム人の参加学生も参戦し、危険を冒して行政府の人々に立ち向かった。だけどね、ベトナム参加学生達の中にはこの混乱の中でも「日本の学生たちは命がけで守る。」みたいな雰囲気があった。そのおかげで、学生間の交流自体はいつものプログラムよりも深まってしまった。さらに、日本学生は、プログラム前の事前準備不足を補うために連日夜まで必死だったため、この崩壊しかけた状況をほとんど理解していなかった(笑)。
閉会式の最中にベトナムの学生がホストファミリーについて文句を言い始め行政府リーダーと言い合いになった時は本当に冷や冷やしたね。
政府の人たちは学生に向かって、「これ以上反発したら、大学に手紙を書きますよ。あなたの人生に重大な影響が出ますよ。」と発した。社会主義国での”規則”を垣間見た瞬間だった。

とにかく行政府と学生リーダたちとの確執で雰囲気は最悪。もうベトナムでは活動できないかな、とさえ思った。

大瀬「この年のプログラムに参加したメンバーからはそのような一部始終を聞いたことがなかったですよ。ホームステイ先が豪華だったとか、喧嘩したとかは聞いてましたけど…。最終日の空港でのお別れの動画を見ましたが、行っていない私まで胸が熱くなりました。でも想像を絶するほどの大変なプログラムだったんですね。」

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既に話したけど、プログラムの最中は僕も2週間完全に入り込んでいる。なぜならば、自分がそれまでに得てきた知識、経験をすべて投入しているから。だから、ワールドカップ中のサッカー監督と同じくらい“アドレナリン”でみなぎっている。周囲にはそんな風に見えないだろうけどね。
プログラム中はいろんなことが起こって、即座の判断が求められるけど、その判断が必ずしも正しいわけでない。というよりも、「正解のない」判断を求められることが多い。そして下した判断の良し悪しを考える時間もない。だからこそ、プログラムが終わって帰国後、一人になってふーっと心落ち着けて振り返ると、いろいろと反省点が出てくる。

何よりこの年は、”コンフリクト・マネジメント”(組織内外での対立・衝突への対処)が上手くいかなかったせいで、プログラムが目の前で崩壊していったということがわかった。ただ、残念な結果とはいえ、国際交流の一事例として貴重な資料にはなると思い、国際学会で発表をしたんだ。そしたらすごく興味を持っていただいた。論文にまとめようと思ったけど、途中で止まったまま・・・。

大瀬「コンフリクト・マネジメントの分析からどのようなことがわかったんですか?」

朝楓もプログラムを見ていたからわかると思うけど、ベトナムプログラムは、大きく分けても7つの異なる集団がいる。①プログラム責任者(僕)と学生アシスタント、②ベトナム学生リーダー、③ベトナム学生準備委員、④ベトナム学生参加者、⑤日本学生参加者、⑥ベトナムの協定大学、⑦ベトナム行政府。この、「文化背景」も「身分」も「言語」も異なる7つの集団が、2週間のプログラムのためにプログラム準備期間から協働作業をしている。

そして、この内の一部にコンフリクトが起きたあの時は、明確な対処ができずにバランスを崩した結果、プログラム全体に悪影響を及ぼしてしまった。バランスが崩れたものを軌道修正するためには複数の集団に対してアプローチする必要があるのだけど、これがまた相当大変。どこでどうおかしくなったのかを細かく検討するのは複雑なパズルを解くような面倒な作業だった。原因は大体突き止めたけどね。

大瀬「確かに、日本人同士だけでも組織のマネジメントをするのは大変なのに、ここまで多種多様な人々と国を越えた協働作業をするのは本当に大変ですね。このような話を聞くと、私が先生のアシスタントとして参加させていただいた翌年のベトナムプログラムがいかに入念にマネジメントされていたのかがよくわかります。」

そうだね。実はこの2017年のプログラムの話には続きがあるんだ。
コンフリクト・マネジメントについていろいろと分析している内に、どちらが正しい、間違っているということではなく、純粋に行政府の人々やホストファミリーの方々への申し訳ない気持ちがとまらなくなった。彼らは、プログラムのために本当に一生懸命準備に取り組み、僕たちを盛大に迎えてくれたんだよ。開会式自体もテレビ中継してくれた。それなのに、来る日も来る日も大ゲンカ。一般民衆の前では笑顔を繕っても、相当なバトルの一部始終を見てしまった僕からすると、彼らに恥をかかせてしまったと思った。だから、「これは謝罪をしなければいけない。でもメールではだめだ。」と思って、4月の授業が始まる前の数日を使って自腹で現地に飛び、ホーチミンから4時間かけてビンフックに行った。ちなみにベトナムの学生リーダーには謝罪することは伏せていた。怒られるので(笑)。
ビンフックに着き、行政府公社に入ると要人たちが迎えてくれて、「一体どうしたのか?」と不思議そうな表情でこちらをみていた。

僕が、「7か月前に起こったことについて謝りに来ました。心よりお詫び申し上げます。」と謝罪すると、ビンフックのリーダーは「それを言うためにわざわざ日本から来たのですか?」とドン引き状態に。同行してくれた学生リーダーも唖然。
でも本気で申し訳ないと思っていた僕は、「熱心なおもてなしに応えることができず、申し訳ありませんでした。」と再び謝罪の言葉を述べた。
ビンフックのリーダーたちはしばらく黙り込み、
「終わったことはもういいですよ。雨降って地固まるという言葉が日本にはありませんか?」と笑顔で応えてくれた。ちなみにその学生も、行政府の方々とのわだかまりが取れた様子だった。
——
大瀬「州政府の方がそのようなことを言ってくださったんですか!?」

僕は今でも思うのだけど、結果としてあの謝罪訪問によって、現地の人々との絆を深められたと思っている。「雨降って地固まる」というのは本当で、その後のプログラムでは深い信頼関係の下で円滑に物事が進むようになった。そして回を重ねる度に現地の「深い」部分を見せてくれるようになった。
例えば、2019年のプログラムではカンボジア国境特別地域に入れてもらい国境警備隊の兵士たちと大パーティー。僕たちはあそこに入れてもらった初の外国人団体だよ。あの経験がいかに貴重な機会であったか、学生たちは理解してくれているかはわからないけどね。(笑)

大瀬「本当に去年のプログラム内容を聞いたときはAAEEの進化を感じましたよ。
旅行では絶対に行くことができない場所にAAEEのプログラムだからこそ行くことができる。さらに交流しなければ社会主義国のリアルな部分を感じることって意外と難しいですよね。今は気付けなくても、学生たちは数年後にことの重大性に気づく機会があるかもしれないですね」

そうだね。
ベトナムは社会主義国。ベトナム共産党による一党独裁制の国。大都市で旅行したり、政府とは関連のないプログラムではあまり感じないかもしれないけど、大都市から一歩「深く」ベトナム社会に入ると本当の姿が見えてくる。「社会主義」「共産主義」というと、一歩引いてしまう人もいるかもしれないけど、僕が知る彼らは決して私たちに自分たちの思想を強要するわけではない。ベトナムが現在の政治体制、思想に至ったのにはそれなりの歴史があり、彼らがそれを丁寧に説明してくれたときには、共産主義者でない僕も納得する部分があった。僕個人は、このような立ち入った部分まで話し合える関係性を構築してきたんだ。

そして、その姿勢はAAEEにも反映している。AAEEのプログラムでは他者に対する「リスペクト」を大前提として、不文律は破らずに、両国の共通課題を両者の複眼的視点からアプローチするという暗黙の合意の上で成り立っている。「信頼関係が深まるにつれて、『深い』部分まで見せてくれるようになる。」というのは、政治体制云々の大きな話ではなく、人間関係の基本だと言うことだね。友人関係でも、信頼関係がない人には自分の深い部分まで見せることはないから。

大瀬「やはり、AAEEのプログラムが作られる過程とそれにかける思いは深いですね。公明正大な態度で信頼関係を構築しなければ、真の課題も、関わる人々の人間性も理解することはできない。理解できて初めて交流が成り立つ。AAEEのベトナムでの取り組みは、SDGsのゴール17『グローバルパートナーシップ』の理想のカタチの一つとも言えますね。何より今や関先生はベトナム地方行政府公認の教育アドバイザーですものね。」

SDGsでGOAL17に据えられたからこそ、近年パートナーシップについては語られることが増えてきた。ここまで話してきたように、実際には文化背景や政治体制が異なる集団が信頼関係やパートナーシップを築くことのは、互いの努力と時間を要する。それを身を持って体験したからこそ、AAEEは「パートナーシップ」を追及し続けているということを、関係者やプログラム参加学生には理解してほしいな。僕の教育アドバイザー就任は、9年間かけて培った信頼関係の証だよ。朝楓が小学生の頃から地道に交流を続けているんだよ。

大瀬「AAEEのプログラムの”重み”を後輩たちにもしっかりと伝えていかなければと思いました。 」

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