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高速道路の直線ですら、アクセルをベタ踏みにする勇気なんて僕にはないんだから。

キラキラした街の中を、速度制限よりも遅く、のろのろ走るぐらいが丁度良いんじゃない。どうせ帰り道だし、急ぐ必要もない。
追い越し車線があれば左車線はそれなりに安泰だし、もし片側1車線でも、後ろが来ればいつものスピードで行くか、譲れば良い。

あと、何。ゆっくり走れば、街の様子もよく見えるし。あぁほら、あのマンションのあの電気点滅してるよ。

いっそ消えて楽になればいいのに、まだ光っていたいと努力しているんだから、見ていられない。まるで僕みたいじゃないか。それとも、まだ光っていなきゃと無理しているのか、それもまた僕みたいだ。僕はなんて声をかけたらいいのだろうか。

希望と絶望の両方を胸に抱いて生を全うする不規則な寒色は僕の鏡だった。でもさ、これぐらいが健全な人間だろ?悪くないよ。

鏡を見るのは嫌いじゃない、から、もう少し見てても良かったけど、信号が僕らを急かすので、今日はお終い。次に来る頃には消えているか、新たな光を得ているかの2択でいいかな。愛をもって答えるなら、消えていて欲しいかな。後者は新しくも別の命であって、君じゃない気がするし。

どうやら街はこんなにもキラキラしているのに、自分だけは虚ろらしい。決して死にたいわけではないのに、生きるということは、時として僕を手こずらせる。なんだか面倒だから後ろから来る速い車に僕の命を預けようか。何キロ出してるんだろう、100は出てるな。でも、でみすけが傷つく死に方はやだな、そう思って、追い越し車線を退く。

僕のちっぽけなプライドは、隣で抜かしていくそのケツを追っかけるんだけど、これはただ僕の心を抉るだけ。言っただろ、僕にベタ踏みの勇気はない。遠くに行って見えなくなったそいつは、僕よりもずっと立派だ。そいつのいる、そういう世界に行ってみたいと思う。

もう、ブレーキを踏むのも面倒くさい。できることなら全部信号無視して突っ切りたい。これからドライブすればするほど、帰路が面倒になって、いつかやるのかもしれない。嘘、強がったよ。従順にしかなれないくせに。

あと30分もすれば家だな。これぐらいの距離になると、寂しさと嬉しさに渦巻かれる。やっぱりもっと遠くに行けば良かったかもと後悔しながら、家につけば僕を待っているイヌ型の抱き枕を思い浮かべて、ぐちゃぐちゃになる。およそ700メートル先、右方向です。

僕はどの方向に走っていったっけ。勇気もないし、従順にしかなれない僕は。


でみすけはエンジンを消して、しばらくすると電気が消えるんだよね。そのフェードアウトと共に、僕もいなくなって、異世界に飛ばされちゃえば良い。記憶も全部消して。

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