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メーデー。終焉が刻む前に。

<ミドラスの魔術師編>
#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門


プロローグ:銀木犀が見たの悪夢

人統暦じんとうれき429年】
僕は、国の命令で戦争に向かった。
辛かった。
僕は貴族制や政略結婚などがまだ残るこの<ゲステア>の世の中で自由結婚を勝ち取り、幸せの日々に浸っていた。
そんな夢のような日々など、あっけなく崩れる。
戦争に行け。と通達が来た。
その通知を見て、妻は酷く悲しいんだ。
「なんで…うぅ…行かないでよ…」彼女は僕にすがり付きながら泣いた。
「ごめん。僕がもっと上の立場になれたら…」縋り泣かれてしまったら僕だって耐えられない。
「ううん。仕方ないよ…あなたは私たちのためにすごく頑張ってくれたんだから。」
「すまない。」俯き言う。
『僕が君を幸せにする。だから、泣かないで。僕がもう君を悲しませない。』
「…え?」涙を浮かべ彼女は僕の顔を見る。
「ごめん。プロポーズの時に言ったのに守れなかった。」
「わ、私…この子待ってるから…この子が…いるから…大丈夫…だよ…」彼女は自分のお腹をさすり、涙を流す。
「…ッ!あぁ、待ってくれ。」
僕は、最後に華奢きゃしゃな体の彼女を強く抱きしめ、唇を重ねた。
涙を浮かべ僕らは別れた。
僕は準男爵という一番下の階級だった。
そんな僕に勿論戦争への拒否権なんてものは無かった。
僕は、徴兵時の戦闘での技術が評価されたのか、精鋭部隊に配属された。
だが、僕は貴族と言っても、元は平民上がり。
他の人よりも倍の重労働を押し付けられた。
軍内では当たり前のように平民差別があった。
僕はこんな世の中を変えたいと思った。

<ゲステア>は大小の様々な国が11ヵ国集まってできた連合国である。


そして戦場は<ゲステア>第二小国<ククアルフ島>である。
第一島国は<聖ルミナス>の侵略に対抗できたが、この島は対抗できなかった。連合国のお偉いさん方は自分の身の安全のためだけに、第一島国に戦力を集中させた結果である。
バカバカしい。
そして、この島は半径550kmでその中央都市<クルア>に敵国がいるらしい。
戦地の<ククアルフ島>に着いてからは、重労働による寝れない日が何日も続いた。
狂って吐きそうだ。
だが、今夜は眠ることができる。
明日は<クルア>の奪還戦。上の者も僕らの体力を回復させることを優先したらしい。よかった。そこまで馬鹿じゃなくて。
そう思いながら、僕はテントに行き布団に入った。
*     *     *
光が瞼の裏まで届く。僕はその光で目を覚ました。
「ん…?」僕は目を擦りながら体を起こした。
今は朝じゃないはずなのに。
僕は疲れの残った体を無理やり立たせテントの外へ出た。
僕は外に出た瞬間見えた光で体が硬直した。
誰しもこの光を目にしたら冷や汗が出るだろう。
何故かって?
それは…
僕が目にした光は太陽でも月でもない絶望が放つ輝きだからだ。
遠方には都市が見える。
その絶望はあかくゆらゆらときらめきながら、都市全体を照らし堕ちていく。
人々が逃げ出す。
その都市の人々を百鬼夜行ひゃっきやこうの妖怪としたら…百鬼夜行の最後。
太陽から逃げる妖怪のようだ。
太陽。それは陽光の下生きる。生きとし生けるモノにとって祝福の輝き。
神に例えるなら慈愛に満ちたヘスティアー様だな。
でも、この輝きは違う。神にしたら…どっかの悪神だろうか?
「隊長報告があります。」
後ろから声が響き僕は振り向く。
後方には緊急用のテントが複数展開されていた。
その中にある一際大きいテント。
そのテントは中のランプの光で外からでも様子が見える。
中にはたくさんのコンピューターなどが設置してある。
それを見て僕は科学は進歩するクセに人は進歩しないのだと思った。
「先程の攻撃により…第一陣の都市の奪還に向かった精鋭・通常部隊が全滅です。少数精鋭第零部隊と残りの部隊は派遣されていないので被害はありません。」
「あぁ…そーか」低い声が響く
「いくらこちら側の戦力を潰したいからと…都市に居る自国の兵と捕虜ほりょまでも犠牲にするなど…狂ってる…クソッ!」
隊長の怒りのこもった声と机を叩く音が響く。
「隊長大変ですよ!一度本国に連絡を…!」
一人の隊員が無線を手に取り繋げた。
「馬鹿者!今すぐ無線を切らんか!」
途端、隊長が大声を上げた。
「無線を使えば敵国にマークされる…」
無線を手に取った隊員が顔を真っ青にした。
「あぁ…申し訳ございません!」
すごい勢いで額を床に付けている様子が見えた。
「みなよく聞け。撤収だ。至急本国に帰還するぞ…」
隊長は脱力したような声で話した。
僕も急ぎで武器の片づけをすることにした。
僕は都市が危機だというのに「妻に早く会えるのでは?」と思い気合が入った。
ふと気付いた。
周りが少し明るくなってることに。
「おかしいな、まだ夜明けじゃないはずなのに…変…いや、片付けしてるからそのランプの光漏れか…」僕はそう思った。
ガチャンッ!
横で木箱らしきものが壊れる音が聞こえた。
僕は振り向いた。
木箱が壊れ、中に入っていた銃弾が散乱しているのが目に入った。
ある隊員が手にしていた箱を落としていたのだ。
僕はその隊員になにをしてるんだと言いに近づいた。
しかし、その隊員は動かない。
弾を拾おうともしない。ただ硬直していた。
しかも、隊員は体が震えていたのだ。
「おい、お前なにやってんだ。大丈…」
僕は不意に上をみた。いや、見てしまった…
目に入ったのは夜空に輝く星なんかじゃない。
       絶望だ。
ただ人々の命を奪うために作られた物。
その場にある生命を全てを殺す兵器。
それが僕らの居る場所に落ちてくる。
僕もその隊員と同じように硬直し思う。
「はは…ここだけの為に2発目を放つとはな…」僕は涙を浮かべ彼女の写真を握り締めて言った。
「ごめん。ーー約束守れそうにないや。ほんと僕は最低だな。」体が燃え出す。
「子の顔くらい見たかったな。」
そして僕は…いや、僕らは絶望と共に光に包まれ…まぶたを閉じた。

第零章:終焉。開幕。

「あぁあッ…!」僕は布団から飛び起きた。
全身の毛穴から汗が出る。体は震え。視界は涙でにじむ。
「はあはぁ…あぁあ…」呼吸が荒く上手く息ができない。
僕は頭を抱える。
「僕は死ん…ああぁぁぁああぁ」
後ろから足音が聞こえてきた。
足音の主は、綺麗な黒髪を揺らし、僕の後ろにしゃがんだ。
そして、僕の震える体に手をまわし軽く抱きしめた。
「大丈夫。犀兎せいとは生きてるよ。」優しい声だ。その手はとても温かい。
「ここは…?」
犀兎せいとの部屋だよ。だから安心して。」
「あぁ…そっか…」
「今回は…何を見たの?私たちの予知?それとも他の人の過去?未来?」
その声の主は僕を優しく抱きしめ、あやすかのように聞いてきた。
「今回は…他人の未来視だった…僕たちが協力関係を結んだ連合国の精鋭隊の一人の視点を見た…」僕の声は震えていた。
「あんなに…幸せそうだったのに…」僕は内容を思い出し、再び震えた。
「絶望だ…あんな兵器…何万どころじゃないッ!改造されれば何億人もの人々を余裕で殺せる。まるで空亡そらなきだ…人が作り出した妖魔…うッ」突然吐き気が僕を襲った。だが、
「大丈夫。大丈夫。」彼女はゆっくりと話しながら僕を抱きしめる。
落ち着く。
<私はいつもあなた思ふ。豊穣魔法:夢への加護をヱキザカム三葉みつはは詠唱をした。
途端、体が軽くなった。
「ありがと…三葉みつは…楽になったよ…毎度ごめん…」彼女に対し感謝をつぶやく。
「ううん。全然いいよ、犀兎せいとの能力<夢知むち>のせいなんだから。」
「私はこの隊の副隊長として隊長の犀兎せいとのことを守るのは当然。そして個人的にも犀兎せいとを守りたい!」三葉みつはは僕の顔を除き込んで笑った。まぁなんと恥ずかしいセリフを普通に言えるのだろうか。
と、思い再び彼女を見ると赤面していた。恥ずかしかったのかい…
「まぁ…この<夢知むち>にも早く慣れないとな…」僕はそう思った。
「よし、三葉みつは。一応、休憩取れたから、会議を始めよう。掠実かすみ桑棘そらを会議室に呼んでくれない?」僕は尋ねた。
「僕は汗で濡れたシャツを変えてから行くよ。」
「わかった犀兎せいと。呼んでくる。またあとでね!」三葉みつはは勢いよく立ち上がり、にこっとし去ってった。
彼女の笑顔は花のように美しくかわいかった。
そして僕は、気配がなくなった事を確認し、自分の両手で顔を叩き「僕もがんばんないと。」そう思い立ち上がった。
*       *       *
僕が会議室に着いたときには皆座っていた。
この会議室本来なら一部隊15人以上で使っている部屋なので僕ら4人で使うと、とても広く感じる。
「二人とも来るの早いじゃん。」少し驚きながら僕は、桑棘そら掠実かすみに言った。
「あぁ、ちょうど俺と掠実かすみが会議室行こうと思ってたら、三葉みつはとばったりな。そーだよな?掠実かすみ?」
「うん。そうだよ。」掠実かすみが茶髪の短い髪を指でクルクルさせながら桑棘そらに頷いた。
「で、犀兎せいとさんよ?今日は何について話すんだ?」桑棘そらが尋ねてきた。
「まぁ大体わかるでしょ。」
そう僕は冷たく言葉を放ちながら、会議室のプロジェクターを操作し、前に立った。
「今後僕たちが参戦する戦争についてだ。」真剣な顔で僕は言った。
「ちッ、戦争なんてばかばかしい。」桑棘そらは呟いた。
「私だって嫌だよ…でも、上の人たちの決定で…」三葉みつはは悲しそうに言い返した。
「まあこればっかりは仕方がない。僕たちもこの戦争を早く終わらせられるようがんばろッ」僕は言った。
「よし。これから少数精鋭第零部隊コードネーム<花園たちの夢ロスニヒル>の会議を始める。」
      「「「はいッ!」」」
【会議が始まり数十分経過~】
「よし。今日はここまで。みんなお疲れ様。」
「ったく疲れたぜ。なんで、また俺たちが・・・」桑棘が愚痴をゴニョニョ唱えていた。
「各自、地図を頭に入れておくことと、いつでも戦闘できるように準備をしておいて。解散!」
「じゃ、またあとでね~犀兎」
「あぁ、またあとで」彼女に手を振った。
「面倒。面倒。・・・」掠実も唱え始めていた。
*     *     *
会議が終わり僕は皆出ていった会議室で明日以降の資料などを確認するためプロジェクターに接続してあったパソコンを見ていた。
僕はどこからか湧いてきた眠気に抗いながら操作をしていたが。
何故か体に力が入らなくなり、何者かに意識が奪われるような感覚で、僕は眠りについた。

間章:豊穣の女神。そしてこの世界のお伽話。其の一

「ねぇ***今夜の寝る前のお話はなにがいい?」
物語が頭の中で再生された。
「うーん…お母さんが何か決めてよ!お母さんが好きな話を聞きたいよ僕は」美しい銀髪の少年は布団に入りながら母に言った。
「わかったわ、んー。じゃぁ、豊穣の神様のお話なんてどうかしら?」母親らしき人物も銀に輝く綺麗な髪をしていた。
「なにそれ!ほしようのカミサマ?面白そう!聞きたい!」少年はバッと手を挙げ声を出した。
蝋燭ろうそくが微かに揺れる。
「こーら、***夜なんだから大声上げないの。あと、ほうじょうね。」
何故か名前のところだけノイズがかかり聞こえない。
「ごめんなさーい。でもここら辺には誰もいないよ?」少年は窓を見つめた。外の森は月と星の光で少し照らされ、木でできているこの家は風でミシミシと音を立てている。
「そーいう問題じゃありません!もうほら、お話してあげますから。」
「ねぇねぇ、ほうじょうのカミサマってどんなカミサマなの?」少年は尋ねた。
「それはね、とっても優し…いや、いいわ。お話を聞けばわかるでしょう。」
「はぁーい」僕は疑問になった。なぜ母が言葉を詰まらせたのか。
「あ、豊穣の神様の前に1つおとぎ話を話をしましょうか。今から500年…いやそれ以上も昔のお話でね・・・」
*     *     *
人統暦じんとうれき429年】の現在より3500年以上前。かつて、この世界には6つの大陸があった。
その内の3つの大陸は人が支配していた。いや、かろうじて支配し暮らしていた。そして、他の3つの大陸にあるのは「魔」だ。その「魔」は目に入った生物を破壊していった。いつからか、「魔」は<亡魔スレイン>と呼ばれるようになった。<亡魔スレイン>の形はバラバラであった。虎や狼また、人に似たのも居たそうだ。<亡魔スレイン>は人を喰らえば強くなり、知恵をつける。その時代の人々にとっては毎日が恐怖に侵されていた。しかし、ある日を境に<亡魔スレイン>の遭遇率がさがっていった。人々は不思議に思った。中には<亡魔スレイン>が自滅していったのではと言う者も現われてきた。しかし、それは甘い、甘すぎる考えだった。人をらい知識を貯め込んだ<亡魔スレイン>が群れで人類に攻めてきたのだ。人々はただただ逃げることしかできなかった。抵抗は虚しく。滅びる運命と思えた。だが、奇跡は起こった。
突然、空間がグニャリと曲がった。刹那せつな、物凄い光により視界が奪われた。
視界が戻り、その曲がった空間を見た。そこには少女が居た。
神が生まれたのだ。この星に。
その生まれた神は<亡魔スレイン>を一瞬で葬った。大群だろうと関係ない。その神が裁きを与えた瞬間に<亡魔スレイン>は浄化されるように消えていく。消えた途端周りの木々が活性しているようだ。まるで、この星の栄養になっているかのようだ。
銀の髪を揺らし、敵をほうむる彼女の姿は美しく優雅であり、人々の目を奪った。
誰かが言った。「星が生き返る…星生だ…星生の女神だ…!」
その後、彼女は逃げようとする<亡魔スレイン>の群れを壊滅させた。そして、この世界に一時的な平和が訪れたのだった。
だが、これは人々にとっては歓喜であったが、星生の女神にとっては壮絶な物語の始まりだった。
*     *     *
「ねぇお母さん知ってるよ僕。せいせいのカミサマって悪いカミサマでしょ!」僕は母に言った。
「え、どうして?どうしてそう思うの?***」
母は驚いた顔をした。
「だって、本に書いてあったの」
「本?」
「うん。本にね!ちゃんとは読めてないけど…確か、せいせいのカミサマは王子様をさらって王国を壊して、逃げたカミサマって書いてあったよ!」
「もしかして、ほうじょうのカミサマって悪いカミサ…」
「ねぇ。***。」
母の声のトーンが少し下がった。僕は怒らせたのかと身を構えた。
「その星生の神様のお話はね。物語の途中までしか、書かれてないのよ。」母は優しい声で言った。
「?」僕は二つの意味で驚いた。
「ふふ、(?)でしょ?」母は少し笑いながら言った。
「豊穣の神様と星生の神様はね、同じなのよ。」    
「***。この世界はね、広いのよ。この森を抜けた先には、人が住んでいるのよ。そして、海を越えた先には。もっとたくさんの人がいるのよ。」
母は楽しそうに僕に言ってきた。
「この私たちが居るこの南の大陸。ミドラスの人はね。豊穣の神様って呼ぶのよ。そして、海の向こうの人は、星生の神様って呼ぶのよ。」
「ねぇお母さん。星生の神様って結局どうなるの?」
僕は質問した。
「それはね、また今度にしよか。もう寝ないとね。おやすみなさい」
母は蝋燭を消した。
「うん…わかったぁ。おやすみお母さん。」
そう言って僕の意識はポツンと途絶え、闇へ飲まれて行った。
☆      ☆      ☆
「おい、起きろ。起きろって」
僕は肩を揺さぶられ起こされた。
「あ…あれ…僕は…お話を…」
「おい、何寝ぼけたこと言ってんだ?犀兎せいと。って…なんで泣いてるんだよ。」
「え…あ、ほんとだ…」僕は顔に手を当て気付いた。
「どーしたんだよ」桑棘そらが心配そうに聞いてきた。
「いや、なんか、とっても昔に…体験したような…懐かしさが…」
なぜだろうか。さっきまで、なにか見ていたような気がするが思い出せない。
「てか、お前会議終わってからずっとここで寝てたのかよ…まぁいい。ほら、お寝ぼけさん一人じゃ危ないから俺が一緒に連れて行ってやる。」
「あぁ、ありがと。」
僕は桑棘そらに連れられ部屋に戻った。 
☆     ☆     ☆
この星には大きく分け二つの力が存在している。
一つは、科学だ。
この世界の科学は「相手を蹴落とし、蹴り落され」を繰り返し進歩していった。
そして、二つ目は「星脈せいみゃく」から力を得て戦う者たちだ。
「星脈」それはかつてこの世界に生れし神が、己の力をこの星に注ぎこんだことにより生まれたものだ。そして、その「星脈」は一部の人間にも身体的影響を与えた。
「星脈」による影響は様々であった。常人よりも遥かに逸脱いつだつした身体能力や、魔術のようなものを操る者もいた。
そして、その影響を受けた者たちを「星生を受けし者リアスター」と呼ぶ。だが、この何千以上という歴史の中で「星生を受けし者リアスター」の名が出たのは、ほんの数百年ほど前の話だ。
そして、この「星脈」の影響を受けた者の中にもイレギュラーは存在した。この世の理さえ捻じ曲げる、超越した能力を持つ者だ。
その能力を持つ者は過去に一人しか確認できていない。
そいつは、「銀のーーーーーーーー現時間軸での閲覧不可

人の世界は、様々な村や町そして国で成っている。この世界もそうだ。4つの大陸に大きく分け4つの国になっている。
殺戮さつりくの科学で繁栄し。西の大国家<聖ルミナス>」
「侵略の科学で繁栄し。北の大国家<アクト>」
「防衛の科学で繁栄し。東の連合国<ゲステア>」
そして、
「星生の加護で繁栄し。南の大陸<ミドラス>」
<ミドラス>その地は百年ほど前まで人類は到達できないと思われていた。理由は単純明快だ。自然の脅威に対抗できなかったからだ。
だが不自然だった。その脅威は消えることなく、あり続けるのだ。
何千年の月日と共に。科学の力でさ無慈悲に打ち消される。
この3大国家は未踏と思われる、この大陸を手に入れたくて必死だったのだ。
だが、奴らは愚かだ。
千年以上前この場所で、世界で起こった悲劇を。世に絶望を与えた<亡魔スレイン>のことも。神も。全て、理不尽に。不自然に。忘れ去って…
☆                       ☆                           ☆

世界はイタズラか。一刻一刻は遊戯なのか。
でも、これは人が知れるような事ではない。
世界とは面白い。何があるかわからない。
思いとは不思議だ。だって…交差するのだもの。
        そして…
ある者は誓う。「次こそは、大切な者を亡くさない。自分の未熟さで。」
ある者はふ。「この理不尽な世界に、心の拠り所を得るために。」
ある者は進む。「その悲しみ、失望で自分をむしばみながら。」
ある者は欲す。「破滅の道…絶望を噛みしめながら。」

第一章:終焉の訪れ。其の一

【人統暦429年9月1日】『<花園たちの夢ロスニヒル>活動記録簿』
明日、僕たちは<ゲステア>に向かう。この戦争を終わらせるために。
謎の違和感がある。今までの戦地とは違うような。胸騒むなさわぎがする。
そして、さっき聞いた話も記載する。
<ルミナス>が虐殺ぎゃくさつ兵器を完成させ、その実験を行うために奴らが占拠した都市に向かって放ったらしい。都市は一瞬にして消滅。そして偶然にも僕たちの軍の精鋭部隊も巻き込まれたらしい。以前僕が<夢共>見たのと同じだ。
知っておきながら何もできなかった僕は最低だろう。
明日の戦場でも兵器が使われる可能性が高い。みんなが心配だ。
みんな本当に強くなった。よほどの事が無い限り大丈夫だと思うが…
無論僕たちは負ける気はない。ー記述:犀兎
犀兎は最低なんかじゃないよ!それと、緊張は最大の敵だからいつも通り頑張ろう!ー追記:三葉
俺が敵陣を速攻全滅させてやるよ。ー追記:桑棘
ダメ。今回は慎重に行動して。犀兎の話を聞いてなかったの?ー追記:掠実
みんながんばろ!ー追記:犀兎
*     *     *
大地はえぐれていた。地図が変わってしまうのではと思うくらい大地は壊滅状態であった。
周りは業火が炎々とこの地を侵食している。
焦げ臭い…草…木…獣…人…様々のものが焼ける匂いがする…気分が悪い。
意識が朦朧もうろうとする。上手く体に力が入らない。それに右目が開かない。
能力の使い過ぎで潰れたのだろう。
自分の現状を見て、記憶が曖昧になる。
(爆撃的な何かを受けたのか…?)
(ええっと…確かルミナスとの戦争で…あっ兵器が…)
頑張って立ち上がってみる…そこには。
「よぉ…犀兎。気が付いたか、なにそんな驚いた顔をしているんだ?」
「いや、だって怪我が…」桑棘の姿は悲惨だった。頭から血を流し、自慢の金髪は少し焼け、服は擦れ、利き手の右手は力を無くしダラりとしていた。
桑棘が近づいてきた。左足が不自然だ。足が逝ったのだろうか。
「なに、これくらい大丈夫だ…」彼はそう言い微笑んだ。
「でも…!」
「大丈夫大丈夫。」
「三葉の治療を!」
僕がそう言った瞬間、桑棘はバツが悪そうな顔をした。
「すまん…」
「え…?」なぜ桑棘が謝るのかが理解できなかった。
「守れなかった…いや、止められなかった…。」
「ッ!?」息が詰まった。
「すまん…」桑棘はうつむいた。
「あぁ…あぁ…まただ…守れなかった…あぁぁぁああああああ」
僕はその場に崩れた。体が痙攣けいれんする。
視界がかすんだ。涙が止まらない。右目からは血の涙が出た。
「おい!犀斗!落ち着け!染まるな!」桑棘が叫んだ。
周りの空間が歪み、大地が枯れ始めた。
パチンッ!乾いた音が響いた。
「ッ!」僕は桑棘を見た。
「なぁ…犀兎。三葉達のためにも、『星脈せいみゃく』をなんとかしないとじゃないか…?」桑棘は優しい声で言った。
「…!そうだ!どうなったんだよ?!」僕は怒鳴るように言った。
「暴走だよ。」
「えっ…」言葉を失った。
「失敗さ。俺らの負けだ。あんな兵器出されちゃかないっこないさ。」
「いや、まさか…」僕は真実から背をそむけたかった。
「考えてみろよ。ここは「星域せいいき」だろ?じゃぁなんで完全無効領域内に業火が侵食してんだよ。」
「そう…だな…はは、どこで間違えちゃったんだろうなぁ。」
「さぁな。」業火は刻々こくこくとこの地をむしばんで行く。
「僕がもっと、魔術を使えば…周りを気にして…躊躇ためらったせいだ…」僕は力無くし言った。
「お前は悪くない。それと、ほんとお前は優しいな。」
「そーかな…?」
「そうだよ。」
「昔言われた事があったんだ。もう誰に言われたか思い出せないけど。」
「『人には優しくあれ。もし、自分にとって大切な何かが傷つけられたら、自分を思って行動しろ。でも、自己を見失ってはダメだよ。』って」
「そう言った人はとってもいい人なんだろうな。」
「うん。多分そうだよ」僕は空を見た。
「賭けをしてもいいかな。」
「なんのだ?」桑棘が尋ねた。
「んーとな。戻れるか死ぬかのだ。」
「…はい?」彼は素っ頓狂すっとんきょうな声を上げた
「この俺の能力<夢共むきょう>のだ。」
桑棘は疑問な表情を浮かべた
「<夢知むち>と<星脈せいみゃく>の共鳴能力だよ。」
「お前いつのまに。」
「俺にもわからん!」僕は満面の笑みを浮かべた。笑って力が入ったのか、また右目から血が流れた。
「おいおい、犀兎さんよ、狂気なピエロみたな顔だぜ?」
「ひどいなぁ」僕は血をぬぐった。
少し場が和らいだ様な気がした。
「だが、しかし!その能力を使うには代償が必要なのさ」
「代償…?」
「前なら三葉が居たから言えなかったけど、俺自身の体を代償とし、自身の記憶を過去に飛ばす。まぁ数日飛ばすだけなら体だけで済んだかもだが、数ヶ月以上の過去干渉。っは、これは命を消費しなければできないな。」
「命って…お前!」桑棘は焦りを顔に浮かべた。
「この現在の時間軸で命が削られるだけ。過去には、何も影響はでないさ」僕は笑って答えた。
桑棘は悔しそうな表情を浮かべた。
「犀兎…どこまで戻れるんだ…?」
「さぁわからん。戻れる所まで戻るさ。この傷ついた体だ、そー遠くまで飛べないかもな…」
ギュイイー。地がいた。その音はとても不気味で不安感をあおいだ。
「おい犀兎…」
「わかってる。星の叫びだ。」
大地が大きく揺らいだ。
「っく…あのルミナスのクソ国家め!!どこまで深く星脈を傷付けやがったんだ!!」
次の瞬間、青白い光が地面から天に向かって放たれている。
「っは、こりゃ、世界の終わりみたいだな!」桑棘は何故か関心している。
すると、「ぐあぁあぁぁ」と低い何かしらの鳴き声が聞こえた。
そして、空は異常を訴えるように、赤や青に変色を繰り返すオーロラを映し出していた。
「おい犀兎なんか地面から湧いてきるてぞ…」
「っ!あれは<亡魔スレイン>だ!」
「<亡魔スレイン>って、まさかお前が前言っていた…」
「そのまさかだよ、星が狂い始めた。星の過去と今が混ざり始めた…」
「桑棘…時間稼ぎをしてくれ…俺が飛ぶまで。」
「おう…わかった…」
桑棘は顔を上げて言った。
「犀兎!がんばってこの世界シナリオを変えてくれよ!」
そして、桑棘は虚空こくうから剣を取り出した。
最後に僕は言った。
「さすが桑棘ー!虚空から剣を出して炎の中に消えて行くとはかっこいいじゃん。掠実が惚れるだけはあるわ~」
「うっせー!!」
「掠実が好きなんでしょー?桑棘」
「そっちだって三葉が好きなんだろ?」
「「あぁ、好きだよ!」」
「「ふっははは。」」最後に僕たちは馬鹿な話しをし大声で笑った。
「じゃぁーな犀兎。次があるならちゃんと告れよ?」
「そっちだって。」
「あぁ」
手を振り、桑棘は業火の中へ消えていった。
周りが落ち着き始めた。桑棘が頑張ってくれているおかげだろう。
「すぅぅーふーー」深呼吸をし、僕は詠唱を始めた。
「《我。星に誓う。我が身にて星を護らんと。我が想いよ。志よ。星々の神に誓おう。》星々干渉魔術:理の断片<ゼーレ>」
唱え、僕は一息つく。
「待っててね…三葉…それとみんな。」
魔術が発動し始め、意識が途切れ初める。視界も暗くなって行く…が。
「…ん?ぁ、れ…?」体が急に暖かくなり、体が軽くなった気がする。
「この暖かさ…は…」様々な感情が沸騰した。
(犀兎…!私が掛けた魔法オモイ。受けっとってね「豊穣魔法:<カモミール愛してるよ>」…えへへ…)
頭の中に笑顔の三葉が浮かび上がった。
「あり…がと…みつ…は…俺もだ…よ…」
意識が途切れた。
そして、「僕」は終焉物語シナリオを変えるため、この時間軸から消え去った。

第二章:終焉の訪れ。其の二

「うぅ…ここは…」意識が回復し始める。
見たことのある天井だ。
「今何時だ…」
僕は状況確認しようと体を起こそうとするが、
視界がグワンと揺らいだ。
「うっ…、、、干渉の…反動…それと「星脈魔素アストリアル」不足か…」眩暈めまいがした。
そして僕は、酷い車酔いの様な状態になり。その場に崩れ、戻してしまった。
立ち上がれない…!命の危機を感じた。
すると、後ろから扉が開く音が聞こえた。
「きゃッ!?」扉の向こうから来た人物は短く叫んだ。
「だだだだ、大丈夫?!の訳無いよね!!犀兎!?しかっかりして!」彼女は凄い勢いで近づいてき、僕を抑えた。
見覚えのある顔だ。
「あ、ぁ…、」呂律が回らない。
「下級豊穣魔法:<癒しの花ラベンダー>」三葉が唱えた。
少しすると眩暈めまいが引いてきた。
僕は三葉の方を振り向いた。
「いつも…ありがひょ。」口に違和感があり上手く喋れなかった。
「へへ、犀兎ちゃんと喋れてないよ〜?」
彼女はイタズラっぽく笑いながら言った。
僕の目から光の粒が流れた。
「え、ど、どうしたの?!急に泣き出して。私が煽ったせい…?」
「ううん。違うよ。三葉のせいじゃないさ。」
(あぁ…僕は戻って来れたんだ…)心の中で安堵した。
「それにしても驚いたよ犀兎?会議があるから呼びにきたら倒れてるんだもん。何か変な物でも食べたの?」
「いや、食べてないよ。なんか急に体調が悪くなっただけさ、」僕は誤魔化した。未来から戻って来た反動なんて言えるわけがない。
「も〜ほんとに心配なんだからね!」彼女は立ち上がり、綺麗で黒く長い髪を揺らしながら、少し頬を膨らませ、ピシッと人差し指を前に指した。
「ごめんよ。」僕は微笑み、応えた。
「私が犀兎を守ってあげるね!」彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめ言った。
(前にもこんなやりとりしたな…)僕は心の中で呟いた。
「あ、で犀兎。会議のことなんだけどさ」
「三葉。少し聞いてもいいか?今日って何年の何月何日?」僕は三葉の話を遮った。
「え?どうしたの?急に?」彼女は疑問そうだ。
「教えてくれ。」
「えっと、今日は人統暦じんとうれき427年の7月1日だよ?」彼女は疑問そうに応えた。
「427年か、そっか。」
「ほんとにどうしたの?犀兎」彼女は心配そうに話してきた。
「いーや何でもない。よし、会議行こっか。三葉先行ってて。」
「あ、うん!わかった。」彼女は微笑み出ていった。
「人統暦427年7月1日…2年前。戦争について初めて会議した日…か。ちょうどいい日に戻ってこれた。桑棘…絶対変えてやるからな。」僕はもう一度決心した。
「よし。始めるか。僕たちの物語シナリオを!」そして僕は会議室へ向かった。
☆     ☆     ☆
会議室に着いた時には皆席に就いていた。
やはり、会議室は大きかった。
真ん中の最前列に三葉、桑棘、掠実かすみと並んでいるせいで余計に思う。
「隊長さんよ遅刻だぜ?」と桑棘は腕を組みながら言った。
「犀兎。三葉から聞いた。大丈夫?」短い茶髪の彼女のトレードマークの紫のアジサイ型のヘアピンを付けながら話してきた。
「あぁ、この通りバッチリだぜ!」僕は掠実かすみに対しグッドポーズをした。
「そう。ならよかった。」ちょっと冷淡な彼女も通常運転らしい。
(ほんとよかった。みんなも無事だ…)少しうるっときた。
「え、どうしたんだよ、おい」
「犀兎。なんか変」
僕がちゃんとしないとみんなを心配させちゃうからしっかりしないと。
「なぁ三葉。犀兎どーしちまったんだよ」桑棘は驚きを浮かべながら三葉に聞いた。
「私にもわかんないよ」
「そーなのか。てっきり三葉になんかやられたのかと思ったぜ。」
「え、なにそれ、私を何だと思ってるわけ?」
少し殺気を感じた。
「い、いや、そのぉ?」桑棘は僕に助けての視線を送ってきた。
仕方ないな。
「よーし、じゃ会議を始めるぞー」僕は棒読みで言った。
桑棘はありがと、と手を合わせた。
「まったく。手を出すのは掠実だけにしてくれよな~」嫌味を込めて僕は言った。
「ッ!?」それを聞くなり掠実かすみは顔を真っ赤にさせた。
掠実はいつも冷たそうにしてるが、こういう時は、恥ずかしさで動揺して、ちゃんと女の子をしているのだ。
「お、おい。犀兎さんよ。ここは仲良くしようじゃないかよ?」
「え~だって、ね?」僕は笑いながら応えた
すると、
「もぉ!早く会議済ませちゃおうよ!」
「うん。そーだな。桑棘しっかりしろって。」
「犀兎も犀兎だよ!!」
「あ、はい。すみません。」
「三葉。今日も怖いね。」
「私は怖くないですぅ!」
「「ふっ、はっはは」」
皆で笑った。こんな他愛ない会話ができ、みんなで笑える今の僕は。
ほんと、幸せ者なんだろうな。
「始めよっか。」
「よし、じゃ点呼するか一応。」僕はなんとなく点呼したい気分だった。
「誰もいないがしとくかぁ。」と桑棘も同意してくれた。
「少数精鋭第零部隊コードネーム<花園たちの夢>ロスニヒル隊長!
遊撃兼前衛奇襲:ネーム:犀兎せいとここに!」
「前衛兼奇襲調和奇術師サポーター三葉みつはここに!」
「遊撃兼前衛補佐奇襲:桑棘そらここに!」
「前衛補佐不調和奇術師デバッファー掠実かすみここに。」
全員がきれいに羽織っている黒いケープをなびかせた。
みんないると実感出来ることが幸せだった。
「みんなありがと。戦争とかいうバカバカしい会議内容だが付き合ってくれよな」
「当たり前だろ。隊長さんよ。」「ええ。」「うん。」
「ありがとう。みんな。」
そして、僕は起動させたプロジェクターを操作し地図を映し出した。
「まだ戦争自体は始まってないから、ちょっとした下準備みたいな会議だけど」
僕はレーザーポインターで地図を指した。
「みんなもう知ってるかもだけど、先月西の大国家<聖ルミナス>が北の大国家<アクト>に宣戦布告もせずに攻め入り<アクト>を落とした。そして、その勢いで東の連合国<ゲステア>を落とそうとしている。それでだ、」僕は続けて話す。
「僕たちの大陸<ミドラス>は発展支援してくれた<ゲステア>に援軍要請をされ、僕たちが防衛戦に参戦することになった。」
「相手の戦力だが、<聖ルミナス>だけでも軽く20万は超えるだろ。それにだ、科学とかいうもので強化されてる兵もいるだろうな。人数通りの戦力じゃないだろうな」
「で?隊長さんよ、こっちの数は?」
「こっちの数だが、10万行くか行かないくらいだ。」
「まさか、<ゲステア>のお偉いさん方は俺らを盾にするつもりじゃないだろうな」桑棘は半分笑いながら言った。
「さーな。」
「それにしても結構な戦力差だよね。」三葉が呟いた。
「面倒。ほんと嫌になる。」
「仕方ないさ。僕たちは拾われた身。抵抗なんてできないさ。」
「っは、力なら抵抗できるがな!」桑棘が拳を前に突き出した。
「ばか。そんなことしたら消されるわ。」掠実は呆れ顔をしていた。
「やってみなくちゃわからない。なんてな(笑)」僕は冗談を言った。
「「ぷッはははは」」またみんなで笑った。
(もうみんなを失うなんて絶対に嫌だ。変えてみせるから。)僕は目を瞑り心の中で言った。
「あと一つ話すことがある。近い将来ルミナスが強力な兵器を開発する。そして、何万の兵すら一瞬で灰になるくらい強力のだ。このことを、心の隅に留めておいてくれ。お願いだ。上には僕から報告しておく。」
「おい、犀兎それって」
「僕の能力で見た未来だ。」
「みんな、本当に気を付けてくれ。」僕は頭を下げた。
「うん。犀兎がそこまで言うならしとくね。」三葉が答え掠実は無言で頷いている。
「よし。みんな今日の会議はここまでにしよう。お疲れ様。それと明日は外で訓練だから。」
「りょーかいだ。」
「僕は片づけをしてくからみんなは先ご飯行ってていいよ。」
「わかった。じゃ、犀兎あとでねー!」
「了解。また」
みんなは部屋から出て行った。
僕はプロジェクターなのど片づけを終え、さっきみなが座っていた所の席に着いた。
そして、僕は座りながら今後のことを考えていた。
「そーだ、報告を…」そう思い僕は立とうとすると、強烈な睡魔がまた僕を襲い、意識を刈り取っていった。
☆      ☆      ☆
<??暦??年>
僕の意識は見覚えのある情景を覗いていた。
横には銀色の綺麗な髪をした母親らしき人物が居た。
今日も風で木の家がミシミシと音を立てていた。
「お母さん。あの話の続きを聞きたーい」
「え?あ、あのお話ね。わかったわ。***」母がほほ笑んだ。
「んーじゃぁね。豊穣の神様が生まれてどうなったかを話してあげるわ。」
「うん。わかった!早く聞かせて!」僕は布団を叩きながら言った。
「はいはい。わかったわ。」
そう言うと母はおとぎ話の続きを始めた。
*      *      *
人魔暦じんまれき212年>

<亡魔>スレインを払い尽くした彼女の周りの地は活き活きとしていた。緑が蔓延はびこり、土はよい色をしていた。
その緑の中心には純白の服を着た女神が居た。
すると、緑の中心で立ち尽くしていた彼女ところに馬に乗って、3人の兵を引き連れた偉そうな者がやってきた。
「我はこの国の第二王子。アラク・ルミナだ!貴女様が我らを<亡魔>スレインから守ってくださったのですね。感謝申し上げます。」彼は馬から降りるとひざまずいた。
一国の王子であろう者の頭が軽いと思われるかもだが、彼はお構いなしに下げた。
彼女はそれを漠然と眺めていた。
「それでです。城に来て陛下にあってもらいたいのですが。よろしいですか?陛下が感謝を伝えたいそうです。」アラクは顔を上げた。
瞬間、風が吹き彼女の白い髪が揺れ、アラクと目が合った。
(ッ!綺麗な瞳だ…)アラクは彼女に目を奪われた。
「アラク様どうされましたか?」後ろに居た兵が声をかけた。
「い、いや、何でもない。」彼は早口で答えた。
アラクは再び馬に乗り、彼女に手を差し伸べてた
手を差し出された彼女は一瞬戸惑ったような表情を浮かべたが、にっこりし手を取った。
(無口で穏やかな人だ…考えがあまり読めないな…)
そして、一行は王城に向かった。
「改めて自己紹介します。僕はアラク・ルミナです。気軽にアルと呼んでください。」
彼は後ろに乗っている彼女に質問した。
「女神様、お名前はあるのですか?」
「私の名前…?」彼女はポカンとしながら答えた。
「ないのですか…」
彼女は頷いた。
「では、私が名前を付けるというのはどうでしょうか?」
すると彼女は一瞬驚きを浮かべたが、嬉しそうに頷いた。
「では、そうですね。名前は…ーーーーーーーーーー」
……-……--…-……-……-……--…-……-
突然視界にノイズが走った。そして物語が途切れ、意識が戻ると思った。が…
「?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
脳内に様々な悲惨な物語が浮かび上がった。
見たことがないはずなのに、なぜか一度見たことあるような…
その物語の一部に、アルクが女神を連れ、国から逃げている映像が一瞬映った。
「嫌だ…」そう言い僕は手を伸ばした。が、届くはずもなく…

*    *    *
声が聞こえた。
「犀兎の髪ってほんと綺麗な銀色だよね。」
「うん。私もそう思う。でも、三葉の黒い髪も綺麗。」
「掠実。俺の髪はどーなんよ?」
「普通。あなたの金髪は」
「なんだよ、普通ってよ。」
「んっ、ん~」僕は身を起こした。違和感を覚えた。なにか重要なことを聞けてないような。忘れちゃいけないことを忘れているような…
そして僕が目を開けると
三葉の腕が僕の頭に伸びていた。
「三葉…?」僕は半分驚きながら言った。
「…!あ、あの…これは…///」三葉はさっと手を引き違う方を向いた。
「あれ…なんでみんないるんだ?」僕は問った。
「なんで?じゃねぇーよ、お前が来ないから戻って来たんだよ。」
「あっれ、僕は片づけをしてて…」
「まぁいいや、犀兎。行くぞ。」
「え?ちょ、まっ…」
僕はなかば強制的に椅子から立たされ、覚束おぼつかない足取りで桑棘に連れてかれ、外にでた。

第三章:模擬戦。此れも又、仲を深める良い機会。

【翌日】
「よーし、今日は久しぶりに模擬戦をするぞー」
「おう、待ってたぜ、やっと本気で戦える。」
「うん。最近生温い戦いしかしてないから、嬉しい。」
掠実もやる気満々だ
「私も、徴兵ちょうへいの係だから力を出せてなくてストレス気味だったから、ちょうどいい…!」
そういう三葉をみて桑棘は恐ろし…という顔をしていた。
「それじゃあ第一闘技場まで2キロの競争だ!」
「お、いい準備運動なるな。」
「うん。丁度いい。」
「よぉーーい。どんッ!」
開始と共に全員速度系の魔術を発動させた

【ミドラス第一闘技場前】
「やっぱ犀兎は早いね。」
「速さだけは負けない自信はあるからな!」
「おい…三葉。つたを使っての妨害は…ズルじゃね?」
「え?なに?私そんなことしてないよ?疑ってるの?」三葉は圧で桑棘を脅していた。
「あはは…闘技場に着いたし…じゃぁ、デュオとソロを毎チーム変更戦で演習するでいいよな?」
「あぁもちろん!」
「うん。いいよ。どんとこいや。」
なぜ皆がこうる気満々かというと…僕たちの隊は基本ゲステアの指示で動いている。その為、最近ではゲステアに居る時間が長くなってしまっているのだ。
そしてここからが重要。
ゲステアにも勿論、闘技場は存在する。しかし、僕たちは高位の「星々を受けし者リアスター」であるため、力を抑えても衝撃波で闘技場の壁を壊してしまう恐れがあるのだ。
そもそも論だが、僕たちの攻撃は高位の「星々防御結界」でギリ受け止められる位の威力であるため、「星々を受けし者リアスター」を想定してない闘技場で力を抑えなかったら、もしかしたら闘技場を更地に変えてしまうのでは?と思うくらいだ。
前に一度結界を張ってみるということをしたのだが…「星脈」の根が地下深くにあるゲステアでは「星脈」の供給が足りず30分で壊れてしまった。
だが、しかし、ミドラスでは違う。
ミドラスには「星脈」の核が存在していて、そこからエネルギーを取っているので高位の「星々防御結界」展開し続けることができる。
なので僕たちは全力を出し戦えるのだ。
「よし、じゃぁ最初は三葉と掠実が戦うでいいかな?」
「うん。」「いいよ。」
三葉と掠実はフィールドへ行き、僕と桑棘は観客席に移った。
「なぁ犀兎。どっち勝つと思う?」
「さぁなわからん。今回はみんな溜まった分を発散するだろうし、予測できないな」(まぁ前の時間軸でも見たから結果は……あれ…思い出せない…)
「おい、犀兎どうしたんだ?そんな怖い顔して?」
「い、いや。なんでもない。」(おかしい…記憶が欠落している…?問題ないと思ってたが、やっぱ代償が足りなかったか…?というか…時間が経つに連れ全てを忘れ始めているような…)
「犀兎早くあいつらに合図出してやれよ」
「あ、あぁ。」
「三葉、掠実!準備はいいか?」(このことは後でまた考えよう…)
「いいよー」と元気よく三葉の声が返って来た。
「よーい、始め!」声を張って言った。
合図と共に掠実は「星々魔術」を発動し自身に身体強化を付与、三葉は虚空から薙刀なぎなた顕現けんげんさせた後、「星々魔術」とは違う術を発動させ自身に付与した。
先手は掠実だ。
「星々魔術:<鈍足化付与炎息吹スロ・ブレイズ>!」紫のオーラに巻かれた紅き炎が掠実から放たれた。三葉はそれを回避した。
炎が着弾した床を見ると、紫と化した炎が消えずに燃えていた。
「やっぱ、掠実の能力は厄介だよぉ…」三葉が音を上げた。
掠実の能力それは…「相手を攻撃するという意思がある攻撃をするとき、相手をむしばむ術を追加で付与する」このこと説明すると、一つの魔術を構成する途中にオリジナルのデバフの魔術を別で構成するということだ。これは人一人ひとひとりではできない重複魔術生成と変わらない。そして、この能力の怖い所は、付けようと思えば何個もデバフを付与できるのと無意識でもデバフをランダムに構成してしまうということだ。しかし、デメリットもある。デバフ魔術も「星々魔術」とは違えど、「星脈」からエネルギーを得てるので、使いすぎると体内を循環する「星脈」を枯渇させてしまう。そして、人々は「星脈」のエネルギーを<星脈魔素アストリアル>と呼んでいる。
勿論。<星脈魔素アストリアル>を枯渇させると一定時間魔術は使えなくなる。
これは、一種の呪いとも言えるな。
「さあ。これからもっと楽しみましょう。三葉」
「もちろんだよ。」
掠実はもう一発魔術を発動させた。
「その炎の攻撃、着弾しちゃうとめんどいんだよね。だからッ」三葉は薙刀を振り掠実の攻撃を流した。
「流石。三葉、防御結界を薙刀に付与して攻撃を流すとは。」
「そっちもだよ、掠実。今度は脆弱ぜいじゃく化の炎とはね…私の結界がぼろぼろだよぉ」そう言うと、薙刀の結界に付着した炎を振り払い結果を解いた。
「今度はこっちの番だよ!」三葉は薙刀片手に勢いよく走りだした。
一気に距離を詰めて、叩くつもりだろう。
「星々魔術:<速度強化スピリア>!」三葉速度が上昇し、掠実との距離が縮まる。
三葉の薙刀が顔へ向かって突き刺された。掠実はそれをギリギリで回避しバックステップし距離を取った。だが、三葉の進行は止まらない。
掠実は焦って乱雑に魔術を構成してしまった。「星々魔術:<鈍化付与霧スロスモーク>」途端に濃霧のうむがフィールドを覆った。
すると、三葉はバツが悪そうな顔をし、後ろへ下がった。少し霧を吸ってしまったらしく、少し速度が落ちていた。
「掠実。あいつ出力間違ってないか…?」
「あぁ、狭いとは言えないフィールドだが、これは出しすぎだな。これがどう結果を招くか楽しみだな。」これだから模擬戦は面白い!
「豊穣魔法:<蔓延る木々の道トゥーリジェクト>!」三葉が魔法を展開すると、どこからか、木の根が現れ、空中へと足場を展開させた。
だが、空中に行っても濃霧で掠実の姿を視認することができない。
もちろん向こうも三葉を視認できてない。
それに、霧は魔術で生成してるため、防護結界に阻害され霧散しない。基本広い場所で使用する魔術をここで使ったのはやっぱ誤算だっただろう。
空中にいる三葉を見ると笑っていた。まるで勝利を確信してるかの様に。
「はは、確かにこの量の霧を吸い続けていたら、私ですら行動不能になっていてもおかしくなかったよ。でも、掠実。忘れてるよ、相手の得意とする魔術を。」
「ふふ。これでお終いだよ。「豊穣魔法:<純聖なる花園ヒソップ>!」刹那せつな。霧が淡い光と共に消失した。
霧が消え、隙が生まれた掠実に向かって空中にある根から飛び降りた。
霧の魔術が解け鈍化も解け速度が戻った。
「ッな!?」
空中での急激な加速に合わせ、奇襲攻撃。
もちろん防御体勢を取る暇も無く、掠実は峰打ちをくらいよろけてしまった。さすが前衛奇襲サポーターだ。
そして、三葉が止めを刺す寸前で掠実は<武器生成>の魔術を発動し両手にナイフを顕現けんげんさせて、片手のナイフで攻撃を相殺そうさいした。
「あっ」三葉は予想外だったらしく一瞬の隙が生まれた。
透かさず掠実はもう片手のナイフを三葉に向けて放った。
しかし、それは三葉では無い物を切った。
すると、切った物から木の根が飛び出してきた「なっ!<反撃奇術師マジシャルカウンター>!?いや、違う!<デコイ>か!?」根が自分の身体に巻き付く寸前で根をナイフで切った。だがしかし、根を切るのに気を取られ三葉を見失ってしまった。
「違うよ!正解は<束縛する根の藁人形カウントゥリ・デコイ>だよ。」
後ろから声が聞こえ掠実は振り返るが時すでに遅し。
三葉の攻撃を食らい、その場に崩れた。
顔をあげるとそこには三葉の薙刀が向けられていた。
「降参。私の負けよ。」
掠実が負けを認めこの試合は終わった。
「いい試合だったな。」
「あぁそうだな。ちょっとした誤算でここまで戦況を覆せるとは。」
「あれは、三葉の機転が聞いたな」
「<束縛する根の藁人形カウントゥリ・デコイ>もよく発動できたものだな。」
試合を分析してると、向こうから声が聞こえた。
「犀兎~どうだった?私たちの試合。」
「<蔓延る木々の道トゥーリジェクト>をあんな上手に使うとは僕も予想外だったよ。」
「でしょぉ?えへへ」
豊穣魔法…それは三葉が使う能力。三葉はこの「星脈」から皆とは違うエネルギーを抽出して使ってるらしい。彼女自身も感覚で使ってるため、説明するのが難しいだとか。この魔術が使えるようになったきっかけはあるらしいが、彼女はその事を話したがらないので、僕たちも触れないようにしている。
豊穣魔法これがどんな魔法かと言うと、先ほど三葉が使用した<蔓延る木々の道トゥーリジェクト>と<純聖なる花園ヒソップ>それと<束縛する根の藁人形カウントゥリ・デコイ>植物系の魔法だ。簡単に説明すると、三葉は花言葉と同じ意味の魔法なら発動可能であり、オリジナルで植物を操る魔法も使えると言うことだ。この能力は味方のサポートにとても役に立つ。例えば平原での戦闘であったときに、範囲は制限があるが<蔓延る木々の道トゥーリジェクト>を使用すれば平原に木の根が蔓延り足場や障害物になってくれると言うことだ。だが他の「星々を受けし者」リアスターと同様に魔法を発動しすぎると「星脈魔素アストリアル」が枯渇し回復するまで戦闘不能になってしまうのだ。
「ねぇ。そこのお熱いお二人さん。次はどうするの?」
しびれを切らした掠実が横から入ってきた。
「ふぇ!?お、お熱い?!えッ、あ、えっと。せ、犀兎。ど、どうする…?」三葉の横顔を見ると赤面していた。
「あ、ああ。どうしような。じゃぁ僕と桑棘で戦うか。」僕も半分焦りながら答える。
「おお!いーぜ。全力で行くから覚悟しておけよ。」桑棘は指を鳴らし応えた。
「こっちだって、がんばって僕のスピードに追い付いてよ?」
「じゃぁ行くか~」
僕と桑棘はフィールドに向かい歩き出した。
「犀兎~がんばって~!」
「桑棘。応援してあげるから。」
後ろからは二人の応援が聞こえる。
「桑棘応援されてるぞ。」
「お前もな。こんな掠実に応援されるなんて嬉しい限りだぜ…」
「そ、桑棘!き、聞こえてるから~!」掠実の声のは少しの照れが混じっていた。

【2回戦目】
犀兎と桑棘はフィールドに立ち、合図を待った。
「桑棘、お前相手じゃ手加減できないからさ、三葉の護符を持っておいてよ?」
「それはこっちのセリフだぜ。」
三葉が作った護符それは一度だけのみ即死を回避できる。
この護符は「星々魔術」ではなく「豊穣魔法」で作られており、強力な想いが込められている。そして大量の「星脈魔素アストリアル」が必要なので量産はできない。そんな貴重なものを使ってしまうのは勿体ない気もするが桑棘相手には絶対必要だ。

観客席から三葉が腕を上げ言った。「よーい、始め!」
合図と共に犀兎は短剣二本を顕現けんげんさせ、桑棘は虚空から剣を取り出した。
犀兎は顕現させた短剣に術をほどこした。
「星々付与魔術:<炸裂化エクリクス>」を右手の剣に。
左手の剣には「星々付与魔術:<浄化再生リファクション>」を付与した。
桑棘は魔剣を顔の前にかざ抜刀ばっとうした。そして、さやは虚空へ戻っていった。その剣は漆黒のオーラを纏っていて、如何いかにもやばそうな雰囲気をかもし出していた。
「さぁ、俺の相棒<黎蝕神剣れいじょくじんけん>よ、出番だぜ。」
黎蝕神剣れいじょくじんけん>それは桑棘が持つ最凶の魔剣。あの剣が少しでも皮膚をかすめれば腐蝕状態になり、細胞などが徐々に消滅していく。
黎蝕神剣れいじょくじんけん>は所有者を選ぶ。その剣に認められるには相当な技量が必要。
犀兎は腐蝕を考慮こうりょしての<浄化再生>なのだ。
「行くぞ!犀兎!<神剣誓約解除レリシャル>!」
「星々魔術:<超加速アクセリル>・<論理加速ロジシャル>」犀兎は高速で詠唱し目にも留まらぬ速さで桑棘の死角に入り不意打ちをした、しかし読まれていたらしく防御された。犀兎は空中に向かいステップし高速斬撃を繰り出した。桑棘は力で犀兎を押し、薙ぎ払った。
その薙ぎ払った剣先が犀兎の左腕に掠った。すると犀兎の腕は黒く蝕まれ始めた。「ッち。<影跳びシャドウ>」犀兎の姿が影に溶けて言った。少し離れた所に犀兎が現れた。犀兎の姿は異様にも自分の短剣を左腕に刺していた。犀兎の腕を見ると死に始めていた細胞が戻り始めていた。
犀兎の短剣の付与魔術は<星脈魔素アストリアル>を流すことで効果を発揮する。<浄化再生>は弱体化系統の術を解除し、体の再生をする能力を持っている。犀兎は当たり前の様に<付与魔術>を使うが、高度の技術すぎて普通の人には扱えない。
犀兎は顔の前に両手の短剣をクロスしかざし言う。
「ギアを上げるか。」犀兎は笑いながら<超加速>で距離を詰めた。
剣と剣が激しくぶつかり合い、火花が散る。
死角、正面、後方。全方向からの複数回の高速斬撃。その攻撃をギリギリで受け流す。桑棘は攻撃を押し退けバックし、犀兎に連続で切りを入れる。
それを犀兎は片手で一回一回受け流す。
思った以上に守りが固く、桑棘には少しの焦燥感が出ていた。
「桑棘。焦りが出てるぞ?」
「ふっ。それがなんだって言うんだよ!さて、俺の技でも食らいな!」
「それなら全力を出させてあげるよ。」
「<銀星の世界をエゴイスト>」犀兎は指をパチンっと鳴らした。
刹那、世界は暗黒に包まれた。空を見上げると無数の星々が輝いていた。
銀星の世界をエゴイスト>それは一定の範囲に犀兎が創造した疑似世界を作り出す魔術。その作られた世界に入ると、一時的に<星脈魔素アストリアル>の使用上限がなくなる。だが、この疑似世界の展開には膨大な量の<星脈魔素アストリアル>や制限時間などがあるため、戦争などに向いた魔術ではない。
「っふ、ありがとよ」
桑棘そらは虚空から鞘を呼び出し、剣を鞘にしまった。
「星王剣術…」<黎蝕神剣れいじょくじんけん>に<星脈魔素アストリアル>が集まっていく。
「じゃぁ僕も形式にのっといて、神星級魔術…」犀兎せいとのところにも<星脈魔素アストリアル>が集まっていく。
半端ではない<星脈魔素アストリアル>量だ。並みの「星々を受けし者リアスター」では気絶してもおかしくはない程の量。
「第零の太刀:<呪蝕棘による秩序の死カオスオブエンド>」桑棘そらの抜刀と共に斬撃と黒柴こくし色の棘が何本も犀兎せいと目掛け放たれ
終幕ノ刻しゅうまくのとき:<星屑の終焉スターダストエンド>」犀兎せいとの詠唱が終わると共に大小様々な流れ星がオーロラのように綺麗な光を煌めきさせながら墜ちて来る。
「受け止められるかな?桑棘そら?」「さぁな!」
犀兎せいと桑棘そら。二人とも楽しそうに剣呑けんのんな表情を浮かべていた。
「ねぇ。三葉。あの二人は馬鹿なの?ねぇ馬鹿なの?特に犀兎!」
「うーん。いくら一回は死ねるからって…あそこまで本気でやるとは…」
「違う。あの二人は重要じゃない。周りの建物が心配なの!」珍しく掠実かすみは取り乱していた。
呪蝕棘による秩序の死カオスオブエンド>…桑棘が扱う剣術の10個あるうちの一つの技。<呪蝕棘じゅじょくら>黒紫色からなる呪われたいばら。能力は名の通り、この棘に触れた物はすべて、呪い蝕まれ死んでいく。難点は剣術なのに<星脈魔素アストリアル>依存ということ。
そして犀兎が使った<星屑の終焉スターダストエンド>これは疑似流星を創り出しぶつける。流星の表面は高密度のエネルギーがまとっており、触れた物を無に帰す。
「やばいよ!三葉!」焦り過ぎて掠実の口調がいつもと違う。
そして、流星と棘が激しくぶつかり合った。
凄まじい轟音、衝撃波が来る思った瞬間、何もなかった様に消えていく。後から来ると思った高濃度の<星脈魔素アストリアル>の衝撃波も全て消失している。
「あれ?」掠実は驚きの声をあげた。
「掠実、なにをそんな驚いてるの?」三葉が尋ねる。
「いや。だって。」
「<呪蝕棘による秩序の死カオスオブエンド>は全てを殺す技。<星屑の終焉スターダストエンド>は全てを無に帰す技。どういうことかわかる?」三葉は笑いながら掠実に聞いた。
「あっ。まさか。」なにか閃いたようだ。
「うん。そのまさかだよ。まず<星屑の終焉スターダストエンド>と<呪蝕棘による秩序の死カオスオブエンド>が触れた時点で、互いの構成されている物質、魔術も消失される。物質の棘は流星によって無になって、魔術である流星は棘によって術が死に消える。そして、衝撃波諸々は互いの効果によって全部消されるんだよ。だから二つが衝突したあの空間は今空気も消えてると思うよ。でも互いの攻撃が少しでもずれてたら大変なことになってたかもね。というか、犀兎がなにか結界的なのを張ってたし、それがあったから犀兎も本気でやったんじゃないのかな?」
「あ!理解。あの二人はやっぱすごい」
フィールドに再び目を向けると、桑棘が地面に寝転がっていた。
「あーあー。俺の負けだ、<星脈魔素アストリアル>が俺には足りねーわ。」
犀兎は桑棘に近づき手を差し伸べた。
「あとで三葉に<星脈魔素アストリアル>を回復してもらうんだよ。今度はチーム戦だからね。」
「あいよ。」
「それじゃ戻りますか。」
パンッ!犀兎と桑棘はハイタッチをした。

「犀兎お帰り~」三葉が歩いて来た。
「ただいま。」
「あ、三葉<星脈魔素アストリアル>を回復してくれぇ~」桑棘は犀兎の肩を借りながら言った。
それを聞いた三葉は少し考えて、
「犀兎やっぱすごいね!あの魔術!」
「って、おい無視するなよ。」
「え?あ!ごめ~んー」わざとらしい返事をした。
「豊穣魔法:<活気タイム>」三葉が唱えると薄いピンク色の花が桑棘の周りを回転し始めた。
「すぅ~あー生き返る~」
「桑棘。なんかお薬キメちゃった人みたい。」
「なぁ犀兎さぁん。みんな俺の扱いひどくない!?」
「まぁまぁ。休憩がてら早めのお昼にして終わったらチーム戦をやろう。じゃ一回ここを出るか。」
「なにか作ってきたの?三葉」
「うん!」
僕らは闘技場を出て近くの丘の上にある一本の木の下へ向かった。
「今日のお昼私と掠実でパンサンド作ってきたよ。」
そういうと三葉は虚空から籠を取り出した。
「虚空にしまってたから実質作り立てだよ。」
「説明。味は卵のサンドとハムのサンドそれとブルーベリーのジャムサンド。」
「「ブルーベリージャム!」」
「二人とも好きって言ってたから。」
「でも僕は三葉が作るご飯は何でも好きだよ。」僕がそう言うと三葉は
「!?ふ、不意はだめ、だよ…///」と照れていた。
「あっ、ご、ごめん」
「ねぇ。早く食べましょ。」横すごい圧がっ…!
「え?あ、うん。」僕は人差し指で頬をきながら応えた。
そして、シートを敷き4人で仲良く座って食べ始めた。
「「いただきまーす!」」
僕は最初にハムサンドに手を伸ばした。
一口食べ僕は驚いた、厚めのハムにシャキシャキのレタス、みずみずしいトマトが丁度いい。ハムは少し味が濃い目で運動した後にはちょうどいい塩加減だ。この白いソースがまたいい味を出している。このソースには…卵と油それとレモンとピクルスか!コクが出てて美味しい…!
「このソース美味しいな、お肉によく合ってる。」一つペロッと食べてしまった。
「でしょ?この前<ゲステア>に行った時に見つけたんだ。調合してて偶然出来た調味料だとか、確か名前はマヨネーズとか言ってたような…?あと、今回卵のサンドにも入れてみたの。いつもは卵とピクルスだけで混ぜてたけど…どうかな?」不安そうな口ぶりで三葉が言った。
それを聞くなり僕は卵のサンドを手に取った。
!?美味しい。これもいつもよりコクが出て旨味がある…卵にも合うのか…このソースもしかしたら、なんでも合うのでは…!?
「革命的な味だな。やっぱ戦闘技術だけではなくて料理の技術も上げていきたいなこの国は。」
隣では桑棘が頷いている。
「はい。桑棘お茶。」
「お、ありがとう」
「ねぇ。桑棘。美味しい?」
「ん?めっちゃ美味しい。犀兎が言った通り肉に合ってる。」
「よかった。」掠実は胸を撫で下ろした。
「こんな美味しいのにちゃんとした名前無いのか?」
「さぁ。私は知らない。」
「私もー」
「桑棘さんよだったら名前考えたらどう?」
「おぉ!そりゃいいな。んー」
桑棘は腕を組み真剣に考えた。
「よし決めた!具がパンにサンドされていて、恐ろしい魔女三葉が作ったから、サンドウィッチ!どうよ?」
桑棘が言った瞬間、三葉が睨むと同時に後ろにある木の根の先が桑棘に向けられた。
「私が魔女ですって?」三葉は恐怖の笑顔を浮かべ桑棘に質問した。
桑棘をみると助けてくれという表情を浮かべていた。
「あのさ三葉。こんな美味しい調味料が他の国にはあるなんて、三葉の料理がこれからさらに美味しくなるなぁ」僕は桑棘に助け船を流した。この場面的に語弊が生まれるかものなので説明するが、三葉に期待してるのは本心である。
「え?あ、うん。犀兎が気に入ってくれる料理をこれからも頑張って作るよ。」三葉は胸の前でガッツポーズをした。それと同時に木の根は元の位置に戻っていった。
「危なかった。」
「馬鹿?学ばないのね。」桑棘はごもっともな指摘を掠実から受けていた
その後20分ぐらい4人でわいわい昼食を楽しんだ。
「昼食を楽しんだことだし、そろそろ戻って続きするか。」
みんなシートから立ち上がり、三葉はシートとサンドウィッチが入っていた籠を虚空へポイっと投げ込んでいた。
「どのチームでやるんだ?」
「コインの裏表で決めよう。表が出たら、僕と三葉対桑棘と掠実。裏なら僕と掠実対桑棘と三葉で。」
「了解だ。」
ピキ―ンっと金属の綺麗な音を奏でながらコインは宙を舞った。そして犀兎は手の甲でそれをキャッチした。
「えっとー、裏だね。じゃぁさっき言った通りで。みんなちゃんと護符を確認しておいてくれよ。」
「「わかった。」」
僕は坂を下る途中周りの景色をみて言った。
「<ゲステア>と協定を結んで1年…建物も変わったな」僕は軍事施設を見て言った。
「そうだね。ここから先もっと科学が浸透して変わっていくんだろうね。」
「ちょっと怖いな。」
「え?そうか?」
「あぁそうだよ。」
この恐怖は単純ではないのかもしれない。僕は過去の記憶をなくしている。そして、今度は前の時間軸のことも忘れてきてる。決戦のために磨いた技…もう半分以上思い出せないや。ごめんみんな。

【3回戦目】
「ルールは簡単相手の大将を戦闘不能にさせるか全員撃破するか」
「おーい掠実慈悲は無用だぜ?」桑棘は煽り文句を言った。
「勿論。言われなくれも慈悲なんてあげないわよ。」
「よーし始めるぞ。スタートの合図はコインが地面に落ちたらだ。」
犀兎はそう言うとコインを空高くへ弾いた。
カランッとコインが地についた跳ね返った。
「「星々魔術:<論理加速ロジシャル>!」」
音と共に掠実と犀兎は思考向上魔術を展開。
桑棘は<黎蝕神剣れいじょくじんけん>を取り出した。
三葉は桑棘に<星脈魔素アストリアル>限界量上昇の魔術を付与した。
そして、犀兎は武器を生成し超高速で複数の魔術を展開。
「星々付与魔術:<風化ウェドル>」を右手の剣に。左手の剣には「星々付与魔術:<浄化再生リファクション>」を相手に聞こえない程度の声で付与した後に<超加速アクセリル>を自信に付与して桑棘に向かって走り出す。
それに続くように掠実は詠唱した。
「星々魔術:<鈍足化の氷柱石スロ・クリスタリス>!」
空中に複数の氷の鉱石が出現し桑棘目掛け放たれた。
だが、
「させないよ。星々魔術:<風解スコーニ>」
風が<氷柱石クリスタリス>に触れた瞬間<氷柱石クリスタリス>は物体を維持できなくなり水と化し消失した。
一方で。
犀兎と桑棘の剣が激しくぶつかる。<黎蝕神剣れいじょくじんけん>の負のオーラが犀兎に襲い掛かる。それを避けようと犀兎が死角に入ろうとした瞬間、根が生えてきて足に絡みついた。
「やっば、」
桑棘が近づいてくるので、左の剣を投擲し遅延させる。
右の手の剣で根を切った瞬間、桑棘剣が自分腕を掻き切ろうとする。
「あっぶな!」そこまで遅延行為はできなかったらしい。
ギリギリのタイミングで<影跳びシャドウ>を展開し逃げる。逃げ切る寸前根が再生し再び犀兎を襲おうとしていた。
「犀兎。ごめん。三葉の対策不足だった。」
「大丈夫。だってまだ僕は戦闘不能じゃないからね。」
「掠実。例の魔術を頼む。」
「了解。」
犀兎はもう一度<武器生成>をし再び桑棘に向かい走りだす。そして、桑棘も犀兎へと距離を詰めようとする。
「星々魔術:<烈発光の氷柱石フラッシュ・クリスタリス>!」
「何度やっても無駄だよ!星々魔術:<風解スコーニ>!」三葉は攻撃を無効化しようと妥当な判断をした。
だが、桑棘が剣をかざした瞬間。桑棘は何かに気づき三葉に言う。
「三葉。<風解スコーニ>をキャンセルだ!」  
「え?」桑棘が叫んだ時には遅かった。
風の魔術が氷の鉱石に触れる。その鉱石は物質を維持出来なくなり…ピキューン!!強烈な光がフィールド全体を包む。
「くっそ、<発光ライト>を氷柱石クリスタリス内部に閉じ込めるなんて!器用なことをっ!」桑棘は視界を奪われても感覚で攻撃してくる。
犀兎は<影跳びシャドウ>を発動させ桑棘の後方に回り、三葉に近づいた。
三葉は視界を奪われると共に「<妨害解除パリキロシャル>!」
「くっ!」桑棘はしまったという顔を浮かべた。
すぐさま引き返そうとするが…「桑棘。どこいくの?相手は私だよ?」掠実は<鈍足化付与炎息吹スロ・ブレイズ>を発動させた。
そして、三葉は状況把握し<蔓延る木々の道トゥーリジェクト>で犀兎を攻撃しようとするが攻撃速度が遅い、<論理加速ロジシャル>を発動してるか、していないかでは数秒の反応速度の差が出てしまう。犀兎の高速斬撃で根は微細に切り刻まれ再生不可に追い込まれた。そして、犀兎は右の短剣に<星脈魔素アストリアル>を込めた。
そして、少し遅めに短剣を振った。すると、カシャンッと音を立て結界に攻撃を防がれた。三葉は隙が出来たと思い虚空から薙刀を取ろうとした。
(あれ…なんか変…)三葉の嫌な予感は的中した。
ほんのちょっと軽く切られたはずの結界が崩壊し始めた。
「えッ!?」薙刀を取り出すのを諦め回避行動を取った。が、犀兎の刃は既に三葉を捉えていた。
そして一撃を三葉に食らわせ…ようとしたが、横から来た剣に止められた。
犀兎は直ぐ反応し回避行動をとる。
後ろを見ると、掠実が持っていた護符が燃えていた。
「謝罪。犀兎。負けちゃった。」
掠実は倒れていた。
「仕方ないさ」犀兎は初期の位置まで下がる。
「さて2対1だぜ?犀兎?」桑棘は嫌味な笑顔を浮かべた。
「あぁやってやるよ。」犀兎は超加速し始める。
犀兎の短剣が桑棘に触れようとした瞬間。
「星々魔術:<虚空結界ロシリス>」三葉が結界魔術を桑棘に付与した。
僕は結界を壊そうと思い全力で切りつけた。
「…えっ?…」すり抜けた。例えでは無い。自分自身が桑棘を貫通した。
理解が追い付かなかった。僕は勢いは殺し切れず<風化>の剣で三葉を切り裂いた。
「作戦…通り…」プシャァァ。三葉の腹部から鮮血せんけつが吹き出す。
「犀兎。動揺しすぎだ。」回避しようとするが出だしが遅すぎた。
僕は<黎蝕神剣れいじょくじんけん>に両腕、右足を切断され、倒れた。
僕に張ってあった護符が剥がれて燃え、体が再生し始めた。
「どうやら俺の勝ち見たいだな。」
「あぁ。そうだな負けたよ。あの技はせこいだろ。」僕は笑いながら言った。
「お互い様だろ?」
「おーい、掠実大丈夫かー?」
「平気。桑棘の峰打ちを食らって動けないだけ。」
「桑棘…どんだけ強く叩いたんだよ…いくら何でも彼女にする行いじゃないだろ…もしや…DV彼氏!?あ、いって。」冗談を言ってたら鞘で殴られた。
「お前は三葉を心配してやれよ。」
それを聞くなり僕は速攻立ち上がり三葉に近づく。でもなにか様子が変だ。さっきからケープを両手で抑えている。後ろ姿なので余計わからない。
「ち、近づか…ないで…!」
「え…?」嫌われた?いや……まさか、
「犀兎…お前…あの切りが…」
「違う!」三葉が声を上げた。
「そう、じゃない…嫌いになったとかじゃ…ない…ただ…」微かに三葉の声が震えていた。
「「ただ?」」僕と桑棘は口を揃え言った。
「犀兎が剣に付与した…魔術のせいで…ケープ以外の服が…消えちゃって…」三葉は恥ずかしそうに言った。
「それって…つまり…ッ!!!ご、ごめんっ!」僕は速攻回れ右をし
「か、掠実!予備の服ってどこにある!」
「休憩室。」
「わかった!ありがと!それと桑棘も一緒に来るんだっ!」
そうして、僕は高速で服を取りに行き、何度も謝罪した。
三葉には「悪いのはこっちだよ…」と言われた。
謝罪しておいてなんだが、ケープだけ状態の姿が気にならなかったわけではない。というか、気になりすぎてやばいくらいだ。だが…これは仕方のないことだ…!この感情は生物として当然の反応。仕方ない。仕方ない…。
多分だが…見たい欲に対抗することが今日一番大変な試合だったかも…あ、待てこんなこと言ったらもっと大変な事に合いそうだいだ。やめておこう…
「今日はここまでにしよう…」疲れ切った声で僕は言う。
「そうだな。疲れたし。てか、俺たち最近働きっぱなしだから休みたいわ。」
「同意。私も休みたいわ。」
「あ!そうだ。休むのにいいとこ知ってるよ!」三葉は手を挙げ主張した。

第四章:たまには堅苦しくなくてもいいよね!

三葉にいいところがあると言われ連れてこられた所は旅館であった。
その旅館は闘技場から1時間くらい離れた所の山に在った。
「おぉいい雰囲気だな。」
瓦屋根の旅館が見て桑棘は声を出した。とても歴史を感じられる見た目だ。
看板には「旅館ひかるや」と書いてあった。
「ねね」と三葉に声をかけられ振り返ると、そこには<ミドラス>にある盆地が見えた。
「わぁ~すごい~」
1年ほど前に科学の影響が混ざり発展している場所と途中のところの差がわかりやす見えた。こうやって自分が暮らしている所をみるのはいいものだ。
「なんで三葉はこんなにいいところ知ってるの?」
「んーとね、この前偶然軍の施設内でここのことを話してる人達がいて、ここの温泉が疲労にとってもいい所だって言ってたから来てみたかったんだよね~まぁ本当は犀兎と二人で来たかったんだけど…」
「三葉?何か言った?」
「え?あ、いや?何も言ってないよ。ほ、ほら、早く行こ!」
「要望!空き部屋があったら泊まっていかない?今日はもう戻る気力がなくなった。」
「いいんじゃない?」僕は掠実の意見を肯定した。
「よーし、じゃぁ決まりだな!」桑棘も嬉しそうに歩き出した。
「こんにちはー」ドアを開けながら僕は言う。
「いらっしゃいませ。」この旅館の若女将らしき人が挨拶に応じた。みんなと同じくらいの年齢だろか?
「あ、軍人さんでしょうか?」
「はい。そうですが?」
「本日はどういったご用件で?」少し身構えた様子であった。
「軍は関係ないですよ。僕たちは今日部屋があるなら泊まっていきたいなと思って来ました。」
「そうでございましたか。少々お待ちください。部屋の確認をしてきます。」そういうと若女将らしき人は確認しに行った。
少しして。
「申し訳ございません。只今空いているお部屋が大きい一部屋しかないのですが…よろしいでしょうか…?」
それを聞くなり三葉と掠実は少し顔を赤くし、謎に頷き言った。
「「だ、大丈夫。気にしない」」
「え?あー、っと、彼女たちがそう言っているのでその部屋でお願いします。」
「かしこまりました。では、受付の方へ」
「それでは、チェックインのためこちらの紙にお名前を記入してください。」
僕は名前の欄に「犀兎」と記入した。僕が記入を終えみんなの所へ戻ろうとしたとき、
「犀兎様。記入漏れがございますよ。」
「あ、みんなの名前も必要でしたか?」
「いえ、苗字のご記入を」
「え?あ、すみません。拾われの身なので苗字を持ってなくて」
「あ、そ、それは大変失礼いたしました。」そう言い彼女は頭を深く下げた。
「謝らなくていいですよ。そもそも、過去を覚えていない自分も悪いんですから。」
「他の皆様も同じでしょうか?」
「私たちは苗字は捨てちゃったから無いんです。捨てたので良ければ私がそれで書きますよ?」
「え?それはお客様に…」
「嫌で捨てた訳じゃないので大丈夫ですよ。」
「そうですか…で、ではお願いします…」完全に困惑していた。
まぁ誰だってこんな事言われたら困惑するか。
「わかりました」三葉はペンを取り書き出した。
その紙には「痲宮まみや 三葉みつは」と書かれていた。
「ありがとうございます。それでは、お部屋へとご案内させていただきます。私はこの旅館の若女将をしています。若井わかい あかねです。よろしくお願いいたします。」
 三葉は痲宮と書いたときの茜さんの一瞬の驚きを見逃さなかった。
「お願いします。」
僕らは若女将に着いていった。
「ここって軍の人って来るんですか?」
「はい。よくお出でになります。何種類かある温泉のうちの一つの疲労回復の湯目当てに。本日もう一組の軍人さんいらっしゃってます。」
(記憶通りならそろそろか)
庭園を横切ろうとしたとき
「あぁ!お庭が…」茜さんが急に声を上げた。
「どうしたんですか?」
みんなは心配そうにしていだが、僕は心配の様子を浮かべることなく立っていた。
庭園を見る。そこには綺麗にされていただろう、枯山水かれさんすいが壊され荒らされていた。
「酷い。こんなことをするなんて」
庭園をみているとキランっと輝く物があった。
(やっぱりか)
僕はすぐさまそれを魔術で引き寄せた。
スパっと右手に丸い物体を収める。
「軍服の袖に付いているボタンだ。どうやら軍の者がやったぽいな」
「申し訳ない。」僕は茜さんに頭を下げた。
「あ、いえ、あなた様方は関係ないのに。」
「いいえ。同じ軍の者がしたことです。ですので、この庭を元に戻します。」
「え?」
「星々魔術:<複写反映リフレクト>」唱え終わると荒れた砂利が元に戻っていき再び綺麗な枯山水かれさんすいを姿を見せた。
「わぁ…すごいです!ありがとうございます!犀兎さん」
「いえ、こちらこそ軍が迷惑を。それと、そいつらをみたら注意しておきますね。」
「え?いや、そんな…」
「ここは、軍の施設ではありません。軍人として場を考えろと言うだけです。」
「そんな事をして…お立場とか大丈夫なのですか…?」
立場?魔術使用法の事でも言ってるのだろうか。
「はい。大丈夫です。僕たちの立場は国家機密レベルですから」そう言い僕は人差し指を口元まで動かした。
「おい、犀兎…」
「大丈夫だって」
そして、戻った庭園を見ながら歩いてるとすぐ部屋に着いた。
(ここから先は思い出せないか…)
「こちらが、お部屋でございます。」
「わぁ、すごい!広い!見て犀兎!川が見えるよ!」三葉は楽しそうにしていた。
「み、三葉ちょっと落ち着いて…」僕は苦笑いを浮かべ言った。
「あ、ご、ごめん」三葉は気恥ずかしそうに答えた
「お客様。お食事は7時からになっています。」時計を見ると針は4時30分を指していた。
「場所は広間でここと同じ部屋番号にお入りください。他のお客様のお部屋に入らぬようにご注意ください。それとテーブルの上に温泉の場所を記した案内書があります。」
「わかりました。」
「では、ごゆっくりと」一礼し茜さんは去って行った。
テーブルにある案内書に目を通す。
「えっとー…何種類か温泉が近くにあって…ほう、効能が違うのか。」
「そうみたいだね」
「桑棘。効能読んで。」
「どれどれ…活気(星脈魔素アストリアル)の湯、疲労回復の湯、外傷の湯、絶景の湯…運気の湯…恋愛の湯…ってパワースポットかよ!!」
「桑棘まだなんか下に書いてない?」
「え?あ、ほんとだ。どれどれ…恋愛の湯のみ混浴…」
「「…..」」
(『三葉』の気になる…でもッ!)(『掠実』の気になる…けどッ!))犀兎と桑棘は心の中で葛藤し強く拳を握る。
(『犀兎』と入りたい…!)(『桑棘』と入ってみたい…!)三葉と掠実は少し顔を赤くさせ、心の中で叫んだ。
「えっと、どこにしようかなー」
「どうしようねー」
微妙な空気になってしまった…
「じゃぁ!みんなさっきの試合で疲れてると思うから<星脈魔素アストリアル>の湯にしよう」僕は小さく手を挙げ言った。
「そうだねそうしよう」「そうだな。それがいい。」「了承」
少し間を置き。
「桑棘!場所は?!」三葉は息を弾ませながら言った。
「え、あ、うんとな。今外に見えている川があるだろ?それを上っていけばあるらしい。」
「理解。行こう」掠実の声だけを聞くと興味があるのかないのかわからないが…いつの間にか手にお風呂セットを用意していて、早く温泉行きたいが伝わってくる。
「よーし、いくか!」
「おーう」
そして僕は旅館を出て温泉へ向かって言った。
5分くらい歩くと建物が見えてきた。
「おーここか!」
「さっき気づいたけど、広大な土地というか温泉がある範囲全部「ひかるや」さんのなんだね」僕が衝撃的な事実を言うと
「えっ、まじかよ」桑棘は規模に気づき、目を丸くした。
建物の看板には「ひかるや 活気の湯」と書いてあった。
風が吹き、温泉の匂いが漂ってくる。
「わぁー<星脈魔素アストリアル>をこんな風に感じたの初めてだよ。お湯に浸かるの楽しみだなぁ」三葉が言うと横に居た、桑棘と掠実は首を傾げ言った。
「「そこまで感じないんだけど…」」
「とても少量の<星脈魔素アストリアル>が漂ってるね。ちょっとでも感じられるだけすごいと思うよ。」
「ここで立ってるのなんだし、中に入ろ。」
中に入ると、入浴後の休憩スペース的なのがあり、その奥に、男湯、女湯があった。
「じゃぁ先に出たらここで待機でいいよね?」僕が三葉たちに聞くと頷いて答えた。
そして僕らは別々に入って行った。

温泉は露天風呂になっていた。
「わぁーすっげぇ~」
「ほんとだね」
そこは、川を眺められるようになっていた。
そして、安全面もちゃんとした作りになっていて。
「ねぇ桑棘ここちゃんと<外部認識阻害インタフィアレンス>が発動してるよ。」
「あ、ほんとだ。すごいな」
僕らは体を洗いながら話した。
「あぁ、すごいよ、ここにこの結界を張った人は…基本的にこの<外部認識阻害インタフィアレンス>はドーム状の結界なんだ。でもここのは、この建物自体の認識阻害を無くすために、「コ」の字のカーテン型で展開してある…すごい魔術改変だ…カーテン型だから外からは勿論見れないし、こっち側も外に人が居るとわからない。完璧な空間構成だ。まぁカーテン型だから簡単に結界の出入りできるけど。でも、変なやから対策として<物理貫通不可マテアベラスト>も張ってあると思うよ。」
「一体、どんな魔術師がやったんだか…」
「僕にもわかんないなぁ。」
「というか、こんな短時間で結界を見抜くお前もすごいよ。」
「そうか?」「そうだわ。」
話し終わり、お湯へ向かった。
足をツンと水面に触れさせた。
「いい温度だよ桑棘。」
そうして僕らはお湯に浸かった。
(あぁ…温まる…そして<星脈魔素アストリアル>が混ざってるから回復していく…)
隣で桑棘は
「あぁいい湯だな…生き返るわ…」
川のせせらぎが癒しを与えてくる。
「なぁ犀兎。」
「なに?」
「さっきの話の続きだが、ここの結界の維持ってどうなってるんだ?」
「え?あぁ、簡単だよ。そこに木が何本も生えてるでしょ?この木が維持してるんだよ。」
「ただの木じゃないのか?」
「桑棘さんよ。忘れたのかい?世界の常識を。これ<魔樹まじゅ>だよ。」
「え?<魔樹>なのか?あの木ってもっと紫っぽい色の葉を生やすんじゃないのか?」
「あぁ、ここ<魔樹>は地下の<星脈>から<星脈魔素アストリアル>を吸ってるけど、結界維持として吸われちゃってるんだよね、だから必要分しか<星脈魔素アストリアル>が供給がない<魔樹>はあんな感じになるんだよ。」
(にしても<魔樹>か。世界中どこにでも生えていて、<星脈魔素アストリアル>を無限に供給でき、背景に紛れることもできる。か…そして、<星脈>からの<星脈魔素アストリアル>の供給も複数本あるから、それで補ってるのか。頭がいい魔術師だ…)
「多分だけどさ、<魔樹>があるおかげで、ここのお湯は成り立ってるんだと思うよ。」
「そうなのか?」
「多分ね。他の湯も<魔樹>で結界張ってると思うから…<星脈魔素アストリアル>が混ざってると思うよ。でもここは元からお湯自体に、<星脈魔素アストリアル>が少し含まれていて、それで、この<魔樹>が吸い取って漏れた<星脈魔素アストリアル>のおかげで、効果が出てるんだと思う。というか、どこまで完璧に<星脈魔素アストリアル>の調整をしてるのだか…一般人が<星脈魔素アストリアル>の影響が出ない様完璧になってる…」
「まじかよ…」桑棘は苦笑いで答える。
「あぁ、ここの<星脈魔素アストリアル>が多ければ、一般人は<星脈魔素中毒アストリアル・アデクション>になっちゃうからね。あと初級の、「星々を受けし者リアスター」も同様にかな。」
星々を受けし者リアスター」にもちゃんと分類がある。とても簡単に言うと3つだ。僕や三葉、掠実のようにメインで魔法を使う魔術師と桑棘のように物理的な攻撃をメインとする武人だ。
最後3つ目は強化人。ただ自身の身体能力が高いだけの人となっている。
そして、3つ目を除く2つを基本とし系統樹のように種類が分かれている。魔術師ならアタックかサポートに分かれ、そして場合によってはもっと細かくなる。
武人の場合は使用する武具によって変化する。桑棘なら剣術派と判断される。
もちろんランクも存在する。魔術師なら下から。
初級・中級・上級・星聖せいせい級・星王級・魔人級・神星じんせい級魔術師となっている。掠実は魔人級。三葉は星王級。そして僕は測定不能と言われた。それと、三葉は固有の魔法<豊穣魔法>をメインで使用しているので<星々魔術>でのランクは下になるのだ。
武人にも同じくランクは存在する。下から。
初級・中級・上級・聖剣級・魔剣級・星王級・星神せいじん級である。
桑棘は星王級だ。
先ほどの話が終わり少しすると、隣から水の音が聞こえてきた。
何かしているのだろうか。人気が無いので貸し切り状態だからいいが…
「ねぇ。三葉。なんで私たち大きくならないと思う?」
パシャと水の音が聞こえると共に
「ひゃ?!い、いきなり触らないでよ!」と三葉の小さな悲鳴が隣から聞こえた。
「「…?!」」僕と桑棘はお互い顔を見合わせた。
「言及。三葉の丁度いいサイズだから触りたかったんだもん。」掠実の声が聞こえてくる。
「なっ!?ここいい結界張っておいて、<音声阻害ジャミング>は張ってないのかよ?!」と桑棘が言った。
「らしいね…」僕は桑棘に静かにと手でサインを送った。
「わ、私だって知りたいよ!」さっきより少し大きめの叫び声が聞こえた。
「そうなの?」
「うん…私だって全然ない方だもん…」
「それってさ、のため?」
「うん…」
水の音で声が途切れて、なんて言ったか聞き取れなかった。
(落ち着け僕よ。まだ何がとは言ってないじゃないか。決めつけるな…!)そう思いながら僕は深く体をお湯に浸からせた。
「でも。なんか大きいの好きとか無さそう。というか小さい方がいいかもね。」
「そっちはありそうだね。そういうの」
声が聞こえ桑棘は拳を握っていた。
「おい…そういうの考えるなって…」僕がそういうと、「い、いや?違うよ?考えてないよ?」ととぼけた顔をして、桑棘もお湯に体を深く浸からせた。
「で、でも掠実だって、あるでしょ!」「三葉。比べたら無いよ。」
「ほら!」と掠実の勢いのある声が聞こえると…
「ひゃッ!?や…」三葉のそういう声が聞こえ、僕はこの場所に居るのが耐えられなくなり、出ることにした。
だがしかし、運命とは人が嫌がることが好きなご様子であった。
完全に向う側に気を取られていて、お湯から上がるタイミングで…
「ッあ!?」足を滑らせ転んでしまった。
「犀兎ッ!?」桑棘は心配して大きな声を出してしまった。そして自分がしたことに気付き、慌てて口を塞いだが、意味は無かった。
「痛ってて…」僕は腰を擦った。「犀兎大丈夫か?」「うん…」「出よっか…」「そうしよう…」こうして僕らはやらかした感を放出しながら着替え場へと向かった。
【一方、三葉・掠実】
「「…」」(会話聞かれてた…!?他の結界あるのに<音声阻害ジャミング>は無いんだ…!)二人とも、のぼせた様に顔を真っ赤にした。
((どう…顔合わせればいいんだろ…))」深くお湯に体を浸からせた二人は考えこんだ。

僕らは着替え終え休憩スペースで牛乳を飲みながら待機していると、三葉達が戻ってきた。
「お、お帰り」「た、ただいま…」
「掠実達も牛乳飲むか?」「うん。飲みたい…」
みんなでちょっとした休憩を取った。
だが、ぎこちないようななんとも言えない雰囲気は終わることなく、旅館に戻ることになった。

旅館に戻ってきて最初に聞こえたのは男が怒鳴る声だった、その後に茜さんの声も聞こえてきた。これはまずい状況だとすぐ分かった。
先ほどのことなど置いておき、みんなで顔を合わせ、その場に駆けった。
「おい、若女将さんよ、いくらなんでもそういう嘘はついちゃいけねぇーよ」
五人もの男が茜さんに詰めいた。
「ですから!」必死に抵抗してるのが伝わってきた。
「軍人に対して虚言を言うって、どういう罪になると思ってるんだ?」
「先程も言った通りです。あなた達のような軍のお人ではなく。心優しき軍の人が枯山水を直してくれたんです!」
「なんだと、貴様?<ミドラス>を守ってやってるのは、俺たち<ゲステア>軍だからな?」
「大体、あなた方が庭に入るのが悪いんです!」正論だ。
「あぁ?知るかよ」
茜さんは相手を落ち着かせたいのか、火をつけさせたいのかわからない言動をとっていた。
「やっぱあいつら<ゲステア>のか、」
「服的にみんな基本的に中級くらいかな?あ、でもあのさっきから腕を組んで突っ立てるやつは上級だよ。でも、犀兎なら余裕の相手だよ」
「んだと、ごらぁ?」ダルマみたいな野郎が茜さんの手を掴む
「は、離してください!」
「魔術使用罪として一発殴ってやろうか?」
そんな状況を黙ってみてる訳はなく、
「おい、貴様たち。何をしている?」
「あぁ?なんだお前ら?」ダルマが振り向く。
「おいおい、俺たちの話に割り込んできやがって。正義の味方ごっこは他所でやってくれよな?」赤髪でいかにも悪役モブだろと思えるやつが言う。
「そーだぜ?俺らは偉い偉い軍人様だぞ?俺らに歯向かう気か?」
そんなことを言いながら五人は笑っていた。
「っふ、笑わすなよな?なにがお偉い軍人だって?国の雑魚駒ざこごまごときがなにを言ってるんだ?」犀兎は鋭く言葉を投げた。
(いつもと違う犀兎かっこいい…!)三葉だけは少し楽しそうにしていた。
「犀兎。お前今日はキレキレだな?」「たまにはいいでしょ?」「あぁ」
(なんだあいつら、なめやがって、あの一番前に居るやつは口だけの雑魚だな、で。あの金髪は多少力があるくらいだな。そして後ろの黒髪と茶髪は…いい顔をしてるな。)
「おい、貴様今なにを考えた?三葉と掠実のことじゃないよな?」犀兎はダルマ野郎を睨む。
「あ?」と男が言った瞬間。そいつの表情が恐怖に染まる。
「ねぇそこのお嬢さん方さんよ、そんな奴らより俺らの遊びに付き合ってくんない?」とテンプレを言う。
「ッ、バカ!」ダルマ野郎と言ったが遅い。
「あ?なn」意識が飛ぶ。
「お前、なにやった?」赤髪が問う。
「すまない。貴様らにはもったいないくらいの魔術だったな」
煽る。ひたすら犀兎はそいつらを煽る。
「んだと?このクソガキがよ!」(隊長こいつら懲らしめましょうよ)
(あぁ、聞いててムカついてきた。俺はあの銀髪をやる、副隊長は金髪を、お前らは二人で女を狙え)((了解っす))(承知)
デカいやつが僕の方に近づいてくる。
「はぁ、温泉上がりなんだけど」
「知るかよ!」とさっきまでなにもしていなかったデカい野郎が殴りを入れて来る、だが僕はそれを躱す。
流石に拳に魔術込めてるか。それと、軍専用の通信機で喋ってるのか…面倒だな
そう思いデカ野郎の攻撃を避けようとすると、後ろにいた赤髪ともう一人が三葉と掠実に向かって走り出した。
「おい。誰を狙おうとしてるんだ貴様ら?」
僕がそう言うとデカ野郎は「お前らの連れだよ」と言った。
「そうか<拘束せしは悪夢の鎖レストメアレイト>」
2人の男は恐怖心に駆られ、赤紫色の魔術の鎖に縛られた。
「おい、お前なにをした!」
「<拘束せしは悪夢の鎖レストメアレイト>。指定した対象に潜在意識内にある恐怖心を呼び起こし拘束する魔術。浴衣着てるからわからなかったと思うけど、僕らも一応軍人なんだ。」
「…は?」完全に情報処理が追い付いていないようだ。
「茜さんが言ってたでしょ?直してくれた人がいるって。」間髪を入れづに喋る。
「一応言っておくけど、僕らは<ミドラス>少数精鋭第零部隊なんだ。知ってるかな?」僕は笑いながら言った。
「一応軍服にしてあげるよ。」僕が指を鳴らすと共に服装が浴衣から、黒の制服と黒のケープ姿に変わった。
「第零部隊だと…た、隊長こ、こいつらヤバいですよ!」桑棘にダルマ野郎は先刻投げられ、普通の<拘束魔術>で捕まえられていた。
そして、<拘束せしは悪夢の鎖レストメアレイト>で拘束されていたうちの一人の意識が戻っており言った。
「こいつら噂の<銀色の殺戮者><破滅の使者><豊穣の魔女><呪われの愚者>ですよ…!」
「な、まさか…」デカ野郎は額に汗を浮かばせ、絶句する。
「僕たちそんな呼び方されてるんだ。」僕がそう言うと桑棘が「ほら、やっぱ三葉は魔女じゃん」と言い「桑棘?死にたいの?」なんて物騒な会話を始めていた。掠実は横で笑っていた。「まぁまあ」と僕が言い。「それと犀兎が殺戮者は納得いかないよ!」「否定。桑棘は破滅の使者なんかじゃない。桑棘だって頑張って生きてきた。」「結局は二つ名的なのは気に入らないってことだな!」「そうみたいだね」
和やかな雰囲気になる。
それを見て、意識が三人はホッとした顔をした。
「でさぁ?君達さどうする?」態度の切り替え速度に三人はギョッとする。
「なに安心した顔してるのかな?」三葉が問う。
「一応僕たち剥奪権って言うのを持ってるんだよね?」
それを聞き、三人の顔が絶望に染まる。
「僕たちが剥奪権を行使できる条件は三つ。」
「一つ。戦場での戦争犯罪人いわゆる戦犯に対する行使」
「二つ。軍内不正魔術使用者に対する行使」
「三つ。戦場外で一般市民に危害を加えた者。又、未遂である者(未遂判断はその場の者に一任する。)だ。」
「お前達はこの三つ目に該当する。お前らは未遂だ殴ってないからな。だが、お前達は茜さんを五人で詰め寄り、脅した。」
「や、やめてください…」こっちがカツアゲしてるみたいで複雑な気持ちになる。
「今回だけは…見逃してください…」
「ごめんなさい…お許しを…」
三人は僕らに許しを乞う。そして、意識がなかった二人も目覚めた。二人は状況が読めてないようだ。
「君たちがどう頑張ってその地位に就いたかは知らない」
「まぁ中級くらいならすぐなれたでしょ。」と三葉が言う。
「でも。剥奪されれば二度と軍にはもどれない。」掠実が呟く。
それを聞き、二人も状況理解する。
その二人も許しを乞う。
「さっきから俺らに言ってるが、言う相手が間違ってないか?」桑棘がそういうと、五人は茜さんの方を向き謝り始めた。
一通り終わった頃合いを見計らい、僕は言う。
「この場の最高指揮官として貴様ら五人に告ぐ。」僕が言うと共に場が静まる。
「今回我が部隊からはお前らになにも処罰を与えない。上への報告を行うだけとする。」五人は嬉しそうな顔をする。
だが・・、この件の判断は<ミドラス><ゲステア>の連合軍本部に一任する。」それを聞くなり四人は唖然とする。
だが一人は違った。
その部隊の隊長であろう、デカ野郎に<星脈魔素アストリアル>が集まる。
それを感知した、桑棘と掠実は茜さんの前へ、三葉は警戒態勢に入った。
「貴様ぁぁあ!!なにが本部に一任だ?俺らは心から謝罪したっていうのによ!」怒りで自己制御が出来ていない。
「これでも僕は君たちに慈悲を与えたんだけどな。」
本当ならその瞬間にでも権利の剝奪は可能であった。だが僕は明日にでもしようと思っていたのだ。
「うるせぇぇぇ!」目に血が走る。
かなりの量の<星脈魔素アストリアル>が集まる。
「犀兎。危険。爆発してもおかしくない。」
「あぁわかってるよ。」
「お前。いいのか?やっても無駄だぞ?」「お前の罪が重くなるだけだがな。」桑棘が呟く
「知ったこっちゃねぇぇ!」
「そーか。僕と桑棘は警告はしたからな。」
「クソガキがぁぁ」とデカ野郎は言いながら僕に向けて、拳を放つ。
だがその拳は僕には届かない。いや、本来そこに腕があったら届いていただろう。
「あ…?」不思議そうに自分の腕を見る。
「腕がぁぁぁッ!!」デカ野郎は体を捩じらせ、腕を押さえる。
だが、奴は違和感を覚える。血が出ていないのだ。そして、どんどんと腕の感覚が消えていくことに。
僕はやつが殴ろうとした瞬間短剣を生成し、奴の腕を切り落とした。
だが、僕が使った剣には、魔術が付与されていた。
「<風蝕ウェウィード>この魔術は切ったものの物質を蝕み風化させる。再生させる隙も無く少しずつボロボロと物質は崩れる。」僕は恐怖を与える様に言う。
ちなみに言うと<風化ウェドル>の上位互換である。
「や、やめろ…!」デカ野郎は涙を浮かべながら言う。
「三葉。」
「わかった。<純聖なる花園ヒソップ>」三葉が唱え終わると奴の腕の浸蝕は治まった。
「今から本部に連絡を入れて、こいつらを連行させる。掠実連絡を。」
「ええ。わかったわ。」
「お前ら聞いた通りだ。大人しく待ってろ」桑棘が言い奴からは魔術で出来た鎖で拘束された。
「隊長…腕が」「大丈夫だ…。犀兎さん…お願いです。どうかこの罪は俺だけに償わせてください。こいつらをどうか…」
「知らん。僕に言わないでくれ。判決は上が決める。そいつらに言うんだな。」僕は俯きながら言った。
「犀兎…」三葉は心配そうに僕を見つめてきた。
数十分後軍からの迎えがきた。
「損傷の処置はしてある。」
「了解です。」
ちょっとしたやりとりをし五人を連れ、軍の施設に戻って行った。
茜さんが後ろから歩いてきた。
「助けていただきありがとうございます…。それと犀兎さんにも迷惑を掛けました…。」
「いえ…」僕が茜さんの顔を見るとなぜか顔を逸らされた。
「よかったです。茜さんが無事で。」僕は笑って答える。
「あ、はい…」少し茜さんの顔が紅かったような気がするが…まぁ先程のせいで疲れたんだろうな。
後ろに振り向くとなぜか三葉から殺気があふれ出していた。
「あ、犀兎さん…お夕食の準備が出来次第お呼び致しましょうか?」
「いえ、大丈夫です。時間になったら行きます。」
「わかりました。」一礼し茜さんは戻って行った。
「僕は今から部屋に戻るけどみんなは?」
「私も一緒に戻るよ。犀兎」
「二人は?」
「あー俺らは休憩スペースで休んでるよ。な?掠実」
「うん。」
「了解。じゃ、またあとで」
僕と三葉は部屋に戻った。
部屋に着くなり僕は脱力しベッドに倒れ込んだ。
「犀兎…辛かったんだよね…」
「え?あ…かもね…」
三葉は畳に座り込んだ。
「三葉。30分くらい寝かせてくれないかい?それと起きなかったら起こしてほしい…」
「うん。いいよ。」
「ありがと」そう言い僕が瞼を閉じた。
*      *     *
【《或ル何処カ彼方ノ次元デ》】
黒と紫色で構成された空間。
その空間内だと異様思える機械が存在していた。
或る少女がそこには居た。
その少女は歯車など幾つもの素材で構成された巨大なデータベースらしき機械を操作していた。
そのデータベースらしきものには何台もの巨大な画面が接続されていた。
その画面には大きな木が映し出されていた。
その木の枝は何本も枝分かれして、枝は伸び、途中まで行くと消え、また新しい所に枝が生えるを繰り返していた。まるでその宇宙の運命を描いているみたいに思えた。
〈:第七宇宙デノ次元干渉ヲ確認シマシタ。〉
少女が見ていた画面に警告らしき文字が現れると同時に機械チックな音声が流れた。
少女は長い銀色の髪を揺らして言う。
「それで?」
〈:第七宇宙全体ト付近ノ宇宙ガ過去二戻リマシタ。〉
それを聞き少女は椅子から立ち上がりその画面の前まで動いた。
「今回で31回目。その世界でなにが起こっているのだか。」
「術式の鑑定をして。」
〈:鑑定結果ヲ表示シマス。〉
「また、この同じ術式。術者の詳細を表示できる?」
〈:表示シマス。一部閲覧不可デス。〉
「ということはまた彼ね。そして、いつも干渉を行うのは彼と、女の二人だけ。まるで互いを助け合っているみたいね。」ノイズが掛かって見えないはずの文字を読む少女。
〈:干渉者二対シテ処置ヲ行イマスカ?」
「ええ。いつも通り記憶処理だけでいいわ。」
〈:処理ヲ行イマシタ。一部阻害ヲ確認シマシタ。モウ一度行イマスカ?」
「しなくていいわ。どうせしたって無駄だもの。私と同族の神の裏切者子に効くはずがないもの。そうでしょノルン姉様。」
〈:承知シマシタ。〉
それを聞くなり少女は先ほどと同じ場所に戻って作業を始めた。
〈詳細〉
名前:ーーーーー閲覧不可
種族:人(半神)
能力:ーーー閲覧不可ノ魔術ノ使用可能
固有:母<ーーー閲覧不可・ルミナ>(識別名:<運命の女神>「ノルン」)
  :父<ーーー閲覧不可・ルミナ>
識別名:<ーーと運命の神>「ツクヨリス」
ポツンッと音が鳴り、その画面は再び木を映し始めた。

「犀兎。起きて、」
「ん…?」頭が布団とは違う場所にある感覚がした。
「三葉?」膝枕だ。それに気づき、すぐさま動こうとする。
「あ、犀兎動かないでよ。」僕は頭を押さえつけられた。
「ど、どうしたの、三葉…」
「犀兎が悲しんでいたから。」三葉は横を向いて僕を見てはくれなかった。
「…もし少し良く事を運んでいたら切らなくてもよかったかもって思っちゃって。」
「犀兎はちゃんと…」
三葉が喋るのを遮って言う。
「前桑棘に言われたんだ。お前は優しすぎるって。だから今回はちょっと強めにしてみたんだ…けど」
「ううん。犀兎は上手くやったよ。ちょっとくらい痛めつけないとダメだよ。」
「そーかな…?」
「そうだよ!」
「でも…」
「大丈夫だよ、もしこの理不尽な世界が敵になっても、私や、桑棘、掠実は犀兎の味方だから。」
「三葉…ありがとう。元気出たよ。あと少しだけこの状態で居ていいかな?」
それを聞き三葉は少し頬を赤らめ頷いた。

そろそろ夕食の時間なので休憩スペースに居る桑棘と掠実を呼びに行ったら卓球をやっていた。どうやら互角らしい。多分桑棘が掠実を思って加減しているのだと思う。
「二人とも夕食の時間だけど~行く?」三葉がそう言うと
「了解」と返ってきた。
二人と合流し広間に向かった。
「なぁ犀兎」小さな声で桑棘が尋ねてきた。
「どうした?」
「部屋でなにをしたんだ?」
「え?なにって寝ただけだけど…?」
「…え?寝た?」
「・・・ッ!!違うよ!?お昼寝ね?!」
「あぁそっかお昼寝か。」
「そうだよ」
「どうしたの?二人とも」と三葉に聞かれたので、なんでもないと答えておいた。
広間の前に着くと茜さんが立っていた。
「皆様。本日は本当にありがとうございました。ささやかながらお食事は豪華にさせてもらいました。女将も感謝しています。とおっしゃってました。」
「え、いや、そんな豪華になんて。」
「そ、そうですよ。」と僕と三葉が言うと桑棘は、
「まぁ向うが言ってるんだからいいじゃねぇかよ」と言った。掠実は横で頷いていた。
「では、お言葉に甘えさせてもらいます…」
「はい!」と茜さんは笑顔で言った。
そうして僕らが席に着くと、たくさんの料理が出てきた。
<ミドラス>で採れる山や海の幸をふんだんに使われた料理だ。
いわゆる郷土料理だ。
中でも、「ほうほう」と言う料理が一番美味しかった。
「ほうほう」は、麺と野菜を味噌のスープで煮込んだ料理だ。
<ミドラス>の豊かな地で採れたかぼちゃや人参、白菜、ネギなど新鮮な野菜がふんだんに使われていて具沢山でとても美味しい。
たくさん出てきて食べきれるか心配になったけど、食べきることはできた。まぁ基本的な処理は桑棘だってけど…掠実と三葉も頑張って食べてた。
こういう所で美味しいものを食べれるのは久しぶりで楽しかった。
そうして僕らは楽しい気分で部屋に戻って思い出した。
部屋が同じという事に。
「僕と桑棘は端で寝るんで…お二人はそちらのベッドで…」と提案したら三葉と掠実にそんな可哀想なことはできないと言われ、結局一つのベッドに僕と桑棘。三葉と掠実になった。
こうしてみんな緊張に包まれながら眠りに落ちた。

真夜中旅館の事務室に一つだけ灯りがあった。
そして、その灯りの中にこの旅館の若女将の茜の姿があった。
彼女は昔の経理書類を漁っていた。
そして彼女の目にある書類が目に留まった。
その内容は旅館に対しての資金支援の紙だった。
そして、その支援元の名前は。「痲宮 真蒔しんじ
「私のお父さんだよ。」
突然声が聞こえ、茜は一瞬顔を恐怖に染めた。
「貴女の知っての通り私のお父さんは事故で死んだ。いや、殺された。」三葉は少し悲しげな声で冷たく言った。
「お父さんは民のみんなが幸せになれるようにがんばった。でも、みなが裏切った。理不尽だよね。ほんと。」
「知らないわ。そんなこと」茜は否定した。
「そっか、なら話してあげるよ。」
お父さんのことが気に食わない貴族が居た。そいつらはどうにか父さんを消さないか考えた。そして、閃いた。
この山の中に湖を魔術で汚した。そして奴らはお父さんを支持していた者を寝返らせ、味方につけた。そして、そいつらはお父さんに言った。「湖の汚れを治して欲しい」と。お父さんは魔術にたけていた。なのでその依頼を遂行すべく、湖に行き浄化の魔術を使った。そしたら、湖から怪物が現れ、お父さんを喰らった。
表向きは不慮の事故となっている。だが真相は違う。
湖を汚した貴族が怪物を放ったのだ。そのため、魔術を行使されその怪物は怒り、お父さんを食い殺した。
これは事故では無いと言うもの居た。けどみんな殺されてしまった。
そして、貴女方もお父さんに恩があるにも関わらず見捨てた。
「どう?これで知れたでしょ?」そういうと三葉は手に薙刀を顕現させた。
「三葉さん。貴女は復讐するためにここに来たの?」警戒しながら茜は言った。
「答えはノー。私に復讐するつもりはない。昔はそうだった。けど、今は違う。私を変えてくれた人と出会ったから。いや、私の心の拠り所を見つけたから。」
「じゃぁなんで薙刀なんて持ってるのよ」当然の質問をした。
「復讐はしない。でも、貴女たちがやったことを忘れさせないためだよ」三葉は薙刀を茜に向かって伸ばす。
それを聞き茜は言った。
「わかった。忘れないわ。女将にも伝える…だから許されることではないけど、許してほしいわ。」茜は深く頭を下げた。
「私は言ったよ。復讐じゃないって。だから私は許す許さないを言わないよ。それと、まだ私を狙ってるやつらが居るの。だから他言したら消しにくるよ。」三葉は物騒なことを言った。
「わかったわ。あと、貴女を変えてくれた人って犀兎さん?」「うん。そうだよ」「そうなんだ。あなた愛されてるのね。」
「そうだと嬉しいな。」
「それと、犀兎は諦めて。」三葉はそう言い夜の静けさに消えていった。
「ッ!?」茜は自分でもわかるくらい顔を赤くしていた。
【翌朝】
「みんな忘れ物無いよね?」
「ないよー」
「わかった。行こっか」
みんな基本的に持ち物などは虚空のポケット的な所に入れてる。
特に荷をまとめることもなくロビーに向かうと茜さんとその後ろに。
「初めまして。私はこの旅館の女将をしています。若井 京香と申します。昨日は娘を助けていただきありがとうございました。なんとお礼をしたらいいか」
「いえ、お礼は大丈夫ですよ。僕らの意思で助けただけなんで。」
それを聞き女将さんは頭をさげた。
「それと、三葉様。誠に申し訳ございませんでした。娘から話を聞きました。」
「言った通り大丈夫ですよ。」
女将さんが土下座しようとしたが、三葉はそれを慌てて止めていた。
「失礼ながらお聞きしますが…皆様はもうお帰りですか?」
茜さんに聞かれた。
「はい。仕事があるので。」僕は言う。
「そうですよね。ここは満足していただけましたか?」
「はい。とっても」
そう言い僕らは旅館を後にした。
「なぁ三葉よかったのか?」桑棘が質問した。
「うん。いいよ。今更って感じだし。」
「三葉がいいなら私たちは何も言わないわ。」
「僕も同意だよ」
「みんなありがとう」
僕らは山を下り始めた。

第五章:魔術師暴走事変

軍の施設に戻ると、遠くから一人の少女が走ってきた。
「犀兎せんぱーい!!桑棘せんぱーい!!」赤色のショートの髪を揺らし目の前まで来た。
それを見るなり三葉と掠実が一歩前に出た。
「どうしてのかな?瑠唯るい
「質問。何か用?」
「お前たちに用はないのですよ」フンッっと顔を横に向けた。
三葉と掠実は怖い笑顔をしていた。
関崎かんざき 瑠唯るい彼女は僕たちの三つ年下の15歳でこの軍の少数精鋭第二部隊の隊長である。そして彼女は三葉と掠実にはなぜか冷たく接している。
それと彼女は僕たちを抜いた軍内の戦力ランキングは2位という実力者だ。
1位はというと第一部隊の隊長である。
その第一部隊は只今遠征中だ。
「まぁまぁ…で、どうしたの?瑠唯」僕が質問すると、
「犀兎先輩!何処に行ってたのですか?昨日は朝から居なくて心配しましたよ。桑棘先輩も」
「昨日はね、朝から闘技場行ってたんだよ。それで、ちょっとした休暇的なので温泉行ってたんだ。」
「えー!先輩なんで私も誘ってくれなかったんですか!私も先輩温泉行きたかったですぅー!」両手をバタバタしながら言う。
「流石に一つの部隊の隊長を一人だけは誘えないよ。」僕は苦笑いしながら言う。
「瑠唯!もう犀兎が困ってるじゃん」と三葉が言うと。
「うるさいのですよ」手でシッシとしてる。
「私も一応先輩なんだけど?」
「あ、ごめんなさ~い。三葉せ・ん・ぱ・い」と嫌味を込めて言っていた。
「もー犀兎ぉなんとかしてよ」
「二人とも落ち着いてよ…」僕はなだめる以外思いつかなかった。
そんなことをしていると、瑠唯が来た方向から4人の人が来た。
「あ、瑠唯隊長!走って行ったと思ったら、犀兎さんたちの邪魔をしていたんですか!」半分怒りながら一人の女性が来た。
「ゲッ、有斐ゆうひが来たのですよ…桑棘先輩助けてください!」と桑棘の後ろに行こうとしたら掠実に捕まり有斐さんに預けられた。
「あ、このお!ですよぉ!」瑠唯は掠実を睨んでいた。一方の掠実は知らん顔をしていた。
ごめんなさいと頭を下げてるのは、椎崎しいざき 有斐ゆうひさんで、第二部隊の副隊長だ。彼女は僕らより4歳程上だが敬語を使って話してくる。前に一度「敬語なんて使わなくていいですよ。」と言ったが、立場が上の者にはと言われ断られた。
「椎崎さん謝らなくていいですよ。迷惑なんて思ってませんし。」
そういうと瑠唯が嬉しそうに目を輝かせ、三葉と掠実は「おい」という感じに僕を見た。桑棘は仕方ないという顔をしていた。
「あっれー異端者部隊じゃん。」という声が後ろから聞こえた。
「おい!井吹いぶき しゅう!犀兎先輩になんてこと言うのですか!」と瑠唯が注意する。
「ッち。隊長ー事実を言ったまでですよ?」ポッケに手を突っ込みながら近づいてくる。
井吹 周。こいつの性格は荒い。こいつの得意な魔術は爆発系統。過去に何度かその魔術で注意を受けたことがある。
「おい、井吹。そういうことはやめろ。また注意をくらいたいのか?」
ガタイのいい奴が、井吹の肩を掴みなが言う。
「あーなんすか、泉野さん?言われなくてもわかってますよ。」
「すみません。犀兎さん。」
泉野いずの とおる彼はこの第二部隊の調和奇術師サポーターだ。
「あ、あのぉみなさん…集合があるのですが…」
後ろで、前髪が目まで掛かった子が言う。
「そうですよ、雫が言う通りですよ。」椎崎さんが瑠唯を引きずりながら歩き始めた。
大野おおの しずく彼女は第二部隊の不調和奇術師デバファーを担当している。彼女はいつも控え目で「私の事は気にしないでください…」と言ってすぐ逃げるのだ。
かなりの個性派部隊だ。
彼女らの後ろ姿をみて、
「犀兎私たちも戻りましょ。」
「あぁそうしよっか。」
そう言い僕らも歩き出した。

【1週間前<ミドラス>:地下極秘研究施設】
「研究長!やっぱりこの薬の研究は無理ですよ。いくらなんでも<アストリアル>の増幅剤は無理ですよ。薬で無理矢理増幅させれば使用者の精神と肉体が暴走してしまいますよ!」
「ならその使用者の形質変化を起こせばいい。そうすれば、その薬の暴走は起きない。」
「なにをバカなことを…」
「なら薬をもう一度やり直せばいい」
「・・・」場が鎮まる
「なんてことを俺自身だって言いたくない。だが、これは上からの指示だ。従うしかない。」
研究長らの話を笑いながら聞いている研究員が居た。
「っふ、実験が楽しみだ。」
そいつは被験者のリストを見ていた。
<最終実験対象>
「井吹 周」

【<ミドラス>軍第一施設:司令室】
「少数精鋭第二部隊<混色の正義ネメシス>ただいま参りました。」全員が啓礼し、司令官を見上げる。
「よく来てくれた。報告は聞いたよ。さすがの活躍っぷりだ。」
「お褒めに預かり光栄です。」瑠唯はピシッとした姿勢で答える。
「今回の任務だが、皆の知っての通り、<アクト>の動きが変だ。」
「なので君たちに調査を頼みたい。」
それを聞くなり瑠唯は言う。
「失礼ながらお言葉ですが、それは犀兎先輩方の役ではありませんか?」
「あぁ普段ならそうだね。でも今回<花園たちの夢ロスニヒル>には<ゲステア>での別の任務を与えてある。」
「左様ですか…」
「早速ですまないが、今夜から向かってくれ。」
「了解」5人同時に返事する。
「あぁ、一つ言い忘れていたよ。井吹君今回君は単独任務があるから少々残ってくれ。」
「え?あ、了解しました。」井吹は困惑の表情をして、もう一度啓礼した。
「人生初の単独任務頑張れよ。」泉野は肩を叩いた。
「井吹君。頑張ってね。」
「井吹がんばるのですよ」
「がんばってください…」
「っふ、まかせな。いい結果出してやるよ。」
そう言い4人は司令室を後にした。
「井吹君。君は<アストリアル>の量に不満を持ったことがないかい?」
「もちろんありまっ、あります。」
「そう口調に気を付けなくてもいいよ。」
「まじですか?」
「あぁ本当だよ。」
「本題だが、我が軍で研究してきた<アストリアル>増幅の薬が完成してね。持ってきてくれ」司令官は後ろの者に言った。
白衣を着た研究員がカバンを持ってきた。
なぜがその研究員の顔が優れていなかった。
カバンを開けると中には注射器を水色っぽい液状の薬が入っていた。
「これがつい最近完成した<アストリアル>増幅剤。」
「<アストリアル>増幅剤…そんなもん作られたんすか…」
「あぁ。名を<テスカトリポカ>という。」司令官は笑いながら言った。

【<ミドラス>:<花園たちの夢ロスニヒル>専用シェアハウス】
「うぅー明日からまた<ゲステア>での徴兵官…」三葉は悲しそうに言う。
「任務なんだし仕方ないよ。でも今回は全員<ゲステア>での任務だからすぐ会えると思うよ?」僕が言うとすかさず桑棘が
「違ったとしても、<ゲステア>の移動技術があるから大陸間の移動もすぐだしな。」と言う。
「そーでよね。よーし明日からもがんばるぞー!」
「明日は朝一からだから今日は早く寝るかー」
「感動…桑棘から真面目な意見が出てくるなんて」
「掠実。馬鹿にしてるにか?」
「冗談。少ししかしてないから安心して。」
「してるじゃねぇーかよ」
そんな会話をしながら僕らは明日からの準備を始めた。
「あ、書類を持ってくるの忘れた。取りに行ってくるねー」僕はみんなに声をかけ施設に向かった。
施設に入ってすぐ横から声をかけられた。
「あ!犀兎先輩!!お一人なのですか?もしや、三葉に捨てられたのですか?」と瑠唯に問い詰められる。
「いや、捨てられてないよ。普通に資料を取りに来ただけだからさ」と苦笑いで答える。
「こら、瑠唯ったら私たちも今からの準備があるから。犀兎さんにも迷惑かけないの。」と椎崎さんが言った。
「なにかあるんですか?」
「はい。明日から<アクト>に調査しに行くのです。調査期間は1週間らしいです。」と資料を見せてくれた。
「<アクト>にですか…気をつけてください。助言とまでは言えるものではないのですが、<ルミナス>の兵器には警戒を。」前に<夢知>でみた兵器を思い出しながら言う。
それを聞くなり椎崎さんはキリっとした表情に変え言う。
「わかりました。心に留めておきます。」
僕は一つ違和感を覚えた。
「あれ?そういえば、井吹が居ないようですが」
「井吹君は…単独任務があるとか…」と大野さんが答える。
「へぇ~単独ね…」僕は少し疑問に思った。
「犀兎先輩も明日から<ゲステア>なんですよね?」
「そうだよ。あれ?なんで瑠唯が知ってるの?」
「先程司令官が言っていたのです。」
「そーなんだ。」
「それより、1週間も犀兎先輩に会えないのは悲しいのですよぉー」と手をバタつかせ言う。
「まぁ僕自身も招集が無い限り<ゲステア>に居ることになるみたいだし…」
それを聞くなり瑠唯はガーンとした表情を取った。まるで魂が抜けたみたな感じだ。
「なら見送りに行くよ。」と僕が言うと瑠唯は嬉しそうな顔をした。
「犀兎さん。申し訳ないです…」椎崎さんが言う。
「これくらいいですよ」こうして僕は資料のことを完全に忘れ、瑠唯たちの見送りに行った。
その場には井吹も来ており、別れ際僕が単独任務の事を言ったら、
「異端者に言われなくともがんばりますけど?」と言われた。まぁなんと扱いが難しいことだか…
【翌日】
<ゲステア>には船を使って行く。
科学技術のおかげでかなりの速度で移動ができる。
でもやっぱ魔術での加速よりは劣るかな?
<ゲステア>には空を飛ぶ乗り物があるらしいが、<ミドラス>には残念ながら、まだ飛行場が無いため使用できない。
そして僕は向かってる途中に思い出した。
「ああ!」僕が声を上げると三葉が「どうしたの!?」と焦ったように聞いてくる。
「資料忘れたまんまだった!」
「え?お前昨日取りに行ったんじゃないのかよ」
「瑠唯たちを見送りに行って忘れてました…」
「ばかだな。」「バカね。」掠実にも煽られ、
三葉には「犀兎…」と哀れな目で見られた。
人なんだしやらかしだってするよ!
「走って取ってきます…」
「えぇそんなことしなくても、一回着いてからにすればいいのに」
「いや、あの資料が無いと日程を組めなくて…」
三葉に説明をし、取りに行ってもいいと許可が下りた。
次からは無いようにね!と三葉にビシッと言われた。
面目ない…
取りに行く方法は簡単<超加速アクセリル>と<影踏みシャドウステップ>という魔術で海面を蹴りちょっとした飛行をし取に行く。
三葉がバフをかけると言い断ろうとしたが、三葉の圧には勝てなかった。
【2時間後】
「ふぅ着いた。三葉にバフかけてもらってよかった。最初断ってすみません…それと、飛んできたから何度か漁師さんを驚かせちゃったな。ごめんなさい。」
「基地まで30分くらいかな。さーてもうひと頑張りするか!」僕は伸びをし、再び走り出した。

【同刻<ミドラス>:第一施設:野外訓練場】
開けた場所に井吹周が立っていた。
スピーカーから声が聞こえる。
「井吹君。声は聞こえてるね?」
井吹は右頬を吊り上げ、笑いながら管理棟に合図する。
「では<テスカトリポカ>を使ってみてくれ。」
井吹は言われた通り<テスカトリポカ>を手に取った。

俺は子供の頃から魔術に才能があると言われ続けていた。
<ミドラス>にある魔術の学校も成績トップで卒業した。
周りからちやほやされ楽しさに浸かっていた。
そして、俺は当然の如く魔術部隊の精鋭として軍に入った。
勿論。俺は最初の頃ここでもトップになれるだろうと思っていた。
だが、現実は違った。
上には上が居た。
うちにの部隊の隊長だってそうだ。
だが、それよりすごいやつらに会った。
そう。それがあの異端者の4人だ。
俺はあの4人の模擬戦を見たことがある。
最初見たときはなぜあいつらが上なのか理解ができなかった。
ろくな魔術を使わないわ、つるで攻撃するなどと、全くもって理解ができなかった。
そんなちっぽけな魔術を使ってるやつに負けるなんておかしい。
俺の方が絶対強いだろうと思っていた。
それで俺は調子に乗り、その部隊の隊長犀兎に模擬戦を申し込んだ。
最初周りからやめるように言われた。勝てないと言われた。
俺はその場をそんなこと知らねえ。と押し退けた。
模擬戦の開始と共に異端者が出した武器は短剣だった。
魔術を使うまでもない相手だと、舐められてるのだと思った。
だから俺は怒りと共に魔術を使った。
異端者。いや、犀兎さんはすごかった。
なぜかって?それは、俺の魔術を短剣で切り裂いたからだ。
その時の俺は否定したかった。魔術を切れるはずがないと。
撃っても撃っても切り落とされる。
恐怖だったんだろう。
そして俺はそのまま犀兎さんに詰められ負けた。
今考えるとわかる。犀兎さんはちゃんと魔術を使っていたと。
多分だが、犀兎さんは<論理加速ロジシャル>と付与魔術を使っていたと思う。
そう思うと俺は馬鹿だな。
腰を突き負けた俺に犀兎さんは優しく手を差し伸べてくれた。
そして、犀兎さんはよくない点を一つ話してくれた。
その時。犀兎さんがかっこよく思えた。
犀兎さんみたいに強くて優しくかっこよくなりたいと。
だが、俺の悪い所が出た。
強がってしまった。
そのせいで俺は犀兎さんに対してどう接すればいいかわからなくなり、今みたいな態度を取るよになった。
昨日だってそうだ。犀兎さんに「がんばれ」と言われた時は嬉しかった。
でも。悪い癖が出てしまって「異端者」と呼んでしまった。
司令官に<テスカトリポカ>の話をされた時、俺はついていると思った。
これで強くなれば犀兎さんとちゃんと話せるようになる…
「犀兎さん…」
そうして俺は注射器を刺した。

体が温かくなる。バフをもらった時と同じ感覚だ。
「どうだい?井吹君。」
「あぁめっちゃいい感じだ!」
今ならすごい魔術が使えそうだ。
「なら試し撃ちしてみてくれ。」
その声と共に巨大な猪の魔獣が放たれた。
魔獣それは<アストリアル>を過度に受けた動物。
<アストリアル>に対して耐性がある生物。
だが、
「多少の耐性なんて無意味なんだよ!」
「中級星々魔術:<爆炎ブレフローガ>!」
紅き炎により放たれた、猪の魔獣は一瞬で灰と化した。
「っははは!」高笑いする。
「もっと…もっと強い魔獣を出してくれよ!犀兎さんに強い姿を見せるんだ!!」狂ったかのように笑いながら言う。
次に放たれたのは熊の魔獣だった。
そいつは井吹を見るなり凄まじい勢いで走ってくる。
そして前足で攻撃をしてくる。
それをいとも簡単に避ける。
「軽い!<アストリアル>の循環が良くなって体が軽いぜ!」
「上級星々魔術:<爆裂火柱ペアフレア>!!」
高熱の紅蓮色の火柱が熊の魔獣を溶かす。
炎が消えると跡形も無く熊は消え、地面も炎でえぐれていた。
「あぁ!!いい素晴らしい…!!はぁはぁ…あ?」
井吹は自分の体に違和感を覚える。
「あ?なんだこれ…」自分の左の腕を見ると少しずつ紫色の何かが広がり始めた。
そして、その皮膚を触った途端。腕が痙攣けいれんし始める。
「なんだよ!なんなんだよこれはッ!!!!」
刹那、紫色が全身に広まる。
全身が痙攣を始める。
井吹の体は異常と言える量の<アストリアル>の吸収を始めた。
そして、井吹自身を核とするようになにかが構成される。
「嫌だ…やめろ!うわぁぁあWAAAAAAOAAAAWAAA!!!!」
そのなにかは10メートル程の大きさまで伸び、不純度の<アストリアル>を含む咆哮をした。

「ふぅ資料回収完了っと。さて…戻りますか…」犀兎は汗を拭い言う。
一息着こうとすると…
「ッ!!」体の奥に眠るなにかの感覚が警告を告げる。
「WAAAAAAOAAAAWAAA!!!!」外から咆哮聞こえる。
(なんだこの気持ち悪い<アストリアル>は!)
無意識に体が動く。
外に出るともう一度咆哮が聞こえる。
(方角的に野外訓練場か!)
(っく…さっきからなんなんだ…!)
(この押し潰されるような感覚の気持ち悪い<アストリアル>は!!不純物が多すぎる…!これは…!これは<アストリアル>の禁術加工か!?)
(急がないと…!)焦燥に駆られる。
(でもなにか変だ…禁術加工は少し違う…もしや科学技術がッ!?誰が、誰がしやがった!!)僕は再び<超加速アクセリル>を展開して向かう。

【同刻:管理棟】
「おい、これはどういう事だ。」
「わかりません!試作品の時と違う数値が表示されています!」
「これは…暴走です!」
「…暴走だと!?なぜだ!」司令官は机を叩く。
管理棟に居る研究員達はデータの観測を始める。
すると、一件の通信が入った。
「やぁ司令官さん達。お前らは今相当焦ってるだろ。あの怪物を何とかしないといけないと。っふははは、無駄だよ。あの化け物は暴走を始め、最終的に大量の<アストリアル>を溜めて…爆発する。っはは!精々足掻くんだな!」愉快そうな声が聞こえる。
「この声…フェンダリアか!貴様!お前は<ゲステア>の研究員じゃなかったのか!」司令官は怒鳴り言う。
「ええ。そうですよ。本来なら<ゲステア>で間者をするつもりでした。けど、なぜか、上手くここまで侵入できてしまってねぇ!!っははは!お前らの管理の甘さを裏目に出たな!」
それを聞くなり司令官は拳に力を入れ、怒りを露わにする。
「<フェンダリア>…裏切者か。<ルミナス>と<アクト>の両国での裏切を意味する名をもじったのか。」僕はそう言いながら、管理棟の指令室に入って行く。
「犀兎?!<ゲステア>に行ったのでなかったのか?」司令官は後ろから僕の声が聞こえ驚いている。
「はい。一度向かいましたけど、途中で忘れ物に気付き戻って来たんです。」
「で?これは一体どういう状況なんですか?」
「見ての通りだ。暴走している。」
「この<アストリアル>の気配。井吹ですよね?」
「あぁそうだ。」悲しそうな顔をし、司令官は頷く。
「やめてください。」
「え?」
「やめてくださいと言ってるのです。彼はまだ暴走していません。暴走しているのは彼を取り囲んでいる何かです。まだ彼の純正な<アストリアル>が感知できます。なのでその様な兵器で彼を殺そうとしなでください。」司令官は何かしらのボタンの準備をしていた。
「わかった。」司令官は頷く。
「おい。聞こえてるか?フェンダリア。僕の後輩をかわいがってくれたみたいじゃないか。貴様はこの施設からは逃げられない。井吹をなんとかしてから貴様に地獄を見せてあげるよ。」僕は笑いながら言った。
「あー?なに無謀なことを言ってるのかな?」と不愉快そうな声が聞こえる。
「既にこの施設の周りには<物理貫通不可マテアベラスト>の結界を張ってあるんだ。無理矢理になんて通れないよ。まぁ言葉のお返しという事で言うけど、頑張って足掻いてみるんだな。」僕は煽り口調で言う。
フェンダリアは黙る。(なんでだ!?なぜ化け物の魔術師が居るんだよ!?<物理貫通不可マテアベラスト>だと!?ふざけるな!化け物の結界なんて壊せるはずがないだろ!!)
平然を装い言う。
「…っふははは、結界だぁ?関係ないね!<テスカトリポカ>で怪物となったアレが結界諸共破壊するわ!」
一見余裕をかましてる様に思えるが、声から少しの焦りが感じ取れた。
「<テスカトリポカ>…異端の悪魔か。いい名の趣味をしてるな。司令官。通信機を常にオンラインに、それとやつをまだ拘束しないでください。話してて思ったのですが、定型的な悪役ならなにか言いそうなので。」笑いながら言う。
「ではお前に緊急任務を与える。<魔人:テスカポ>の暴走を止めよ!」
暴走状態の井吹に討伐名が付く。
「了解しました。任務を無事遂行させます。」僕は井吹の所に向かった。

カバンとタブレット端末を片手に走る男が居た。
「まずい、まずい!このままでは捕まってしまう!なぜだ!何故よりにもよって世界の理をも越えようとする異端者が戻ってくるんだ!」
フェンダリアは息を切らしながら野外訓練場の森の中に入って行く。
彼のタブレットには<魔人:テスカポ>のリアルタイムの映像が流れていた。
「どうにかして隠れなけば…!」当たりを見渡すと偶然訓練用に使われている塹壕ざんごうがあり、その溝に隠れた。


<魔人:テスカポ>に近づくにつれ禍々しい<アストリアル>を感じる。
「<武器生成>井吹今助けるからな。」両手に生成した武器に魔術を付与する。
「付与:<風化ウェドル>付与:<炸裂化エクリクス>」詠唱など僕には必要はない。
<テスカポ>は黒や紫など如何にもヤバいと感じさせられるオーラを放っている。
「AA?犀兎…さん…助けて…」井吹の声に低いが重なった不気味な声が聞こえる。
助けを乞うと同時に右手を翳す。
すると、
「やめろぉおWOOO!!犀兎さんを…殴ろWOOとするなぁあAA!」
「井吹…お前…」僕は井吹の心の深くにあったものを理解しハッとする。
「やめろ!!YAMEROOOOO!!!俺から出ていけえEEE!!」10メートル級の怪物がジタバタともがく。
「あぁ!!あああAAA!!!やめ…ろWOOOAAOOO!!!」
咆哮と共に魔人が突進してくる。
「飲み込まれたか。でも大丈夫。僕が君を助けてあげるから。」
犀兎はなにかを決心したように頷く。
「<超加速アクセリル><論理加速ロジシャル>」
超スピードで前進し、視覚に入る。そして右の肘を狙い、両手の剣に思いっきり<アストリアル>を流し込み、二連撃を入れる。
(思った以上に柔らかいな…)
そして<テスカポ>の右腕は掻き切られ、群青色の血らしき液体が飛び散る。<炸裂化エクリクス>の効果もあり派手に散らした。そして、<風化ウェドル>の効果で少量ずつ皮膚が削れていく。
切れた場所をみて確信する。井吹の体はやつの腹部ら辺で核になっているという事に。
シュゥゥゥーッ。血らしき液体が僕の服に着き、服を溶かし始めた。
「穴開いちゃった。まったく…どうしてくれるんだよ…」
(周りの肉塊は不純物ばっかだけど、血みたいのは純度が高すぎる<アストリアル>か。)
返り血には気を付けよと思いながら再び構える。
<テスカポ>はバックステップし犀兎から距離を取った。
すると、<テスカポ>は目を疑うような行動にでた。
「WOAAAOOOOAAA!!!」
咆哮しながら、自分の右腕を肩ら辺から根こそぎ抜き取った。
刹那。新たな腕が再生する。
通信機から管理棟内の声が聞こえる。
「再生だと!?おかしい…速度が異常すぎる!」
「っははは!アレは<アストリアル>がある限り無敵なんだよ!そして、そいつは人を核としている…どういう意味かわかるか?」やはり思った通り話してくれた。
「人の頭脳を使い予測・学習が可能。そして強化により適合しやすいと。」
「そーだ!だからお前が頑張って救おうなんて無駄なんだよ!」
「そっか。なら簡単だね。再生できないようにすればいいんだ。」
「…何を言ってるんだ貴様は?」
あいつがなんかごにゃごにゃ言っているがうるさいから気にしないことにした。
そして僕はもう一度構え、そして、相手の死角へと消える。
「ガハッ!?」腹部に強い衝撃を感じる。
攻撃をくらいすぐに防御態勢を取ったが4メートル程飛ばされた。
一撃が重い。
「っく…予測攻撃おかしいでしょ…」思いのほか井吹の対応速度の良さに驚く。
こうなってくると色々大変だな…一度使った技はほぼ対策されるだろうし、魔術での攻撃は下手すると井吹に危害がありそうで怖い。
なら一度切れるとこまで切ってみるか。
風化ウェドル>の付与を解除し、<風蝕ウェウィード>を付与する。これにより先ほどより蝕まれる速度が上昇する。
犀兎は先ほど同様死角に素早く入る。すると顔に向けて殴りを入れらそうになり、すかさず<影跳びシャドウ>で反対側に飛び一撃入れる。
左足に当たり左足が弾ける。
それでもなお遠心力を使い殴ってくる。瞬間<反撃奇術師マジシャルカウンター>発動。そして両剣で受け流し、<炎息吹ブレイズ>を撃つ。紫色と化した炎が腕にまとわりつく。それにより生まれた隙を逃さず、犀兎は目にも止まらぬ速さで左腕を木っ端微塵にする。<風蝕ウェウィード>が効果を発揮し、さっきと比べモノにならない速度で肩の方まで蝕まれ始めた。
僕は確信する。(魔術への耐性が尋常じゃない…!)
<テスカポ>はバツが悪そうにし片足のみで後ろに下がる。
先ほど同様やつは左足左腕を引きちぎった。
まぁなんと痛そうなことを。
でもわかった。ヤツへの攻撃法が。
僕は後ろの下がり、両手の剣を手放す。
高い金属音と共に剣は地面に落ちる。
<テスカポ>は警戒しながら犀兎の行動を見る。
「<武器生成:カスタム:剣身ブレイド:≪Hg+Zn水銀+亜鉛≫>」魔術による武器の生成。魔術…それは、科学では不可能も可能にする。
銀色の液体金属が犀兎の手の中で剣と化していく。
犀兎は魔術で強制的に水銀と亜鉛を短剣に変えたのだ。
見た目は銀剣と変わらない。
もちろん刃には水銀と亜鉛の毒性が健在している。
全ての液体が固体になるのを確認し、剣をクルっと回し言う。
「さて、もう一戦としますか。」笑みを浮かべ言う。
犀兎が構えると同時に、ヤツは自分の腕の皮膚をむしった。血らしき液体が垂れる。その液体は徐々に個体と化し一本の大剣となった。
(<アストリアル>の血みたいのも操れるのかよ?!今更武器を出すという事は…対策か…)
犀兎が動くと同時に<テスカポ>も動く。
剣と剣が交わる。硬くも柔らかくもない不思議な感触だ。
そんなことよりも、速い!そして重い…!デカい図体してる割には動きが異常な程の速さとそのデカさを生かした重量攻撃。
簡単攻撃が入らなくなり、傷に使う<アストリアル>が無くなり、どんどんと<アストリアル>が蓄積される。
先ほどから剣に<風蝕ウェウィード>を使用しているが、剣の<アストリアル>の純度が高すぎて効果があまり期待できない。
連撃も簡単に防がれるようになった。
<テスカポ>が力ずくで犀兎を弾く。そして、思いっきり剣を叩きつける。
犀兎はそれを剣をクロスさせひざまずくように受け止める。
僕は一つの賭けにでる。もし、井吹の感覚で動いているのなら、<烈発光フラッシュ>で動きを鈍らせることができるかもと。そして、僕は大剣を弾くため、
炸裂・烈発光エクリクス・フラッシュ>を使う。
ピギュイーンと強烈な発光と共に小さな爆発が起きる。そのタイミングで犀兎は<妨害解除パリキロシャル>を発動。
<テスカポ>は先ほどの発光が効いたらしくよろめく。
(よし…!行ける!)そう思い裏を取ろうとする。
だが…犀兎の腹部に剣のエッジ部分が貫通していた。血が染み出す。
「グッ…ハ…」ゴボっと口から血が吹き出す。<テスカポ>は感覚的に剣を振るい犀兎を刺したのだ。そして、<テスカポ>は勝ちを確信した。
しかし"ソレ"は貫通した剣を握り笑う。そして"ソレ"の形は崩れ溶けていった。
それと同時に<テスカポ>の視界がぐわんと下方向に傾く。
そして、気付いた時には両手、両足が切断されていた。
そして振り向くと犀兎が立っていた。
「惜しかった。でも残念それは<デコイ>だよ。」
それを聞くなり<テスカポ>は怒るようにして、"傷口に付着した銀色の液体を取り込みながら"四肢を即再生させようとする。
「やっと取り込んでくれた。」犀兎は笑いながら言う。
犀兎の短剣を見るとエッジの部分が異様に小さくなっていた。
<テスカポ>は異常に気付く。
「不思議だよね。再生しないの。一個いいことを教えてあげるよ。お前も聞いとけよ、フェンダリア。」
「水銀と亜鉛の毒性ってわかるかな?簡単に説明すると、水銀は神経に対する異常が起こり、亜鉛は成長阻害が発生する。再生できなのは亜鉛毒のせいなんだよ。」そう言い僕は<テスカポ>を木っ端微塵にした。
すると、核であろう井吹が出てきた。井吹を抜き取ると共に肉塊は存在を維持できなくなり消失した。
僕は念のためにと井吹に<浄化再生リファクション>を付与する。
「嘘だ!嘘だ!なんで!なんでなんだ!!」とフェンダリアを声が聞こえるがそれを無視し井吹を背負いながら管理棟に戻る。
救急の魔術師に井吹を預ける。
そして僕は啓礼し、司令官に報告する。
「対象の消滅を確認。任務完了です。」
「あぁよくやってくれた。期待通りの活躍だった。疲れてるとこ悪いがもう一つ任務をしてもらってもいいか。」「はい。」「裏切者を捕らえここに引きずり出してこい。」「了解です。<影跳びシャドウ>」実体が影へと溶けていく。<影跳びシャドウ>はハッキリと見えてる所には飛べるので僕は野外訓練場に戻る。
 【数分後】
管理棟内に影が立体的に構築させ、人物が現れる。
「捕らえて来ました。」
「このクソが!」と五月蠅かったので僕は<拘束せしは悪夢の鎖レストメアレイト>で黙らせた。
「こいつの処理はまた後日行う。それまで牢に入れておけ。」フェンダリアは連行されていった。
「いいか皆よ!今後のために内部の見直しを行う!この基地に居ない全部隊を招集せよ。」
「「はッ!」」

【後日】
フェンダリアは軍内の混乱を招いたとして処刑された。
「犀兎!大丈夫だった!?」三葉が急足で近いて来る。
「うん。大丈夫だったよ。」
「うう…よかったよぉ…」三葉は嬉しそうで悲しそうな表情を浮かべた。
「三葉?ど、どしたの?」
「犀兎が無事でよかったけど…私なんも力になれなかったなって思って…」
「ううん。三葉は力になってくれたよ。資料取りに行くっ言った時バフを掛けてくれたでしょ?お陰で早く戻って来れたんだから。」
「ほんと…?」
「もちろん本当だよ。それと今回の戦いで思ったけど、僕には三葉が必要だってわかったもん。」
「え?」不意に言われた三葉は驚きを浮かべる。
「バフもそうだけど、三葉が後ろに居てくれるって思うだけで全然違うんだ。だからこれからも一緒に居て欲しい。」微笑み言う。
「…え?」
「え?…ッ!」
自分は意識などせずに言った事の意味を理解する。
「あ、あの!こ、これは…!」僕は一応弁明しようとする。
「う、うん…犀兎がいいって言うなら…私はいいよ…」三葉は顔を真っ赤にし、頷く。
「いいの…?」
「…うん…」
互いの顔が赤色に染まる。
すると?遠方から声が聞こえる。
「犀兎せんぱーい!!大丈夫ですかー!?」
声の主はもちろん瑠唯だ。
「ああ!!三葉!こんな所でイチャつくなんて!」と大きい声で瑠唯は言う。多分確信犯だろう。
「いちゃ…!?」それを聞き三葉は熱があるのではないかと思うくらい顔を真っ赤にする。
「瑠唯…な、なにか用でもあったの…?」
「はい。犀兎先輩、井吹が目を覚ましました。」
「そっか。よかった。なら顔でも見に行こうかな。」
「犀兎先輩。お願いします。」瑠唯は一礼した。
「三葉はどうする?行く?」「ううん。私はいいよ。」
「わかった。じゃぁまた後で。」「うん!」
「じゃ行こっか瑠唯」「はい!犀兎先輩!」瑠唯は嬉しそうな顔をする。
井吹が目覚めて嬉しいのだろうか?
三葉は殺気のようなものが込められた目で瑠唯を見ていた。

【<ミドラス>:軍病院】
「ここです。先輩」瑠唯は優しくドアをノックした。
「井吹私です。中に入りますよ。それと、お見舞いに来てくれた人もいるのですよ。」そう言いドアを開ける。
「あぁ?誰だよお見舞いに来た奴は?」井吹が言う。
「はぁ…この人ですよ。あなたを心配して来てくれたのですよ。」
僕はひょこっと顔を出す。
「やっほー井吹調子はどう?」
「せ、犀兎さん!?」先程のオラオラ感が消える。
「井吹!あなたですね!また犀兎先輩に対してそんな『さん』なんて…え?『さん』!?」瑠唯は井吹が僕を『さん』付けで呼ぶことに相当驚いているようだ。
「うるせーぞ、病院で騒ぐな瑠唯隊長。」「あ、すまない…」
「で?体調は?」と僕は尋ねる。
「大丈夫です…特に変な感じはありません。なんというか…強大なバフが切れたような感じがします。」
「そっか。ならよかった。数日で良くなりそうだね。」
「はい…」井吹は俯く。
「犀兎さん…その、怒ったりしてないんですか?」
「怒る?僕が?」「はい…」「そんなこと思ってないよ。」
「僕は最初単独任務と言われ浮かれ…挙句の果てには薬の制御もできず…犀兎さんに迷惑をかけてしまいました…」
「迷惑なんて思ってないよ。それと薬は改造されたものだし仕方がない。暴走はいい経験になったよ。だから…周。迷惑ではなかったよ。」
「犀兎さん…!」井吹は涙を流した。

後に魔術の学校や軍の魔術団で語られるようになった<魔術師暴走物語>はここで幕を閉じた。

【《或ル何処カ彼方ノ次元デ》】
或る銀髪の少女は大きな画面を不思議そうに眺めていた。
「第七宇宙の星の運命はとてももろいのになぁ」
その画面に映し出されている木の枝は今にも消えそうになるほど細くなったり、元の太さに戻ったりを繰り返している。
「お姉様の子がなにかしてるのかな?<運命の世界樹>の詳細を表示」
<:承知シマシタ。詳細表示シマス。>
<:詳細表示ガ拒否サレマシタ。>
「お姉様も悪戯がお好きなようね。でも、舐めないで頂戴。私だって運命の女神になったのだもの。これくらい突破できるわ。」そう言い少女は浮かび上がったキーボードを打ち突破を試みる。
「できた。」少女がそういうと画面が変化した。
「へぇそうなんだぁ。やっぱお姉様の子だ。」
枝の先まで一つずつ見ていく。
枝が無くなったと思ったら再び伸び始めた。
「あれ?なんで伸びたんだろう?」
<詳細:星脈破滅生物ノ消失ヲ確認>
「ふーん。さすがお姉様の子だわ。」
「それで、次の運命はーっと…これは面白そうな運命…次が楽しみだわ。」
そして、少女は楽しそうに体を揺らし伸びをした。
<詳細:ーーーーーーーーーー現在ノ言語デハ読ミ取リ不可


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