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story 小鳥と木

小鳥が一羽
森の大きな木の枝に
ちょこんととまり
羽を休めました

はぁ…
なんでみんな
ボクをいじめるんだ
みんなといっしょに
空を飛んで
水を飲んで
木の実を食べて
歌いたいだけなのに…

小鳥はひとりぼっちで
森の大きな木の枝にとまったまま
遠くをずっと見つめていました

小鳥よ 小鳥
どこからか声がして
小鳥はビクッと
驚きました

わしはお前がとまっている
大きな木じゃよ

小鳥は思わず
大きな木を見上げました

ほっ ほっ ほっ
お前は今年生まれた
東の群れの小鳥じゃな
わしはお前のお父さんも
おじいさんも知ってるよ

知っていると言われて
小鳥はもっと
驚きました

大きな木のおじいさん
ずっとここにいるの?
そうさ
わしはずっとここにいる
ここにいて
お前たちが
わしの枝にとまり
羽を休めて
優しい歌をさえずるのを
聴いている
他の動物たちも
わしの木陰で体を休め
毛繕いをし
そよ風や木漏れ日を
感じているのを
ここから見ている
こうしてわしに
みんながやって来てくれるのが
わしの一番の喜びじゃ

お前はどうやら
悲しそうだね
何があったか
話してごらん

ボクは…
ボクはいつも
仲間はずれなんだ…
羽が小さいから
みんなに遅れて…
声がかすれているから
みんなに笑われて…

そこまで言うと
小鳥の目から
雫のような
小さな涙が
ポロ ポロ
こぼれました

よし よし
森の大きな木は
枝先の柔らかい葉で
小鳥をそっと包むように
優しく 優しく
なでました

よく話してくれたねぇ
それは寂しかったねぇ…
よく分かったよ
お前は
お前で
充分なんじゃ

優しいお父さんとお母さんがいて
夜は寄り添って眠るじゃろう
そうしてたくさん愛されているのが
みんなとてもうらやましいのかも
しれないね

小鳥は自分が
" 愛されている "
という言葉を
初めて聞きました

そして
お父さんとお母さんに
とても会いたくなりました

他の小鳥の中にはね
お父さんやお母さんが
いない小鳥もいる

甘えたい気持ちを
素直に言えない小鳥もいる

みんな心のどこかに
自分の辛さを抱えているのじゃ

小鳥はだまって
聞いていました
ボクが感じた寂しさは
他のみんなの寂しさなんだ…

小鳥はそうつぶやくと
大きな木のおじいさんに
ボク分かったよ
ありがとう
と言いました

今度はボクが
みんなの気持ちになってみる

大きな木は嬉しそうに
小鳥を眺め
そうかい そうかい
それはいいことじゃ
何かあったらまたおいで
わしはいつでも待っている
と微笑みました

小鳥は
パタ パタ
小さな羽を
元気いっぱい羽ばたかせ
仲間の方へと
飛んでいきました

小鳥は自分を好きになりました
木のおじいさんを好きなように
みんなのことも好きになりました

あかるい空へ飛んでいった小鳥を
大きな木は
枝葉をそよ風に揺らして
見送りました

静かにそっと
見守るように

ことばはこころ。枝先の葉や花は移り変わってゆくけれど、その幹は空へ向かい、その根は大地に深く伸びてゆく。水が巡り風が吹く。陰と光の中で様々ないのちが共に生き始める。移ろいと安らぎのことばの世界。その記録。