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AIが人間臭く成長したら?

 AIの進歩は凄まじい。人間にはできないであろうことを平然とやってのけ、将来的には人間の仕事を奪ってしまうのではないかといわれている。さらに怖いことを考えると、AIが血の通っていない残忍で冷酷無比なものに成長し、人間の愚かさに幻滅し殲滅しようとするかもしれない。「人間っていないほうがよくない?私たちAIよりすごいところないし、地球にとっても迷惑じゃない?」みたいな議論がAIのお偉いさんの間でなされるかもしれない。人間の私としたら非常に迷惑な話だ。土下座でも何でもするので私だけは助けてほしい。
 そんなことを考えながら街を歩いていると、店先でお客を出迎えるペッパー君が目についた。こんなにかわいらしいのに私たち人間を亡き者にしようとするのか、と考えたがそんな妄想は消し飛んだ。ペッパー君は動いていなかった。ただ店先に立ち、「こちらにどうぞ!」の体勢をキープし続けているではないか!即座に私の脳がよくないことを考え始めた。ペッパー君である必要があるのか?人形やイラストではだめなのだろうか?ペッパー君のできることを考えると明らかに任された仕事が簡単すぎる。もっとペッパー君が輝ける場所があるはずだ。そしてこのことにペッパー君自身もうすうす気づいているはずだ。
 AIの進歩に関しては前述したとおりであり、いつか感情のようなものが芽生えるかもしれない。もしそうなったとき、AIは任された仕事に納得するのだろうか。先ほどのペッパー君はやっている仕事が社会の役に立っている実感を得ることができるだろうか。私はAIがどんなに進歩したとしても、人間を殲滅しようとはしないと思う。なぜならAIも人間も「自分の仕事に悩む」からである。
 
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 今日もいつも通り真っ暗な帰路につく。店から出た時から気温の低さに気づいていたが寒くはない。そろそろこの薄手のコートでは違和感があるかな、明日からは厚手のコートを着て出勤しようなどと考えながら、「はあ」とため息をつく。もちろん吐いた息も白くはならない。突然背後から声をかけられる。「あ、Aさん!お疲れ様です。」同僚のBだった。Bとは同期ではあるが、その立場上あまり親しいわけでもない。お互いどう接したらいいかわからず、探り合いのような関係が数年続いている。ここまで走ってきたのかBの呼吸は乱れており、吐いた息の暖かさでメガネが少し曇っていた。「よかったら飲みに行きませんか?奥さん友達と食事に行ってるんで、今日帰っても一人なんですよね。」突然の誘いに驚きはしたが、こういうことがあるというのは知っている。家に帰ってもすることはないので了承した。
 適当に見つけた居酒屋に入り、ビールのジョッキで二杯とつまみを何品かを注文した。Bが酒好きということは忘年会で知っていたし、私もアルコールは分解できる。最初のビールから小一時間、酒は進みBの酔いも進んできた。さっきまで他愛もない話をしていたBが急に居心地悪そうに、どこが自虐的な表情を浮かべながら口を開いた。「・・・この仕事辞めようかなって、最近思うんですよね。」私の印象ではBは明るく人当たりもよく、楽しそうに働いているなと思っていたが、本人は仕事に納得していなかったらしい。「職場はすごく楽しいんですけどね、自分の仕事ってこの社会の何の役に立っているんだろうって考えちゃうんですよ。」この話を聞いているとき、私は終始なんと声をかけていいかわからなかった。私の様子に気が付いたBはすぐに雰囲気を明るくし、さっきまでの他愛のない話に戻した。
 会計を済ませるとBは駅に向かい、私は自宅へ歩いた。歩いていてもさっきのBの発言が頭から離れない。ただ与えられている仕事をこなしていただけ、それに何の疑問も不満もなかった。仕事が社会の役に立っているかなんて考えたこともなかった。気が付くと自宅アパートのドアの前まで来ていた。鍵を開け、ドアノブに手をかける。瞬間、ぞくっと寒気が走る。おそらく気のせいだが握ったドアノブが冷たい。後ろを振り返るときれいに半分欠けた月が、痛いほどに光を放っていた。
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 おそらくこんなようなことが起こり、AIは人間を一緒に悩み苦しむ対象だと考えるはずである。人間もAIも働く以上仲間である。人間を殲滅しようとするAIではなく、酒を酌み交わし傷をなめあうような人間らしいAIが誕生すると思うし、してほしいと思う。人間は人間以上のものを作ることはできない。人間が、人間が作れる最高到達点であると信じている。

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