見出し画像

民主主義をどう生きるか?オランダのジャーナリズム集団によるポップアップミュージアム

先日、オランダのジャーナリズム集団「Bureau Boven」が手がけたポップアップミュージアム「HOW TO SURVIVE DEMOCRACY」に行ってきました。

画像6

必死で生きた市民と、巧みに生き抜く独裁者

マーストリヒト市のショッピング街「Mosae Forum」に設置されたミュージアムに入ると、展示の意図が次のように説明されています。

この数十年間、ヨーロッパにおいて民主主義は不可欠だと考えられていました。しかしここ数年間で、多くの市民は民主主義のルールをあまり重んじない、強いリーダーを選ぶようになりました。この展示では、ヨーロッパの独裁の歴史を振り返ります。参加者であるあなたの力も借りて、民主主義の価値を見直したい。

画像3

画像2

ミュージアムでは「独裁を生き抜く戦略」と題し、ヨーロッパの独裁を生き抜いた人々の物語が展示されています。

ニコラエ・チャウシェスクによる独裁政治下のルーマニアで育った小説家Mira Feticuの物語からは「精神あるいは本に逃げ込む」、シベリアに抑留された後、農業で精神を立て直したエストニア人男性の物語からは「自ら野菜を育てる」などの“独裁を生き抜く戦略”を学べる構成でした。

画像4

独裁を生き抜く戦略だけでなく、“独裁者として生き抜く戦略”も展示されていました。「誰も信用しない」「嘘の情報とプロパガンダ」など、独裁政治下で翻弄される人々の物語が語られています。

画像5

 “ポピュリズム”や“茹でガエル状態”を学ぶゲーム

テキストやビデオに加えて民主主義を学べるゲームの展示もありました。「HOW TO BECOME A POPULIST」というシミュレーションゲームでは、大衆から支持を集め、権力を独占するまでのプロセスを体験できました。

画像5

ゲームでは名前や選挙ポスターを作成した後、プレイヤーはポピュリスト政治家として選挙を勝ち進めるための選択に迫られます。例えばこんな質問がありました。

権力を得るには他人を押しのけたり、お世辞を言ったりする必要がある。ときには信念を曲げなければいけないかもしれません。他に方法はない。あるいは、あなたはネルソンマンデラのようでありたいですか?

1:くだらない言葉だ。それしか方法がないなら。この戦いは降りても良い

2:必要に迫られるなら仕方ない。本音を言うと、他の人を支配するのはなかなかに楽しいものだ。

どちらの選択肢が正解なのか、説明せずともわかる人が多いのではないでしょうか。

画像9

既存の政治を批判し、支持を集め、熱狂を巻き起こすために、ポピュリスト政治家がどのようなゲームを戦っているのか。わかりやすく体験できるゲームでした。

もう一つは「BOILING FROG GAME(茹でガエルゲーム)」。茹でガエル状態とは、ゆっくりを進行する危機に気づけない状態を指します。

このゲームでは、プレイヤーは言語や国家、国籍などを巡る規制について「どこまで我慢できるのか」を問われ、「耐えられない」と思ったらお湯から脱出します。

画像7

(本来は足元のジャンプ台を飛び降りて遊べるそうですが、機械が壊れていたのでボタン式で操作しました)

自らの願いをポスターに込めて

すべての展示をみた後は、ヨーロッパの社会や政治に対し、どのような変化が必要だと考えるか、ポスターを作成できます。ソーシャルメディアやブルカの着用、マイノリティ政策など、幅広いテーマについて書かれたポスターが並んでいました。ポスターはすべてその場でスキャンし、後日ウェブサイトにアップされるそう。

画像9

考える「入り口」を用意するポップアップミュージアム

このポップアップミュージアムを主催する「Bureau Boven」には昨年インタビューをしました。前回は、冷戦下の人々の物語をテキストや音声、動画で発信するプロジェクト「IRON CURTAIN PROJECT」の一環として、ポップアップミュージアム「I’m So Angry」を開催していました。

その際、『I’m So Angry』のデザインを手がけたTlji氏が、オフラインならではの多様な“入り口”を用意しようと試みたと話していたのを覚えています。

『25年前の冷戦下の物語』と聞いたら、『退屈そうだな』と感じる人が多いでしょう。だからこそ、物語にたどり着く『入り口』を用意したかったんです。テキストを読むのが苦手な人も、目の前に何かしら物が展示されていれば、あるいは音楽や動画があれば、そこに関連する誰かに興味が持てるかもしれませんよね

今回のミュージアムはゲームも加わり、より幅広い年齢に「入り口」が用意されているように感じました。

うっかり入り口を抜けると、独裁政治の巧みや人間の危うさ、自由と暮らしを守り抜こうとした市民の意思に触れられる。それらを通して伝わってくるのは民主主義の脆さでした。それに気づかず、私たちは民主主義を手放そうとしているのではないか。Bureau Bovenの声が聞こえるようでした。

前回のポップアップミュージアム同様、ぜひ今の日本でも開催してほしいです。

最後まで読んでいただきありがとうござました!