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アダルトチルドレン⑨

私が高校を出て就職した会社は、電子部品の製造工場だった。

工業高校の電気科だったので、と言うか高校では何故か成績が良かったので、当時の電電公社を受けたのだが、一次試験はパスして二次試験で落ちた。

一次試験の合否は即日だったが、二次試験の合否は2ヶ月ほど後だった。

一次で落ちていれば、まだたくさんの求人が残っていたが、二次の合否が分かった時点では、殆ど残っていなかった。

合否が分かるまでは、他を受ける事が出来ないので、落ちるなら一次で落ちたかった。

まぁ、そんなことで、電子部品を造る工場、つまりおばちゃんと一緒にする仕事であったが、取り敢えず3年は頑張ろうと思った。

そんなある日、父親から会社に電話が入る。

家族から電話だ、と呼ばれる事もなく……]

つまり、酔っ払って会社に電話して、俺は◯◯組だ❗と。

そんな事をされて会社に居られる訳はないので、2年で辞める事となった。

父親の頭の中はどんな思考回路になっているんだろうか。

悪いことをしている認識はゼロ。何故にそんな事をするのか、全く分からない。

私は考えた。

一応、民芸品を作っているのだが、まぁ父親は飲んだくれて、殆どは母が切り盛りしていた。

どんな時でも品物を仕入れてくれる会社、父親が頭の上がらない会社に入れば良いのではないか。

そう考えて、その会社に入った。

給料も良いし、ガンガン仕事をして二十代で管理職に上り詰めた。

そして、息子が社員なワケだから、益々品物を仕入れてくれていたので、ヤツは私に感謝こそすれ、昔のようにバカな事は出来まい。

と高を括っていた。

バカなんだから、そんな事を思うわけもなく、やらかしてしまった。

私は社長に呼ばれ、お前のオヤジちょっとおかしいんじゃないか❓

丁重に陳謝したが、父親と私は別の人間であるから、社長は私に対しては、そこを混同しないで遣ってもらったのは、感謝しかない。

しかし、父親は取引停止、母も出て行き、とうとう独りになった。

働きたくない、と言うより、働けないだろう。働いた事などないからだ。

普通はここで考えるのだが、ヤツは毎日飲んだくれていたようだ。

身体は何処も悪くないのに、胸が痛いと言い張り、病院でゴネて、かなりの長期間に渡って脅迫紛いな事をして、とうとう医者が折れて、何処も悪くない人間にペースメーカーを埋め込んだ。

父親は、それで働けないと申告して生活保護を勝ち取った。

生活保護は最後の砦、お前のような奴が受けるべき制度ではない。

そんな時、私は会社の役員のMと反りが合わなくて、昇進が事実上無くなった。

仕事の出来ない、ゴマすり野郎がどんどん出世していくではないか。

まぁ、これが潮どき、ちょうど15年勤めた。キリの良いところで辞めて、これを機会に父親との繋がりを完全に断とうと。

これで邪魔されることもない。

やっと普通の生活ができる、と喜び勇んだあの瞬間を、今でも忘れない。

そして数年が過ぎたある日、父親が住む街の市役所から電話が入った。

父親が施設に入る為の契約書や保証人、色々な手続きなどを締結するための依頼だったが、丁重にお断りした。

ヤツは肝硬変から肝性脳症を併発し、60代半ばでほぼ完全に頭がダメになる。

すると、尚更に血縁者の許可や手続き諸々が必要になり、父親が入所している施設員から何度も何度も電話が来て、流石に困り果てているようなので、私の事を一切言わず、契約書や保証人等に私が関わった事を口外しない条件で協力する事となった。

最後までゴタゴタに巻き込みやがって……

そんなある日、裁判所から電話が来る。

万が一、ヤツが死亡した時に、全ての手続きや支払いを行う後見人を定めなければならず、それは原則血縁者だと言う。

法律で決まっていようが、ヤツに関係する一切の事に、関わる気は無い、と言ったのだが、そこまで拒絶するからには、理由を聞かせて欲しいと。

子供の頃からのすべてを話した。

裁判所の返答は、それは拒否してもおかしくないですね。

その電話の人が裁判長と言う事で、法定後見人に自身が着くから、それで異論は無いか聞かれたので、承認した。

しかし数日後、裁判所からまたまた電話が来る。

ヤツが死んだ。

後見人が決まって、2週間以内に当該人物が死亡した場合、身内でない後見人は解任される、と言う訳の分からない法律があるそうで、やむを得ず私が全部やることになってしまった。

世間はちょうどシルバーウィークで役所関連は全て休み。

ヤツを火炙りにする儀式が行えないのだ。

私は北海道とは言え、車で10時間かかる所に住んでいるわけで、困り果てた。

遺体を放って置けば腐る。火葬場は休み。

拒否しているのに無理やり後見人にした事に責任を感じたのか、役所の人間が休みにも関わらず、遺体を保管する冷凍庫を手配してくれて助かった。

しかし最後の最後まで手を煩わせやがって。

シルバーウィークが終わり、滞りなく火葬を済ませた。

すると、役所の担当が、遺骨と遺品を送りたいと。

そんなものは、そちらで処分してくれ、と言ったのだが、遺骨と遺品は、規則とかの問題ではなく、個人として、それは出来ないと言う。

かなり困っている様子が伺え、承諾した。

最後まで手を煩わせやがって❗

おわり

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