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開発者対談 後編|オフグリッドと快適な住空間を備えた「インフラゼロハウス」が描く未来

この度『無印良品の家』が取り組んできた、大きなプロジェクトが発表されました。それが「ゼロ・プロジェクト」。水と電気を自給しながら、環境に負荷をかけずに暮らせる家。車で運んで、どこでも好きな場所をリビングにできる家。もしもの時には、安全なところへ移動できる家。そんな未来の住まいが、今回プロトタイプが完成した「インフラゼロハウス」です。

前編に引き続き、「インフラゼロハウス」の開発メンバーである3人が、実際に「インフラゼロハウス」で暮らして感じたことや、個人の夢、今後の展望を語ります。

前編はこちら▼

川島 壮史(写真左)
INNFRA株式会社 代表取締役
渡鳥ジョニー(写真中央)
INNFRA株式会社 オフグリッドインフラ プロデューサー
川内 浩司(写真右)
株式会社MUJI HOUSE 商品開発責任者

欲しいものが世の中にないから作る。「インフラゼロハウス」もそのひとつ

川内:僕のライフワークでもある「インフラゼロハウス」第一号が完成して、昨日も泊まっていたのですが最高でした。ずっとここで仕事したいくらい。お二人は僕なんかよりずっとインフラゼロについて考えていらして、ジョニーさんは「インフラゼロハウスで暮らすことは宇宙で暮らすことだ」とおっしゃっていましたよね。

渡鳥:そうですね。実は宇宙環境と近いと思っています。例えばスペースシャトルの中ってすごく閉鎖されていて狭くて、そこにずっといなければならない。水も循環させているし、エネルギーも限られているから節約して使わなければならない。「インフラゼロハウス」はまさに同じことをやっているなと。「インフラゼロハウス」に泊まるとき、宇宙旅行ってこんな感覚なのかなと考えてみるのも楽しそうですよね。

川内:たしかに、有人飛行で宇宙へ行って、宇宙ステーションで1〜2ヶ月暮らして帰ってくる、といったニュースがあるじゃないですか。よくそんなことができるな、と思う反面、「インフラゼロハウス」の暮らしと近いかもしれないですね。一歩ウッドデッキに出ればこれだけ広い自然があるという意味では、断然こちらの方が恵まれていますが。だから宇宙ステーションに暮らすなんて自分にとってはあり得ないことだったのが、意外とそういう暮らし方もある。家で暮らすだけじゃなく、色々な体験をして自分に合ったものを見つけられたらベストですよね。

渡鳥:何よりすごいのが、宇宙で使っているような技術を僕らが「インフラゼロハウス」で使えるようになったこと。そこまで落ちてきたというか、パソコンが登場して普及して、今はみんながスマホを当たり前に使っているような感じ。暮らし方自体も、エネルギーを個人で自給自足することができる時代になっていくと考えると、すごくワクワクしますよね。

川内:僕が仕事を始めたころは、パソコンなんて全くなかったんですよ。そこに初期のパソコンが現れて、使いこなせる人ってすごいな、からスタートした。でも気付けば自分も、パソコンがないと仕事ができない状態になっている。

川内:そんなふうに今まで世の中になかったものが出てきて、その違和感がだんだんなくなって溶け込んでいく流れが、「インフラゼロハウス」でも起きたらいいなと思っています。今はなんとなくキワモノ的な感じで見られているかもしれませんが、むしろ今の集中型インフラに取って代わるものとしての可能性も持っているわけですし。

渡鳥:統計的には日本の人口も減少していますし、明らかに未来ではインフラを持たない地域が出てくることは免れないですよね。
ただインフラがなくなるという実感を持つのは難しいし、なんなら僕たちが生活する上で、水や電気がどうやって送られてきているかを考えたこともない人がほとんどだと思うんです。インフラを意識せずに使ってしまっているからこそ、その裏側が壊れたらどうしたらいいかわからなくなる。
でもエネルギーを自分達でも得られるんだということを知っていれば、心強いし安心ですよね。

川内:あと「インフラゼロハウス」の移動できるという特徴が持つ可能性として、僕の最終目標は自動運転との組み合わせなんです。自動運転も「そんなことできるわけない」というところから、現在では技術的に成り立っていますよね。
「インフラゼロハウス」と自動運転が組み合わされば、寝ている間に自分の行きたい場所に着いていて、ドアを開けたら昨日とは全く違う世界にいる、まるで「どこでもドア」のようなことが実現できると思うんです。あとどのくらいで実現しますかね、僕が生きているうちに見たいな(笑)。

渡鳥:高速道路とかだったら実現できると思いますよ!それだけでも圧倒的に体験できることのレベルが変わりますよね。寝ている間に東京から福岡まで移動できたりとか。そういった時代になったら、ライフスタイルが変わるのではないかと思います。
僕もそういったことを夢見て一時期ホームレスをしていたことがあって……ホームレスというか、車の家に住んでいたんです。バンライフというんですけど、自分で貨物車を改造してそこに住んで。当時は自動運転も搭載されていなかったので自分で運転していたけれど、「自分じゃなくてAIが運転してくれたら」という想像をしながら暮らしていました。そんな時代が早く来ないかな、って。

川島:そういう未来って、いつ来るか考えているよりも、その夢よりかなり手前だとしても自分でやり始めちゃうことで届く気がします。夢として眺めるだけじゃなくて、一歩でも半歩でも近づこうと実践すること。
僕らが八ヶ岳のラボでオフグリッドの実証実験をしていたこともそうですし、この場所にインフラゼロハウスを作ったこともそうですけど、トライしちゃうのが近道な気がしています。実際にインフラのない世界を夢見て八ヶ岳のラボでとりあえず実験を始めて、2年後にはこうして「インフラゼロハウス」が実現しているわけで。

川島:だから川内さんがおっしゃっていた住居自体が移動しながら暮らすというのも、最初は理想形じゃなくても実践し続けていけば2年後どうなっているかわからないですよね。僕らはトライすることで夢の実現に向かっていく姿勢を持ってきたから、「インフラゼロハウス」のプロジェクトに対する川内さんの考え方にすごく共感できて、一緒にやりたいと思いましたし。

川内:たしかに「インフラゼロハウス」も、いろいろな環境も含めて2年後にはきっと激変していますよね。楽しみですね。
川島さんの夢の話を聞いて考えていたのですが、人から見たら夢かもしれないけど本人はあまり夢とは思っていないですよね。僕もよく「インフラゼロハウスは川内さんの夢だから」と言われますが、夢というよりは「こうやったらどうなるだろう」と考えているだけ、という感じ。

渡鳥:まさにそうですね。結局「こういうのをやりたいんだけど、世の中にはない。だから自分で作るしかない」という。それを自分たちで体を張って、まさに人体実験みたいな形で進めている感覚です。

MUJI HOUSEだからこその「空間の力」

――みなさんはインフラゼロハウスに最大何泊しましたか?

渡鳥:僕はこの前6泊連続で泊まりましたね。あろうことか天気もすごく悪くて、体調も悪くて(笑)。やっぱり前半は天気が悪くて電気がなくなってしまったのですが、しっかり断熱されているので暖かく過ごせました。後半にやっと電気が回復してシャワーも浴びられたのですが、久しぶりに浴びる温かいシャワーの幸せといったら!バンライフをしていた頃はシャワーもなかったので、温かいお湯に触れられることが感動するレベルで嬉しいんですよね。それが「インフラゼロハウス」なら実現できるから、やっぱりすごいなと思います。

川島:我々の八ヶ岳のラボもいろいろ考えて作ったので快適ではあるのですが、「インフラゼロハウス」が決定的に快適なのは、MUJI HOUSEさんが設計された品質の高い良い空間があるということなんですよね。温かいシャワーとかインフラ面の技術はラボと同じものを使ってはいますが、やっぱり「インフラゼロハウス」は居住空間そのものが決して広くはないけどすごく快適。ちょっと電気が足りなくてエアコンが使えなくても、断熱性だけでここまで快適なのは空間の力ですよね。オフグリッドやインフラゼロの暮らし方ももちろん大事なんだけど、従来の建築の良さもすごく取り入れられていて、それは僕らだけでは作れなかったものです。だから居住空間としての可能性もまだまだ持っているし、まだプロトタイプですが、いい商品だといちユーザーとして感じます。

川内:ありがとうございます。いくら効率のいい太陽光パネルと蓄電池を積んでも、エネルギーが垂れ流し状態では意味がない。MUJI HOUSEはもともと太陽の恵みを直に取り入れるパッシブデザインを採用していて、南側に大きな断熱性の高い窓を入れ、日中の太陽光から得た熱をなるべく逃さないことに拘っています。それが本当に「インフラゼロハウス」にも生きましたね。

――宿泊中にトラブルはありましたか?

川内:まずは電欠、電気がなくなってしまうことですね。ただ電気が少なくなってくると、自然と日が落ちたら早く寝て、日が昇ったら起きるようになるんです。だから電欠というトラブルではありますが、「これが自然と一緒に暮らすことか」と実感できる機会でもある。あと僕はずっとパッシブデザインをやっていて太陽のありがたみはわかっているつもりでしたが、それを超えるくらいに「僕らは太陽に生かされているんだな」と感じました。

川島:普段の生活では気付かない、何にどのくらい電気を使うかというのもわかるようになりますよね。例えば照明の消し忘れってデータで見ると大したことなくて、バイオトイレは意外と電気を使うんだなとか。給湯も電気で行っているので、標準設定で沸き上げになってるけど大丈夫かな?とか。その辺りは運用も含めて改善していくべきではありますが、暮らす中で感じられることは増えると思います。

渡鳥:川内さんのように晴耕雨読型で「足りなくなったらそれでいい」と割り切れる人もいるとは思いますが、電気がなくなるのは絶対に嫌だ!という人は、単純にバックアップを用意しておけばいいですしね。今だったらEVとかもあるし、発電機みたいなものも場合によっては使っていいと思います。ただ、普段の暮らしはあくまでもインフラゼロで賄える、ということの方が大事なんじゃないかな。

――今後アップデートしたい箇所は?

渡鳥:今話したバックアップの部分はいろいろな方法を検討しているので、どれが最適かをこれから検証していくところです。あとはやっぱり水。今はどこかから持ってきた水を循環させていますが、その大元の水も雨水を貯めて自動的に補給されるとかも、仕組みとしてはもちろん考えられます。その辺りが改善されたら、けっこう最強なんじゃないですかね。

川島:今回「インフラゼロハウス」を作るとき決定的に大変だったのが、トレーラーハウスのスペースの問題でした。我々のラボは定置なのである程度のスペースは取れるのですが、「インフラゼロハウス」は重量も含めて限られた中に収めなければならない。そのためにインフラゼロを実現する上で最小のものを選んではいますが、小型化・軽量化は目指したいですね。インフラゼロハウスを「家」よりもっともっと身近なパーソナルな存在にするためにも、商品としてユーザー様に提供するためにも、我々がもう一段、二段頑張らなければならないところかなと思っています。

川内:そうですね。設備が小さくなればキッチンのスペースが広がったりして、もっと使い勝手が良くなりそう。でも小さくできそうですよね。

川島:はい、今実験している中でも改善点がたくさん出てきているので、実際に商品としてご提供するときにはもっとアップデートしたものになると思います。

川内:それにあまり完璧になってしまうと、また自然への畏怖を忘れちゃうかもしれないですし。

――試泊募集でどんな方に泊まっていただきたいですか?

渡鳥:開発陣が我々のようなおじさんが多いので、若い方だったり、特に女性の方の声もぜひ聞いてみたいですね。

川島:ジョニーさんみたいに強く生きてきた人は「これでやっていける」とわかると思うんですが、僕みたいに普通のマンションで暮らすことしか想像していなかった人や、女性やお子さんにも試泊していただきたいです。フィードバックをいただくことで、大多数の人がこれなら大丈夫だなというラインがわかってくるので。いろいろな方に体験してほしいです。

川内:泊まっていただく機会は何回もあるので、老若男女さまざまな方に来ていただきたいですね。

渡鳥:皆さんが「インフラゼロハウス」をどういうふうに使うのかすごく気になります。私だったらこういう暮らし方をしたいとか、こんな場所で暮らしたいとか、そういう想いも聞いてみたい。

川内:どういうロケーションがいいとかね。

渡鳥:そうそう。この「インフラゼロハウス」一号機も、早くいろいろな場所に持って行って体験したいですよね。

川内:いろいろな方に泊まっていただきながらアップデートをしていくので、それこそ2年後にはかなり変わっていると思います。例えば今はリビング棟とユーティリティ棟の2棟にしていますが、使う方の要望やロケーションに合わせて様々な組み合わせが考えられるじゃないですか。「インフラゼロハウス」は木造だから、要望に合わせて工場で作り方を変えて、カスタマイズができる。一人一人の暮らしに合わせたいろいろなバリエーションを作りながら、各地に「インフラゼロハウス」が増えていく、そんな景色を一緒に見たいと思っているので、引き続きよろしくお願いします。

川島:こちらこそよろしくお願いします。インフラはお任せください。

渡鳥:インフラという社名なので、インフラゼロばかり言われると困っちゃう、というのは冗談で(笑)。ぜひよろしくお願いします。

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