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映画『Cloud クラウド』感想~集団狂気の成れの果て~

 私は黒沢清監督の映画がとてつもなく大好きで、新作が公開されたらなるべく劇場で観るようにしている。最初に観たのは『回路』で、怖すぎて泣いたし、何ならいまでも観たら泣く。
 このたび監督の新作『Cloud クラウド』を観てきたので、感想を書きたい。
※極力ネタバレはしないように気をつけますが、ある程度内容に触れるため、前情報をなるべく入れたくない方はご注意ください。


1.あらすじ

 菅田将暉さん演じる主人公・吉井はクリーニング工場で働きながら転売ヤーとしても稼いでいる。まあ良いか悪いかでいうと悪いやつだ。彼はやがて工場を辞めて恋人とともに郊外に移り住むのだが、そこで不可解な嫌がらせや不審人物に悩まされる。それでも危機感を持たず、転売を続けるというクレイジーさを発揮する吉井。いっぽう、ネット上では吉井に恨みを持つ者達が出始め、やがて彼らは吉井を実際に"狩る"というゲームを始めるのだった。

2.ジャンル転換の面白さ

 作品のホームページにも書かれているとおり、本作は前半と後半でジャンルがガラッと変わる。前半は静謐せいひつで不気味なホラーであったのが、後半は緊迫感に満ちたガンアクションになる。個人的には「あ、いまホラーパート終わったな」って明確に感じるシーンがあって笑ってしまった。そういう意味でも楽しめる作品になっていると思う。

3.集団狂気のおそろしさ

 本作の核となっているのは、吉井への憎悪によって結束した者たちがやがて本当に狩りを始め、しだいにおかしくなっていくという集団狂気のおそろしさだろう。
 狩りの参加者の素性はさまざまだ。実際に吉井に恨みを持っている者もいれば、単なるゲームとして楽しんでいる者もいる。しかし、ひとたび狩りが始まると、彼らの動機は瞬く間に狂気に呑まれていく。
 あらゆる行動には動機が伴う。ならば本来、動機こそ行動に先立つものであるはずだ。しかし、もしも行動が動機に影響を与えうるとすれば、いまその人を突き動かしている動機は本当にその人自身から生まれたものなんだろうか?
 大勢の人間のバラバラだった動機がひとつの行動に収束したとき、その行動がバラバラであった動機をひとつにまとめあげてしまう。そういうことってあるんじゃないか?
 ネットでは日々誰かが誰かを叩いていて、そこかしこで炎上が起こっている。誰かを攻撃している人間に、「あなたはなぜそんなことをするのか?」と問うたとき、納得のいく答えを返せる人がどれだけいるだろう?
 本作では現実世界で狩りゲームを行うことによってフィクション性やエンタメ性を高めているけど、これが実際はネット上で、しかもより陰湿なやりかたで日々行われているのだと考えると笑えない。

4.正常って何だろう

 本作に登場する人物は主人公の吉井を含めて全員不気味で、まともな人間が誰もいない。観終わってまず、「みんなマジでヤバい奴らだな」という月並みな感想が出てくるのだが、しだいに「じゃあそういう僕自分はどうなんだ?」って気持ちになってくる。
 はたして僕は正常なんだろうか?
 そもそも、この世界に正常な人間なんているのだろうか?
 ぜひみなさんも劇場に足を運んでいただき、自分と自分の隣にいる人が正常かどうか確かめてみてほしい。

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