屑木夢平

くずきむひょうと読みます。小説や詩や短歌などを書いたり詠んだりしています。 自作の宣伝…

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くずきむひょうと読みます。小説や詩や短歌などを書いたり詠んだりしています。 自作の宣伝のほか、面白いと思った本や映画などの紹介をしていきたいと思っています。

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禁断の遊戯:倉橋由美子著『夢の浮橋』を読んで

 私は倉橋由美子氏の作品をこよなく愛しており、折に触れて氏の作品を読み返す日々を送っています。  コロナ禍で休みの日も家にいることが多く、氏の作品を読む機会にも恵まれているこの頃、ただ読んだだけで終わらせるのは勿体ないと思い、備忘録も兼ねてこうして所感を書き留めておくこととしました。  あくまで所感ということですから、作品についてあれこれ批評をするつもりはありません。そもそも敬愛する氏の作品を批評するという行為自体、私にとっては出過ぎた真似ですからしようという気すら起こり

    • 小泉綾子著『無敵の犬の夜』感想

       読んだあと、思わず走り出したくなるような本でした。  主人公の界は祖母と妹の三人で暮らす男子中学生である。幼少期に事故で指を失った過去は思春期の少年に暗い影を落とし、彼は指の話をされることをひどく嫌っている。  将来に対する希望も持てず、ただ悶々と"いま"を生きる界。教師にも指のことを馬鹿にされ、ついには学校にも行かなくなり、そこに未来はないと知りつつも不良たちとつるむのをやめられない界の絶望が肥大化していく過程は読んでいて辛かった。  そんな彼を救ってくれたのが、イケて

      • 映画『Cloud クラウド』感想~集団狂気の成れの果て~

         私は黒沢清監督の映画がとてつもなく大好きで、新作が公開されたらなるべく劇場で観るようにしている。最初に観たのは『回路』で、怖すぎて泣いたし、何ならいまでも観たら泣く。  このたび監督の新作『Cloud クラウド』を観てきたので、感想を書きたい。 ※極力ネタバレはしないように気をつけますが、ある程度内容に触れるため、前情報をなるべく入れたくない方はご注意ください。 1.あらすじ 菅田将暉さん演じる主人公・吉井はクリーニング工場で働きながら転売ヤーとしても稼いでいる。まあ良い

        • 2022年1月2日:年が明けて

           あけましておめでとうございます。  この4月に名古屋へ引っ越したのがついこの間のように思われますが、お雑煮のお餅を食べながら、年が明けたのだなとしみじみ感じています。  昨年は新しい土地に移り住んだこともあり、けっこう大変な一年でした。でも、新しい出会いもたくさんあって、終わってみると良い一年だったとも思います。日々を生きていると、いまこの瞬間がいちばん辛いのだと思いがちなので、本当に良い時間だったかどうかはいつも過ぎ去ってみないとわからないものですね。  今年は物語

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        禁断の遊戯:倉橋由美子著『夢の浮橋』を読んで

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        • 本についての所感
          9本
        • 日記
          2本

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          似て非なるもの:倉橋由美子著『合成美女』

           街も秋めいて、朝晩などはいくぶん涼しくなってきました。  晩に窓を開けて涼んでいると、『蚊帳出づる地獄の顔に秋の風』という加藤楸邨の句を思い出します。これは男と女の織り成す地獄ですが、秋の涼しさがあれば地獄もまた住み易しといったところでしょうか。  とはいえ、できることなら地獄とは無縁の日々を送りたいものです。  ほかにも秋といえば、芸術の秋、スポーツの秋、食欲の秋などあげればきりがありませんが、やはり本好きの私としては読書の秋が欠かせません。  今回ご紹介するのは、

          似て非なるもの:倉橋由美子著『合成美女』

          コンビニで下着と歯ブラシを買ってひとの家のパジャマを着て寝る

          コンビニで下着と歯ブラシを買ってひとの家のパジャマを着て寝る

          救済の形:ジュリアン・グリーン著『モイラ』を読んで

           久しぶりにこちらへ投稿します。  実は本州に住まいを移しました。北の大地とは対照的な、残暑激しい土地と、そこに根付く独特な文化に戸惑いながらも何とかやっています。  不便で仕方なかった雪ももう見られないと思うと名残惜しくなるように、日盛りにアスファルトの溶けるにおいも、いつかは好もしいものに変わっていくことでしょう。  更新があいてしまったのは忙しかったからというのもありますが、小説を書いていたためです。  こちらでは瀬那祈という名前で活動しておりますが、来栖翠という

          救済の形:ジュリアン・グリーン著『モイラ』を読んで

          エスカレーターに乗れない人々

           新しい年が明けた。  星がいつもどおり運行して、明日が今日に変わっただけなのに、そこに一月一日という名前がつけられるだけで世界そのものが変わってしまったかのな錯覚をおぼえる。  そういう心持ちでいると、自分自身にも何らかの変化を求めたくなるもので、どうせ長くは続かないとわかっていても新しいことに挑戦してみたくなる。そこで新年早々、新しいことを始めてみた。  といっても、大それたことではない。巷で話題の『鬼滅の刃』のアニメを観たというだけのことである。  私はもともと

          エスカレーターに乗れない人々

          あけましておめでとうございます。今年も昨年と変わらず、書き続け、読み続ける年になると思います。私のつくりあげたものが、誰かの心に届くことを願って。よろしくお願いします。

          あけましておめでとうございます。今年も昨年と変わらず、書き続け、読み続ける年になると思います。私のつくりあげたものが、誰かの心に届くことを願って。よろしくお願いします。

          特別な物語:ディーリア・オーエンズ著『ザリガニの鳴くところ』を読んで

           この時期になると、一年の振り返りをしたくなります。  特に振り返りたくなることが多い一年でしたが、それはさておくとして、読書のほうでも今年読んだ本のなかで印象に残ったものを読み返すようにしています。  今回読み返したのは、ディーリア・オーエンズ氏の『ザリガニの鳴くところ』です。  本作は帯にあるとおり2019年にアメリカで最も売れた本であり、読んだことはなくとも名前は知っている、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。  著者のディーリア・オーエンズ氏は動物学者で

          特別な物語:ディーリア・オーエンズ著『ザリガニの鳴くところ』を読んで

          狭間にあるもの:梨木香歩著『炉辺の風おと』を読んで

           仕事で遠出しなくてはならず、吹雪のなかを片道四時間もかけて車で走ってきました。ホワイトアウトのなかを走るのは初めてではありませんが、緊張のために胃が痛くなります。眼前に雪の幕が下ろされ、一寸先も覗くことができないおそろしさ。とても慣れるものではありません。  幸い事故もなく帰ってくることができ、日課となっている読書をしながら、こうやって穏やかな気持ちで本を読めることのいかに素晴らしいことかを噛み締めています。  ちょうど読み終わった本があります。梨木香歩氏の『炉辺の風おと

          狭間にあるもの:梨木香歩著『炉辺の風おと』を読んで

          封鎖されたのは:張愛玲著『傾城の恋 / 封鎖』を読んで

           北国に住んでいるのですが、今年はいつもと違う冬です。  雪の多い地域では根雪という言葉がよく使われます。降ってすぐ融ける雪とは違って、春まで融け残る雪のことなのですが、いつもは十一月のうちに根雪を見るはずが、今年は十二月に入っても舗道のアスファルトが露わになったままでした。  コロナウイルスのことを考えると寒くならないほうがよいのでしょうか。しかしながら雪のない十二月というのもしっくりきません。  雪国の人間は、雪に苦しめられ、また雪に癒やされるのでしょう。毎年、雪の降

          封鎖されたのは:張愛玲著『傾城の恋 / 封鎖』を読んで

          新聞で紹介されていた張愛玲さんの『傾城の恋/封鎖』を読んでいます。豊かでありながらも滑らかな描写に引き込まれるとともに、これを原書で読むことができたなら、とも思い。しかしながら翻訳された文章も好みなので、読んでいると感情が忙しいのでした。

          新聞で紹介されていた張愛玲さんの『傾城の恋/封鎖』を読んでいます。豊かでありながらも滑らかな描写に引き込まれるとともに、これを原書で読むことができたなら、とも思い。しかしながら翻訳された文章も好みなので、読んでいると感情が忙しいのでした。

          神々の戦い:倉橋由美子著『城の中の城』を読んで

           いろんな国へ渡っても、最後は生まれた場所へ戻ってくる鳥のように、気がつけば倉橋由美子氏の作品を読み返している私がいます。  氏の作品はその時期によって文体から受け取るイメージが異なり、初期には翻訳文学を思わせる鉱物的な文章であったのが、作品を追うごとに柔らかく、植物的に変わってゆきます。そして最後の小説作品である『酔郷譚』に至っては、酒をテーマにした短編集ということもあってついに水のように滑らかな文体の境地へと至るのです。この絶妙な変化もまた、倉橋文学の魅力のひとつと言え

          神々の戦い:倉橋由美子著『城の中の城』を読んで

          文字噛み砕く音のする:中島敦著『文字禍・牛人』を読んで

           この週末はいちだんと冷えこんで、私の街でもそろそろ雪が積もりそうな気がしています。  私はもともと雪国の生まれではなく、ご縁があって今の町に住んでいるわけですが、何年もいると厳しい冬にも愛着がわいてくるものです。  そもそも小さい頃から親の都合で転勤が多かったものですから、生まれ故郷と呼べるような町がありません。前の町ではそこが一番だと思っていましたし、今はこの雪国が一番だと思っています。また別のところに移れば、そこが一番だと言うのでしょう。要は、行く先々に魂を売るわけ

          文字噛み砕く音のする:中島敦著『文字禍・牛人』を読んで

          花蕊の下に冴えて在るもの:瀬戸内寂聴著『花芯』を読んで

           昨朝目が覚めると外が薄い雪化粧でした。夜中のうちに結構降ったのでしょう、家の前に白く積もっているのを見ていると街も心も一気に冬めいてくるようです。  根雪とまでは至らぬために、昼過ぎにはほとんど綺麗に融けてしまいましたが、そう遠くないうちに本格的な冬が到来することと思います。  そんな風で、世情と寒さに家の戸をしっかり塞がれているものですから、することと言えばやはり小説を書くか本を読むかしかなくて、そちらの方面ばかり捗る三連休でした。  今回拝読したのは瀬戸内寂聴氏の『

          花蕊の下に冴えて在るもの:瀬戸内寂聴著『花芯』を読んで