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『ランド』感想文 前編-「この世」の杏とアン

今年9月に『ランド』が完結しました。全11巻。とても読み応えのある、スケールの大きな、そしてぜひ多くの皆さんに読んで貰えたらいいなと思う作品です。

山下和美先生は大好きな漫画家さんのうちのひとりです。確か『天才柳沢教授の生活』を読んだのが最初だったと思います。

山下先生の作品はいつも、凝り固まった考えを鮮やかに粉砕してくださるというか…なんていうんでしょう。『3月のライオン』(羽海野チカ先生/著)の二階堂くんが「兄者、桐山のアタマをかち割ってやってほしいのです」と言ったように、パキンと割って新しい世界の存在に気づかせてくれる…または自分のそうであるに違いないと思っていた考え方を本当にそうですか?と問われるような…特に10代で読んだ作品にはずいぶん私の頭を柔らかくしていただいたように思います。

柳沢教授の何にでも興味を持ち、面白がり、熟考を重ねて人々の暮らしや人と人との関係性への興味というか不思議がる(愛する)様子は、『不思議な少年』やこの『ランド』でも引き継がれているような気がします。

ただ、この『ランド』、一筋縄ではいきません。もし、まだ読んでいない方がこれから読んでみよう!と思うのでしたら、ここでnoteを閉じてしまって、なんの情報も入れずに『ランド』の最初のページから読んでいただけないかなと思います。なぜなら、ランドの世界は、最初どこを描いているのか全くわからないからです。そして、はっきりと解き明かされるのは最終巻なのです。その楽しみを最初から読んで楽しんでいただきたい。

そして、できれば、二度三度と読み返していただくと、より楽しめる作品になるのではないかと思います。

それでは、ここから作品の内容と感想を述べていきたいと思います。

『ランド』は、「この世」に生を受けた双子のアン、その父捨吉の登場から始まります。「この世」では双子は忌み嫌われ、そして干ばつの時であったため、生け贄として神様に捧げられなければなりません。アンはその時、西の神様の元、山の中へ父に捨てられるのです。そして父捨吉はその苦しみの為自ら自分の目を潰します。

8年後、はすくすくと育っていました。母に似たは物怖じせず、何にでも興味を持ち、野山を駆け巡る元気で聡明な子になりました。賢い子です。なぜ影は伸びるのか?あの世とは何なのか?四ッ神様の存在は?「この世」のしきたりをその都度教えられますが、は自分の見たもの感じたものからひとつひとつ吟味した後に頭や心の中に仕舞います。教えられたまま鵜呑みにはしません。

幼なじみの平吉の父平治は2日後知命を迎えます。知命とは、50歳になることです。知命になると「この世」の人は死んで「あの世」に行きます。名誉なことです。「この世」の人の目指す幸せの最高峰です。「あの世」は四ッ神様が四方で守っている山々の向こうにあります。

ある日、「あの世」と「この世」を飛び回る鷲がに向かって袋に入った種を落とします。「この世」では見たことのない種です。杏はあの世に誰かいるの?と疑問を持つようになりました。そして、その種を拾ったことを誰にも言わずに隠し持ちます。

一方アンは、「この世」を統括する人々から見えない山の中に住む銀じいと子ども達に助けられ、野性味あふれた子どもに育ちます。自分を捨てた父を酷く憎んでいます。

平治の知命の日、お祝いで皆で行列で練り歩く最中、事件が起こります。

行列は大辻を通っていきます。大辻では着物やおもちゃなど生活に必要なものを売っているお店が立ち並び、お米と交換して貰えます。そこで暮らす子ども達は綺麗な着物を着て泥なんてついていません。知名さまのお祝いに綺麗な手ぬぐいをは貰いました。そこに名主であるあやめ様の知命の葬列と平治の葬列がぶつかってしまいます。平治の知命様は地面に下ろされ、人々は土下座をしてあやめ様の葬列が通り過ぎるのを待ちます。

この時、は自分が一番下の人間だということに気づいてしまいます。そこで突然「馬鹿馬鹿しいだろ」と男の人に話しかけられます。和音という「この世」でも偉いところにいると一見してわかるひとです。そして、その時に人の皮を被った子どもが乱入してきて暴れ回ります。アンです。アンは父捨吉に気づきます。そして殺すと言い放ちます。捨吉アンが死んでなかったことに気がつきます。この時はアンはそのまま逃げてしまいました。

そしてその数日後の夜、アン捨吉を殺すためにの家にやってきます。捨吉がいないことに気がつくと山へ帰っていきますが、それをは追いかけます(猪に乗って!)そして山の子ども達と銀じいと出会います。

アンは鷲の足を掴んで空を自由自在に飛び回ります。また獣の皮を被って隠れて移動も出来ます。また山の子ども達は双子の片割れだったり、人とは違う能力があったりします。目が見えないけど千里眼の女の子や、火を吹くことが出来る子など。厳しい環境で生と死が隣り合わせではあるけれど(それだからかもしれませんが)生命力にあふれ、また、こんなことも出来るの?というシーンがあります。

アンは異形の子と呼ばれ、捕らえて殺せというお達しが出ています。捨吉アンと夜に外に外出してしまった(しきたりでは絶対ダメ)を捕まえに来ます。そこで色々あって、間違って鷲がアンではなくの方を捕まえて空を飛びます。その時山の向こうに見えたのは…キラキラと光るビル群でした。

ここまでが一巻のあらすじです。ぞくぞくしませんか?この世界観。

後編に続きます。


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