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佳い日

朝8時。通勤時、秋の空高く、たいへんスッキリした良い気分だった。歩道橋の上で、空に向かって、物理的に微笑んだ。映画パーフェクトデイズで、役所広司が毎日やるんだ。晴れでも雨でも曇りでも。家を出たらまず、空に向かって微笑む。毎日欠かさず。僕はこの映画が刺さりすぎて死ぬかと思ったから、以後、役所広司のモノマネをしている。主に、通勤時。一目につかない歩道橋の上で。夏の間、暑すぎて忘れていた。だから今日は久々に空に向かって笑顔を向けた。朝、青空の下で笑ったという既成事実ができた。時は流れ、夜18時。帰り道は、夕焼けがまだ残っていた。もう少ししたら、定時で上がっても暗い季節になる。だから今は貴重な時期だ。ふだんの道から外れた路地にはいって、ゆっくり歩いた。駅までの所要時間+5分。それだけで、夕焼けの下で散歩したという既成事実ができた。いま考えれば、コンビニで牛乳でも買って、飲みながら歩けば、もっと良い気分だった気がする。思いつかなかったな。今度やってみよう。歩きながら、目まぐるしかった仕事のことが、いろいろ思い起こされた。オーバーヒートした頭の熱が。まだじわーっと、脳の芯まで残っている。ろくでもない今日の思い出と、ろくでもない明日の予感。が、頭を埋めてくる。いろいろ言いたい、吐き出したい言葉が浮かぶ。でも誰かに言ったり、ここに書いたりしたら負けな気がする。相手に対しても、自分に対しても。徐々に暗くなる路地裏をゆっくり歩くと、だんだん頭の回転数が落ちていった。じわーっと、熱は引いていった。退勤して、いま自分は1人で歩いているのだ。なんとなく携帯の電源OFFり、耳澄ます雑踏の全然奥に、ってのはDragon Ashの唄ですけど。仕事と家庭の隙間。何人たりとも、僕の静かなひとり時間を邪魔することはできない。僕の走る書斎、京浜東北線に乗り、池上彰を読んだ。僕の意識は中東やアメリカやビッグなマネーに向かい、ケチな仕事のこととか、マジでどうでもよくなった。だいたい天の川銀河の直径は10万光年あるのに、なんで僕の仕事如きで一喜一憂しなきゃならないんだ。息子から「帰りに、このノート買ってきて」と写メ(死語?)が送られてきた。ジャポニカ5mm方眼。表紙に鉛筆で落書きしてあった。「となりのトントロ」。こいつにこんなワードセンスがあるはずない。調べてみたら案の定YouTubeで笑った。988文字

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