『女殺油地獄』の話

どうも、私です。

今日は「2度目のシネマ歌舞伎の話」をします。


お察しの通り、ドハマりです。

趣味をひとつでも持つと、人間はこうなるのよ←


お付き合い下さい。

前回、『桜姫東文章』を鑑賞したときのこと。

次回予告が流れたときから、姉がずっと、

姉「絶対見る!」

と繰り返していた演目がある。それは。


『女殺油地獄』


皆さん、ご一緒に。


『おんなごろしあぶらのじごく』


タイトルから物騒なんよ。


姉は以前、文楽版をTVで見たらしく、録画し損なったことを心底後悔しながら、

姉「これ、ヤバいよ」

と私にあらすじを説明してくれた。
ハッキリ言うと、ヤバい。
本当にヤバい。


でも、安心して下さい。
主演は、片岡仁左衛門さんです←


姉「仁左衛門様…♡」

私「乙女なんよ」

そんなあらすじも主演もヤバいと噂の(?)、『女殺油地獄』について話していこうと思う。


※ここから先、ネタバレ地獄です。


  • 愛すべき(ではない)クズ、与兵衛(片岡仁左衛門さん)


こんな見出し、ありかよ。


と思われるかもしれないが、本当だから仕方ない。

油商・河内屋の息子である彼は、一言で言うと無法者。
この日も馴染みの遊女・小菊を会津の客に取られたことを理由に、喧嘩騒動を起こす。しかもその時に投げた泥が、侍・小栗八弥に直撃。彼に仕えていた与兵衛の伯父・森右衛門に激怒されてしまう。

森右衛門「おまっ、誰に向かって泥投げて……!」

与兵衛「おおおお、伯父さん……」

森右衛門「いくら甥とて許さん!!!!」

小栗「まあまあ、そういう日もあるよ」

森右衛門「…そういう日もありますよねー」

主人の一言で、伯父に斬られずに済んだ与兵衛。
居合わせた女性・お吉(片岡孝太郎さん)に泥だらけの着物を繕ってもらうのだが、それをお吉の主人で油商の豊島屋七左衛門が目撃。

七左衛門「え、不倫?」

お吉「違いますよ。着物を繕っただけ」

与兵衛「そうですよ。ねー?」

と疑いの目を何とか交わす、かなりの問題児・与兵衛。
だが、彼の家庭環境もまた、複雑だった。


  • 与兵衛の家庭環境

河内屋は、実父・徳兵衛が亡くなった現在、番頭あがりの義父が徳兵衛の名と店を継いで経営している。

この徳兵衛が圧倒的いい人&義父であることに、与兵衛が調子に乗り、家でもやりたい放題。
病に臥せる妹・おかちの為に呼んだ祈祷師が来た際には、彼女を利用する。

おかち「私は、先代・徳兵衛。与兵衛には好きな女性と所帯を持たせるように」

家督相続の為に、おかちに演技させる与兵衛。それに徳兵衛が反論。

徳兵衛「おかちに婿養子を取らせて、彼に継がせる」

これを聞いた与兵衛はブチギレて、祈祷師を追い出したかと思うと、義父を蹴るという暴挙に出る。しかも、

おかち「お兄ちゃんに言われてやりました」

と正直に打ち明けたおかちにも、同じように暴力を振るう。


お前、マジか。


帰宅して早々、それを見た母・おさわは一言。

おさわ「お前みたいな息子は、勘当や!!」

与兵衛「…こんな家、出て行ったるわい!!!!」

今までの態度を謝るかと思いきや、強がりな一言を残して、家を出て行く与兵衛。
息子を想って、冷たく言い放ったおさわと、涙ながらに背中を追いかけようとするもやめる徳兵衛。


正直言って、徳兵衛がいい人すぎて泣きそうになった。



  • 家族たるもの

与兵衛は、その足で七左衛門・お吉夫妻がいる豊島屋へ向かう。

実は、徳兵衛の印判を無断使用して借金しており、今日中に返済できなければ、徳兵衛に迷惑が掛かってしまうからと七左衛門を頼りに来たのだ。


お前、マジか。
(大事なことなので、2度言いました)


そこに、七左衛門が出先から戻って来る姿が見えたので陰に隠れる与兵衛。

七左衛門「これからまた、すぐ出掛けるから」

お吉「そうなんですか。じゃあ、1杯だけでもお酒を飲んでいって下さいな」

七左衛門「うん」

と1杯だけ酒を飲んで出掛けることにしたのだが、立ったまま飲む彼の姿にお吉が心底気味悪がりながら言った。

お吉「立ち酒なんて、やめて下さい。縁起の悪い」

七左衛門「ごめんごめん」

その言葉に慌てて座り、酒を飲み干してから出かける七左衛門。

この時代の立ち酒は、婚礼や葬送の時に行われるもので、婚礼なら離縁されて戻ってこないという意味があるそうです。それを知ったうえで見たら、何とも言えない……。

七左衛門が出掛けて間もなく、与兵衛が豊島屋へ入ろうとしたその時。
徳兵衛がやって来た。

徳兵衛「お願いがあるんです」

お吉「はい」

徳兵衛「与兵衛が来たら、改心して家に戻るように言ってもらえませんか」

とお金を渡す。するとそこへ、今度はおさわが登場。

おさわ「あんた、何してんの!」

徳兵衛「えっと、その……」

おさわ「甘やかしたから、与兵衛はああなったんでしょうに!」

と怒り出したかと思うと、懐からお金と粽を落としてしまう。

2人共、与兵衛が心配だったのだ。
その親心を察したお吉は、お金を預かることにして、徳兵衛とおさわは家路についた。


  • 暴走する狂気

すべてを陰で聞いていた与兵衛は、両親が帰るのを見送ってからお吉に会いに行く。

与兵衛「親の情けを知ったので、これからは真人間になります」

それを聞いて、預かっていたお金を渡すお吉。しかし、借金していた金額にはわずかに届かない金額だった。

与兵衛「あの…お借り出来ませんか?」

お吉「さっきの発言の意味」

きっぱりと断るお吉。
すると今度は、態度を変えて交渉。

与兵衛「お吉さんのことが、前から好きでした!不倫上等!というわけで、お金を……」

お吉「いやいや、無理無理。旦那から不倫を疑われた時も、それを晴らすのに時間かかったんですからね」

今まで親切にしてくれていたお吉に拒否されて、ショックを受ける与兵衛。

与兵衛「…じゃあ、代わりに油を二升貸して下さい」

お吉「いいですよ」

樽に油を詰めるお吉。すると、与兵衛は刀を手に取り、お吉に斬りかかった。
油まみれになりながら、揉み合う2人。

数分後。
命乞いも空しくお吉は息絶え、我に返った与兵衛は呆然としつつ、親からのお金とお吉の家の戸棚にあった金を盗み逃げ去っていく。

ここまでが今回シネマ歌舞伎で見た「女殺油地獄」のあらすじだが、原作ではこの後、奪ったお金で遊びまわる、伯父・森右衛門による捜索を逃れる等と相変わらずな与兵衛は、お吉の三十五日の通夜に何食わぬ顔で参列。その際、ネズミが天井で大暴れしたのがきっかけで紙が落ちてくるのだが、それに与兵衛が書いた文字と血がついているのが見つかり、お吉殺害の件で御用となる。

あとで知ったのですが、与兵衛とお吉が揉み合う際に浴びる油は、フノリという海藻(陶磁器の下絵の下地や工芸品、石鹸や洗剤の代用等に使われていたらしい)を用いているそうです。凄い。


終演後、姉と私はその残酷さと美しさにグッタリしながら映画館を出た。

姉「仁左衛門様は、やっぱりいいね。もう少し早く、歌舞伎を見ていればよかった」

私「そうだね。でもさ」


そろそろ、ハッピーエンドな片岡仁左衛門が見たいよね。


どちらからともなくそう言いながら、私達は歌舞伎の奥深さにさらに潜っていったのだった。



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