『鷺娘/日高川入相花王』の話

どうも、私です。

今日は、「第11回 シネマ歌舞伎の話」をします。


美しすぎて死ぬかと思いました←


お付き合い下さい。

姉「今年のシネマ歌舞伎は目白押しです」

私「そうですな」

そう、前回伝えた通り、今年のシネマ歌舞伎は目白押し。
一言で言ってしまえば、えらいこっちゃなのだ←

姉「で、ですよ。ひやむぎさん」

私「何でしょう?」

姉「今回は、玉三郎さんの『鷺娘』じゃい!!!!!」

私「玉三郎様!!!!!」

姉「『日高川入相花王』との2本立てじゃい!!!!!」

私「安珍清姫!!!!!」

2009年を最後に、全編を踊ることはないと明言された『鷺娘』
様々な形で語り継がれてきた『安珍清姫伝説』をベースにした『日高川入相花王』


見に行くしかないやろ。


※ここからは、ネタバレにご注意下さい。


『日高川入相花王』


  • 『安珍清姫伝説』をベースにした人形浄瑠璃を歌舞伎舞踊化

熊野詣に出かけた僧・安珍と彼に恋をした女性・清姫による愛憎渦巻く伝説がベースとなった人形浄瑠璃(通称:『道成寺物』)を歌舞伎舞踊化した本作。

口上「本作は『安珍清姫伝説』から着想を得た人形浄瑠璃を歌舞伎舞踊化し、人形振りで行われます。まずは、お囃子の紹介から」

とお囃子さんの紹介から始まり、客席からは拍手が送られる。
ひとりひとりの紹介が終わった後、今度は出演者の紹介となった。

口上「清姫、坂東玉三郎。人形遣い、尾上菊之助。船頭、市川九團次」

玉三郎さんの名前が発表され、ひと際大きい拍手に包まれる様子を見ながら、私は思った。


え、人形遣い?


  • 愛する人を求めて

本作で演じられるのは、『渡し場の段』

安珍を追いかけて日高川の渡し場に来た清姫と船頭の問答から始まる。

清姫「向こう岸に行きたいので、船を出して下さい」

船頭「寝起きだし、無理」

清姫「何で」

船頭「無理なものは無理」

清姫「安珍様に会いたいだけなんです。あの方をこの船に乗せたでしょう?」

食い下がる清姫。
安珍から事情を聞き、お金までもらっていた船頭はある事実を告げる。

船頭「追いかけても無駄だよ。その安珍ってお坊さん、好きな人がいるんだって」

清姫「好きな人?」

船頭「お前以外にいるって話を聞いたんだ。それに、お前を船に乗せるな、とお金までもらっている。だから、どれだけ向こうのことを好きでも、向こうはお前のことなんて気にも留めていないんだよ。分かったら、諦めて帰るんだな」

清姫「…安珍、よくも裏切ったな!」

と安珍の裏切りを知り、清姫は嫉妬から大蛇に変身。
日高川を渡り、道成寺を目指す。

というあらすじで、安珍は名前だけの登場。


尚更、「人形振り」と人形遣いが気になるやないか。


  • 「人」ではなく「人形」

「人形振り」の疑問は、玉三郎さんと菊之助さんの登場によって解消された。

玉三郎さんが演じているのは『清姫』ではなく、清姫の 『人形』
それを操作しているのが、菊之助さん

という演出で、あくまで玉三郎さんが演じているのは『人形』だということが分かった。

菊之助さんが腕を動かすように操作する振りをすれば、玉三郎さんは腕を動かすし。
歩くように操作する振りをすれば、歩くし。
顔を覆って泣くように操作する振りをすれば、顔を覆って泣く。


2人の動きが、連動しているのだ。


姉「人形振りって、そういうこと……?」

私「人形と人形遣いって、そういうことか……」

私達姉妹がさらに驚いたのは、玉三郎さんが一切瞬きをしなかったこと

姉「人形は瞬きしないからって、ことだろうね」

私「普通、我慢できずに瞬きしそうなのにね」

姉「それが人と人形の違いなんだよ」

私「うわぁ……」

船頭役の九團次さんも同じだった。

そこにいたのは、清姫の『人形』と船頭の『人形』だった。

そして、玉三郎さんの舞によって表現される清姫の嫉妬に燃え、大蛇に姿を変える姿は悲しくも美しく、恐ろしかった。

嫉妬に燃える女性、そのものだった。

姉「安珍も、清姫に嘘つくなよな」

私「それ。仮にも、お坊さんでしょうに」

姉「修行せぇ」

私「お姉ちゃん、ブチギレ。笑」



「鷺娘」


  • 白無垢と降り積もる雪

降り積もる雪の中、池のほとりに現れる白無垢に綿帽子姿の女性(坂東玉三郎さん)。
嫁入り前の彼女はどこか寂しげで、嬉しそうではない。
女性は、愛した男性を想いながら舞う。その姿は、まるで鳥のように美しい。


そう、女性は鷺の精なのだ。


姉「え、綺麗すぎん?」

私「それな」


こんなに美しい人が、同じ人間なわけない←


  • 色とりどりの衣装

鷺の精は、町娘の姿で男性と過ごした日々を想い、舞う。
このときの衣装は、白無垢と違い、黒や紫を基調としたもの。

曲調や衣装が変わるにつれ、鷺の精がどんな恋をしたか分かる。
どれだけ愛し、楽しかったか。
男心が分からず、すねてしまう場面では、可愛らしさが大爆発。

私達姉妹も、大爆発した。

姉「くぅーーーーー!」

私「叫びたい気持ち、分かる……。可愛いよね!!!!!」

姉「可愛い!!!!!」

このとき、衣装を『引抜き』と『ぶっ返り』という2つの手法を使って替えていて、その一瞬一瞬すら見逃したくなくて、じっと見つめていた。

『引抜き』:重ね着した衣装に仕掛けた糸を、後見(舞台上で役者をフォローする人)が一気に引き抜いて衣装を変える演出。

ぶっ返り』:上着を腰から下に垂らして違う模様の柄を見せることで、役の性格が大きく変わったことや、正体が現れたことを示す演出。

再び本来の姿に戻った鷺の精は、死の淵に立ってもなお、雪の降る中、苦しみながら舞う。
愛した人に会えず、地獄の苦しみを味わいながら舞い、最期に息絶えた彼女の見せる『海老反り』はとても美しく、泣きそうになった。


終演後。
玉三郎さんの美を全身に浴びた私達姉妹は、ため息を漏らした。

姉「玉三郎さんが、美しすぎる。もう鷺娘の全編を生で見られないのが、悔やまれるよ」

私「それな。もっと早くに出会いたかったね」

後悔と満足感入り混じる感想が飛び交う中、姉がひと際大きなため息を吐いて、私を見た。

姉「言っていい?」

私「言ってごらん」


玉三郎さんは、天女なの?

そうだよ。


よろしければ、お願いします。 お願いします!!(圧