余命と夢
夢はいつか叶うのだ。
どの時代も誰かが口にしては誰かが深く頷いてきた言葉のひとつで、出典や真偽のほどが定かではないにしろ、この言葉を信じているか信じていたい人の側がいつだって多数派であることに間違いはないだろう。
何を隠そう私もその一人であり、とりわけ三日前から今日までのほんのわずかな期間で“夢はいつか叶うのだ”という事実を強く確信するに至ったわけである。
「平均的な生命予後は2か月程度といったところです。」
三日前の私に医者はそう言った。余命宣告というやつだった。
その時間は心残りや復讐の全てと折り合いをつけ終わるには余りに短く、かといって何も手を付けずに呆けるには長すぎるように感じた。ただ、事実として私は助からないらしい。
皮肉にもその2か月の余命というやつが私にいろいろなことを思い起こさせてくれた。具体的な死を目前に私は、生れてはじめて死にたいと思ったのはそういえば小学5年生のころだったなとか、そういうことを鮮明に思い出した。
当然のことながら、当時の私はまさかこんな風になるとは思いもしなかったし、あの日以来どれだけ望んでも手に入らなかった死というカードが、今や自ら駆け足で私の方へ向けてやってきているのかと思うと、そのギャップに笑ってしまいそうになった。
手放しで夢が叶ってしまうことへのあっけなさに納得がいかないという贅沢な悩みと、それに対するせめてもの抵抗として練炭を買った。こうすれば私は自分の力で夢を叶えたことになるだろうか。
どちらにせよ、夢はいつか叶うのだ。
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