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無限のネコ定理第3回本公演『演劇を考察してみよう!』 上演あとがき




脚本 すやまあきら
演出/美術 松尾元勢
制作/出演 阿部将生
俳優 浅野悠那 西覚

無限のネコ定理第3回本公演『演劇を考察してみよう!』
2024年4月17日(水)〜4月21日(日)
HP:https://infinitecattheorem.com/engekiwokousatsusitemiyou/


すべての写真撮影:凜果


※この「あとがき」では、『演劇を考察してみよう!』本編の内容を多少含みますが、本編をご観劇されていない方々にも、遊びたい盛りの20代が立ち上げた劇団の、演劇に対するラブレターみたいな。そんな感じで楽しくお読みいただけたら幸いです。


2024年の4月17日〜21日にかけて王子小劇場で上演された無限のネコ定理第3回本公演『演劇を考察してみよう!』。
メンバー全員が演劇大学の出身である我々は、学生時代から劇団の存続やスタイルは第3回公演で決まると教えられてきました。
さて、壮大なタイトルをつけてしまった本公演はどんな人達によって、どんな内部事情で作られたのか。チケット代3,000円にこだわった若手劇団がどういうリスクを背負ったのか。

脚本を担当したすやまあきらと演出を担当した松尾元勢。就職しながら制作・出演を務めた阿部将生。そしてネコ定理の《芝居面》を一身に担った出演者の浅野悠那、主宰の西覚。

全員がピチピチの25歳であるメンバーそれぞれの視点から、《隠し事は一切無し》という縛りプレイの元、《一つの作品を作るということ》について、赤裸々に綴ります。

演劇人である前に、1人の若者である我々。
この公演を観た方も観てない方も何か感じていただけると幸いです。


今回の公演で実施しているクラウドファンディングが、2024年5月31日までとなっています。
本公演をご覧になった方も、本noteをご覧になった方も、無限のネコ定理を応援してくださるととても嬉しく思います。

どうぞ併せてこちらもご覧ください。


すやまあきら

上演を終えて

こんにちは。すやまあきらと申します。
『演劇を考察してみよう!』の脚本を担当していました。

僕からはこの作品を書くことになった経緯を書かせてください。
もっと恥ずかしい、劇団の内情、赤字のこととか、この劇団が存続の危機にある話とか、そういうおもろい話は後述の阿部くん(制作・出演)からあると思うので、そちらも合わせてご覧ください。

第3回公演、なんの企画やる?

去年2023年という年は、僕の中で小説を書こうと決めていた一年でした。
誰しも生きてたら年間の目標みたいなのが一つはあると思うんですけど。「今年こそ免許取りたい!」とか「今年こそ温泉旅行に行く!」とか。それが僕の場合は「今年こそ小説を書きたい!」の年でした。

でもこの年の初め、2023年2月に劇団内で次回公演についての会議がありました。
そこではまぁ、メンバー全員が自分の書きたい作品やアイディアを持ち寄って、他のメンバーに「こういうのがやりたいんだけど!」みたいなのを順番に発表していくんです。
まぁ会議というか、このことを僕らの中では「プレゼン大会」って呼んでいます。

僕のいる【無限のネコ定理】という団体は、メンバー全員が劇作と演出論を学んでいて、各々自分で「作品を創れる」人たちが集まっています。なのでこのプレゼン大会では具体的な作品概要をみんなしっかり考えてくるわけです。

「それ舞台セットどうすんの?」「その作品で何を伝えたいの?」「これはオモロい」「これはオモんない」

プレゼン大会ではこんな言葉ばかりが飛び交います。通常の会議とは異なる、緊張感のある時間。だから「プレゼン大会」です。

これがまぁ毎年ストレス半端じゃないんですよね。何故なら企画一つ(ただのアイディアじゃなくて上演を想定としたもの)を考えるだけでもとんでもない労力と時間がかかるから。
で、それを他のメンバーにきちんと説明するために企画書まで作るんですよ。なんとなくこういう舞台を作りたいとか、あらすじをバーッって説明するだけならどんなに楽か・・・。

こんなんやってる劇団、他にあるのかな。わかんないんですけど。
でまぁ、その日の9時間にわたる議論の末、第3回公演の脚本は僕が書くことになりました。
僕がプレゼンした企画は今回上演した『演劇を考察してみよう!』でした。
その時点で2023年の僕の「小説を書く!」「英語を学ぶ!」という目標は儚く消え去りました。
でもまぁ、代わりにそこで使うはずだったエネルギーを台本に全部乗せてやろう!と思えたので良かったのかもしれません。

「まぁ任せてよ。台本、年内には余裕であげるから」
プレゼン大会が終わると僕はメンバー全員にそう言いました。めちゃくちゃ虚勢をはりました。ほんとは不安がいっぱいです。前書きにもありますが、第3回公演というのは一つの劇団にとってめちゃくちゃ大事な公演らしい、です。
「大コケしたらどうしよう」「お客さんが全然来なかったらどうしよう」いろんな不安が頭の中を駆け巡ります。
だから僕は、嘘でも強がりました。不安を口にするとカッコ悪いから。やっぱり男の子は格好良くなくちゃ。

約束通り、僕は年内に台本をあげました。そのページ数はみんなビックリ180ページ。
普通の演劇公演の本のページ数は大体50〜70ページの間なので、それらと比較すると約三倍くらいの分量になったわけです。

「演出オレやんないから。もっちゃんやってよ」

これは台本を書き始める前に僕がメンバーの松尾に言った言葉です。
僕は今回、自分の本を自分で演出をしようという選択肢は一切ありませんでした。僕の頭の中でできている「正解」の枠組の中から飛び出ないと思ったからです。(それってすごく勿体無い!)

なので僕がこの世で一番信頼している男、松尾元勢くんに演出を託しました。それはそうと松尾くんは頭を抱えていました。何故なら180ページの台本を上演まで持っていくのは、僕ではなく彼の仕事だからです。
そんなこんなで、持てば必ず演劇思考病(私生活が地獄になってしまう病)を患ってしまう恐怖のバトンを松尾くんへ渡すことに成功しました。

『演劇を考察してみよう!』ができた瞬間。

ネコ定理のメンバーの中で唯一、阿部くんは就職しています。
「俺、働きたいんだよね」寒い冬の日、外でタバコを吸っている僕に阿部くんはそう言いました。
長くなるので割愛しますが、偶然にも当時の僕も、劇団員に隠れて就活をしている最中でした(笑)

「こいつも同じことを考えてたのか!」
メンバーには言わないでおこうと決めていましたが、阿部くんの真剣な表情を見て「実はちょっと前にオレも就活しててさ、、、」と伝えました。

阿部くんとは作品の好みも思想も全く合いませんが、彼とはどこか違うところで繋がれている瞬間が多く、一緒にラジオ続けてるのも(Spotifyで配信中!)こういった絆からだと思ってます。
まぁでも結局僕は定職にはつかず、かたや阿部くんは本当に就職します。

この、就活をしていた時期に思ったのは、現代日本において「演劇」のことを知らない人があまりにも多すぎると言うことでした。

街の人にインタビューし、作中でその様子を映しました。

演劇の魅力ってなんだろうって考えた時、多くの人が一番最初に思いつくのは〈ナマモノ〉だという事。だからみんな舞台の事を語る時に「ナマの熱量」とか「何が起こるかわからないところ」とか言うんですけど僕にはそれがあんまりピンときてません。

あとあんま関係ないですけど小劇場の役者がよく言う「舞台が映像の下積みって思われたくない」って言葉。あれもあんまりピンときてません。
「みんな演劇好きなんだなぁ」ってのはわかるんですけど。僕はそういうんより「音楽」とか「映画」とか「お笑い」とか(サブカルクソ野郎です)あとジム行ってベンチプレス上げてる時間の方が圧倒的に好きです。

だから日々、趣味に没頭して生きてると「演劇なんて、、、」と死ぬほど思います。でもそういう自認とは裏腹に周りの友人からは「演劇好きすぎだろキメエ!」と言われます。

親友の鷲見くん(俳優)からは「目がパッキパキ」、もう一人の親友まなみちゃん(カフェ店員)からは「演劇に片足突っ込みすぎてて怖い時ある」と言われます。

彼らの意見を踏まえると、どうやら僕は好きとか嫌いとか、そういう言語間のコミュニケーションでは伝えられない部分で「演劇」のことを想っていて、魅力的に感じていて(それが自分でも不思議だなぁと思うんですけど)確かに演劇のことを考えない日は1日もないし、演劇が嫌いだなんて口が裂けても言えないなと思えてきます。

演劇の魅力。言語化したいのにできない!みんなが言ってることはわかるけどピンとこない!腑に落ちない!
ここ数年はこんな感じで、いつまでも自分の中の答えが出ないまま演劇を続けていました。

ただ確実に言えることは、演劇は劇場に来た方にしか観れません。形に残りません。上演が終われば痕跡一つ残さずどこかへ消えてしまいます。

ん?じゃあ今しか書けないこと書かないと損じゃん!って。歳と共に忘れていくであろうこの感情を演劇に乗せないと!って。そう考えるようになったら演劇の〈正体〉を探すことなんてどうだっていいなぁ、
てかこの気持ちも作品にしたくね?え、したいんだけど!みたいな感じになりまして、
こうして「演劇を考察してみよう!」という作品は立ち上がりました。

30歳の自分には絶対書けない作品を書こう!

『演劇を考察してみよう!』の創作で一番意識したのは「描くべき最大瞬間風速」が「刹那的である」ということでした。

演劇には、過去の作品を同じメンバーでもう一度上演する「再演」と言う素晴らしい文化があります。
「再演」することでまた違った視点で作品作りができたり、さらに面白い演出になってブラッシュアップされたりということが往々にしてあります。

僕自身、「再演」と言う文化に強い尊敬を持っていますが(今までに面白い再演を何本も観てきた)
今回はあえて25歳の僕たちにしか上演不可能!自分たちですら再演不可能な作品にしてやろう!と言う心持ちで作りました。

その辺で酒飲みながら演劇論語ってクソ作品を作り続けてる奴らへの蔑みや、反対に素晴らしい作品を作り続けている演劇人の方々への尊敬も。

そのほか妬み嫉み怒り恨み、、、。同世代はみんなティックトックとK-POP大好きだし、血液型じゃなくて今はMBTIで人の性格を分けてるし、、、。

こんだけ細分化された世の中なのに右向けば右の日本人文化は変わらないから、昔よりこれ悪化してない!?って。そういうアレコレ。

今の僕にしか書けない言葉がありました。若いって言われようが、おもんないって思われようがそんなん知るか!そこにこそ演劇にする意味がある!
その結果、今回の作品(ご覧になってない方はすみません)は今の僕らにしかできない作品になりました。

多分10年。いや、下手したら5年後ですら、この作品を今と同じ熱量で上演することは難しいと思います。

今のネコ定理だから、そしてこのメンバーだから上演できた作品です。

公演が終わった後、メンバーの浅野と「この作品もう俺たち一生できないよな」と笑いながらパン食ってました。ホント演劇にしてよかった。心からそう思えました。

チケット料金とシングルキャスト。ネコ定理のこれから。

今回の作中で「舞台はチケット代が高い!」「集客のためでしかない意味のないダブルキャストなんて辞めちまえ!」と耳が痛くなるセリフを書きましたがこれは本心です。

この作品の登場人物は33役。参加してくれたキャスト陣は11名。全公演シングルキャストでした。
特別集客に優れた役者さんがいたわけでもなく(代わりに皆さん思考が豊かで芝居が魅力的!最高ー!!!)これまでの僕らネコ定理の集客事情を踏まえると、半分埋まれば儲けもんくらいの心持ちでした。
ですが実際は、キャスト陣の素晴らしい芝居と、スタッフさんの力のおかげで作品の口コミは広がり、最終的には客席の8割(招待客含む)を埋めることができました。
しかし、考えないといけないのはこれからのことです。

【チケット代は3,000円。全公演シングルキャスト】

これは劇団を立ち上げてから、今日までのメンバー全員の意向でした。その信念の元、これまでネコ定理はやってきましたが、今改めて思うのは劇団を続けていくことの厳しさです。
後述の阿部くんの文章に詳しくありますが客席が埋まっても、今回の公演の赤字はすごかったです。

僕らが劇団を続けていくためにはもっともっと面白い作品を作り続けないといけないし、頭を使って戦い続けなければなりません。

信念と現実。ここの間のせめぎ合い。あとは豊かなアイディア。僕らと演劇との戦いはこれからもまだまだ続いていきます。

ほんっっっっっっとに、苦しいことも多い戦いですが松尾(演出)の文章にもある通り、その苦しさが今は楽しいです。心の底から楽しいと思えるからこそ僕らは「演劇」をやってます。

そんな僕らを面白がって応援してくださると幸いです。

無限のネコ定理
すやまあきら

松尾元勢 

第 1 章「演劇はエロには勝てない」のラストでの群像のシーン(稽古場では通称カオスシーン)


『演劇を考察してみよう!』の演出を終えて

初めての演出。右も左もわからず進めた稽古。根拠のない自信と、ボロクソに言われる覚悟を持って挑戦した。

もしかしたらつまらな過ぎて、前代未聞の演出家チェンジがあるのかもしれないという不安もあった。ただ挑戦してみたいその一心で挑んだ初演出。

みんなにはこの作品がどう見えているのだろう。
何を感じて何が面白くてつまらなくて、、、見に来ていただいた方と感覚の共有がしたくてたまらない。

もしかしたら、僕の一番の興味はそこにあるのかもしれない。
自分の中にあるアイディアを表現し、探究して作り上げたものを見てもらいたいだけ。誰かに向けたメッセージはいらないし、人に教えることなんて何一つない、そもそもそんな立派な人間じゃない。あとシンプルに興味がない、、、。
結局、大事なのは何に興味を持てるかただそれに尽きる気がしている。そんなことを学んだ公演だった。

脚本を通して特に興味を持ったのは、人間の持つ執着と憧れだった。
これをこの本の中でどう表現するべきか。頭を悩ませるのは勿論苦しかったが、楽しかった。
苦しいことが楽しく感じたのは初めてで、生き甲斐なんて言葉は好きじゃないけど、これが生き甲斐かなんて思うほどに痺れる時間を過ごせた。

第1章「演劇はエロには勝てない」のラストでの群像のシーン(稽古場では通称カオスシーン)は演出をつけた時、もれなく全員の役者が頭に「?」を思い浮かべていた。そして徐に表情に出していた。不安にもなったと思う。

僕にとってもかなりの実験だし挑戦だった。
ただ、可能性を追い求めないことには芸術の持つ本質的な面白さはそこに現れないし、それこそが芸術の示すべき方向なのではないかと思う。そこには価値があったし、その先に手に入れた感覚は今後の演出活動の中で大きな軸になるような気がしている。

美術について


最後に少しだけ美術について触れようかな。
大前提、何の知識も経験もない中で美術をやっている。今回は物語の次元も変われば場所や設定も目まぐるしく変わっていく。

まるで安定してない主人公の心情のように。

僕は一枚絵のような美術ではなく、頭〜終わりにかけて流動的に変化し、全体を通しての美術であり、その空間にいる人々(役者や観客)の想像力を少し刺激したかった。
そんなことを考えて作ってみた。何が言いたいかというと、一緒に美術やってくれる人をずっと探しています。

僕のあとがきはこんな感じです。
多分この先、生きていく中で幾度となく思い出しそうな公演になったことを大変嬉しく思います。
それは『演劇を考察してみよう!』に参加してくれたメンバー、役者、スタッフ、ご来場いただいたお客様のおかげです。超特大の感謝です。

最後まで読んでいただいた皆様ありがとうございました。
劇場で会える日を楽しみにしております。

無限のネコ定理
松尾元勢

阿部将生


こんにちは、無限のネコ定理の阿部です。

無限のネコ定理第3回公演『演劇を考察しよう!』を応援してくださった皆さま、本当にありがとうございました。

普段正社員として働いていることもあり、今回初めて制作という立場で作品に関わったので、

  • 正社員をしながら演劇をすることについて

  • 初めて制作をやって考えたお金と業務のこと

を主にあとがきとして残します。
備忘録的な面も含みますが、『演劇を考察してみよう!』後日談としてお読みいただけますと幸いです。

正社員をしながら演劇をすることについて

大学が演劇に特化した短大だったこともあり、周りには大学を卒業しても正社員にはならず、演劇を中心とした生活を送っている仲間がほとんどです。無限のネコ定理も、自分以外はそうです。

社会人劇団は数多くありますが、自分のイメージだと社会人劇団はそれぞれの生活が軸にあるので無理がないし、みんなある程度大人なのでバランスがわかってる。

無限のネコ定理はまだまだ生まれたてで、佐藤佐吉演劇賞狙いたいし、演出家コンクールも出したい。年に何本か公演を打ちたいし、でかい劇場で公演をしたい。

会社員も始めたてでまだまだ学ぶことがたくさんあるし、ベンチャーなのでガンガンアクション起こして上を目指さないと成長できない。

今回はこの両方のバランス調整をミスって、完全にキャパオーバーしました。色々な面で仲間にもお客様にもご迷惑をおかけしてしまいました。

次に書きますが、今回制作をやったのも初めてで、しかも色々な試みをしすぎたのがキャパオーバーの要因の一つでした。
制作は2人体制で行い負担を減らし、使うツールの再検討やスケジュールの組み方を見直して作業量を調整したいですね。

ということで、劇団と会社、どっちも上昇志向だとそのバランスが難しいというのが今回の感想です。

「どっちも頑張る!」的な精神論は体に良くないので、それぞれの仕事に割く時間をきっちりと分けて、締め切りや納期ベースで予定をどんどん組んでいきます。
精神論でなんとかなるものは技術面を見直せば余裕で解消できると思っているので、そこにこだわっていきたいですね。

あとはメンバーにもっと仕事を振ります。
「皆んなも忙しいよな」とか「どうすればいいか教える時間で自分がやったほうが早いな」とか「渋られたらめんどいな」とか無駄なことを考えてしまう節があるので、とりあえず相談して、自分のキャパを共有するだけでも違うのかなと思いました。

働きながら演劇をすることについては、「自分は恵まれている」の一言に尽きます。
ぶっちゃけ、オーディション受けて俳優として活動するなら正社員は難しいと思います。
どうしても「今回はいいか」とか思っちゃうし、ゼロからアクションを起こす体力と気力が別途必要になるのでとてもじゃないけどできない。
休日は普通に友達と遊びに行ったり休息に時間割きたくなりますもの。そもそもスケジュールの調整に限界がありますし。

それでもなんとか両立していけそうなのは、無限のネコ定理というホームが先にあり、かつ会社が非常に寛容だからです。(有給まとめてとらせてくれたり)
阿部のわがままを飲み込み、一緒に活動や仕事をしてくださる皆様、本当にありがとうございます。

初めて制作をやって考えたお金と業務のこと

お金について
大学の教授に正社員になることを伝えた時、「働くと演劇がいかにお金にならないか痛感するよ」と言われたのですが、今回の公演で早速思いました。

まず、今回は助成金をいただき、クラウドファンディングも行っての公演でしたがそれでも(僕らとしては)そこそこの赤字です。

主な理由としては、これは予算組みの時点で失敗したのも大きいのですが、

  • チケット収入を席数で考え、有料観客数で考えなかった

  • どこにでも充てられるプールに余裕がなかった

  • 予算を組んだ後に決まった支出が多かった

です。これははじめて制作をやったというのもありましたが、見積もりが甘かったですね。
反省として次回以降に活かすとしか言いようがないですが、実際どれくらいの予算で組むのがベターなんでしょうか。席数の6割来場くらい?

無限のネコ定理は正直、「演劇のチケット代って高えー!」って思っています。
なのでクラウドファンディングでも銘打っていたのですが、「チケット代3,000円を維持」を目標にしています。
しかし、これは次回以降崩れそうです。3,500円くらいになるかもしれません。

安くいい作品をお届けしたいですが、赤字が続いてしまうと劇団自体が終わりかねないし、質が悪くては本末転倒。
お客さんと作品の需要と供給も大切ですが、自分達と演劇の需要と供給も大切にしなくてはいけないなと思いました。

なので、作品を作るコストと自分達の存続、お客さんの納得の3つのバランスを早いところ見つけていきたいです。

ちなみに無限のネコ定理の目標の一つには、「公演の収益を劇団員個人に還元する」というものがあります。
関わってくださった皆様には報酬をお支払いしたいと全員が思っていて、少なくはありますがそれは毎回実行しています。

そんな中で劇団員はそれぞれのポケットマネーから出ているものもありますので、個人単位で見ても結構マイナスです。
「好きでやってんのに何いってんだ」と言われるかもしれませんが、リアルマネーの他に作業に割いた時間、本当は働けた時間なども含めれば、やはり僕たちにもお金は必要でした。

劇団の収入って上演に伴うチケットや物販の収入の他に何ができるんですかね?
youtubeは本気でyoutuberになるくらいじゃないと収益出ないし、ネットでコンテンツを配信するのが一番いいんでしょうか?
一般的な企業はニーズがあるから社会の歯車になれて、お金や組織が回るわけですけど、小劇場の劇団ってお金の面も、存在意義の面も、社会の歯車にはまってないんじゃないかって時折思います。(小劇場を貶したいわけではありません。)

演劇界の歯車にはまるのがまあ一番早いのかなとは思いますが、それは知名度を上げればいい?稽古場を持って運営すればいい?
個人的には最近は、作業を効率化するツールや会社(社会)と演劇をつなぐシステムを開発、販売するなどしていくのが良さそうだよなって思ってます。(随分会社的ですね。)

正直、「本公演」として上演する公演は学者や研究者でいう論文のような、それまでの活動の総決算のような位置付けが正しいのかなっていう気もします。
劇団、個人ともに日常の活動や勉強があって、それを経て作られた作品を皆様にみてもらう。その作品で自分達をさらに知ってもらう。みたいな。

後10年ぐらいで自分達がはまる位置を見つけられたらいいな〜と思っています。まだ3回目の公演では答えを見出せていません。

業務について

今回は主に次のようなことを行なっていました。

  • チケットの管理

  • HPやクラウドファンディングの作成

  • プレスリリースや招待など各種宣伝

  • 物販など制作物の作成

  • 関係者とのやりとり

働いて得た能力の活用と、平日は稽古場に行けないことから制作をやった面もありますが、致命的だったのは「稽古場に全然いない」ことでした。

キャストはもちろん稽古場に来る様々な方と会えないタイミングがあり、あとからそのしわ寄せがやってきたり、出演もしていたので、稽古場に行ったら行ったで自分の役や代役で制作の業務が滞ったり。
とにかく時間が足りず、2月〜4月は本当に休みゼロのずっと3時間睡眠でした。睡眠が足りないと普通に業務にも支障が出るのでこれは良くない。


やたら時間がかかったのはチケットの管理です。
事前決済と当日精算の管理を一元化し、リアルタイムで管理できるツールを関係者の皆様教えてください。
別々の席数管理で、招待なども含めると結局スプレッドシートで管理していたので、「これだったらカルテットオンラインや Googleフォームと大差ないのでは」と思ってしまったところが正直なところです。
でもチケットシステムのおかげで宣伝範囲がものすごく広がったので、その点は感謝の限りです。

あとはすでに述べましたが、スケジュール組みが甘かったです。
クラウドファンディング、チケットサイトの利用、新しい物販の作成など、今回初めてやったことがたくさんあったのでその新規作成や不明点の解消、使い方の確認など、予想外のことがたくさんでした。

2回公演までの作業量をベースにスケジュールを考えていたので、全てが後手後手に回り、「超ギリギリでなんとかなった」が全てでした。
まあこれは何を使うかを含めて、次回以降改善されそうではあるので良しとしたいと思います。

ただ、そのせいで本当はもっと多くの人に声をかけたかったのにできなかったり、妥協したところがいくつかあったので、次からは「作業のマイナスをゼロにする」ではなく、「作品をプラスにする」ためのアクションをどんどん起こしていきたいとは思っています。


自分としては、「公演に携わり、円滑に進めるポジションの制作」ではなく、これまでに挙げたように「いかに公演時の無駄や非効率をなくすか」や「どうやったら演劇と社会をもっと繋げられるようになるか」「多くの演劇が長く続いていけるようになるか」など、もっと大元の部分に改革を起こす制作の仕事をしたいと思っています。

こういった仕事は「アーツマネジメント」で合っているんでしょうか。また、どうすればその仕事ができるんでしょうか。
これはちょっと誰かに教えて欲しいと思っています。

無限のネコ定理はその実験場、モデルケースとして存在感を示していけたらいいな〜というのは、阿部の野望です。

今回の公演の経てのまとめ

長々と語ってしまいましたが、正社員で働いている阿部が初めて演劇の制作を行った公演の所感でした。

普段会社では効率を求めて仕事をしているので完全にそういった思考になってしまい、無限のネコ定理の事務的業務もどんどん効率化して、作品の創造にもっと非効率的に時間をかけていきたいと思いました。

もっとこうして楽したい、こうすればより多くの社会にアプローチできる、いい作品になると考えられている今は十分幸せですし、まだまだ自分達は続いていけるなと感じます。

また、お客様からのお声をお聞きする限り、公演としては大成功したと思っています。
しかしこれに満足せず、いい作品を作るための基盤作りにもっとこだわって、会社が回るように劇団も回っていけたらいいなと感じました。

『演劇を考察してみよう!』という作品でなければここまで考えることはありませんでしたし、作品の内容ではなく、上演そのものを通じて今までの人生で一番演劇を考察した今回の公演でした。

ここまでお読みくださった方、そしてご来場いただいた皆様、応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

無限のネコ定理
阿部将生

浅野悠那

無限のネコ定理 第3回本公演『演劇を考察してみよう!』が無事に終演しました!

改めまして関わってくださった全ての方、
本当にありがとうございました!

私は旗揚げ、第2回公演とユニット内で役者兼制作のようなことを担当していたのですが、
今回、メンバーの阿部が就職し、出演は難しいので制作として参加する!ということになり、引き継いで、第3回公演では役者に専念する形となりました。
(結局、阿部も俳優として参加することになりました。まぁそういうこともあります。)

稽古はまぁほんとうに笑いの絶えない稽古場でした。
なんでもチャレンジしていいという雰囲気を座組みんなで作り出していたような気がします。
誰かがその日の最大瞬間風速を叩き出して、次の日にはまた別の誰かが…というように一日一日を越え合って、みんながみんなある種ライバル的な存在でした。
あんなに刺激的な稽古場には中々出会えないので、正直すごく興奮しました。

そしてあまりこういう話をしていいとは思いませんが、そんな稽古だったからこそ本番のトラブルにも臨機応変に対応出来たのだと思います。

お昼の公演中で1人が倒れ降板し、その日の夜公演でカット版でやるのか、公演中止にするのかの話になったとき、
「こう配役すれば公演できるんじゃないですか」と意見をくれた人がいて、「自分やります」と言ってくれた人がいて…、
無事公演をやりきることが出来ました。

対応してくださったスタッフさんや劇場さん、変わらず観に来てくださったお客様にも感謝しかありません…。

『演劇を考察してみよう!』の劇中の言葉にもありますが、演劇はナマモノで刹那的です。
これを今回身にしみて感じました。
初稿を読んだ時、刹那的ってなんやねんと思いましたが、今はわかります。

どんなに素敵な座組も基本的には本番が終われば解散するんです。
素敵なみなさんとまた作品づくりが出来ますように!させてください!精進します!

そんな私たちを面白がって、また劇場に観に来てください。劇場でお待ちしております。

無限のネコ定理
浅野悠那


西覚

また多摩川に来てしまいました。
自分の筆が進まない時は大体多摩川に向かいます。ここに来て筆が進むことはあまりないので、よい選択とは言えないのですが。何か一節でも進めばよいなと思います。

西覚と申します。
「演劇を考察してみよう!」では主に役者として劇団第七ターミナルの主宰、東という役を務めました。
無限のネコ定理では主宰をやっております。
劇の中と外で主宰をやっていました。
ただ、今回、自分がこの立場で生み出した成果が、何も思いつきません。いま、筆が全く進まないと書いたのは、そのためです。

多摩川を歩きながら、色々考えていたら、稲城長沼駅まで来てしまいました。駅前の公演に実物大のスコープドック(ヤッターワン、ガンダムなどを手がけた大河原邦男が手掛けたロボット)の像が見えます。6キロ強歩いて、何も出ない自分が、申し訳なく、情けなく思います。

無限のネコ定理について

今回の公演が始まる前の話をさせてください。

無限のネコ定理を立ち上げた初期からこの団体を民主的な団体にしたいと思っていました。

ある一人の特定の個人(演出家・劇作家・プロデューサーなど)が創作上、運営上の権力を握る創作には限度があるとなんとなく思っていたからです。そのような創作環境からしか生まれ得ない作品もある、ということは肯定しますが、自分たちの団体では別の道を歩もうと思ったんです。

その上で、自分が持つ"主宰“という肩書きをどう位置づけるべきかということを考えていました。

どこで知ったのかもうよく覚えていないのですが、ある企業の組織図で、社長を一番下に、一番上に役職のない社員を書き、逆ピラミッドのような形で表す組織図を紹介していました。
これに影響を受けたのか、自分の主宰としての立場は、とにかく低くしていこうと思いました。

自分の器の小ささから、なんか偉そうな感じの動きをした時は、ちゃんとみんなが釘を刺してくれました。ありがとうございました。

第1回公演は自分が作、演出をやらせていただいたのですが、そこで思ったのは、人間のことを見るには、その人の創作物を見るのが一番良い。ということです。

人生の半分以上を演劇に費やしていると最近気がついたのですが、演劇と関わっていく中で、人を見る物差しのようなものが、自分にとって、演劇になって行ったのかもしれません。
他のメンバーのことを、その人の創作物から眺めてみたかったのです。

そんなことを踏まえて、第2回公演の当日パンフレットに、「自分が作演出を務める無限のネコ定理ファーストシーズンは終わり、これからはいろんなメンバーが作演出を務めるセカンドシーズンが始まります」と書きました。

無限のネコ定理では第2回公演と第3回公演の間にネコラボを2回行いました。3時間でゼロからお芝居を作る試みです。
これをみんなが発明してくれたのは本当にすごくて、ネコ定理の宝物になっている企画です。毎回、自分は客としてみたいし、上で書いたように創作物を通してその人を見れる企画です。(本当に面白い企画なので、見たことない方は是非一度みてください。またやると思います。)

第3回公演について

そのような企画を経て、第3回公演が始まりました。
この公演で自分がやったことは

  • クラウドファンディングの挨拶文(ネコ定理のことを紹介する文書です)

  • 助成金の申請書類のまとめ(みんなからもらった文章をまとめました)

  • 出演

  • 小道具制作

  • 販売台本の製本

です。
やはり、主宰としては何もやってないなと思います。
主宰ってなんですか?何をする役職ですか?何をすべきでしたか?

この話に決着をつけるなら、無限のネコ定理という集団の力が、結束力、対応力が、主宰という仕事を曖昧にさせるほど強いということだと思います。

また、無限のネコ定理に力を貸してくださる客演の方、スタッフの方、劇場の方、関わっていただいた全ての方、そして何より、劇場に足を運んでくださったお客様のおかげで、自分は、この演劇の世界にとどまることができているのだと思います。

本当にありがとうございます。ありがとうございました。
今後とも、無限のネコ定理を気にかけてくだされば、こんなに嬉しいことはありません。

思ってことを推敲せずにつらつらと書いてしまいました。
読みにくいと思われますが、ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

クラウドファンディングが5月の末まで行っております。公演映像をお渡ししたり、幻の第1稿など、ここでしかお渡しできないリターンがたくさんございますので、ぜひご覧ください。

無限のネコ定理
西覚

最後に

5人がそれぞれ思いの丈を綴ったのでかなり長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。

第3回公演は無限のネコ定理にとってもかなり挑戦でしたが、次につながるとてもいい公演だったと思っています。

今後も無限のネコ定理は1つでも多くの作品を皆様にお届けできるように活動していきますので、どうぞ応援をよろしくお願いいたします!


今回の公演で実施しているクラウドファンディングが、2024年5月31日までとなっています。
本公演をご覧になった方も、本noteをご覧になった方も、無限のネコ定理を応援してくださるととても嬉しく思います。

どうぞ併せてこちらもご覧ください。



載せきれなかった写真まとめて載せちゃいます。

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