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「しゃべるピアノ」
もう数年前から視力は失っていたが長年続けていたおかげか身体が覚えているようすで、おばあさんは今日も陽射しが当たる部屋の片隅でときおり肩越しにおじいさんへ話しかけながらのんびり編み物をしている。
JAZZのピアノ弾きだったおじいさんもいまでは現役を引退し、体調が良いときにはこうしておばあさんと同じ部屋でJAZZのスタンダードナンバーを柔らかなタッチで奏でるのが楽しみだ。
巣立っていった子どもたちのことや先日食べたポトフが美味しかったことなど、二人は背を向けたまま取り留めなく話していた。
それはおじいさんが片手を鍵盤に預けたままそっと息を引きとったいまも、おばあさんは気付くことなくやっぱり肩越しに語りかけている。
部屋を満たすピアノの音色はまるでおばあさんの話しに相づちをうつかのように、止むこと無くずっと鳴り響いていた。
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