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町田そのこ「52ヘルツのクジラたち」を読んで

「52ヘルツ」は、どの仲間にも届かない周波数
誰にも届かない「声」を発しながら
世界にただ1頭だけ
いまも海洋を漂うクジラがいる
でも、この物語は違う
実の母親から「ムシ」と呼ばれ、
虐待を受けていた少年
その身体に浮かぶ無数の傷跡は
少年の声にならない叫びのよう
その叫びを、主人公「キナコ」は聞き逃さなかった
自らも心に傷を負い、逃れるようにやってきた田舎町
キナコもまた、声にならない声を発していた

二人の「声」がまるで共鳴するかのように
物語は動いていく
少年を救うべくキナコの行動に、
地元で知り合った真帆やケンタが手を貸し
東京からやってきたキナコの友人美晴も強力な助け船となり
物語は親類縁者をも巻き込みながら大きく展開していく
それはあたかも、最初は小さな二人の呼び声が
少しずつ、少しずつ反響し合い
最後には大きなやまびことなって返ってくるよう

タイトルにある「52ヘルツのクジラ」は
「世界でもっとも孤独な鯨」といわれる
でも、もしどこかで
ただ1頭だけでもその声に共鳴できたなら
世界はこんなにも広がるという
そんな希望を感じさせてくれる物語でした

52ヘルツの鯨は、いまも声を発し続けてる
それは、いつか誰かに届くだろうと
希望を持って発し続けていると
そう信じたい


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