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夢で見た話

※夢で見た話なので地の文などの推敲はされていません。そのうち整えて漫画か何かにしたいなー(願望)


昔の夢をとうに忘れて、都会の狭いワンルームで一人暮らしのアラサー女子。そんな時突然部屋を訪れた風変わりな青年との出会いで、彼女の人生は変わっていく。青年は、彼女と同じくらいの年の頃で、魔女が被るようなよれよれの三角帽子と黒い外套を羽織っている、いかにも怪しい風貌だった。その青年は、彼女に『自由な住空間のモニター』になって欲しいと言い、彼女をある場所へ連れ出す。とても広いその場所を、モニターとしてしばらくコーディネートし、住居として住んで良いと青年から提案された。しかし条件として、部屋には必ずその三角帽子の青年もしくは他の観覧者と必ず住むように、と言われる。どういうわけか彼女はその奇妙な条件を承諾してしまい、三角帽子の青年と奇妙なユニットシェアをすることになった。
驚くべきことに、その住空間は、思ったレイアウトを魔法のように、一瞬にしてコーディネートできる空間だった。彼女はその不思議な体験に戸惑いつつも大いに喜び、自分の理想とする住空間をコーディネートしていった。
理想というだけあって、彼女の作り出した空間は、誰もが羨みそうな煌びやかで豪勢な内装となった。青年は「この中に、君の大切なものはあるのかな?」と彼女に尋ねたが、ただ理想の住空間を作り出しただけの場所には、当然彼女の思い出と呼べるようなものはひとつもなく、彼女は「いいえ」と答えた。その答えに青年は「そうか」とただ一言添えただけで、そのままテレビへと視線を動かしていた。
模様替えなども自由自在で、望めばいつだって変更できた。

しばらく経った頃、仕事で嫌なことがあった。家に帰ればまた自分の理想の住空間が待っていたが、それでもなんだか気が収まらなくて、彼女は青年に言った「模様替えがしたい」と。彼は一言「そうか」と添えただけで、彼女を止めはしなかった。目を瞑り、理想の部屋を想像していると、今日の腹立たしい出来事が脳裏を過った。なんで、どうして、あのように言われなければならないのか。私がしたかったものは、こんな仕事じゃない。全て無くなればいいのに…。その詰問は脳内で激しくなり、いけない、と彼女は思考を振り払うように頭を横に振った。そして思わず目を開けると、そこには何もない、薄暗い部屋が広がっていた。豪華絢爛な住空間は全て取り払われ、なにもなくなっていたのだ。先ほどまで腰をかけていたソファすらない。彼女は地べたに座り込んでいたのだ。なぜかぽつんと残っていたのは、彼女が大事にしていた森や建築に関する本の仕舞われた本棚と、積み木の入った木のおもちゃ箱。この二つは彼女の実家にあるはずのものだった。慌てて立ち上がると、「やあ」と背後から声がした。驚いて振り返る。そこにはしばらく過ごした青年とは違う、別の青年が立っていた。歳の程はわからないが、帽子の青年よりも背が高く、坊主で、少しふくよかな風貌だった。しかし格好は素朴で、ベージュのカラー付きのシャツに、焦茶色のスラックスといった格好だった。
「全てを投げ出してしまったんだね、わかるよ、そういう時もあるものさ」
青年はニコニコしながらこちらを見ている。
「誰…なの?」
何故だかその笑顔に薄気味悪さを感じて自身の腕を抱くと、青年は両腕を床と水平に掲げて指を鳴らした。
「でも大丈夫、僕が全部元通りにしてあげる」
すると彼の立つ周辺に、瞬く間に立派な家具たちが現れ、瞬く間に周りを埋め尽くした。辺りはまだ薄暗い。彼女にはその家具たちが彼女を嘲笑っているような気がして、より薄気味悪かった。その光景を声も出せずに眺めていたが、それらが彼女の本棚と積み木をも飲み込もうとした時、彼女は声を上げた。
「やめて!」
「なぜだい?君は今まで、人にすべて任せきりで、自分の意志なんてなかっただろう?自分のやりたかったことさえ見なかったことにして、全て楽な方へ流れていったじゃないか!」
「それは…!」
「今回だって同じさ、ただ身を任せるものが変わっただけ…そう、君は今怒りに任せて、全てを失おうとしている」
その言葉より先に、家具たちが本棚と積み木を飲み込もうと周りを覆い尽くそうとしているところへ、彼女は飛び込んで、身を挺してそれらを守るように立ちはだかった。
「私の大事なものは、私が決める!私が守る!」
夥しい量の家具の群勢が彼女の目の前まで迫る。それでも背後に大切なものを庇いながら、彼女は思わずぎゅっと目を瞑った。

暖かいぬくもりとなにか賑やかな声を耳にして、彼女は重い瞼を持ち上げた。目を開けるとそこには、先ほどとは異なる、暖かなオレンジの空間が広がっていた。全ての家具や調度品は、豪勢なものではなかったが、調和の採れた木製のもので統一されている。彼女はその空間の真ん中、大きくて柔らかな、まん丸の赤いクッションの上に頭を預けて、気を失っていたようだった。
「気がついたのか」
声の方を見ると、帽子を被った青年が、相変わらずテレビから視線を外さずに声だけをこちらへかけている。気がついたのか。その問いかけに、「…ええ」彼女はそう返事をしながら辺りを見回すと、統一感のある調度品のうちの一つに、彼女の本棚があることに気がついた。
「ありがとう。」
「何がだ?」
「あの本棚と、それからこの積み木。あなたなんでしょう?」
「…ああ」
そんなことか、と言いたげな声音で彼は初めて彼女の方を向いた。
「俺は何もしていない。君が、思い出してくれて嬉しい。ただ、それだけさ。」
その返答に彼女ははにかむと、徐に彼の見ていたテレビへと視線を移した。そこで初めて、テレビに映し出されているのが家族や自分の映像だということに気がついた。目覚める時に聞いた賑やかな声は、これだったようだ。彼は彼女と過ごしている間、ずっとテレビに釘付けになっていたが、どうやらずっとこれを眺めていたらしい。驚きはしたが、不思議と嫌な気分にはならなかった。そして、なぜ今までそれを見ようとしなかったんだろうと、心底疑問に思った。そこには、建築士を志し、勉強に忙殺されていたが、充実した日々を送っていた自分の姿も映し出されていた。はて、どうして私はこの道を諦めてしまったのだろう?今となっては思い出せないこの問いの答えも、特に重要ではないと、彼女の心が叫んでいた。
「気がついたのか」
「ええ、気がついたよ」
「…そうか、君は、気がついたんだな」
彼は立ち上がると、彼女の方へ向き直り、腰を屈めた。その様子に彼女も居住まいを正すと、彼は彼女の目をじっと見て言った。
「もう大丈夫、君は、君だ。君が気がついてくれて、俺も嬉しい。この先、君の事を決めるのは、君自身だ。他でもない、君だ」
さあ、目を瞑って。言われるままに目を瞑る。永遠とも刹那とも言える間の後、目を開けると、そこには小さなワンルームの部屋が、青年が訪れた日と同じように、そこに佇んでいた。奇妙な夢だった。夢だったのだろう。だが、彼女の気持ちは決まっていた。
数ヶ月後、その小さな部屋は、空室となっていた。彼女のその後は、まだ誰も知らない。

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