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【大人の為の童話】桃の花達のおしゃべり

 白いカーテン、白い家具、白い家電ばかりあるお部屋に、あるお兄さんが桃の花を持ってきました。お花なんて女の子にプレゼントしたことないお兄さん。お花屋さんでまだ蕾ばかりの、一番可愛いと思う桃の花をお兄さんは一生懸命に選んで、汗をかいて照れながら買ったようです。そして白色に囲まれたお部屋に住むあるお姉さんに桃の花をプレゼントしました。

 お姉さんはどうやらずっと泣いていたようです。桃の花を見ると肩の力が抜け、少しはにかみながら、お兄さんにありがとうと言いながら抱きつきました。

 お兄さんとお姉さんは、大事に桃の花を花瓶に生けました。そして二人で顔を見合わせながら、

「可愛いね、桃の花このお部屋にすごく似合うね。」

そう言いながら、ずっと桃の花を二人で見ていました。

 お姉さんはお兄さんが来るまで、ずっと泣いていたから疲れたのか昼寝を始めました。お兄さんも急いで自分の家から来たので、疲れたのとほっとしたので、眠ってしまったようです。

 白いお部屋はしばらくぶりに、穏やかで静かな時間が流れ始めました。

 すると桃の花のあたりからちいさな声が聞こえてきます。ちょっと耳を澄まして聞いてみましょう。

 桃の花の長女の精が喋りだしました。

「妹たち、聞いて。私達はね、この部屋のお姉さんを元気づけるためにここに連れてこられたのよ。お姉さんね、ずっと辛かったのですって。子供の頃から誰にも言えない悩みや苦しみを一人で抱えて頑張ってきたのですって。お姉さん、苦しくてとても耐えられなくなってしまったみたいなの。だから私達姉妹で、お姉さんを元気づけてあげましょう。」

 長女はそういうと蕾を力いっぱい咲かせました。お姉さんが元気になれるように、それが私の願いなの、と心の中で思いながら、花を一生懸命咲かせました。

 すると桃の花の次女の精も喋りだしました。

「お姉さんね、なんで生まれてきたのだろう。苦しむ為に生まれてきたわけじゃないのに、って思いながら眠っているみたいよ。そんなことないのにね。お姉さん、笑ったり喜んだりしてきたのにね。きっと今が辛いだけで忘れちゃったのよ。思い出せるように、私達一生懸命に咲きましょう。それが桃の花の姉妹の生まれてきた理由かもよ。」

 次女も長女に続いて、蕾をほころばせました。

 下の妹たちは長女と次女の話を、うんうんと聞きながら、いろんなおしゃべりをしています。

「私達桃の花を選んでくれたお兄さんは、とっても優しい人ね。きっとお兄さんもいっぱいつらいことや悲しいことを乗り越えてきた人なのでしょうね。」

「お姉さんの笑顔が戻ったあ、お兄さんも嬉しそうだったわね。私まで嬉しくなってきちゃった。あー、私もなんだか咲きたくなっちゃった。」

「私達姉妹が来たことで、お兄さんもお姉さんも、幸せを感じてくれるといいわね。きっと優しい二人だもの。私たちの気持ち伝わるわよ。だから私達一生懸命に咲きましょう。」

 桃の花の姉妹たちのお喋りは、お兄さんとお姉さんが昼寝している間、ずっと続きました。女の子のお喋りって止まらないみたいです。

 白いお部屋は温かな空気でいっぱいになっています。

 お姉さんが白いお部屋に引っ越してすぐにやってきた、ガジュマルの木の精は、桃の花の精達のお喋りを嬉しそうに聞いて、根を力強く張りました。

 ガジュマルの木の精は力強い声で言いました。

「今は冬。俺は冬の間はじっとしていたが、春が来たら俺の本領発揮だぞ。お姉さんがびっくりするくらい幹を伸ばし、緑の葉を茂らすのだ。俺はずっとこのお姉さんを見守ってきたのだ。これからもずっと見守っていくつもりだ。」

 ガジュマルの木の精がそう言うと、緑の葉が少し動きました。

 どうやら春はもうすぐみたいです。

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