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宇宙人がやって来た!

 寝室の窓越しに強烈な光が射し込んできて、目が醒めた。
「こんな時間に、外でフラッシュなんか焚いてるのは誰だろう」わたしは寝ぼけまなこでカーテンを開ける。
 目の前の空き地に、タンク・ローリーくらいの丸っこい乗り物が駐車していた。デコトラも顔負けの、ギラギラど派手な電飾を瞬かせている。
「あんなに明かりを付けちゃって。省エネだって騒いでいるこのご時世に、いったい何を考えてるんだか」

 まぶしさに目を細めながら様子を見ていると、中から人影が3つ、4つ降りてきた。
 窓のすぐそばまでやって来ると、全員そろって、平手で喉仏をとんとんと叩きながら言う。
「ワ・レ・ワ・レ・ハ、ウ・チュ・ウ・ジ・ン・ダ」
 宇宙人だっ! ということは、あの乗り物は宇宙船なのかっ。

「ち、地球を侵略しに来たんだねっ?!」わたしはうわずった声で叫んだ。
 宇宙人達はきょとん、と首を傾げる。別の1人が、iPadそっくりの端末で何か操作して、わたしに表示画面を見せた。

 〔はぁ?! なにそれ。つまんないっ!〕

 日本語でそう書かれている。
「えっ、違うの?」わたしは拍子抜けしてしまった。

〔我々は、惑星・リーバイスから来た、宇宙文化生命学の研究者です〕
「ああ、調査団の方達ですか」わたしはうなずく。「つかぬ事をお伺いしますが、わりとちょくちょく地球上空を飛び回ったりしてません? 最近、目撃情報が多いんですが」
〔ははは、そうかもしれませんね。なんせ、上期の締めが近いもんで、それまでにはレポートを提出しなければならないんですよ〕
「どこも、大変なんですね」心から同情する。

〔ところで、今日は君にご協力を願いたいんですが〕宇宙人が改まって言ってきた。
「はい、なんでしょう?」
〔人体実験の被験者になってもらえないでしょうか〕
「それはちょっと……」わたしは困ってしまう。
〔あ、いや。何も、切ったり改造したりというんじゃないんです。昔はやっていましたが、近頃では宇宙人権協会がやかましくて〕
「そうなんですか。どういうことをすればいいんです?」
〔ここじゃなんですので、どうぞ、あちらへ――〕
 そう言うと、UFOの方を指し示す。
「お邪魔します」わたしは彼らについていった。

 UFOの中は、ゆったりとした応接間になっている。革張りのソファーがドーナツ状に並び、中央には丸いテーブルが置かれていた。
「なかなか居心地のよさそうな船内ですね」わたしは感心する。
〔夜はテーブルを端に寄せて、布団を敷いて寝るんです〕
「へえー」どこか、所帯じみているなあ。
〔料理が運ばれてきました。さあ、召し上がってみて下さい〕
 テーブルの上に、次々と食べ物が載せられていく。冷や奴、納豆、ハンバーグ、すき焼き、スクランブル・エッグ……。
「てっきり、エイリアン料理が出てくると思いましたけど」
〔いま、銀河系じゃ、地球のメニューが流行なんですよ。スシなども大人気で、アンドロメダ・ロールだとか、宇宙軍艦巻きなど、独自の物まで創作されていましてね〕

 促されて、わたしは料理に箸をつけ始めた。
 冷や奴を箸で挟んで切り分け、そっと口に運ぶ。
〔おお、ああして小さくし、強すぎず弱すぎず、計算しつくして持ち上げるのか〕宇宙人達は、身を乗り出すようにしてわたしを観察する。
 パスタをフォークにクルクルッと巻きつけると、
〔地球からの電波で観たことがあるが、本当にああして摂取するんだなあ!〕などと、大いに湧くのだった。

「あのう、いちいち評価されると、とっても食べづらいんですけど」わたしが苦言を呈すると、
〔ああ、すみません。ですが、これが人体実験なんですよ。年末に「地球グルメ」という本を出版する予定でして〕
「ああ、そういうことでしたか」わたしはようやく理解した。「えー、納豆は、こうしてつまみます。つるんっと滑りやすいので大変ですが、力加減と勘で、えいやっ、おっとっと、そらっ!」
〔なるほどっ! われわれは、わざわざ専用のコンピューターまで開発して研究に当たったんですが、結局、実現できずにいました。……えっと、「力加減と勘」……っと〕

 すっかり満腹になったわたしは、宇宙人達にいとまを告げてUFOを後にした。
 帰り際、
「2冊目の刊行が決まったら、また呼んで下さい。今度は、ステーキとかフグ鍋なんかいいと思いますよ」

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