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星に恋して(Ⅰ)

 カオリが死んだ――それは突然の知らせでした。
 大学の講義を終えるや、家に戻って喪服を引っ張り出し、あれやこれや準備を済ませると、大雪の中、札幌駅へと急ぎ、何とかこの最終の霜川行高速バスに飛び乗りました。
 カオリは特別な友人でしたが、高校を卒業して以来、もう何年も連絡を取っていません。十年以上になるでしょうか。もちろん、病気のことも知りませんでした。
 駅で買ったお弁当で空腹を満たし、眠剤を口に放り込んでシートを倒すと、ほっとしたのでしょうか、いい具合にうとうとしてきました。乗客もまばらな車内はとても静かで、聞こえるのはただ走行音と車外の風の音だけです。そのまま霜川までぐっすり眠るつもりでしたが、夢とうつつのあわいをさまよい、まさに向こう側に落ちんとしたその時、風の音にまじって、少女のすすり泣きが聞こえてきたのです。私は驚いて目を覚まし、寝ぼけ眼でがらんとした車内を見回しました。
 泣いていたのは誰?私?いえ、カオリに違いありません。記憶の中のカオリの面影は薄れかけていますが、それでもあの声を聞き違えたりはしません。
 冴えてしまった目を車窓に移すと、外はこの冬一番といった猛吹雪になっています。高速道路は岩見沢で通行止めで、バスは国道十二号に下りると、のろのろと這うように走ります。上りは二時間遅れだったと運転手さんはぼやいていました。久しぶりの故郷の町。いったい、いつになったら着くのやら――そう、この感じ。あの夜もちょうどこんな感じでした。高校三年生の夏、カオリと二人でペルセウス座流星群を見に行った時のことです。
 おんぼろのピックアップトラック、真っ暗な山道を照らすヘッドライト、壊れかけのカーステレオ、カオリのお気に入りの古いロックンロールのリズム、夏の夜の湿った風、シートに染み込んだ甘くなつかしいカオリの匂い――不慣れな運転で道に迷い、いつまでたっても目的地の芦別に着きません。忘れられない思い出です。

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青春の光と影、愛と孤独、そして死――北海道の札幌郊外や空知地方の美しい自然を背景に、ティーンエイジャーである2人のカオルと1人のカオリが織…

公開中の「林檎の味」を含む「カオルとカオリ」という連作小説をセルフ出版(ペーパーバック、電子書籍)しました。心に適うようでしたら、購入をご検討いただけますと幸いです。