【小説】胡蝶の夢(Ⅲ)
ドアが開き、ずんぐりとした憂鬱そうな表情の女性がぬっと顔を出す。この人が電話の人、愛人、じゃなくて、内縁の妻のマキコさんか。マキコがはれぼったい目でカオリを一瞥すると、カオリもほとんど本能的にメンチを切り返した。天を衝く怒髪、意地っ張りそうな額、反抗的な目――マキコは上から下へ、品定めするように素早くカオリを眺めると、大きなお腹に気づいて当惑した。
「言ってくれれば駅まで迎えに行ったのにさ」
そしてカオリを玄関に招き入れると、破顔一笑した。
「今日は喪服で明日はウェディングドレスなんて、人生そのものじゃない」
悪い人ではなさそうだ。
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4,873字
【創作小説】胡蝶の夢
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青春の光と影、愛と孤独、そして死――北海道の札幌郊外や空知地方の美しい自然を背景に、ティーンエイジャーである2人のカオルと1人のカオリが織…
公開中の「林檎の味」を含む「カオルとカオリ」という連作小説をセルフ出版(ペーパーバック、電子書籍)しました。心に適うようでしたら、購入をご検討いただけますと幸いです。