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第4話 つわり時期のこと

振り返ってみると、つわりは妊娠6週ごろから始まっていたんだと思う。それから、波がありつつも妊娠14〜16週ごろまで続いた。吐きづわりではなく、食べづわりでもなく、眠りづわりというのが最も適した言い方のようだった。

とにかく眠い。とにかく体力がない。食べたいものも見つからない。いろんなものの味が変わって、どんどん食べられないものが増えていく… そんな毎日だった。
『妊娠初期は葉酸をたくさん摂れ』という記事をよく見かけたので、納豆を食べてみれば木のような風味がして、それ以来しばらくは納豆が食べられなくなった。それじゃあ葉酸サプリを飲もうとするも、臭いがダメで飲めなかった。
ベッドの上で丸一日「今日は何を食べよう」と考えて、気づけば夜という日もザラにあったし、たくさん食べるという憧れからか、大食い動画にハマった。なんだか自分もたくさん食べた気持ちになった。

ろくに動けず、泥のように眠る1週間が終わったら、翌週は少し動ける…みたいなサイクルがあったようにも思う。検診の日や役所に行く日、人と会う時や投票とかそういう時は気が締まるのか、なんだか動けた。
そのあとはもちろん、泥のように眠る日々が待ち受けていた。

その時期は体力もかなり落ちた。駅までの1kmを歩くのにヒィヒィなって、駅に着いた頃にはもう体力の限界を感じた。ある時は洗濯を干しただけで疲れ果て、立ってもいられなくなって、また泥のように眠った。
今までとの勝手の違いに戸惑ったし、何もしていないのに疲れる事態に落ち込んでしまうときもしばしばだった。いつかまた動ける日が来るのだろうか…という気持ちと、これから子どもが生まれて遊んだりしないといけないのに、こんな婆さんみたいな感じが続いたらどうしよう…と、自分が随分と歳をとった気もして、とてもとても悲しくなってグレさんに泣きついた。

その度に彼は、「マミは身体の中で人を育ててるんだよ。すごいことをしているんだよ。疲れるのは当たり前だ。」と言ってくれて、また泣いた。

箱根、宿の近所を散歩した時

そんな日々だったけど、わたしの誕生日の頃に一泊で箱根に行こうということになった。
箱根に行ったところで動けるのか心配だったが、動けなかったら宿で温泉にでも浸かってジっとしておこうと思った。

宿は強羅に程近い場所で、山に囲まれた場所だった。
バスを降りて宿まで歩いていると、それまで続いていた頭痛がなくなってスッキリしていることに気がついた。猛暑猛暑の日々にやられていたが、箱根は都内よりもかなり涼しく、久しぶりに聞くヒグラシの声に胸はときめき、グレさんにヒグラシの説明をした。

温泉で汗を流した後、散歩に行きたいという気すら湧き起こった。宿の近くを流れる川沿いを歩き、気持ちよく動けている自分に驚いた。1時間程ゆったりと散歩をして、久しぶりにお腹がグゥと減り、「お腹がすいた」とグレさんに告げると、彼は大喜びをしていた。
ハンバーガーを完食し、夜にお腹が空くかもとおにぎりまで買って、宿に戻った。その日で8kmも歩いていた。

翌日は、朝早くに目覚めたので朝食前に散歩をした。
朝から運動して腸を動かしたからなのか、その頃の悩みだった便秘すら箱根では解消され、わたしは感動していた。その日は朝から夕方まで箱根探訪を楽しんだ。箱根ロープウェイに乗って大涌谷から富士山を拝み、芦ノ湖で箱根海賊船にも乗って、箱根神社まで足を延ばした。
よく歩き、よく食べて、よく笑った旅だった。山々を眺めながら、久しぶりに人間らしく過ごせていることに、嬉しさのあまり涙ぐんだ。

その夜、東京に戻るとすぐさま頭痛が戻ってきた。
東京駅の丸の内あたりを乗り換えで歩いていて、自分の体が重たいことに気がついた。

これは…なんだかおかしいね と、ふとHSP(Highly Sensitive Person) という言葉が浮かび、自分のそういや持っていた一面を思い出した。
(続く)

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