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【日記】11/28

昨日見た手袋が今日も落ちている

それを見て私は、世界が自分と同じくらいには優しくない事に安心した

銀杏並木の黄絨毯に横たわった茶革の手袋は持ち上げたらリスか何かが飛び出してきそうな風情があったが、それだけだった

「雨が降らなくてよかったね」
心でそう唱えると私は今日も手袋の横を通る

日々の生活で楽しかった事などはロクに思い出すことすらままならないのに、こんなどうでもいい情景ばかりが心に残る

そして心に残っているからこそきっと、明日も同じ道を通るだけの勇気はない

もし同じ場所に手袋が無かったら、そんな事は考えるだけで実際に見る必要なんてない

せめて冬が来るまでは、手袋の下にはリスが居て欲しい

寒さに耐えかね森に帰ったと私が思えるまで

自分の中でなんでもなかった銀杏並木に物語が生まれ、それは葉が落ちても街を彩っていく

こうやってしばらく通れなくなった道が増えていき、あるいは減っていくのも何か楽しい

橋の欄干が一箇所だけやけに錆びていたり、公園の砂場に熊手が刺さっていたり、そんな場所に名前が着き、私の脳内でマッピングされて咀嚼し終わるまでそこは通れない

あの工事中のビルの下は別の理由で通れない

早く工事終われ




そう、こんな理屈で私は

拾わなかった手袋を正当化して生きる


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