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先生と豚③

 紅林のクラスにはいわゆるいじめが流行していた。
 対象者は菊本といって、いかにも気弱そうな顔立ちをしている。細い身体をして肌が白い。それが女子に言わせると気持ち悪いらしい。紅林はいじめに参加する気は全くなく第三者に徹していた。しかしクラス全体が菊本を攻撃しているため、ときには面倒なこともあったが興味がないと言ってその場を凌いでいる。
 そんな菊本の存在に柿崎が目を付けた。
「あの子、使えるね」
 そう言ってから柿崎は紅林にいじめの中心は誰か問うた。
「それなら多分、輪島だ」
「あいつかぁ……」
 輪島はバスケット部に所属していて背が高く、力が強かった。菊本とは正反対で血色がよく、顔立ちもよかった。よく女子から手紙を貰うらしく仲間に自慢げに話している。紅林は輪島と仲が悪くもよくもない関係だったせいか、数度その話を聞かされた。
(どう考えても性格悪いぞ、あいつ。なんでもてるんだか)
 それは決して自分がもてないことを悲観しているわけではない、と紅林は自身に弁明するように付け足す。
「……うん、使えるなぁ」
「さっきからなんだよ。使えるって」
 紅林の問いを無視して柿崎は言った。
「いまのうちに言っておくけど、誰を巻き込もうが文句を言わないでね。安全に盗むには多少人を使うからね」
「菊本を使う気かよ」
 うん、と柿崎は答える。
「……抗議しても、どうせ聞かないんだろ」
当たり、と柿崎は人好きのする笑顔で答えた。



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