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本とコーヒーで時間の流れが異なる世界へ


約束していたオカリナのコンサートに行った。

小さな土のかたまりからできたオカリナという楽器は、不思議とざわめく森に吹き抜ける風を思わせる。
トトロも奏でるその音楽に癒されるのだという下心はすっかり満たされた。

帰り道にまだ蕾の紫陽花を見つけて、青紫の虹色を楽しみにしているよと念を送る。
雨がやまない日曜日の午後、町から少しずつ人がいなくなっていく。
そろそろ大切なおやつの時間だ。

本日のカフェはずっと前から気になっていた「本屋イトマイ」へ。



ちょうど看板に明かりが灯った。
黒板のメニューには書籍、コーヒー、スイーツ、
クリームソーダと並んで静やかな空間、とある。


扉を開ける、ドキドキ。
ギイイ、と音がして、扉を見ると
「静かに閉めてください」と書いてあった。



2019年3月、本屋イトマイはオープンしました。
店名の由来は「お暇します」から取ったものです。

プライベートでもオフィシャルでもない「暇(いとま)」を、本と珈琲と静かな空間の中で各々ゆっくり過ごしていただき、それぞれに豊かな時間が訪れたらいいな、という願いのもとに作られました。

本屋イトマイホームページより




本をしばらく見てまわるうち、カフェの順番が来た。
案内されたのは窓を背にした1人掛けのソファ席。

そもそも、最大ご利用人数は2人まで。
会話はご遠慮ください、筆談具ございます、
というのだから、心安らぐ色合いのドライフラワーに
囲まれて、静けさを求めて訪れるお客にはこの上なく
心地よい空間となっている。



本日のオーダー
深煎りのカフェオレ
プリン全部のせ
(さくらんぼが季節によりいちごになっていた!)

淡い薄紫色のクリームソーダとかなり迷った。
17時以降しか注文できない
〝夜〟というソーダもあるらしい。
プリンはみっちり卵の味しっかり固め、かつクリーミー。
カラメルはかなりのダークアンバーな苦みあり。
純白のクリームにはそこはかとなく酸味が。
それをせつない味と感じてしまうのは、
さっき手に入れた恋愛詩集のせいなのか。



キッチンの方を眺める。
店主は現代美術を学び、新聞社や出版系の
ブラフィックの仕事をされたのち、
こだわりの選書をする本屋をオープンしたそう。
ニット帽をかぶったご本人が、カフェオレと
プリンをふるふるさせながら運んできて、
膝をついてテーブルにそっと置いてくれた。



2人掛けのソファ席の前にあるテーブルは
財宝か、もしくは何者かが入っていそうな
鍵つきトランクだ。

カフェスペースの席は全部で10ほどだろうか。
お隣との間は半透明くらいの薄い生成りの布で
区切られ、お互いはシルエットでしか確認できない。



おいしいのみものと
たべものをゆっくり味わい、
静けさの中でただ「ぼんやりと」し、
ふと気づけばもう夜だった。
現実世界へ戻る階段を降りなければならない。
また来たいというよりは、
ああ、まだ帰りたくない。



東京都板橋区の町、駅から徒歩1分の場所なのに。

選び抜いて並べたたくさんの本と、じっくり淹れたコーヒー、ゆっくり丁寧に仕込んだに違いないプリン。そして本文の全てのページの紙にやわらかい桃色を選んで装丁された恋の詩集。

そこには明らかに日常とは違う速さで時間が流れていた。
堪能しながら学びとろうとしていた。
自分の暮らす場所でも、こんなふうに時間の流れを変えられたら。

それでもやっぱりまた行って、今度はクリームソーダを注文してみたい。
屋根裏かロフトのように、何やら階段を上がったところにも席があるらしく、できることなら全部の席に座ってみたくなるような、ステキな「いとま」を過ごせる場所だった。



カフェの白い戸棚に立ててあったのは
見逃して後悔していた「エルマーとりゅう」
の展覧会の図録だった。
ますますイトマイさんに惹かれてしまう。
(上の写真はblue sheepホームページより)


東京での展示は終了したが福岡へ巡回する↓




とっておきのカフェがひとつふえた。
本当は、秘密にしておきたいくらいの。↓







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