青空の下でコーヒーを☕️お散歩「清澄白河」
変わるもの、変わらないもの。
人の気持ちは変わっても、空の青さは変わらない、
とか。
清澄白河の入口「Blue Bottle Coffee」
サードウェーブの上陸と騒がれた「ブルーボトルコーヒー」の1号店が清澄白河にオープンしたのは2015年のことらしい。
フラッグシップカフェとなった清澄白河のお店は、明るく天井の高い工場のような空間で、自分たちで選んで仕入れた生豆を大きな機械で焙煎し、人の手で丁寧にドリップしてくれる。
すぐにでも味わってみたかったが、大混雑と大行列におそれをなし、ほとぼりが冷めるのを待つこと数年。
いくらかの行列に並んでコーヒーを買った日、それがはじめての清澄白河だった。
創業者のジェームス・フリーマン氏が「日本を旅行したときに訪れた喫茶店で、多くのことを学んだ」と語っている記事を読んだことがある。
ジェームス氏がこの町の公園やあちこちを歩いたりしてお店を出す場所に選んだのは、緑があって静かで道が広く、高い建物がないため「空が広く見えるから」だったと知り、なるほどお目が高い!と唸ったものだ。
何はともあれ「iki Espresso」へ
今回のお散歩は清澄白河。
前回の蔵前散歩の終わりに、行ってみたかったカフェ「iki Espresso」を思い出して清澄白河に移動してみたものの、夕方18時を過ぎたところでなんと時間切れ、すでに閉店していたのだった。残念。
くわしくはこちら↓
行けなかったとなると、ますます行きたくなってしまう。
そんなとき、清澄白河にひとつ用事ができた。
無垢の木を使った家具屋さんを見つけたのだ。
頭の中でカフェからはじまるお散歩コースを思い描きながら休日を待ちわびる。
☕️
まだ春は遠い日だったが、まぶしいほどよく晴れた朝だった。
ところで私がひどい方向音痴であることを前置きさせてほしい。
もちろん地図を調べて予習をするのだが、なぜか90°ずつ方向を間違えることが多くどうも確信が持てない。
ちゃんと辿りつけるだろうか?
ひとりで降り立った朝の清澄白河はまだ人が少なく、見渡せばゆったりと川が流れている。
それを見下ろしながら、大きな橋を渡って歩いていく。
しばらくいくと、あった!
こぢんまりとしたカフェ、iki Espresso‥‥?
???
ホームページで見た三角屋根の解放的な空間はどこへ?
「すみません、このお店、もう1軒ありますか?」
このデニッシュもう1個ありますか?のようなおかしな質問に、カフェのお姉さんはにこやかに答えてくれる。
「ありますよ!向こうに歩いて道路渡ってすぐです。でも入口がちょっとわかりづらいんですけど。」
よかった、焙煎機のある大きなお店は後からできたはずだから、このカフェは姉妹店なのだ。
すでに満席で、ショーケースにはブルーベリーのはみ出したマフィンや魅惑的なペストリーたちが、甘い香りで誘いながら出番を待っている。
方向音痴はこんなとき、もれなく無駄にたくさん歩く。指示通りに進んでいき、マップ上の丸い生体反応は到着しているのに、それらしきお店が見えてこないのだ。
また川がある。アーチの橋を渡りかけ、思い直して引き返し、あてずっぽうに小道に入る。
そびえるコンクリートの壁があり、その前にたたずむのは。
このカフェが三角屋根なのは、合掌造りの倉庫をリノベーションしたからで、高い高い天井と広々としたフロアに、大きな窓から自然光がやさしく降りそそぐ。
ニュージーランドのカフェ文化を出発点に、理想の自家焙煎コーヒーと町にとけ込むカフェを追及しているお店。
おいしいものを食べ、コーヒーを味わい、周りのお客さんのおしゃべりをぼんやりと聞きながらくつろぐ。ずっと欲しかったのは、こんな時間だった。
1階のはじっこのテーブル席には小さな白いわんこが2匹、ご主人の膝の上で行儀よく座っている。
オーダーの列に並んだご婦人はスラリとした黒いわんこを連れている。
子どもの頃からよく犬に吠えられがちだった私は近くを通るときやや緊張したが、彼らもおいしいものを楽しむ時間とわかっているからなのか、当たり前のような顔をしてごく静かに順番を待っているのだった。
清澄庭園を通り過ぎて「深川図書館」を見に行く
清澄白河駅からほど近くに、江戸時代の豪商の屋敷跡と言い伝えられている清澄庭園がある。
明治時代に、隅田川の水を引いたという大泉水、築山、枯山水を主体にした「回遊式林泉庭園」という洒落た呼び名のスタイルが完成したのだそう。
その清澄庭園の隣に、古い古い図書館があると知り、見てみたくなった。庭園を横目に、図書館を目指して無料エリアの芝生広場を突っきって歩く。
池の水鳥たちは寒そうにしていたけれど、晴れた青空が申し分ないお散歩日和。
実はこの図書館、関東大震災や戦時の空襲で被災し、現在の建物は1993年開設の3代目だという。
意外に新しい建物なのだった。
それでも外観や館内の階段、天井などは過去の建物のイメージを継承し、建築には2代目のものを一部再現、再利用しているそうだ。
そんな歴史に思いを馳せながら、しばらく図書館のソファ席で雑誌のスイーツ特集を眺め、次の行き先である家具屋さんがオープンする12時に席を立った。
すれ違う運命なのか「アオゾラカグシキ會社」
はじめに告白してしまおう。
今日の目的地のひとつである無垢の木を使った家具屋さん。
少々遠回りしてようやくお店の前まで来てみると、なんと閉まっているではないか。
「平日は工房、週末はお店にいます」のはずなのだが。
ふとInstagramを見てみると、家具屋さんのストーリーがちょうど深川図書館でのんびりしている頃に更新されており「インフルエンザにかかったため今週末は急遽お休みします」とのことだった。
そんな訳で、代わりにはならないが、恐縮ながらうちの家具たちについての話に少しだけおつき合いを。
プロフィールを読んでみると、創業した方は「wood you like company」で11年家具作りをされていた。
もう、ネーミングの時点でやられていた。
アオゾラだし、カグシキ會社だし。
今回お店の中に入れなかったのは、希望どおりの食器棚をオーダーできるくらい貯金をがんばれよ、というお告げなのだと受け取ることにし、必ず再訪することを誓ったのだった。
木の仕上げに何も塗っていない無垢の家具は、多少の汚れやキズは目の細かい紙やすりでこすったのち、専用のオイルを塗り込めばたちまちしっとりとした艶とともによみがえる。
そして年月とともに木肌の色味が変化して、一緒に過ごした分だけの時間の量のようなものを感じることができる。
うちのテーブルにも、子どもたちが幼い頃に小さな手に鉛筆を握りしめ、たっぷりの筆圧で自分の名前をひらがなで書いた跡がうっすらとついている。
光にかざすとようやく読めるくらいなので、これは紙やすりで消すことなく、思い出として残してあるのだが。
青空の下、自由気ままに歩くお散歩の1日には満足だったが、家具屋さんを見られなかったのはさすがにがっかり。
気を取り直して清澄白河駅へ戻る途中、小さな看板を見つけて近づいてみると、ギャラリーがあるようだ。
誰もいない入口からベニヤ板の壁の狭い階段をのぼっていくと、2階では4人の若きアーティストの作品が展示されており、売り出し中のイラストレーターや作家さんたちの雑貨もこまごまと置いてある。思いがけずわくわくする時間を楽しむことができた。
清澄白河のお散歩はこれでおしまい。
☕️
はじめてブルーボトルコーヒーを味わった日から、変わったもの。
もっとコーヒーが好きになったこと。
子どもたちが、そばを離れて1人で歩みはじめたこと。
かつて大事なことも、些細なことも、何でも話せた人がもう隣にいないこと。
その分、自分の時間を取りもどしたこと。
変わらないもの。
コーヒーをもっと好きになったけれど、やっぱり最後までブラックでは飲めなくて必ずミルクを入れること。
おいしいものや、自分の感性を澄ませて見つけた好きなもの、大切な時間をゆずりたくない気持ち。
そして大好きな色、空のブルー。
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