あの路地を曲がって扉を開ける🚪春のお散歩「吉祥寺」
少しくらいの雨ならば、予報が雨のち晴れならば、傘などささずに出かけてしまおう。
余計な荷物も心配ごとも、全部忘れて歩き出そう。
控えめに言っても熱烈大好きなワンダータウン吉祥寺
お散歩といえば、吉祥寺は定番の人気の町と言えるだろう。
紅茶の缶やパッケージのイラストがかわいくて、おいしい茶葉をテイスティングして仕入れているのは絵を描くご本人という「カレルチャペック紅茶店」や、その横には帽子専門店を挟んで絵本好きのための絵本好きによる、秘密基地のような絵本屋さん「トムズボックス」(1993〜2015年、現在は西荻窪に移転)があった。
少し歩くとミニチュアや木製玩具をはじめとするドイツやスイス、北欧などヨーロッパのおもちゃが勢ぞろいする「ニキティキ」、もう少し行くとバイト先だった青い窓枠の雑貨店がある。
横断歩道をいくつか渡り、線路の高架をくぐってしばらく進めば緑あふれる井の頭公園が広がっている。
これらは個人的な行きつけで、きっと吉祥寺を訪れる人ごとに、お気に入りの場所をいくつも待つことになるのだろうと想像できる。
広々とした紅茶店と小さくて選書の濃い絵本屋さんは惜しまれつつ閉店してしまった。
それでも不思議なことに、表参道にあった長い歴史を持つ絵本専門店が吉祥寺に移転して来たり、これまでは気づかなかった穴場のパフェ屋さんを見つけたり、訪れるたびに胸がときめくお店が次々あらわれ、毎回知らなかった景色、新しい目的地を発見してしまうワンダータウンなのだ。
世界じゅうの朝ごはんを吉祥寺で
「パリ発のブーランジェリーLVÉRTEが京都についで東京1号店を吉祥寺にオープンした」とか、「絵本専門店クレヨンハウスの1階では表参道の頃と同じくオーガニックレストランでビュッフェが食べられる」とか「井の頭公園の桜が満開で今にも散ってしまいそう」とか、ひとつでも用事が見つかれば、すぐさま吉祥寺ツアーは組まれる。
〝朝ごはんを通して旅に出よう〟とうたう「WORLD BREAKFAST ALLDAY」というお店はずいぶん前から気になっていたのだが、吉祥寺店がオープンしていると知ったことが今回のお散歩のきっかけとなった。
メニューは世界各地の朝ごはん。
なんて目新しい切り口なのだろう、やっと世界じゅうの朝ごはんを体験できる。
まるで旅するように、スペシャルメニューは2か月ごとに異なる国の朝ごはんが登場するらしい。
トマトの入ったオムレツと、キュウバサと呼ばれるジューシーなソーセージ。
手前の真ん中はラツーシュキというりんご入りパンケーキ。ポーランドのフルーツといえばりんご、なのだそうだ。
左側のパンの上にはトファルクという白いものが乗っている。さっぱりしたチーズに刻んだチャイブやラディッシュが入っていてさわやか。カッテージチーズに似たトファルクとポーランドの人びとの関係は、日本人と豆腐のようなものだという。
右側のプラツキはすりおろしたじゃがいもを焼いたもの。
これは何が入ってるんだろう?
どんな味だろう?とひとつひとつ観察して考えながらいただく、くわしくは知らない国の朝ごはんは、小さな子どもがはじめての食材を口にするときの気持ちに近いかもしれない。
わくわくよりもドキドキが大きくて、おいしい!に出会ったらその料理が忘れられなくなる。
世界各地の朝ごはんは、その土地の歴史や文化、食べることの楽しみ方や習慣、考え方、暮らしそのものを感じ取ることができる。
おいしさとともに気持ちの中にも、思っていた以上に多くのものを受け取った。
2カ月ごと変わるスペシャルメニュー、4月と5月はコロンビアの朝ごはんだ。
コーヒーの産地、アンデスやカリブ海の豊かな自然、ラテンアメリカの入口の国。
さあ、朝ごはんを通して旅に出よう。
マジェルカの見知らぬ扉を開けてみる
頭上の空は、もうすぐ雨がやみそうな明るく淡いグレーだ。
歩いていたら、晴れた日の空色の扉を見つけた。
雑貨か何かのお店の裏側なのだが、よく見ると開いている扉の奥にもうひとつ、深い茶色でレリーフがほどこされた木製の扉がある。
もし近づいてその扉を開けてしまったら、別世界につながっているかもしれない。そうだ、遠くから眺めるだけにしておこう、なんておふざけの空想を楽しみながら通り過ぎ、次の目的地へ向かう。
あ、見つけた!
ウェルフェアトレードとは?
例えばカカオやコーヒー、バナナなどの産地で子どもたちが働いているために学校に行けなかったり、農家がきちんとした対価がもらえないのはおかしい、と考えてフェアトレードのマークがついたものを買うのと似たことだろうか。
普通にお店に並んだバッグや小物、おもちゃなどの中から気に入ったものが見つかれば購入する。
それが福祉事業所で作られたことを知って値段を見たときに、高いと思うのか安いと思うのか。
さらに背景を深く知ろうとするのか、しないのか。
それは、それぞれその人次第である。
本日のカフェはマーガレット・ハウエルに決まり
お散歩に出かけたら、今日はどのカフェに入ろうか?と迷うのも楽しみのひとつである。
楽しみながらもお店選びは真剣そのもの。
〝おいしいコーヒーとスイーツのある居心地のいいカフェ大全集〟がもしもあったとしたら膨大な冊数になるだろう、そしてその中の〝吉祥寺の巻〟だけを手に取ったとしても、きっとかなりのページ数のはずだ。
そうやって全てのおすすめカフェを知り得たとて、吉祥寺にやって来る回数だけの限られたチャンスでは、ほんのひと握りのカフェしか味わうことはできない。
こんなにたくさん観たい映画、まだ観られていない映画があるのに、この人生のうちでどれだけ味わい尽くすことができるのだろうか?
という、ちょっとした焦りを感じるのに近い。
人と人との出会いのように、カフェとの出会いもまた運命と感じるような巡り合わせがときにはあるかもしれないのだ。
今回は、「マーガレット・ハウエルカフェ」に行こうと決めていた。
夕街さやさんが、noteの「いちにちひとつ、小さな新しいことを」という記事で訪れていたカフェである。
美しささえ感じるシンプルライフについての写真や文章は、暮らしの教科書のようだ。
その中で「ずっと行きたいと思っていた場所に行ってみる」ことを実現したときの様子が書かれており、同じ場所に行ってみたくなった。
キャロットケーキの控えめにスパイスを感じる生地には程よく食感を残した細かさのにんじんと胡桃。他にもいろいろ入っていそうだが融合していてわからない。
厚みたっぷりの淡い黄味を帯びた白色のクリームにはまろやかでやさしい甘みとかすかな酸味があり、生地とクリームを同時に口に含んで目を閉じると、せつなくなるほどのおいしさだった。
静かなので心からゆっくり味わえる。
壁にはマーガレットハウエルのブランドイメージで統一された、ファッション雑誌のビジュアルが並んでいるのもいい。
ああ、来てよかった。
路地を曲がって雑貨店とギャラリーへ
駅へ向かって適当に路地を曲がって歩いてくると、自然にこのギャラリーの前を通るので、吉祥寺に来るといつも立ち寄っている。
今日は前回の清澄白河のお散歩で手に入れた、正方形の展示案内のカードを携えてやって来た。
🌸
吉祥寺散歩はこれでおしまい。
学生の頃から年に何度かくり返し訪れている思い入れのある町なので、きっとこの先も変わらず遊びに来てしまうだろう。
そしてその度に、えっこんなところあったっけ?と驚かされながら満更でもなく、またより強くこの町に惹かれてしまうのだ。
アーケード街へ足を踏み入れれば、評判の揚げ物を買い求めて並ぶ長蛇の列に出会うなど、吉祥寺の町が持つ色数は多く、想像を超えてくるだろう。
昔も今も、特別なワンダータウンだ。
さて、どのくらいの桜が咲いているかを確かめに、井の頭公園を少し歩いてから帰ることにしよう。
春の吉祥寺🌸おまけの過去アルバム
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ここまでお読みいただきありがとうございます。 思いのカケラが届きますように。