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日常の音

昨晩、漁港の肉子ちゃんと云う映画を見た。
これは娘が好きな映画だ。
もう何度も繰り返し観た映画だったが今晩もこの映画が観たいと娘が言った。
この映画は血の繋がりのない母娘の物語だ。

普段平日は映画は観ないのだが、とてもクタクタだったので私がどうしても映画が
観たくなったのだ。
そんな日は決まって娘のチョイスで映画を決める。
私は娘が選ぶ映画が結構好きなのだ。

「漁港の肉子ちゃんにしよか。」と言われた瞬間、またかとは思ったが娘のチョイスに
乗っかった。
しかし、またかと思ったわりにはしっかりと映画を堪能してしまった。
映画も終盤に差し掛かる頃、娘が質問を投げかけてきた。

「血の繋がりって何なん?」

難問のように感じ私は黙ってしまった。
何て説明したらいいのだろう。
「ん〜。何やろな。まぁうまく言われへんけど、ミーとタイとママは血繋がってるで。
血をあげた、分けた仲みたいなやつやな。」
何とも下手くそな意味の分からない説明になったにも関わらず、
娘は「ふーん。」と納得したようだった。

食事を済まし、私は肉子ちゃんを横目に洗い物を始めた。
内容は幾度も観て承知しているのにも関わらず、やはり込み上げてくるものが毎度ある。
「いい映画やな。でも母親らしさとか血の繋がりってほんま何なんやろなぁ。
ママは全然母親らしくない気するわ。」
酔いがまわったのか独り言を思わず漏らしてしまった。
そして洗い物をしながらも頭の中は母親らしさの言葉で溢れかえっていた。
母親らしくしたかった。
優しい穏やかな母親でありたかった。
もっと子供達に笑顔を見せられる母親でありたかった。
怒ったりイライラしない母親でありたかった。

と、私の中の母親像と現実の母親としての自分とのギャップに思わず嫌けが刺した。

はぁ。。。
大きなため息が洗い物の汚れと共に流れて消えた。
すると目の前に娘が突然現れた。
そして真っ直ぐにこちらを見つめ口を開いた。

「それがママです。」

一瞬頭の中を見られたのかと思いドキリとした。
そして娘はニッと笑顔を作り、鼻を膨らませシーサーのような顔を作って去っていた。
なぜか目頭が熱くなった。
静かに洗い物が濯がれる音だけが流れた。
私は私。
それ以上でもそれ以下でもないのだと思えた。

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