信号待ちをしていると、耳の裏の付け根にタトゥーを入れているお兄さんがいた。

「普段は見えにくい、さりげない箇所に小さなタトゥーを入れるのがオシャレだ」とオシャレが得意な人から最近教えてもらったので、気付く事ができた。

耳の付け根は正面からは見えないけれど、斜め後ろからだとかろうじて見ることができる。何の絵だろうか、とよく見たら、1円玉くらいの大きさの『♪』が描かれていた。

そのお兄さんは音楽系の仕事をしていて、「俺は一生、音楽とこの耳で飯を食っていくぜ」の誓いの印かもしれないし、単純にものすごく音楽が好きな人かもしれないし、特に何の意味も無いかもしれない。

けれど、印象としては「なんか、パソコンのイヤホンジャックの所に描かれている『🎧マーク』っぽいな」だった。

パソコンのイヤホンジャックには『🎧』、マイクの所には『🎤』、それぞれの穴の機能を説明するマークが刻印されている。

それでいうと、耳の穴に描かれている『♪』は「この穴は、音を感じる穴ですよ」という説明になるが、そのマークが必要な場面はあまり思いつかない。

人間を人形として遊ぶ巨大なバケモノみたいなやつに対して、「この穴にはイヤホンなどの音が出る機器を入れる事ができますよ」と説明するような場面だろうか。

そうなると、目には「🌟(光)」口には「🍔」などのタトゥーが入っていても良いのかもしれない。

以前、「♨️」マークのタトゥーを入れた人は銭湯に入れるのだろうか?と考えた事がある。あるいは「I ❤️ 湯」のタトゥーだとどうなるのか。

というか銭湯って普通にタトゥーの人結構いるし、特に気にしなくても良い世の中になってきているような気もする。

一応「音楽グループの『t.A.T.u.』は銭湯に入れるか」という議論はもうYahoo!知恵袋上で行われていないかどうかを確認したが、案外まだ行われていなかった。

「もし自分がタトゥーを入れるなら『♨』か、『タトゥー』という文字のタトゥーを入れたいかな」と言ったら、「お前それ、ぼく脳やんけ!!!!!!!!!!」と言われたことがある。

ぼく脳さんってそんなタトゥー入れてるんだっけ、と思って調べたところ、ぼく脳さんは「外国人観光客が銭湯に入りたいときにタトゥーを隠すために貼る『みなさんと銭湯に入れてうれしいです』と書かれたシール」のタトゥーを彫っていた。一段階レイヤーが上だった。


タトゥーに関しては自分の価値観が昔からアップデートされていないので、「かなり強い意味」を持たないと彫ってはいけないんじゃないだろうか、という思い込みが強い。

井上雄彦の漫画「リアル」に登場するキャラクターが胸に「🌟」のタトゥーを入れていて、緊張したときはこっそり「🌟」を意識する(指さす?)とリラックスできる、みたいな事をやっていて、これは実用的で結構良いんじゃないか、自分もやるとしたらそういう方向性が良いな、と思ったことがある。

しかし、「彫ったら消せない(消せないことはないのか?)」というのは自分の中ではかなりのプレッシャーである。

今まで生きてきて、「今より過去の方が美的感覚が研ぎ澄まされていたな」と思えたことが一度もなく、これは常に自分の好みと世の中の流行が微妙に変化し続けているからでもあると思うのだが、今後修正が効かない状態にしてしまうという事は、なるべく避けたいと思ってしまうのだ。

以前、印刷物のデザインの仕事をしていた頃は、入稿前の最終に近いデータは必要な箇所以外は、事故が起きるため絶対に触ってはいけないという教えがあった。

しかし、「なーんかレイアウト、もうちょっとこうなってる方が良い気がするな~」とか、のんきに都度微調整してしまって、先輩に古いデータと差分を発見されてしまい「どれが最終?!なんで触ったの?!やめて!!」とよく怒られたので、気を付けるようになった。

差し替えが効く仕事などではいまだに結構直前まで「もうちょっとなんとかならんかな~」と細かい部分を調整してしまう事が多い。
※事故は起こらないように細心の注意を払っています。

そんな性格なので、「これで完璧だ!」とタトゥーを入れても、「もうちょっとだけ小さくても良かったな」「もうちょっと右にずらしたいな」とかそんなことを毎日見るたび思ってしまいそうなので、入れられない。

「そういう細かい事とか意味はどうだっていいんだ、ラフにいこうぜ」という心意気の人がタトゥーを入れられるのであり、図柄よりもその心意気というか、スタンスに対して「これが本当のオシャレというものなんだ」と憧れたりもする。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?