Netflixオリジナル作品「彼女」と中村明日美子「ダブルミンツ」
Netflixオリジナル作品である「彼女」という作品を見た。
ネットの様子を見るに、賛否両論あるようだが、わたしはこの作品の言葉にならない機微や、ストーリー自体がかなり好きであった。
「彼女」を視聴する中で、私の脳裏に浮かんできた作品があった。
中村明日美子先生の「ダブルミンツ」という作品である。
この「ダブルミンツ」は、同姓同名の「市川光央(以下、みつお)」と「壱河光夫(以下、ミツオ)」の二人を中心として展開するBL漫画作品である。
高校の同級生であった二人は、ミツオの「女を殺してしまった」という報告の電話で再会する。大人になったみつおは暴力団の鉄砲玉のような立場になっており、「たたけばホコリの出るようなチンピラ」であった。対してミツオはSEとして会社勤めをしている。そんなふたりが一夜で共犯者となる。
みつおとミツオの間には、高校時代いじめが存在し、みつおを上位、ミツオを下位とする主従関係が見られた。大人になった二人の間ではこの主従関係が存在するものの、ミツオはその主従関係をあえて乱す行動もとるようになる。
この作品と「彼女」との類似点を挙げると
・高校時代からの繋がりのある二人が長い時間を経て再会する
・二人は共犯者となる
・関係性優位にある側が、劣位の側に弱みを握られるシーンがある(彼女におけるDV、ダブルミンツにおける折檻)
・逃避行
などなど。数多く見られることが分かる。
では「ダブルミンツ」を通して、「彼女」という作品を再度観察していこうと思う。
高校時代の二人
「ダブルミンツ」でも「彼女」でも、高校時代の二人はけして仲がいいとはいえない。「ダブルミンツ」にはいじめの描写があり、「彼女」にはレズビアンであることを侮蔑するようなシーンがある。しかし対称的に「ダブルミンツ」でも「彼女」でも”手の届かない存在”であるみつお/七恵への想いを、ミツオもレイも募らせることとなる。分かり合えないからこそ、二人の距離は縮まるのである。
犯罪の存在
「彼女」のレイは七恵をDV夫から守るために、夫を殺してしまう。「ダブルミンツ」ではみつおが女を殺してしまうという犯罪から話が始まる。この二つの犯罪にはそれぞれの作品の二人の人間を無理やりに近づける役割がある。
また、レイが七恵を夫から守ったように、ミツオは「女の死体埋めたことを自首する」みつおを助けるように、埋めた女を救い出し何も無かったことにする。想いの強い二人は、想う人を守る行動に出る。それが法に則っていなくとも。
異性の存在
「ダブルミンツ」にも「彼女」にも異性が登場する。例えば「ダブルミンツ」であれば殺してしまった女、「彼女」で言えばレイの兄、タクシー運転手、七恵の旦那などである。
この異性の役割は、「二人を二人ぼっちにする」ことである。「ダブルミンツ」ではみつおがミツオに暴力を振るう様子を見た女が騒ぎ大声を上げ、退場する。みつおとミツオはお互いの承諾の上で第三者の視線のない二人の世界を得る。
「彼女」では、男性たちはみな「暴力を振るう」「性的に迫る」「健全な価値観を押し付ける」などのいわゆる二人にとって身の危険を感じるような行動をとる存在として描かれる。明らかに意識的に不快な存在として描いている。
「暴力を振るう」夫から離れ、「性的に迫ってくる」タクシー運転手からレイは七恵を守り、「健全な価値観を押し付ける」兄からは車で逃走する。ひたすらに男性から逃げることで、二人は二人きりになる。
二人になること
「ダブルミンツ」も「彼女」も、逃走する二人は「二人きり」になる。二人という関係は超個人的な関係である。社会性を排した二人の関係を通り、それぞれの二人はそれぞれの二人として歩みを進め、それぞれの話は幕を閉じる。
「ダブルミンツ」を通して考えた「彼女」についての感想は以上である。
どちらも暴力描写、性描写が多分に含まれるため安易にオススメはしかねるのだが、そういったひとつひとつの出来事以上に、その出来事が二人の心情、関係に何を引き起こしたかにフォーカスして楽しむ作品なのではないかと思う。どちらも良い作品だった。
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