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私の見てきた事業再生の世界~§4. 現状分析(その3)

ここまで、事業再生の全体像や現状分析に入る前に会社(社長)や専門家はどんなことに留意するのか、そして財務DDの留意点をご説明させていただきました。


今回は、現状分析のもう一つの核心部分、事業DDの留意点をご説明させていただきます。

繰り返しになりますが、事業再生はスピードが命。このDDフェーズは会社(社長)と専門家の協力体制次第で短くもできますし、長期化することもあります。ということで、今回は如何にロスをしないでDDフェーズを乗り切るために、

① そもそも事業DDは何のために行うのか?・・・事業DDの目的
② 事業DDでは何を調査し報告されるのか?・・・主要調査事項
③ 専門家、会社(社長)は何に注意すべきか?・・・早期完了ポイント

といった3点に絞って説明させていただければと思います。なお、細かい調査方法については、たくさん書籍がでていますので、機会がありましたら紹介したいと思います。

事業DDの目的

財務DDの回でも説明しましたが、事業再生フェーズに入りますと、会社(社長)の知らないところで、どんどん話が進むことがあります。そこで、まず、「何故、事業DDをするのか?」を説明したいと思います。

財務DDは、金融機関の支援を得るための説明資料という位置づけが強いと思いますが、事業再生における事業DDの目的の一つは、①窮境要因(業績悪化要因)を明らかにすることと②事業再生計画のアクションプランの材料作りです。

窮境要因=なぜ、会社は資金繰りに窮することになったのか?

それは市場や社会の問題なのか?
会社内部の問題なのか?
などについて、会計情報と非会計情報を使用して整理します。これによって金融機関に対し金融支援への納得感を醸成していってもらいます。

もう一つの目的である事業再生計画のアクションプランの材料作りとは?

この後、作成される事業再生計画において、数値計画が作成されます。それに基づくキャッシュ・フローの範囲内で返済金額や金利の条件変更(場合によっては、債権カットなどのお願いをする)といった金融支援を金融機関へ説明し納得してもらうことになります。

金融支援をお願いする立場である会社として、何もしないわけにはいきません。身を切る覚悟と改善の努力を見せなくてはいけません。

そこで、アクションプラン(改善施策)を検討し事業再生計画に織り込んでいくことになりますが、そのアクションプランの出どころ(材料)が、事業DD内で検討されるSWOT分析の結果になります。

事業DDでの主要調査項目

前述の通り事業DDの目的は、①窮境要因(業績悪化要因)を明らかにすること②事業再生計画のアクションプランの材料作り(=SWOT分析結果)です。

では実際、どのよう調査をしていくのか?を説明したいと思います。

(1)事前準備

初期段階で以下の情報整理を行います。これは会社(社長)に会う前に準備し、質問事項などまとめおきます。質問の際に、以下を整理した資料があると議論も具体的になり、良質な情報が得られます。しかし、資料が何も無いと空中戦で「あれって、なんだったっけ?」みたいなことで終わることがあります。

事前の情報整理事項
● 会社概要(資本金、従業員数、沿革、保有資産など)
● 組織図、人員配置図
● 損益構造(財務会計情報からの)
● 同業他社の損益構造比較
● 市場環境

これらの情報を下に、仮説ベースで「ビジネスモデル」、「業務プロセス」を考えてみます。また、会社の事業性評価ポイント(調査の切り口)なども事前に考えます(←業界・業種のビジネスの構造から導きだせると思います)。

なお、仮説ベースなので間違うことは恐れずに、また、不明点も多いと思いますので、大枠だけでも結構です。

(2)事業性評価ヒアリング

会社(社長)と「ビジネスモデル」と「業務プロセス」についてヒアリングをして情報を確定させます。また、この時、会社(社長)はどのような管理手法をしているのか等も確認し、管理会計情報(*1)からの損益構造の分析ができないかを模索します。

その他、事業性評価ポイントを整理するために、ヒアリングや入手資料・管理係数の分析などをおこないます

なお、オーナー系の中小企業の場合、「ガバナンス体制(*2)」も念のため確認が必要です。

(*1)管理会計情報とは、例えば、事業別、商品別、店舗別などの損益構造に分解できないかなど。仮に管理していない場合でも、話の中から、アドバイザー側で原価分解などして、作成することも検討することもあります。

(*2)ガバナンス体制の確認が必要なケースは、株主の変更を求めるケースや社長だけでは3分の2の議決権を保有できていないケース。また、仮に3分の2保有していても、うるさい株主が親族にいるケース、親族関係がうまくいっていないケースなども注意が必要です。親子問題、家族問題は、経済合理性や理屈では解決できないことがあるからです。私も何度か家族喧嘩に付き合わされたことがあります(笑)

(3)SWOT分析と今後の方向性の整理(暫定版)

「ビジネスモデル」「業務プロセス」「事業性評価」の把握ができたら、そこから強み・弱みが明らかになると思いますのでSWOT分析のマトリックスをまとめ、今後の方向性を暫定的に検討します。

(4)窮境要因ヒアリング

もう一つの流れの窮境要因の把握は、財務DDで把握した「気になるポイント(=悪化してる現象など)」と前述の「事業性評価で把握した課題」を、仮説ベースで紐づけていきます。

その紐づけたものを会社(社長)と議論していき、お互い納得する根本の原因を明らかにしていきます。

また、この議論のなかで、新たな課題や気づき(会社の強み・アクションプランに繋がる情報)なども出てくることがありますので、事業性評価の情報を整理し、SWOT分析に反映させ、(2)~(4)を行ったり来たりすることもあります。

(5)事業再生ストーリーの検討

この窮境要因の根本原因を仮に除去した場合の事業再生ストーリーを検討します。このとき、「もし●●を○○に変更(改善)したならば、XXXという結果になるはず」というロジックで整理していきます。

 (6)SWOT分析と今後の方向性の確定

最後に、SWOT分析で作成した今後の方向性(暫定版)との整合性をみて、矛盾や不整合など無いかをチェックします。

なお、窮境要因と事業再生ストーリーは、事業DDではなく、財務DDで表現することもあります。この辺はケースバイケースです。

また、事業DDないし財務DDで成行PL(*)を作成して開示することもあります。改善施策を検討する上でのスタートライン(発射台)でもありますが、この辺の話は次回、将来計画策定で説明したいと思います。

(*)成行PLとは、現状のまま、改善施策を打たないで、事業を運営した場合の損益計画(事業再生の場合、通常、破綻シナリオ)。

さて、ここまでが主要調査事項になります。財務DDや将来計画との関係は以下の通りです。

事業DD

事業DDを早期に完了させるポイント

(1)専門家の方々へ

一般的に事業DDでは、外部環境分析(市場環境、競争環境)、内部環境分析(事業構造、損益構造)を明らかにしましょうと説明されている書籍が殆どです。

しかし、中小企業の場合、事業が限定的(1つないし2つ)であったり、市場シェアなどはごくわずか、窮境の要因は内部的な問題(特に人的問題)などを勘案すると、外部環境分析に時間を費やすと時間だけが過ぎてしまう可能性があります。

統計資料やシンクタンクのマーケットレポートなどは、切り口が粗く、中小企業にフィットしないことがよくあります。分析が有用であれば、実施すべきですが、費用対効果を勘案しながら、目的を見失わない程度におこなうべきかと思います。

したがって、業界構造を理解していない人(自分自身を含め)にわかりやすく説明する意味で、市場の外観(経済統計や業界動向など)をまとめる程度で十分ではと、私は思います。

(2)会社(社長)ができること

事業DDにおいて、財務DDでも説明したとおり、事実を話すことが重要です。ただ、将来のことや見通しについては、あまり正確性をもとめず、思っていることを話すというのが重要だと思います。何気ない一言が、新たな発見や示唆を生むことがよくあります。

また業務上、自分用のメモとして作成しているファイルがある場合、とても重要な説明資料に代わることがあります。その意味で、一度、全従業員の作成メモ(ファイル)を洗い出してみるということをやってもいいかもしれません。

まとめ

今回は、事業DDについて説明させていただきました。報告書自体は専門家が作成し、作成方法も千差万別です。会社(社長)の独自性を出せる報告書でもあります。

会社(社長)として、事業性評価を事前におこない、SWOT分析により、強みや弱みを整理し把握していれば、そもそも資金繰りに窮する前に、何らかの手立てを考えることができたかもしれません。

そう考えると、このような情報を整理し検討しておくことは、会社にとって有意義なことですし、これを金融機関に理解してもらっていれば、スムーズに会社を守ることができると思いますので、是非ご検討ください。

番外編

本日、画像として貼り付けた資料と主要調査項目のスライド例を貼付しておきます。架空の会社で説明の整合性はとっておりませんので、その点ご了承ください。

今回も長い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございました。

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