見出し画像

【青梅丘陵】山と街のあわい - 2024/1/8


山はじめ@2024

最近は友人が登山に興味を持ってくれるようになったこともあって、ひとりで山に登るということがなかった。最後にひとりで登ったのはいつだったか。
特にここ2年でズブズブとそいつを沼に沈めて(引きずり込んで)いったから2022年の夏くらいからひとりでふらっと山に行くことがなくなっていた気がする。それ自体はとてもありがたいことだけど、たまにはひとりで歩いてもいいかもな、と思った。

前にも書いたように、冬は人の生活、人の気配がある山が恋しくなる。

うまく説明できないが、夏の景色といえば縁側と風鈴、スイカとひまわり、入道雲であって、それを思い浮かべたときに抱くあの感情、窓の外でしんしんと積もる雪を眺めながら、こたつに入ってみかんを剥く日々を思い出したときに包まれるあたたかみ。それは懐かしさでありつつも寂しさを内包している。私が冬の山に求めているものはいわゆるノスタルジアなのだろうか。

奥秩父から連連と続く山の終わり、山だったものが次第に丘陵となり平野に変わっていくまさにその場所である青梅丘陵に、そんな気配を求めて歩きにいくことにした。

登山口へ

今回は青梅駅まで車で行き、適当な駐車場に止めてから青梅線で軍畑まで、そこから登山口まで車道を歩き雷電山、辛垣山、三方山、矢倉台を経て青梅駅に帰るコースを取った。

アクセスは全部電車でもいいのだが電車はちょっと落ち着かない。多数の他人の目がある空間というのはどうも好きになれない。流れる車窓をぼんやり見ているだけならそれはそれで楽しいのだが。
人の気配がする山とか言いながら人の気配がありすぎる空間は好きじゃない。

今回のコース、標高差は上りも下りも700mほど、水平距離は10km。最初に大きく登り、その後は細かなアップダウンをはさみつつじわじわと標高を下げていくコースだ。新年のウォーミングアップにはちょうどいい。

軍畑は無人駅なので、扉のない自動改札機にタッチして外へ出る。ピピッという改札機の音と残金表示をあとに通りへ出ると、そこには自販機と小さな商店だけが並んでいた。1月の朝の刺すような空気と相まって、淋しさの漂うこの風景も、冬の低山で好きなところのひとつだ。

哀愁漂う駅前通り、Yamazakiの自販機っというところがまたニクい

線路に沿って踏切を超え道なりに歩く。

遮断器のない踏切

車道を歩く区間に辟易とする人も多いと思うが、私自身は車道歩きも嫌いじゃない。知らない街の景色が好きなので、立ち並ぶ家々を眺めていたり、幹線道路沿いにある知らない土地のご当地スーパーとか見ていたりするだけでも遠いところに来たなぁと気持ちが浮つく。その最たるものはハッピードリンクショップ*であることは言うまでもない(見かけるときはだいたい車移動だが)。
  *山梨県や長野県の車道沿いに点在する自動販売機のドライブイン。少し安い。

赤い鉄道橋は山に映えるので山中の橋全部赤くしましょう(強硬派)
トタンとタオルの醸す空気感、とても好き

写真を撮りつつ25分ほど、つづら折りのカーブが連続する車道の脇に目立たない入り口がポツンとある。

奥多摩、青梅の登山口地味すぎ問題

ここが今回のコースのスタート地点だ。
子供の頃は父の運転する車の後部座席から、山中にあるこういう道の入り口を眺めては、この先に何があるんだろうと妄想してはワクワクしていた。何か冒険が始まるんじゃないかと思っていたが、実際はなんてことない登山道が延々続くだけだ。
着ていたダウンをザックの隙間にぎゅうぎゅうと押し込み、一息入れて登り始めた。

雷電山までの登り

スタートから雷電山までの区間が登りが続くので、序盤でペースを上げすぎないよう、ゆっくり歩く。

これから憎き花粉を舞い散らせる宿敵たち

よく間伐された森で人の手が入っているのを感じる。間伐されていない森は鬱蒼と隙間なく木が生い茂り、陽の光も入らないのでどこか不気味な雰囲気を醸しているところも多い。
それに対してここは適度に陽が入るいい森だ。道もきれいで階段も整備されている。景色の楽しさなんかはあまり感じられないが、初心者でも歩きやすい道になっている。

階段もよく整備されている。

階段と言うには1段が小さい

山の階段あるあるで一段一段の歩幅か高さが合わなくてもどかしいと言うのがあるが、ここはそんなことはなかった(まぁ階段と呼ぶほど大仰なものでもないが)。

風格ある山名、でも景色は地味

幾度かのアップダウンを繰り返すと、最初のピーク雷電山だ。めちゃくちゃカッコいい名前をしている。どうやらかつて雨乞いの祈祷をしたことが由来だとか。

雷電山だけでなく、このあたりは軍畑や辛垣城跡など、歴史を思い起こさせる場所が多い。登った後でも前でも、こういうところを調べて知見を深めるのも山の楽しみのひとつだ。まあ日本史には明るくないので、城があったんだなぁとか戦があったんだなぁという小学生並の感想を抱いて終わりなのだが……

●参考にしたページ

雷電山から三方山へ

山頂から採石場を見下ろしつつ登山道に戻り、歩き始める。
この先も歩きやすい道が続く。

めちゃくちゃ歩きやすいです

途中辛垣山は登る道と巻くコースが分岐するが、今回は辛垣山方面へ進んだ。分岐の入口が若干わかりにくかったが、分岐の先は踏み跡もしっかりしていて迷うことはなさそうだ。ただ、直下に僅かばかりの急登があるので油断はしないでおきたい。急登を登り終えるとこじんまりした山頂標がある。

この手の看板て誰がつけてるんですかね。地元山岳会?

展望などは何もない平坦なエリアが少し広がっているだけの場所。そこにはこども向けの服か何かのタグが落ちていた。

こんなスッパリタグ落ちることある?

こんなに小さい子と登りに来る人もいるんだから、やっぱり親しまれている山なのだろう(タグはゴミになるので回収した)。

主張が弱い

そこから少し進むと一瞬この看板が目に入って、通行止めと勘違いして若干タイムロスしたが、近づくと左側に道があることがわかる。どちらかというとそちらをアピールしてほしい……

巻道と合流すると、しばらく小さなアップダウンを繰り返しながら徐々に標高を落としていくことになるが、ありがたいことにほとんどのコースには巻道があるので気分に応じて登るか巻くかを選べる。
展望の良いエリアもあるので、この区間が一番楽しく歩けるかもしれない。

杉しかねぇ(グギギ

行き交う人も増え、すれ違うたび挨拶を繰り返しながら今年はどの山に登ろうかと考えていると、あっさりと三方山についてしまった。展望ナシ、空間も狭く、小さな山頂標と三角点だけがある地味な山頂だ。
先行していた親子は巻き道でスルーしていってしまった。
そんな不遇の山にひとり立ち尽くし自然の音を聞く時間もまた、ちょっと楽しい。

三角点ついつい写真に撮っちゃう
文字が立体的でちょっと凝ってますね

青梅駅まで

この先は矢倉台まで展望が開ける場所はなく、森の中を進んでゆく。
その道中、少しだけ開けているエリアになにかの看板が建てられていた。
最初はこういった山にはありがちな登山道を整備されている地元の有志の方が立てた道標とかなにかそういうものかなと思っていたが、よく見ると写真が貼られていた。

へえ……

つい
(だからなんだよ……)
と思ってしまい、見えない山をただ紹介する唐突な看板にくすっと来てしまった。

見えんが?

背景の木はそれほど太くないので植林される前にはここから男体山が見えていたのだろうか。だとしたら結構年季が入っていそうだ。

しばらく進むと、分岐のところで道の幅が急に車一台分くらいの林道らしい広さに変わる。ここから先は山道というよりは完全にハイキング用の道になっていて、ここまで来ると展望所の矢倉台は目前だ。

山の高規格道路、林道

矢倉台からは関東平野と申し訳程度に富士山を見ることができる。

こういう説明の看板、各所でちゃんと読むと面白い
\フッジサーン/

小さな東屋があるので、ここでコーヒーなどを飲んで一服するのが良いだろう。
行き交う人も増え、車の走行音や何とはしれないが街の音が今回のコースの終着地が近いことを感じさせる。

そこからゴールまでは健康のために歩いているのだろうか、ご年配の方が多く、他にも犬の散歩をする方や親子連れなどとたくさんすれ違った。きっと青梅の人々にとって親しまれた場所なのだろう。
最後にコースは広いグラウンドに着いた。
そこではこのコースの終着を知らせるようににぎやかに遊び回る子供の声が響いていて、穏やかな気持ちで青梅丘陵を歩き終えることができた。

子どもたちが楽しそうなことがただ嬉しくなる

下山後はクラフトビールが飲めるお店へ

車だから飲めないのだが、ボトルも少数売っていそうということで。

とりあえず気になる2本を購入。

尿酸値気になるおじさんの宿敵であり相棒

最近はクラフトビールが飲めるお店も多く、お土産屋や道の駅でその土地のクラフトビールが買えるチャンスも多い。ビールが苦手という方にもベルジャンホワイトなどの非常に飲みやすいビアスタイルもあるので、ぜひ一度試して頂きたいところ。奥多摩ではVERTEREが奥多摩駅そばにタップルームを出しているので、山+クラフトビールの旅などもあり。

結局人の気配がする山ってなんだ

”人の気配がする山”と書きながら具体的にそれはなんなのかを考えて見たが、それは人自体はいないが明らかに人の手が入っているであろう、かつて人がそこにいたのだろうと感じさせてくれる景色なのだと思った。
人工的に作られた石垣や廃墟、祠や道標。
その背景にどんなストーリーがあるのかを想像しながら歩くのが楽しいということなんだと思う。

廃墟やポストアポカリプスな世界観に憧れを抱くところと似ている気がする。
わからないからこそわかりたくなる、いわば探究心や知的好奇心をくすぐるものが好きなのだろう。
もしかするとこういった趣味があるのは少数派なのかもしれないが、私自身は登山を始めたきっかけの10%くらいはこの感情が影響していると思っている。そんな世界観がお好きな方はぜひ、冬の低山で人の気配がする世界を歩いてみてほしい。

山行記録(コースとか)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?