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ゆるキャン△とは何か|マンガ・アニメ

アニメをネタに、note上で交流させていただいている上野紋さんは、本職で「しゃべるお仕事」をされているそうです。このようなふだん縁遠い、いわば「異世界」の方と、共通の趣味で継続してお話ができるというのも、SNSの魅力の一つですね。

上野さんがnoteに投稿されているアニメ感想文はなかなかのボリュームで、また自分とは違う視点が多くて読み応えがありますが、これとは別に、本職を生かしたアニメに関するトークラジオ番組をpodcastとして公開されていて、こちらもとても面白いのです。毎週月曜配信。プロの方に言うのも失礼ですけど、お話、聴きやすくて楽しい!

で、トークの話題のリクエストありますかとのことでしたので、ゆるキャンとかどうですか? とコメント差し上げたら、なんと取り上げてくださいまして、それが本日新しく公開の回というわけです。


ゆるキャン。実にエポックメイキングな作品。

このnoteでは、本作の感想を何度か書いてきましたが、作品単独の記事を上げたことはありませんでした。語れることはあるかな……と思い返してみて、上野さんのpodcastを聴く前に、書き記しておきたいと思った次第。ひとの感想を聞いてからだと、よくも悪くも影響されてしまいますから。

まぁでも、影響し合うのは好ましいこと。アニメもマンガも小説も、感想をほかの人と語り合うなんてマネは、noteを始めるまではほぼ全くしたことがなく(妻に一方的に感想マシンガンを打ち込むくらい)、このような発信の場があること自体、自分はとてもうれしいのです。

(記事の性質上、若干のネタバレがあります)



第1話、冒頭。

小柄で、紺色の髪をお団子にまとめた女の子が、自転車をこいでいます。

ひとり、大きな荷物を携え、必死に坂道を登ります。息が白い。冬ですね。雪をかぶった富士山が間近に見えます。

やがて自転車は湖へたどり着く。これは……本栖湖? 小さな湖です。どうやらこれからキャンプをするようです。

(ベンチでピンク髪の女の子がぐーぐー寝ています)

キャンプ場の受付で記名するシーンから「志摩リン」との名前が明らかになります。表情を崩さず、ただ淡々とテントを設営し、まつぼっくりを拾い、薪を割り、火を起こすリン。手慣れた様子から、これが初めてのキャンプでないと分かります。

寒そう。だけど、楽しそう……

緩慢にも思える一連の動作は、作り込まれた背景画と、独特なカントリーミュージック風のサウンドトラック、大塚明夫のナレーションにより、決して退屈に見えません。いや、退屈かもしれないけれど、退屈の中に埋め込まれたほのかな喜びを、彼女とともに体験しているように感じられるのです。たしかな没入感を覚えます。

このひとりキャンプ「ソロキャン」は、静かな湖畔のその夜に、ピンク髪の快活な女の子、もう一人の主人公である「各務原なでしこ」の登場により、にわかに破られるのでした。



初心者のなでしこと、すでに経験のあるリン。

本栖湖湖畔で、偶然にも二人は出会い、偶然にも同じ高校に通う同級生となります。典型的なハプニング系ガール・ミーツ・ガール。このようなケースでは、往々にして経験者が初心者の指南役となって物語が進みますが、本作はそこからして違う。

リンはなでしこに指導したりしません。彼女はソロキャンパーですから。

なでしこも、そんなリンを見て、あえて教えを乞うようなことはしない。自分で学校のサークルに混じり、リンとは別のアプローチでキャンプに向かいます。

互いを(少しだけ)気にかけながら、そしてときに一緒に行動しつつも、二人の歩み寄りは、驚くほどゆったりと進行します。

よく出来てます。



「女子高生がキャンプする」の本作。

女の子がたくさん出てきてワイワイと賑やかす作品ですが、その魅力が「ワイワイしない」、そして「色気がない」にあるのは、本作を本作たらしめる、オリジナリティの中核となる巧妙な点です。

リンもなでしこも、あるいは他のメインキャラクター、千明、あおい、恵那も、みな自分のしたいように、主体的に行動します。キャラがたち、自我が明確です。イヤだと思ったらそう言います。そしてイヤな気分を引きずらない。相手の思いに、必要以上の忖度もしません。それでいて、相手のイヤがることをしないよう努める。自分の気持ちを押し付けたりもしない。連帯感ではない一体感。独特の心地よさが生じます。

みなの主体性のその先に、キャンプという共通のゴールがありました。

「たまたまみんなキャンプをしたかったから、みんなでキャンプをした」までで、集まりたいから集まったみたいな日和見の結果ではないところが重要なポイントです。見た目と裏腹に、意外なほど硬派でオトナな物語なんですよね。

そうと分かるよう、物語が構成されていく。

ひとつひとつのキャンプエピソードが意味をもって積み重なります。

だからこそ、ソロキャンをこよなく愛するリンが、アニメ1期のラストでみんなとのキャンプに興じる姿に、我々は心動かされるのです。

みんなとワイワイが好きななでしこが、2期でソロキャンに出かけたりするものだから、我々は、リンや桜さんと一緒になって、ひそかに心配し、応援したくもなるのです。



色気、すなわちセクシャリティの希薄さも特徴です。

マンガ・アニメの「テクスチャ」「見栄えの都合」で女の子の形をしているけれど、リンの精神はたまたまリンという器に入っているだけだし、なでしこの精神はたまたまなでしこという器に入っているだけ。女も男もない。互いにリスペクトするのは、器でなくて精神のほうです。

テーマが明確で、物語のエッセンスが凝縮されていれば、色気も、恋愛も、嫉妬も、けんかも、あるいは不幸な生い立ちのキャラクターも要らないのだと気付かせてくれる。

それがゆるキャンです。

最小限の入浴はありますけどね。



「キャンプ」という点ばかりが言及されがちですけど、実はグルメものであり、原付ものであり、旅ものでもあります。

作品を賞賛する言葉に「丁寧に作られている」というのがありますが、要するに「面倒なところに手がかかっている」ということです。素人が見ても(もちろん完全ではないにしろ)そうした手間は見たら分かるものです。

食事シーンはその最たるもので、だから、「飯がうまそうなアニメは良作」と言われる。実際、うまそうな飯をうまそうに食べているシーンを描くのは、繊細な技術を要することでしょう。

ほとんど毎回食っとるんじゃないかな、ゆるキャン。




音楽もいいですよねぇ。あ、公式の試聴動画あった。


オープニング、エンディングも。

遊び心満載! 初見で度肝を抜かれた2期オープニング。

旅の終わりを告げる切なげな2期エンディング。


そんなこんなで次は映画らしいですよ。

2022年はテレビアニメからの続編映画が目白押しですが、中でも楽しみな本作。初夏というと……5月くらいかな。映画の次の展開はどうなんでしょう。これで終わりだとちょっとさみしいけど。

ティザービジュアル、なでしこの髪短い?


このへんにしておきましょう。

ちなみに好きなシーンをひとつ挙げるならあれだ。

深夜、海辺のなでしこと恵那の会話。波の音の聞こえる。



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